「……あははは!」
なるほどそういうことか!魔素格闘が使えない理由!ゲームの中だから!魔法が使えない理由!ゲームだから!そしてゾンビが居る理由!……ゲームだから!
なるほど全部思い出した。となると……外に居た男性は……ある意味NPCだ。記憶が戻る前は助けようとしたが多分プログラム的に助けるのは不可能だったのだろう。ある意味チュートリアルだ。
「ていうか凄いな……ここ本当にゲームの中かよ……作りこみ異常過ぎない?まあ多分今のゲーム機の性能じゃ無理だから魔法なんだろうけど、記憶戻ってなかったらゲームって気づかなかったぞ……それを驚かせたくて最初は記憶をなくしたんだね。ようやるわ」
普通に考えるとこういう場所を作るとなると許可が必要なものだが、恐らくある程度適当に作ったのだろう、よくよく考えると、あたしの知っている執務室とは少し違った。恐らくだがあたしの記憶から作り出したのだろう。
まあそんなことはどうでも良い事だ。ここはゲームの世界、つまりゾンビをひたすら撃ちまくって謎を解いて、クリアしなければならない。
「まずは何処に行くか……あたしが起きた場所が自室なら……サチやコウはあの家?そこまで作ってる?まさか魔法で記憶からリアルタイムで作り出した?ならここがあるのも納得だけど。もしそうならサチとコウはあの家だな、あの二人優先で行きますか!戦闘出来なさそうだし」
雪は……まあ多分大丈夫だろう。
あたしはまず魔法が使えない世界で恐らく一番戦闘力がガタ落ちしているだろうサチの下へ行くことにした。
「ていうか……魔法が使えないくせに何で箒は乗れるんだろ……ある意味救済措置か?まあこの世界で長距離移動ってゲームならファストなんちゃらって言うのがあるからそれと同じ位置か」
さすがにまだ執務室の扉の前にはゾンビたちがたむろってるのは目に見えているので、執務室の窓から箒で飛び立つことにした。
バン!バン!バン!
「……おっと?」
転保協会から十数分後、サチやコウの事も考えて少し急ぎ見気味で霞家本家に来たあたしは霞家から銃声が轟いていることの気づいた。
霞家の玄関口には大勢のゾンビたちがひしめいていたが内部に入って行く様子は無かった。恐らくシステム的に玄関から内部はセーフゾーンになっているのだろう、だがそれが功を制しているのか内部に居る人間が易々とゾンビを駆除している。
だが……銃声の数からして銃を撃っているのは一人だ。そしてゆっくりとだがゾンビを始末しているが、ゾンビの特徴である音で集まる習性により銃声がゾンビを呼んでいるためある意味一人減らすと二人ぐらい増えている現状だ。
「霞家……このゲームに参加しているのはサチとコウだけ……サチが銃を使えるってのは聞いてないし……撃ってるのはコウか?内部に行きたいけど……どうするか」
霞家の内部はもう何度も訪れているし、ある程度把握している。ゾンビが居ない庭らへんから潜入しても良いのだが……。
バンバンバン!
「銃声が明らかに取り乱し気味なんだよねぇ」
冷静に一匹一匹処理してるというより手足り次第撃ち殺しているという銃声のテンポだった。もしこの状態で後ろから近づこうものならゾンビと間違えて誤射されかねない。初めてのゲームの死因が味方の誤射は何ともダサい……。
となるとまずは誤射されない位置から声を掛けて冷静さを取り戻した方が吉だ。
「ちょっち行きますか」
とりあえずゾンビからは手が届かず、かつ玄関に居るだろう二人にあたしの姿が見えて、声が届くギリギリの距離まで玄関の上から近づいた。
バンバンバン!
距離が近づくにつれてその不規則なテンポの銃声が大きくなる。
「……お二人さん!聞こえるかい!」
バンバンバン!
自分が撃っている銃声であたしの声が聞こえていないのか、絶えず銃声が轟いている。
「……まあ、使っているのがハンドガンならリロードするか」
この世界の銃が魔法により弾数無限になっているという話は聞いたことが無い、そもそもバレルが逝かれるという観点で、小銃でも拳銃でも機関銃でも連射限界弾数が決まっているはずだ。
ならリロード為にコウなら……数秒発砲しない時間が出来るはずだ。
バン!カチ!
「あっ!」
数秒後、銃声が止み、明らかに困ったコウの声がする。まさかとは思うが持っている全弾撃ち尽くしたのか?バイオでそれは悪手だぞ?
