「アリス!」
「んー?」
「ちょっと聞いてるの?」
「聞いてますよ」
目覚めたほぼ全員がステアを目指し講義室を出て、残ったのはあたしとサチ、コウ、雪、士郎さんのある意味いつもの五人となったのであたしはとりあえず使える物が無いか、このゲームのメインである謎解きの謎が無いか講義室を探索することにした。
だが参加者ほぼ全員が出ていった事実と、もはや閑散とした講義室に何も目的もなく居続けるあたしたちに雪はある程度不安があるのだろう。
「あの人たちの後を追わなくて言いわけ?」
「追う理由がないもんで」
「協力した方がクリアしやすいんじゃない?」
「……相手に寄るけど、今回は無いかな」
「は?」
「相手は確実にゲームだろうがまず自分の命を優先する性格だ。いざとなれば付いてきた人たちをどんどん盾にする気だよ?すまんけど、そう言うプレイスタイルの人間が仲間に居るだけで虫唾が走る」
「……」
あたしは基本、仲間と認めた人は極力助ける主義だ。だが仲間と認識しない奴は躊躇なく囮や肉盾として利用する。いちいち命がけで助けてたら体が足りない。本当に信頼できて自分の役割を分かって全うできる……何も言わずに自然と背中を預けられる人しか助ける価値はない。
「それに……あいつらが道を作ってそれをあたしらが後から悠々と通る……それでいいじゃん」
「……ARAの時から思ってたけど……あなたってある意味鬼畜ね」
「おや?今知りました?……それと士郎さん、ちょっと聞きたいんですけど」
「ん?どうかしました?」
士郎さんはやることが無いのか、椅子に座っていた。
「あたしがこの部屋に入って来たとき、人数は……三十人程度だったと思うんですけど、ゲーム参加者は訳四十名だったはずですよね?数名足りない気が」
「ああ、簡単です。ゲーム開始直後、数名の参加者がそこに置いてある銃を手に取り早々に部屋を出て行ったんですよ」
「……マジか」
つまりこの部屋に有るだろう謎を解いて早々にステアに向かったということになる。ある意味天才だな。
「その人たちが解いた謎ってどこにあるんですか?目的地がステアってことは分かってますけど一応どんな謎かは興味あるんで」
「それが……ないんですよ」
「……ん?言ってる意味が」
「私たちも必死に探しましたが、謎と言える問題がこの部屋にないんです。一応私も法学部の人間なので分かる限り法学部棟を隈なく探しましたがありませんでした」
……なんで!?このゲーム……謎を解きながらゾンビ倒すゲームじゃねえの!?
「じゃあ先に出た人たちはどこ行ったんよ!」
「多分、外に出れば何か分かるだろうと思ったのでしょうね、まあ彼らが外に出て銃を撃ったお陰でこの部屋の扉までゾンビが押し寄せる結果になりましたが」
「……」
つまりあれか?最初来たとき、喧嘩してたのって外に居るゾンビの対処法に迷ってたわけでは無く、謎を解こうにも謎がねえ!ってことでこれからどうするかで喧嘩してたと。
「……じゃあ謎を探す行為そのものが無駄だと……ならとっととステア向かうか」
あたしはとりあえず、武器を探し始めた。持っている武器はハンドガンだけだ、ここで弾を補充できるにしてもゾンビの数的に必ず足りなくなるだろう。ならここで出来るだけ補充するのは当然である。
「……」
「……」
サチとコウも、あたしが武器を手に取りステアに向かう準備を始めると自ずと自分が使えるであろう銃を品定めし始め準備を開始した。
「雪さんはどうします?」
「え?」
「一応言っておきますが、私も今回は積極的に動きますから雪さんを守れるか保証できません」
「……アリス!」
「今度はなにさ」
「……あたしでも使える銃はある?」
驚いた。今までだったら戦いは全部あたしや士郎さんに任せてたのに……何か変わったか?いや、士郎さんの言葉で身を護る必要性に目覚めたか?どちらにせよ自分の身を守ろうとするその気概は良しだ。
「ほい」
あたしは雪にグロックを渡した。
「……あなたが使ってる銃とは違うわね」
「そりゃあもちろん。あたしの銃は特注品、あたししかもってない銃だからね、このゲームはあたしの記憶から銃を再現したかもしれんからあたしの手元にはあるかもしれんけどある意味この世界に一つしかないオリジナルだよ」
「そう……ならこれで行くわ」
「使い方は?」
「それはコウに聞くわ。あなたはゲーム攻略に集中して頂戴」
「了解」
『アリスさん、お話の途中悪いのですが』
「おや、卓さん。あたしたちより先に出ていった人たちを導いた方が良いんじゃない?」
『……あっちの相手疲れました。それとアリスさんに言い忘れてたことがあるのでお伝えしとこうかと。……政治家の息子って皆ああなんですか?』
「……さあ?」
何があったのか知らんけど、気持ちは分からんでもないぞ?卓君、あたしも雪と初めて会った時はああだった。
『まあいいですけど。プログラムの強制終了は出来ませんでしたが、アリスさんの銃のステータスを一部だけ改変出来ました。アリスさんのマガジンポーチ、無限にしておきました』
「……つまりあたしのハンドガンだけなら無限に撃てる?」
『そうなります』
それって、バイオで何度かクリアすると特典でついてくるチート武器じゃないですか!
