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VRゾンビゲーム(仮) 4

 驚いたのはそれだけでは無かった。


 大学の講義室がどのような物か把握しているわけでは無いが……少なくとも講義室に銃火器は無いはずだ。だが普段教授たちが講義をしているであろう教壇の黒板にはありとあらゆる銃火器が飾ってあった。


 そしてその教壇には執務室や道場で見かけた魔法陣もある。


「あの……雪さんや。一つお伺いしたいのですけど」

「なに」

「どこで目覚めました?」

「は?ここだけど?」

「……うっそーん!」

「因みに私もここで目覚めましたよ?」

「士郎さんいつの間に!?」


 なんということだ。雪は愚か士郎さんでさえここで目覚めている。しかも皆の反応を見る限り、恐らく全員ここで目覚めているのは間違いない。総勢30人前後か。


 となると本当に何故あたしとサチとコウだけが別の場所で目覚めたのか分からない。


「それよりあなた達今までどこに居たのよ!」

「寮の自室」

「家」

「それはおかしいですね、私が確認した限りですがあのテストプレイに参加したアリスさん、サチさん、コウさん以外は全員ここで目覚めているはずです。何故お三方だけ別の場所なのでしょう?」

「んなこと聞かれても……あたしは別にゲームの運営じゃないので」

「まあそうですね」

「じゃあ助けに来たわけじゃないのかよ!」

「なんだよもう!」


 おいおいお前ら、その言い草は無いんじゃないかい?確かに助けには来てないっすよ?でも合流して何かしら分かることがあるかもしれんから来たんですよ?何かわかればすぐさまここを普通に出ていく気満々ですよ?


 因みにですけど、君たちを助ける気は一切ない事をお忘れなく。……着いてくるのは自由だが。


『……さん!……りすさん!……アリスさん!』

「ん?……ん?」


 その時だった。何故か脳内に誰かの声が直接響いてくる。少し集中してその声の主を頭で描いてみると……意外や意外、卓だった。


 皆に気づかれないように、小声で話してみる。


「……卓さん?」

『あ!良かった繋がった!』

「何してらっしゃるの?あなた……プログラム監視では?」

『すみません……そうとも言ってられる状況でなくなったので』

「は?」

「ちょっとアリス誰と喋ってるのよ」

「雪、ちょっと黙って」

「はあ?」

「そっちで何かあったの?」

『こっちと言うか……そのゲームがというか』

「もったいぶらずに言ってよ」

『アリスさん……SAOは知ってますよね?』

「……は?SAO?」


 もちろん知ってますよ?有名なアニメで、キリト君のハーレムアニメじゃろ?存じ上げておりますわな!この世界も最初はSAOの世界だと勘違いしたのはいい思い出ですよ。


「知ってるけど」

『じゃあコナンは?』

「コナン?」


 SAOにそんなキャラクターいたっけ?いやSAOのシリーズ全部見たわけじゃないけど、少なくともあたしが知ってる限り……そんなキャラはいないぞ?


「SAOにそんなキャラいないと思うけど」

『あ、すみません。キャラじゃないです……まあキャラ名ではありますけど、名探偵コナンって知ってますか?』

「ああ、そっちね……全部見たわけじゃないけどある程度は」

「じゃああの映画も知ってます?ベイカー街の亡霊って映画」


 確か、コナンが死んだら終わりのバーチャルゲームの中で色々推理したりアクションしたりする映画だったっけ?コナン映画で数少ない子供が死ぬ映画だって騒がれたような。


 ん?このゲームも言ってしまえばバーチャルゲームだ。そして卓がこの話題を出したって事は?……まさかね。


「知ってるけど……もしかして?」

『後は言わなくても分かるでしょ?ここからは全員に向けて言います。……皆さん』

「うお!」

「何だ!?」

「声が頭の中に!?」


 うわー……良く分からんけど面白い光景だ。全員頭に直接語りかけて声にあたふたしてらっしゃる。


『識人で今回のゲームのプログラム動作確認担当の卓と申します。単刀直入ですが……今回のテストゲーム……全員死んだらその時点で……現実世界でも死ぬように出来ています』

「……」

「……」

「……は?」

「はあああ!?」


 ほとんどが卓の言ったことに何一つ理解が出来ない様子だったが、一人が驚愕の声を上げるとそれに続くようにそこらかしこで悲鳴が上がった。


 なるほど、SAOとベイカー街の亡霊ね……バーチャルゲームで死んだら終わり……か、実際に参加する側になると結構不安感えぐいな。


 そしてみんなの悲鳴に同調するように講義室の外のゾンビたちも集まりだしている。


『起動する直前で気づいて止めようとしたのですが……間に合わず、今イホスのプログラム担当者を探している最中です』

「卓、一応あんたもプログラマーでしょ?止められないの?」

『使ってるプログラム言語自体は分かるんですが……強制終了できないように、何重にもプロテクトかかってるんですよ、こんなの自力では解けないし、解析ソフト作ろうとしたらどんだけ時間が掛かるか……それに機械を壊そうとしたりするとゲームオーバーと同じ判定になるのでこちら側からでは無理でしょうね』

