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VRゾンビゲーム(仮) 10

「不安だったけど、意外と体が覚えてるもんだね」

「そうね、私も少し不安だったけど染みついてるものね」

「私も」

「えー!あたし分かんないや!みんなすごいね!」


 いやもう君には期待してないよ……現在通ってる西大ですら内部把握してるか怪しかったじゃないの。


「サチは授業中ずっと寝てたじゃん」

「そうだけどさあ……食堂の場所とか魔法戦闘用の闘技場の場所は覚えてるよ?今でも地図見なくても行けるし!」


 それは今現在も通ってるだけだからでは?


「ていうか……以外にゾンビいないね」

「それ、先から気になってたんだよね」


 ステアの中に入ってから、一度もゾンビに出くわしていない……気味が悪い。


「どう見るアリス」

「……そうね、外のゾンビが入らないためのエリア分け、ゾンビってさゲームの中じゃ雑魚敵なんだよね、最初のエリアではチュートリアルとして使いやすい敵キャラなんだよ。でもゲームが進んで中盤から終盤になると強いキャラに置き換わる……つまりゾンビの数が極端に減って強い敵が一体配置される……それを考えるとある程度警戒は必要かな、今まで以上に」

「分かったわ……着いたわよ」


 幸い一匹のゾンビにも出会わず、魔法薬学の教室にたどり着いたあたしたち。


 いつも通りにあたしがドアの前に立つ。同時にサチとコウが中の様子を探れる位置に着く。


「はい!どーん!」

「え?」

「ちょっと!アリス!?」


 先ほどとは違い、今度は思いっきりドアを開放した。


「大丈夫!知ってる限り、こういう謎解きの部屋には敵は入ってこないし、いない!」


 まあバイオだと普通に居たりするけども。


「おっと?……おやあ?」


 中はあたしが知ってる魔法薬学の教室とは全く違った。


 ステアでの魔法薬の授業はハリーポッターのように皆さんがご想像の魔法薬の調合をしたりする場所で、基本的に化学薬品等を使わないので、あるのは鍋と薬草だけだ。


 しかしこの空間は違った。


 正直、その分野にまったく詳しくないので名称は言えないが、明らかに化学の実験で使うような器具がたくさん置かれていたのだ。


「なるほどね、ここで謎を解いてボスに効く薬品でも調合しろってこと?」

「恐らく……なら普通に魔法薬の調合でいいじゃん!わざわざ化学にする必要あったか!?」

「ステアの生徒とか卒業生以外に魔法薬の調合をするのは法的にまずいから化学にしたんじゃないかな?」

「ああ、なるほど」


 確かに魔法薬の調合は化学以上に危険なものが普通にあるから学校以外でやるには魔法薬調合免許とステア卒業資格が必要だってどっかで聞いたな。ならゲーム会社的には苦肉の策か。


「まあいいわ……卓さんだったかしら?」

『はい、なんでしょうか?』

「どこで何をすればいいの?」

『はい、一番奥の机に謎があるはずです。それを解けば……薬が手に入ります』

「分かったわ」


 雪は卓の指示に従い、謎解きの準備を始めた。


「アリス、あたしたちはどうする?」

「うーん、あたしは雪の邪魔にならないように見学。どんな謎か気になるし」

「じゃああたしは……休憩で!」

「私も休憩しよ」


 サチとコウはお互い、椅子に座った。


 あたしは謎解きが気になり雪の元へ向かった。


「……」

「ん?」


 謎を解いているはずの雪は何故か神妙な顔つきでテーブルを見つめていた。


「雪さん?どうか致しました?」

「……ないのよ」

「何が?」

「謎が……ないのよ」

「……ん?え?は?どゆこと?」

「このテーブルを見なさい、謎があるように見える?」


 確かに雪の目の前のテーブルには何か書かれているような紙は愚か何一つおいてなかった。これでは何を解けば良いのかすら分からない。


「ちょっと卓さん!肝心の謎がないんですけど!西大と同じように!」

『へ?そんなバカな!?ちょっと待ってください……ん?……あれ?……あー』

「卓さん?」

『……非常に申し上げにくいんですけど』

「言って見なさいよ、大丈夫!もう何が起きても驚きも怒りもせん!」

『僕が見てたの……製品版のストーリーチャートで、今皆さんがやってる体験版仕様のストーリーチャートじゃなかったです』

「おい」

『あのですね、言いわけになりますけど僕の今日の仕事はあくまでプログラムの監視ですよ?今見てるストーリーチャートもこの事態になるまで詳細確認してませんからね?』

「分かった分かった……で?これからどうすればいいのさ」

『はい、本来であればステアの各寮に謎があります。それを解くと四桁の数字になります……それを闘技場?の機械に入力、中でラスボスを倒す……これが本来の体験版です。因みに今知りましたが、本来皆さんが目覚める場所も各寮の中にランダム配置だったらしいです……ていうか、名前も違いますね……これ体験版なのでVRゾンビゲーム(仮)が正式名称みたいです』