「へい!コウさん!」
「え?……アリス!?どこ!」
「玄関の上だよ、出てこなくていいから」
「アリス!助けてこいつらいきなり出てきてもう意味わかんなくて!杖が無いから魔法も使えなくて!」
サチの声だ。だがおかしな点が一つ。魔法が使えなくて……つまりこの世界がゲームだという点に気づいていない……それはつまりまだ魔法陣に触れていないということだ。
霞家で目覚めたなら霞家本家の中にあるもんだと思っていたのだがどうやら違うようだ。まああたしも自室でなく何故か天保協会にあったからありえるっちゃあり得るけども。
「銃の弾は?」
「もう無い!」
マジで全弾使い切ったのか。
「分かったとりあえず合流するから何もせずにそこで待ってなさい!」
「わ、分かった」
さてあたしもそこまで銃弾が豊富ということは無いのは同じだ。いくらマガジンポーチの中に予備の弾薬があるとは言えここに集合してらっしゃるゾンビたち全員に頭に銃弾をぶち込むとなると相当数の銃弾が必要だ。
もし仮に普段、マガジンポーチに入れている弾数と同じだけの実弾が入っているならおよそ200発がポーチに入っていることになる。だがここでその半数以上を使ってしまっては後の行動に支障が出るのは当然だ。
しかもこのゲーム、弾がどのように補給されるのかまだ分かっていないのだ。バイオならシリーズごとに一定の場所にあったり、敵を倒すとポップする仕様だったりするが、現状分からない以上、銃弾は節約するに限る。
なので、こうすることにした。
玄関にはゾンビが溜まりまくっているが、玄関から十数メートルの門には幸いゾンビが居なかった。
なので門まで移動すると銃を引き抜き、天に向かって構える。
バンバンバン!
三発ほど、銃弾を直上に向かって発射すると、当然ゾンビたちは銃声の発信源であるあたしの方へ振り向く。
「おっおう……いくらプログラムとはいえ、そんな一斉に見つめられると困っちゃう……」
「がう!」
そして全員ゆっくりとこちらへ歩き出した。
「……渾身のボケすら聞いてもらえないのかい!」
「アリス!何してるの!?それじゃアリスが!」
問題ない。重要なのは……玄関に入るための隙間を作ることだから。
ゾンビたちがゆっくりと行進し、あたしに届くまで数メートルの所、あたしは箒に乗って飛び上がる。その時数体はあたしに向かって手を伸ばす様子が見て取れた。恐らくいくつかの個体はギリギリ目が見えているのだろう。
そのままゾンビたちの上を通過すると、何事も無かったかのように玄関に入ると二人の下へ歩み寄った。間髪入れずに二人が今まで以上に抱き着いてくる。
「おまた!」
「あ、あ、アリスぅぅぅ!」
「ありがどうおおお!」
この世界がゲームだという記憶が無いままあのゾンビの集団と戦闘をしたのだ、ここまで恐怖を感じるのは魔法が使えないことも考慮しても当然である。
まああたしの場合は最初びっくりしたけど結果的に楽しかったで候。
それより普段から二人は抱き着いてきたりはするものの、ここまで泣きながら救世主を見るような目で抱き着かれると……何処か変な性癖に目覚めそうでやばいんだが?コウさんのステア時代からさらに成長した胸元のメロンの主張がやばすぎるんだが?
「……かあさんも居ないし……へんな怪物は居るし……訳わかんない」
「二人とも起きた時さ……どこか行かないといけないって感覚無かった?」
さて本題である。二人の記憶を戻さんことには二人の戦闘力は上がらない。
「どこか?……あー道場かな」
「それあたしも思った。でもあたし普段当主の稽古あるけど違う場所だし、道場は母さんに呼ばれた時にしか行かないし。だから無視して普通に大学行こうかなって」
「あたしの場合もそうかな、いつも道場に行くときは大学終わってからだし」
「なるほど」
あたしと違って二人は一日で決まった時間に道場に行くルーティンがあるわけだ。それに従ったから道場にあるだろう魔法陣に触れなかったのか。なら道場に行くしかないでしょう。
「とりあえず道場いこっか!多分あの……怪物、ゾンビが居る理由も分かるはずだし」
「本当に?」
「うん」
「分かった」
まずは二人の記憶を取り戻すため、道場に向か事にした。
「因みにだけど……コウ、その銃は自前でらっしゃる?」
「うん、母さんから護身用にもっとけって。まあ家から持ち出し禁止だけど」
「際ですか」
霞家本家の道場、ステアを卒業してからはサチの魔法戦闘の稽古で幾度となく訪れている場所だ。
