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VRゾンビゲーム(仮) 3

「うーん、あれだな大抵会うときは外で会ってたからこうやって来てみると西大がどこまで再現されているのかは……あたしの目には分からんなあ」


 霞家本家からまた数十分、箒で西大敷地内に入ったあたしたちはそのまま二人が居るかもしれない法学部棟を目指していた。


「結構ちゃんと再現されているよ、敷地内のテニスコートとか、カフェとか」

「大学にそんなもん必要ですか!?」

「さあ?」


 駄目だ、ステアも十分凄かったけど、旧日本と同じで大学のまた空気の違った華やかさに圧倒されてしまう……中途入学できねえかな。


「ここも少しだけど、いるね……ゾンビだっけ?」

「まあある程度はいるでしょ」


 空中を飛びながら地面に居るゾンビたちを観察するが、やはりそこそこの人数はポップしていた。どうやら大学全体がセーフアリア……というわけではないわけだ。まあ当然か。


 ……どういう基準でこの人数が居るのかプログラマーに問いたいものだ。


「でも入り口はそこまでじゃないね」


 確かに学部棟の周りにはまばらにゾンビが居るが、肝心の法学部棟の入り口にはゾンビが居なかった。だが理由は二つに一つだ。


「すでに駆逐されたか……あるいは……」

「何かしらの理由で中に大挙しているかだね」

「どうするアリス?」

「……サチ」

「なんでしょ!」

「法学部棟の内部構造把握してる?」

「……ある程度は!」


 さすが脳筋だ!自信がないところ含めてかわいいねえ!


「ある程度人数が集まっても狭くないスペースがあって、ゾンビが来ても耐えられるドアとかがある……いうなれば講義とかで使う教室で一番近い場所分かる?」

「……あるよ!第二講義室!」

「第一じゃないんかい」

「第一は第二より広いんだけどさ、なにせ遠いんだよ。有名な教授が講義するときしか使わないから、普段使いは第二かな。何より第二講義室は帰る時に食堂を通るからついでにご飯食べれる!」

「目的そっちかい!」


 霞家なのに。


「じゃあそっち向かう?」

「そうだね現状行く当て無いし……行くか!」


 目的地が決まったあたしたちはサチの誘導で法学部棟に潜入した。



「気味悪いなあ」


 法学部棟に入り、第二講義室に向かうためには食堂を通る必要があるのだが……ゾンビが一体もいないのだ。


 普通なら一体ぐらいいても良いのだが、何故かゾンビどころかプレイヤー……ゲーム参加者すらいないのである。


「そんなに?」

「考えてみてよ、ここが第二講義室に通じる近道でしょ?そこに居たる道でゾンビが一体もいないってことは……」

「どこかに集まってる?」

「そう考えるのが普通じゃない?もしだけど第二講義室に雪たちが居てそこに向かってゾンビが集まってるとなると……合流が難しくなる。残ってる残弾から言って殲滅は無理」

「ま、そこは行って考えよう!」


 この脳筋め……とは口に出さないながらも先導するサチについて行くしかないのでついて行くあたしとコウだった。


 だがもう一つ懸念があった。


 この食堂、入り口が複数あるのだがそれ以外ほぼ全面ガラス張りなのだ。防音……食堂にそんなものついているはずもない……強化ガラス……もちろんそんなはずも無いだろう。つまりここで大きな音を出してゾンビたちが群がりでもすれば……ここは地獄となる。


 対処をある程度考えなければならない。


「アリス行かないの?」

「ん?行くよ」


 だがそれよりも今は雪と合流するのが先決だ。あたしたちは先を急ぐことにした。



「……」

「……」

「……まあ、予想は出来ていたけども」


 第二講義室は一番近い食堂の扉から出ると二回ほど曲がり角を右に曲がった先に位置していた。脳筋であるサチが迷わなかったのも第二講義室に行くまで分かれ道が一つしかなかったからだ……いくらサチでも迷わない。