「それは今更どうでも良いけどさ……ちょっとおかしくない?」

「何がよ」

「このゲーム、本来はゾンビを倒しながら謎を解くゲームよ?本来はステアスタート、ならステアの中にゾンビの一体ぐらいいてもおかしくないのに何でいないのさ」

「確かに……本来の初期位置がここならチュートリアルのゾンビはここに配置されるのが普通……おかしいわね」

『そんなこと言われても』

「まあいいや。卓、時間もあまりないし……四桁の数字は分かるよね?」

『もちろん』

「雪、謎解きが出来ないのは残念だけど……先を急ごう」

「そうね」

「サチ!コウ!休憩終わり!闘技場行くよ!」

「おう!」

「うん!」


 あたしたちは教室を出ると最終目的地である闘技場へ向かうことにした。



「おや?」


 闘技場に向かう道中、ある物を発見する……銃だ。何故かライフル銃が床に落ちていた。だがこの状況は普通におかしい、今までゾンビを倒そうが、銃弾一発も出てこなかったのにこの道端に銃が置いてあるだろうか。


「おかしいわね、何で銃だけが置いてあるのかしら」

「やっぱおかしいって分かる?」

「もちろん」

「この場に現れたという選択肢を排除するなら……ある理由は一つだけだよ、誰かがここまでたどり着いた」

「まじか……もしかして最初に出てった数人?」

「可能性はあるわね」


 となると、その顔も知らない数人は何一つヒントも無くマギーロまでたどり着き、車も使わずにステアの中に入ったことになる……天才ゲーマーかよ。


「どうやってステアがゴールだってわかったんですかね?」

『それは恐らく僕です』

「意味が分からん」

『最初皆さんに声を掛けた時、講義室だけじゃなくこのゲームに参加している全員に送信したんです。だから先に出ていった人たちは途中でステアがゴールだと知った……だからここまでたどり着けたんじゃんないんですか?ですが僕からだと皆さんの位置までは把握できないので気づかなかった理由も分かります』

「だったらステアに着いた時点で卓に連絡入れたりしない?」

「普通のゲーマーはまず、攻略を見ずにやりたいと思うのでは?たとえそれが一発食らえばゲームオーバーになるとしても」

「……」


 ガチ勢怖い。


「ま、いいや。ここにあるってことは……すでにゲームオーバーになってるってこと。銃だけ拝借していきますか」

「そうね」


 落ちている銃はM4だ。使い方なら分かる。


 それを普通に拾おうとした時だった。


「皆さん!やっと追いついた!」

「へ?」


 全員が声の方向に振り向く。そこに居たのはおぼろげだが覚えていた、確かに食堂で戦闘をしていた一人だ。体に色んな武器を巻き付けてこちらに走って来る。


「……あの状況でここまで来れる人間、士郎さん以外でいるんだ」

「それにあの武器の数……一人でここまで来たんじゃない?」

「もしそうなら……見た目高校生っぽいから……自衛隊の高校の……工科学校だっけ?あっち系の人かね?もしそうなら戦力になるけど」


 男性は手を振りながらこっちに走って来る。江田島君とは違い、あの男は確実に戦力になるだろう……そう感じたあたしは彼をチームに加える気で彼が走って来るのを待っていた。


 だが……現実はそう上手くは行かなかった。


 ビュン!