「卓!死ぬのは……全員がゲームオーバーが条件?それとも個人ごと?」

『はい、全員が死んだ時点で機械内に居る皆さんの脳内に大量の魔素が投入される仕組みになっているみたいです』


 つまり……現実世界で解決すると時間が掛かるからこっちでクリアしちまえば良いと。


「つまり一人でもこのゲームをクリアまで行ければ……助かる?」


 あたしのこの質問に全員が固唾を飲んで卓の返答を見守った。


『……はい、ですからこうして皆さんにはこのゲームの最終ボスがいる……ステア魔法学校に向かっていただきます。そこのボスを誰か一人でも倒すことが出来れば……ゲームクリア……皆さん無事に帰ってこれます』


 なるほど、ステアが最終マップ……本来ならここで目覚めてステアに繋がるようなヒントがあったわけだ。


「でもよあの怪物に一発でも攻撃食らったら終わりだろ?ならイホスのスタッフ捕まえて強制終了させた方が良いんじゃねえの?」


 高校生だろうか?見るからに偉い人の息子だとある意味オーラが言っている子供が尋ねる。


『残念ですが……それは叶わない願いかと。現状、僕の周りでイホスの職員がプログラマーを探して躍起になってますが……本来近くに居るはずのプログラマーが居ない……連絡もつかない……となると……』

「すでに死んでいる?」


 全員があたしを視線を移す。……そりゃあそうだろ、ゲームなんだから。コナンでもプログラマー殺されてんだぞ?


『ええ、そう言うことになるでしょうね。なので現状、一番皆さんが生き残る確率として高いのは一人でも良いです、このゲームをクリアすることなんです』

「おいあんた!」


 先ほどの高校生があたしに向かって声を掛ける。


「何」

「このゲーム詳しいんだろ?さっきだって部屋の外に居る怪物どもを蹴散らしてこのへやにはいってきたじゃねえか!あんたについて行けば安泰だろ?」


 こいつ……見たところ確実に年下なのによくまあこんな口の利き方出来るな。こいつの親どういう育て方したんだよ。


「そうだ!」

「貴方について行けば!」


 気づけば取り巻き?の連中や他の参加者もあたしが救世主のように見えてきたのか羨望の眼差しでこちらを見てくる。


「無理」

「は?なんでだよ」

「言っておくけど、あたしゃこのゲーム一ミリたりとも知らんよ?ただ単純に卓と同じように識人だからある程度ゲーム方向性が分かるだけさ、もし良く分からん謎解きが出たら……」


 あたしは近くに居た雪を引き寄せる。


「謎解きに使う頭脳だけは……あたしよりもある雪さんの方が良いんじゃないですかね?」

「ちょっとあんた!何言って!」

「でもさ……そいつ、西宮家の二女だろ?日本を裏切った総理の娘じゃないか!こいつについて行ったら俺たちも裏切られるかもしれないんだぜ?死ぬ可能性もあるんだそいつに命を預けたくない」

「へえ……でもさこの前の愛和の会の一件、解決したのはほとんど雪のお陰よ?あたしは戦うことしかできないからさ!あの事件が愛和の会によるものだって推理したのは雪さんなのよ」

「え?」

「マジで?」

「ちょっとあんたね!」


 雪があたしに小声で制止にかかる。


「何すか」

「何すかじゃないわ!よくもそんな嘘八百言えるわねえ!」

「士郎さんも言ってたけどさ、あたしも目立つの好きじゃないのよ……いいだろ?これで愛和の会の事件を解決したって名誉が……」

「名誉以上に必要の無いプレッシャーまでのしかかってるけど!?」

「そりゃ失礼、でも政治家ってこれぐらいのプレッシャーいつものしかかってるんじゃないの?ほら今からでも練習でさ」

「練習だったらプレッシャーの内容を選ぶ権利はあるでしょうが!」

「お前ら!」


 あたしたちのコントに見かねた高校生が声を荒げる。


「なんだね!」

「無視してんじゃねえよ」

「そりゃ失敬!とりあえず謎解きに関してはそこまで協力できん!以上だ!」

「……ッチ、おい!卓さんよ!とりあえずステア魔法学校に行けばいいんだな?」

『え?ああそうですね。最終ボスはステアに居ます』

「お前ら行くぞ!武器持てるだけ持っていけ!」

「え?」


 動揺する取り巻きを目線で牽制すると早々とここから脱出する準備を始める。


「何も作戦も無く行く気?」

「俺の父さんはな、自政党の国会議員なんだよ。その息子が日本を裏切った娘に助けてもらったとか口が裂けても言えねえんだ。だったら自分たちだけで何とかするさ」

「際ですか」

「あんたもだ、もし生き残ったら覚悟しろよ?国会議員の息子の協力を拒んだんだ。あんたがどこ所属だろうが左遷させてやる」


 前にもこの会話聞いたぞ。国会議員てみんなこうなん?