 食堂から歩いて数十秒、ついに第二講義室が見える場所までたどり着いたのは良かったのだが……結果はある意味予想通りだった。


 大量のゾンビの群れが講義室のドアの前でたむろしている。


「あそこに溜まってるってことは……いるよね?」

「だろうね……ん?」


 ゾンビたちのうめき声で聞こえにくいがゾンビの集団の向こう……つまり講義室の中から何故か怒声が聞こえた。


「だから!これからどうすんだよ!」

「あたしに言っても意味ないでしょ!」


 一人は男性、もう一人は……雪のようにも聞こえるし違うとも言える。だが明らかに内部では何かしらの理由で口論になっているようだ。


「なーんで中で喧嘩になってんですかね?」

「まあ多分ゲームとしてゾンビたちを面白く殺せると思ったのかな?だけど上手くいかなくてイライラしてるとか?」

「あのさあ……」


 一応言っておくがゲームだぜ?これ一回しかできないわけでもないんだしさ!もうちょっと楽しもうぜ?


「さて……どうするか」


 適当な場所でもう一度、銃を三発ほどぶっ放してゾンビたちを誘導して中に入りますか。


「アリス」

「ん?コウさんなんでしょ?」


 コウがあるものを渡してきた。……なんとスタングレネードである。


「……何で持ってらっしゃる?」

「来るときに役立つもの無いかなって……これ爆弾でしょ?道場に置いてあった」

「まじで!?あたし気づかなった」


 マジか……つまり各プレイヤーのスタート位置には武器が置いてあると?となると執務室にも何かしらあったことになるな……これはゲーマとして不甲斐ない。サチさん、あんた自分の家の違和感に気づかんとは……さすがだ。


「ありがとう!ちょうどいま使い時だ」

「うん!」


 ぱーっと笑顔になる。……コウさんあなたはそのままでいて!もう脳筋には期待してないから!


 あたしたちが今隠れているのは第二講義室から最初の曲がり角まで一直線になっている通路に併設されていた購買のような場所だ。そこから食堂方面にスタンを投げればあのいっぱいいる奴らを引き付けるのは十分だろう。


 ピン!


 スタンの安全ピンを引き抜くと、食堂方面に投げた。


 コロン!ガラガラガラ!……バン!


 投げてから数秒後、スタングレネードが爆発する。


「な、なに!?」

「た、助けが来た!?ここだ!おーい!」


 ゾンビを引きつけたいのに大声を出さんでもらえます?


 だが作戦自体は上手くいったようだ。スタンの爆音で大勢のゾンビが食堂方面に購買に居るあたしたちを無視して向かい始めた。十秒程度で講義室の前からゾンビが居なくなるだろう。


「……よし、行くか」

「おっけい!」

「うん」


 意を決して立ち上がり、講義室方面へ歩き出す。


 すると、講義室から誰かが飛びだした。


「アリス!来てくれ……」

「があああ!」


 雪が安心した表情であたしを出迎えるが……雪の背後に一体、ゾンビが残っていた。


「馬鹿!雪伏せろ!」

「え?……!」


 雪は最初あたしの言ってる意味が分かってなかった様子だったが、あたしが銃を構えると何となく察したようですぐにしゃがんだ。


 バン!


 距離にして五メートル前後、ゴム弾であればどこに着弾するか予測不可能であるが、鉛の弾なら問題ない。


 バタン!


 脳天を打ち抜かれたゾンビはそのまま倒れた。


 ……てかこの場面、どっかで……ああ、レオンとクレアが初めて会った時に似たようなシーンがあったなあ……。


「……ありがと」

「……ッチ」

「え?」


 予想外だ……いやある程度想定はしていたが。


 ゾンビを倒すためとはいえ、距離がありすぎた。銃を撃たなければ確実に雪はゾンビに食われていただろう。だがそのせいでせっかくスタンによる誘導で遠ざかったゾンビがこちらに戻ってきている。


「サチ、コウ!雪も中に入れ!」

「分かった!」

「……」


 あたしの命令通りにサチとコウがすぐさま講義室に入る。雪も動揺しながらもあたしに促されまた講義室に戻った。


「……ふう、あっぶな……は?」」


 講義室に入ったあたしは一息ついた瞬間、中の光景に驚いてしまった。


 講義室の中に居たのは……何とあたしたち以外でこのゲームに一緒にログインしたであろう参加者のほぼすべてだったのだから。


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