「え?……ぎゃああああああ!」

「え?」


 何者が突然、男性に向かって飛び降りてくるや、背中に飛びついたのだ。男性はその衝撃で地面に倒れてしまった。


「た、助けなきゃ!」


 サチがすぐさま銃を向けるが撃てない。今撃てば弾が男性に当たる危険があるためだ。


 だがあたしは全く別の事を考えていた……男性を襲った化け物……それに見覚えがあったためだ。


「アリス!どうするの!」

「アリス!」

「アリス!」


 三人があたしに指示を請う。だがあたしの脳は必死に男を襲った化け物の正体を頭の辞書から探している最中だったのだ。


 どこか……どこかで見たことがある。


 犬のように四足歩行だが、犬よりも地面すれすれで歩き、手足の爪は異常にでかい、そして完全に視力が無いのか目と思われる部位は肥大化した脳みそで隠れている。


 そして特出すべきは人型のゾンビでも犬ゾンビでも無理なほどの異常な長さの舌だ。


 思い出せ、バイオか?それとも他のゾンビゲーか?あいつを旧日本で見た事がある。


 ……ら……らり……らり……り?……リッカーだああああああ!このゲームでリッカーなのかは知らんがリッカーだ!


 リッカーは飛びついた男性を爪でひっかくと死亡判定で速やかにこちらに向けて歩き出した。


「どうす……っ?」


 あたしは悲鳴を上げそうな雪とコウの口を両手で塞いだ。サチは何がなんやらだがあたしのやってることは理解したのだろう両手で口を塞ぐ。


「……」


 リッカーはゆっくりとこちらに歩いてくるが、思った通りこちらを視覚では補足出来ないのだろう。前を通り過ぎようとする。


「静かにしてろよ?」


 そう小さく雪に言うと、雪は静かに頷く。コウの持っていたスタングレネードを静かにとるとゆっくりピンを抜き、目的地とは逆方向に思いっきり投げた。


 カラン!ガラガラガラガラ!


「しゃあああ!」


 スタンが転がる音でリッカーが即座に振り向く。


 バン!


「しゃあああ!」


 そしてスタンが爆発すると、リッカーは異常な速さであたしたちの前を通りスタンが爆発した方へ走り去った。


 コウがもう声を出して良い?というような目で訴えているが、あたしはハンドシグナルで『小さくなら』と伝える。コウは静かに頷く、それを見たあたしは静かに手を離した。


「あれは……なに?」

「旧日本のゲーム名前で良いならリッカー。正直、普通のゾンビとかゾンビ犬よりもかなりやっかい。足も速いし」

「それは見たから分かるわ」

「あいつの唯一の弱点……というより回避する方法は一つだけ、あいつは普通のゾンビと違って目が完全に見えない点。まさかゾンビの代わりにリッカーが配置されてるとは……初見殺しも良いところだよ」

「でも道は分かってる以上、静かに行動すればいいわけよね?なら早く行きましょう」


 全員が静かに頷くと、目的地に向けてゆっくりと歩き出した。



 闘技場へ向かう最後のT字路、そこを左に曲がればもう闘技場だというのにちょうど通路が交わる場所にリッカーはいた。


「どうする?もうスタン無いよ?」


 ここに来るまでに二個ほどリッカーを回避するためスタンを使ってしまっていた。もう手元にはスタンが無い。かといってステア内にあるであろうセーフゾーンもリッカー遭遇の確立を考えたら無理だ。


「……しょうがない。ボスで使う予定だったけど」


 あたしは地面に置いてあったM4のマガジンを抜くとT字路の反対側へおっもいっきり投げた。


 ガン!ガラガラガラガラ!


 リッカーの向こう側に数メートルほど転がると、すぐにリッカーは反応、音の鳴る方角へ走り出した。


「よし、急げ!」


 あたしがこの間に走り抜けようと走り出すと、三人とも着いてくる。


 そしてT字路を左に曲がり、目の前に闘技場への入り口が見えた瞬間、とてつもない安心感があたしの心を満たした。


 だが……それがいけなかった。


 ガタン!


「へ?」


 今思えば何故、こんな場所に置いてあるのかと普通は疑問に思うのがゲーマーとして普通だろう。だがこの時のあたしはやっと最終地点に着いたことで油断してしまったのだ。


 通路右側に置かれたロッカー……突然それが開くと中から……ゾンビが出てきた。


「があああ!」

「……まじ……かよ」


 普通に考えれば銃で撃てばいいだけだ。だがゾンビとの距離は一メートルもなかった。もし掴まれたさい、ひっかかれれば終わり、となると腕でゾンビを止めるのも不可能、銃は左手なので構える時間もない。


 それに仮に銃を撃てても銃声で確実にリッカーが向かってくる。


 あたしの脳裏に……『ゲームオーバー』の文字がちらついた。


「……っ!」


 ガブっ!