「いいんすかー?それってチートっすよね?プログラム監視役がそんなことして」
『そんなこと言ってられる状況ですか?現状、このゲームをクリアできる可能性が一番高い人がアリスさんなんですよ?どんな手でも使いますよ』
「なるほどね」
そうなれば、もはや他の銃とか使う意味ないな。むしろ持っていくべきは……グレネードとかのサブ武器か。
「サチ!コウ!少し予定変更!二個ぐらいでいいから各々スタングレネード持ってって!」
「分かった」
サチとコウは言われた通り、グレネード置き場からスタングレネードを持っていく。
「一応士郎さんも……さっきから思ってたんですけど、士郎さんの武器は?」
「ああ、これですよ」
士郎さんは腰に差していた刀を見せてくる。
「ああ……なるほど」
「使い慣れてない武器より私はこっちの方が良いので」
「了解でーす」
「それと……これからはあの怪物を呼びやすいようにアリスさんが先ほどから言っているゾンビと呼称しましょう。その方が報告の統一的にもやりやすいですから」
「分かりました」
数分後、サチとコウはMP7、雪はグロック、士郎さんは日本刀など準備を整えたあたしたちは講義室のドアの前で外に出るためドアに耳を近づけて外の様子をうかがっていた。
因みに食堂を通らないルートがあるのではないかという疑問がわくだろうが、なんとこのゲームルート固定の為か、ほとんどのルートがふさがれているというバイオ仕様のマップなのである。ちくしょう、あいつらがゾンビ引きつけている間に別ルートで行けると思ったのに。
だがどうやらゾンビのうめき声や動く音は聞こえない。先に出ていった先陣がどこまで行ったかは知らんが、ある程度銃をぶっ放したんだろう、ゾンビを引きつけてくれたようだ。
「卓一応聞くけど、先に出ていった人たちの現在位置とか、分からんよね?」
『すみませんが……でも生きているのかはわかります。アリスさん気を付けてください、先ほどの方たちが出て行って恐らく数分後、阿鼻叫喚の後、一気に十数名程度がゲームオーバーになっています。時間的に言ってまだ大学内のはずです』
「まーじかい」
おいおいおい、まだ序盤も序盤よ?いきなりタイラントとか現れるか?……あ、バイオだと現れるな……逃げるか戦うか選択する展開だけど。
「まあ、ここに居る理由ないし……行くか!皆準備はいい?」
「もちろん!」
「うん!」
「大丈夫よ」
「ええ、いつでも」
「おっしゃ!ごー!」
あたしは銃を構えるとゆっくりとドアを開け、ゾンビが居ないことを確認したのち、講義室を後にした。
「誰もいないわね」
講義室を出て食堂に行くまでの通路の最初の一本道、先ほどの銃撃によるゾンビの残骸も他にやられたような参加者も見当たらなかった。
「ゾンビが消えるのと同じように参加者もやられたら消えるのかもしれないね。それに卓が言うことが本当なら食堂に行くまでに十数人一気にゲームオーバーになったらしいから一応気を付けて進もう」
「ええ」
あたしは一応先頭として銃を構えながらゆっくりと進むが、聞こえるのは一応の目的地である食堂からの銃撃だけだった。
それでもいきなりゾンビがポップする可能性も捨てきれない。だからこそ慎重に前に進んだ。
そして最初の曲がり角まであと五メートルほどの距離に来たときだった。突然参加者の一人、もちろん名前など知らない高校生?らしき人が血相を変えて食堂とはまるで真逆のこちら側へ膝をつきながら飛び出した。
「おわっ!……ん?」
顔を見ても声を上げて部屋の外に出ていった取り巻き連中の中には居なかったので恐らくその後で付いて行くように外に出た連中の一人だろう。
「……大丈夫……すか?」
「……たすけ……助けて、い……い……」
「い?あの子は何言ってるの?」
「こっちが聞きたいわ。……いなに?」
「い……い……っ!」
その時だった。
「がう!」
角から飛び出した何者かがそのまま高校生に飛び掛かるとそのまま首元に噛みついた。
ていうか……あれって……あれって。
「がっ!ぎゃあああ!助けて!」
だがすぐに噛みつきを辞めた。数秒後、高校生は白い結晶のようなものになると溶けるように空間から消失した。なるほどゲームオーバーになるとああなるのね。そして敵が噛みつきを辞めたのは……プレイヤーが死亡判定になったからか。