「出来るもんならやってみなよ」

「最後だ、あんたの名前と所属聞いておいてやる。このゲームが終わったら即左遷だ」


 あたしは少しだけニヤリとした。


「……アリス、神報者付とだけ言っておいてやる」

「あり……神報者付!?」


 神報者付という単語を聞いた瞬間、周りがざわつき始めた。なあ……ほんとに何でここまであたしの名前普及してないの?さっきから雪とかがあたしの事アリスって呼んでんじゃん!気づけよ!それともあれか?神報者付がここに居るわけないって思われとる?失礼だな……最近は西京の至ることろで遊んでるぞ?


「……ッチ、おい!斎藤!」

「え?僕?」


 取り巻きの内、最も影が薄い……恐らくこのテストプレイもある意味パシリで連れてこられたのだろう高校生に声を掛ける。


「お前、先に外に出ろ」

「え?でもさっきあのお兄さんが入ってくるときに入り口に怪物が」

「だからお前が囮になって、ひきつけんだろ?それを俺たちが銃を乱射してここを脱出!完璧な作戦じゃねえか。なあ?やるよな?」

「……えっと」

「それによ、いいか?これはゲームだ……たかがゲームなんだよ。確かに全員死んだら終わりだが一人でも生き残れば全部解決のゲームなんだよ。例えお前が死んでも俺がクリアすれば全部解決じゃねーか、だから運動音痴のお前が率先して俺たちの道を作るんだよ。そして俺がゲームをクリアする……安心しろ、ゲームが終わった後にゃ、俺たちの為に率先して犠牲になってくれた英雄だって言ってやるさ……悪くないだろ?」

「……」


 おいおいおい、こっちを見るな。……てかさ、斎藤君……今お兄さんとか言ったかい?……確かに胸が無い自覚はあるさ……そうか、そこまで男に見えるか……ほう?


 あたしは満面の笑みで銃を抜き取る……がさりげなくコウが止める。


「コウ……」

「分かってる……分かってるけど!」

「大丈夫!ここで撃っても殺人にはならない!あたしがクリアしさえすれば無罪放免!」

「確かにそうかもしれないけど!……良心の呵責みたいなものは!」

「あの子があたしをお兄さんって言った時点で無くなったわ!離せえええ!」


 バタン!


 あたしとコウによる良く分からないコントの最中、男子高校生がドアを思いっきり開けると他の取り巻きに羽交い絞めにされた斎藤君がドア前に居るゾンビの集団の中に投げ込まれた。


 さようなら斎藤君、君の事は……あたしが次にゾンビに銃を撃つまでは忘れないよ。


「う、うわっ!やめっ!うわあああああ!」


 バリバリむしゃむしゃ……的な咀嚼音は聞こえないが斎藤君の小さくなる悲鳴は聞こえてくる。


 その直後。


 ババババババ!


「あはははははは!」


 国会議員の息子並びにその取り巻きは持ち出したアサルトライフルで斎藤君を囲むゾンビを一斉射で蹴散らせ始めた。まるで銃というおもちゃで楽しそうに遊ぶ子供である。


 正確に頭をぶち抜いているわけでは無いが、一種の個体値……つまり体にも体力があるのだろう、数人がかりの無差別射撃により扉前に居たゾンビは全員その場に倒れ消えた。


 そして中心部に居たはずの斎藤君もゾンビの攻撃でゲームオーバーになっていたんだろう、すでにその体は消失している。


 ……君たち、斎藤君いなくても普通に掃討出来たんでは?肉盾にしては……もったいなこ使い方では?


「……よし、よし!お前ら行くぞおおお!」

「「「おおおおおお!」」」


 先頭の高校生が雄たけびを上げ、外に歩いていく。それに同調するように取り巻きも声を上げながらついて行った。


「おろ?」


 残った二十数人も感化されたのかあの高校生が切り開いた道を使わないわけがないと思ったのか、バットやら刀やらを手に持ってぞろぞろと講義室を出ていった。


 心なしか出ていくみんなは少し恨めしそうにこちらを見ている。


おいおいおい、あたしゃ協力しないといっただけだぞ?ついてくるなとは一言も言ってないぞ?


 だがその結果、十数秒後には現在第二講義室の居るのはあたしとサチ、コウ、雪と士郎さんのみになった。


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