「……あれ?……え?」


 ゾンビが……あたしの腕ではない何者かの腕に噛みついた。……それは雪だった。


「なっ!……ゆ……くっそ」


 まずはゾンビの対処にと銃を撃つわけにはいかないので両手でゾンビの頭を掴むとぐりっとひねり無力化した。


「雪!」

「雪!」

「……」


 雪は何かやり切ったというような表情で座った。


「まさか……私がアリスを……助けるとはね。これで借りを一つ返したわ」

「雪」

「アリス覚えてる?サチとあなたが居た言葉、そいつの為に死ねるかってやつ」

「え?ああ」

「今思ってみれば確かにあの子が同じような状況になったら、私は助けてなかったでしょうね。でもあなたなら……アリスなら絶対にこのゲームをクリアできると私は信じてる、だから動けたのね。いい?絶対にクリアしなさい、じゃなかった呪うわよ?」

「ふふ、安心してよ。もし無理だったら……全員あの世だ」

「ならあの世でじっくり責めてあげるわ」

「お手柔らかに」

「昔の……ステア時代のあなたは自分を主人公だって言ってたけど……」

「そういや言ってたね」

「今のあなたもジャンプの主人公では無いけど……十分あたしにとっては主人公で……ヒーローよ」


 そういうと雪は白い結晶となると……霧散した。


 ていうか雪ジャンプとか読むんか。


 ゆっくり立ち上がる。


「まったく……こんな形で貸しを一つ返されるとはねえ」

「予想してなかった?」

「出来れば……何か奢ってくれる方が嬉しんだよなあ」

「なら言えばいいのに」

「借金とかならあれだけど……貸しってのは催促しちゃいけないもんなのよ」

「……お二人さん?……多分だけど……急いだほう方が……」

「何で?リッカーなら大きい音とか出さない限り問題ない……」

「リッカー……じゃない物が……いるように見えるんですよねえ」

「え?」

「ん?」


 あたしとコウが一斉に視線を向けた。確かにリッカーには見えない別の敵がそこには居た。


 四足歩行でリッカーよりも高く立っている……ん?それって……。


「い、犬?」


 ゾンビ犬である。ゾンビ犬はあたしたちを捉えるとゆっくりとだがこちらに歩いてくる。


 なんでだ?今までそんな気配無かったのに!?待てよ?なんでこんな意味不明の場所にロッカーがある?それにタイミングだ、ゾンビを倒した直後に現れた……つまりゾンビを倒してもリッカーがプレイヤーに気づかない場合に用意される……仕組み?


 やばい。


「走れ!走れ!走れ走れ走れ!もう犬は勘弁!」


 急いで闘技場入り口の端末にたどり着く。


「卓!暗証番号!」

『やっとですか……もう』

「んな事言ってる場合じゃない!早く!」

『はいはい……0322です』


 急いでボタンを押す。……だが表示されたのは『ERROR』だった。


「おい!卓君!?違うんですけど!?」

『え?おっかしいな……ちょっと探してみます』

「おいおいおい!そんなこと言ってる場合じゃ……」


 あたしはゆっくりと振り返る。


 ゾンビ犬君はある程度距離を詰めるや否や……スピードを増して走ってきた。


「……一匹、一匹だけなら!」


 あたしは銃を構えると士郎さんの言葉を思い出す。犬は……攻撃の瞬間の飛び掛かる間際が……弱点!


「がう!」


 犬が飛び掛かって来る。あたしは冷静に照準を飛んでくる犬の眉間に合わせると……一発発射した。


バン!


「キャイン!」


 脳天に弾丸を食らったゾンビ犬は……動かなくなり、崩れ落ちた。


「ふぅー、やればできるもんだな!……ん?」


 見てみると正面、T字路の交わる場所に今度はリッカーが居た。


「……聞いて……らっしゃいました?」

「しゃあああ!」


 今度はリッカーがあたしたち向けて突撃を開始した。


「ですよねえええ!卓さん!早く!今度はマジでやばい!早やあああく!」

『ちょっと待って……あ、これだ!1215です!』

「コウ早く!」

「分かってる」


 カチカチカチカチっとコウがボタンを押す。すると……ピコンという今度は正解の音と共にドアの鍵が解除された音が聞こえてくる。


「急げ急げ急げ急げ急げ急げえええ!」


 あたしは二人と一緒に素早くドアを開けると、中に入った。


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