だがその道場のほぼ中央には明らかに不釣り合い……いや普段来ているあたしですら見慣れない魔法陣がそこにはあった。
二人は不審なものを見るような目で観察している。
「これ……なんの魔法陣?触れて大丈夫な奴?魔法石も無いのに発動してるけど」
「触っていきなりドカンとか……」
「無いから大丈夫だよ、とりま触ってちょーだい」
二人が恐る恐る魔法陣に触ろうとするが、あたしの頭には一つの疑問が生じていた。
何故この二人の魔法陣は目覚めた家にあったのかだ。あたしの魔法陣は自室……寮からかなり離れた天保協会の執務室だった。そこに行くように誘われもした。普通に考えれば菊生寮に魔法陣があるのが普通じゃないか?まあ今考えてもどうしようもないことだが。
「うわ!」
「きゃっ!」
二人が意を決してほぼ同時に魔法陣に触れた瞬間、恐らく消されていた記憶が流れ込んできたんだろう、小さな悲鳴を上げると同時に少し体がビクッと震えた。はたから見ると……シュールな光景だな。
「大丈夫?」
「……わー!マジか!これ……ていうかここゲームの世界なんだ!」
「記憶戻ってからよく見ると凄い再現度!この道場とか!」
どうやら記憶が戻った際のリアクションはあたしとほぼ同じだった。嬉しいよ……一人のゲーマーとしてこのリアクションは。
「となるとあの怪物が?」
「そうなるね、このゲームのメインの敵?かなあたしは旧日本でゾンビって呼ばれてるからゾンビって勝手に読んでるけど……まあ、ゲームタイトルもゾンビだし」
「どうしよ……あたし、何も知らずに全弾使っちゃった」
「気にしない!こういうゾンビゲーじゃよくあることだ!それに多分だけど、このゲームがあたしの知ってるゲームと同じ趣旨のゲームなら弾を使わないように立ち回るのが正解かな」
「やったことあるの?」
「いや?知らん……まあストーリー知ってるから……見た事はあるじゃない?」
多分……実況かなんかで。
「それで?これからどうする?何一つヒントないよ?行く場所も分からないし」
「問題がそこなんだよなあ」
本来のバイオハザードシリーズはマップも行く道も全部決まっているゲームだ。少なくともオープンワールドのバイオ何て聞いたことも無い。だがこのゲームは最初から各プレイヤーの初期位置が異なっていて次に進む地点の情報が何一つない以上、進みようがないのである。
マインクラフトなら……いやあれはエンドラ討伐って言う目的があるか。
これ……クソゲーでは?
「こういうテストプレーってまず全プレイヤーが初期位置に集められていて各々ルートは決まってるけど自由に遊んでくださいってのが普通なんだけど……それが無いってことはまずは他の人と合流するのが先かな?もしかしたら他の人は何かしらヒント持ってるかもしれんし」
「となると……次に会うべきは……雪?」
「でも雪がどこで目覚めてどこに向かうかなんて予想できないよ?」
「……雪って士郎さんと一緒だったよね?」
「そうだけど?」
「もし……もしだけど、雪が最初に合流すると決めた人が士郎さんだったら?ついでにあいつがここに来ればみんな集まってるだろうと考える場所は?」
「うーん……あー一つだけあるかな」
「「「西大」」」
三人の考えが一致した。
そう、雪なら現状一番頼れるのが士郎さんだ。あたしという線も考えなくはないだろうが、もしあたしならゲームの招待状を受け取った時点で旧日本でゲームを経験してるであろうあたしを付き添いとして選ぶはずなのだ。
だが雪はあたしよりも恐らく頭脳的に優れている士郎さんを選んだ……まあ他にも理由があるだろうが。つまり士郎さんを選んだ時点でゲーム開始直後から士郎さんと合流するだろうとは予想できることだ。
そして士郎さんもなるべくなら雪と一緒に行動するのが後にあたしたちと合流できるだろうという観点で行動するのもある程度予測できる。
そして合流するのにぴったりの場所が知名度的にも戦いやすさ的にも西大がピッタリだという判断だ。
「じゃあとりあえず……西大行きますか!」
「おう!」
「うん」
こうしてあたしたちは雪と士郎さんがいるかもしれない西大へ箒に乗り霞家本家を後にした。
「あのさ……サチ、雪と士郎さんってどうなの?イイ感じ?」
「え?いや知らないよそんなの、あたし最近授業と稽古だけで授業以外でほとんど雪たちに会ってないもん」
「……際ですか」
授業について行くだけで精一杯だと……まあサチにそっち方面の色恋聞いても意味ないか……脳筋に聞いたあたしが馬鹿だった。
サチさん……あんた本当にどうやって西大入れたの?