だが問題はそこではない。あれは……あたしの予想が正しければ、あいつである。
「……マジかよ」
いから始まる単語でバイオやこういうゾンビゲームに登場する四足歩行の敵と言えば?答えは簡単である。
「お、お、お犬様あああ!?」
そう、四足歩行である意味バイオではゾンビよりも厄介な存在である……ゾンビ犬だ。しかも犬種はご丁寧にドーベルマンである。
静かに銃を向けるが、あたしが叫んでしまった事によりゾンビ犬はゆっくりとこちらを向いた。だがこちらに襲ってくる様子はない。
「あ、見逃していただき……」
違った。待っていたのだ。角からもう二匹のゾンビ犬が現れると、今度はゆっくりとこちらにあたしたちの様子を伺いながら近づいてくる。
「……ですよね!一旦!一旦下がれ!」
そう指示をするとあたしは銃を構えながらゆっくりと下がる。いくら弾数無限の銃があるとはいえゾンビ犬三匹と五メートルで戦闘をするには近すぎる。
「アリス……あれって」
「犬がゾンビになったバージョンです」
「普通のゾンビと何か違うの?」
「すべてが違う!」
バイオの映画ですら普通のゾンビの歩く速度は人間が普通に歩く速度と同じだった。だがゾンビ犬の標準速度は一般的な犬のダッシュした時の速度と同じだ。つまりいくらあたしたちが全速力で逃げても軽く追いつかれてしまう。
しかもゾンビ犬は種類にもよるが銃弾を避ける鬼畜仕様になっていることもある。普通のゾンビを相手にする以上に骨が折れる相手なのである。
「がう!」
あたしの想定外という表情を読んでかは知らないが一匹が動き出すともう二匹もあたしたちに向けてダッシュを始めた。
「おいおいおい!犬は無理だって!」
バンバンバンバン!
一応癖でゾンビ犬の頭に向かって銃を打ち込んでみる。
だがゾンビ犬はあたしの照準を把握しているのか全弾をステップで避け始めた。
「うっそだろ!?お前らゾンビだろ!?避けてんじゃねえよ!」
バンバンバン!
さすがに焦ったあたしはとりあえず銃を打ち込むがゾンビ犬は軽々と避けては近づいてくる。
一応映画版のアリスさんが蹴りで一匹を仕留めたシーンは知ってるが魔素格闘が使えない今のあたしではただの蹴りでどれだけのダメージが与えられるのか不明なうえ、ひっかき一発でゲームオーバーの可能性がある以上むやみに使えない。
「ごめん、終わりかも……さすがに予想外だ……ん?」
予想外の展開である意味開幕エンドの可能性が頭をよぎり、皆に謝ろうとした時だった。士郎さんがあたしの横から前に出たのだ。
「士郎さん?」
「確かに動きは厄介ですね……ですがよくよく観察すれば、動きは普通の犬そのもの……ならば対処は出来ます」
そういうと士郎さんは刀を抜き構えた。
「士郎さん!?いくら士郎さんでもあれ相手では!」
「アリスさん良い事を教えてあげましょう。犬というのは基本的に標的に噛みつく瞬間……飛びつくんですよ、言い換えれば……噛みつく瞬間だけは完全無防備になるんです」
「がう!」
先頭のゾンビ犬が士郎さんに飛び掛かる。だがそれを士郎さんは分かっていたかのように刀を構えるとゾンビ犬の頭目掛けて刀を一振りした。
ビュン!
一度飛びかかり、完全に空中に居る状態になっていたゾンビ犬にとってあたしでも見惚れる士郎さんの刀捌きは避けられなかった。
ゾンビ犬は綺麗に一刀両断されると力が抜けるようにその場に倒れた。
「……わお」
「がう!」
「ぐるるる!」
残る二匹もすぐさま士郎さん飛び掛かるが意味は無かった。
ビュン!ビュン!
ちょうど飛び掛かった二匹を士郎さんが見逃すはずもなく、たった二振りで二匹のゾンビ犬はその場で崩れ落ちると結晶となって消えた。
「……」
「普段から犬を観察していればある程度対処は可能です。それに刀も銃と同じように場合によっては有効ですよ?」
普段から犬の攻撃方法など観察しておりませんが?
「はい……何か、ありがとうございました」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
「じゃあ……先進みますか」
「そうね……でもさっきから食堂から聞こえる銃撃音凄いから少し気を付けていきましょう」
士郎さんの剣術に圧倒されながらもまずは第一の障害であるゾンビ犬を突破したあたしたちは第一の中継地点である食堂に向かった。