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VRゾンビゲーム(仮) 12

 ボコ……バキ!ボコ……ボコ……バキ!


 すでに意識がないはずの沖田さんの体が体内で何かしらの異変が起きているのだろうか、四肢があらぬ方向に曲がったり、体自体が少しずつ膨らんだり変化している。


 バイオの最終ボスのシーンでよく見る光景だ。それ以上にこれと似たような光景をつい先日見たんだよなあ。


「この光景……愛和の会の本部で見たぞ」

「え!?あの事件確か雪とアリスが解決したって聞いたけど……詳しい詳細聞かされてないんだけど!あたし最初だけ参加したのに!」


 知らんがな。


「この状況だから詳細省くけど、教祖が闇の魔法使いと繋がってたんよ。それで追い詰められて闇の魔素を一飲みしまして目の前で闇の獣人化しちゃいました!」

「よく無事だったね!?」


 ほんとにそれな。


「二人とも……今重要なのはあの巨大化しつつある沖田さんの対処でしょ!まじめにやる!」


 いつも静かなコウさんが声を荒げた。


「「すみませんでした」」


 とは言いつつも、現時点で対処法がないんだよなあ……。


 バイオでも変化しつつあるバケモンって大抵ムービー中なもんで、攻撃できないんですよねえ。


 むしろこの状況、どうすりゃいいのよ。


 という風に対処に迷っている間にも沖田さんだったものは、巨大化していく。もうすぐ五メートルほどの大台に到達だ!。


「……とりあえず……撃ってみるか」


 何もしないわけにはいかないのでとりあえず銃を向けて撃ってみる。


 バン!


 ぎゅるん!


 一発の銃弾がもはや体のどこだかすら分からん場所に命中した瞬間だった。化け物の目のようなものが動くとあたしを捉えた。


「え?」

「ぎゃおおお!」


 そして体の一部が裂けて口?のようなものが出現すると咆哮が轟く。


「……あー……なるほど?変身中の攻撃は有効か……先に言って……おわっ!」


 バタン!


 これまた元は何だったのか分からん肉の部位が上からあたしに向けて振り下ろされる。まあ普通に避けられるんだけども。


「アリス!」

「アリス!」

「……」


 これで分かったことは一つ、変身中でも普通に攻撃は有効だという事、そして攻撃するともれなくヘイトが着いてくるという事だ。


 厄介だな。


「今考える!二人は何とか時間稼ぎ……出来る?」

「アリスが言うなら!」

「任せて!」


 ババババババ!


 そういうと二人は持っていたMP7を化け物に移動しながら連射し始めた。


 さあ、あたしだ。と言っても考えている最中に攻撃せねば二人にも負担がかかる。


「ハンドガン……駄目だな。火力が足りん……お?」


 闘技場の隅っこに置かれたある物をあたしは発見した。M249だ。


「絶対重いんだろうけど……まあ試してみますか」


 機関銃を手に持ってみると意外に軽かった。多分訓練を受けていない人でも扱えるよう調整されているのだろう。


「……いけますねえ!おららら」


 ババババババ!


 反動もそこまでない、ならある程度使い物になる。


「……サチ!運転は?」

「へ?いや一応教習所行ってるけど」

「なら車運転して!あたしは上の機関銃を撃つから!」

「えええ!?でもまだ仮免すら……」

「ならサチが機関銃撃つ?撃てる?」

「……運転させていただきます」


 サチは大人しく車に乗り込むとエンジンを掛けた。そして同じく車に乗り込んだコウは天井に設置された機関銃を掴むと連射し始める。


 ババババババ!


 コウさん……あなたサチにそこまで堂々と指示できるようになって……霞家当主に……三枝さんっぽくなってきたじゃないの!嬉しいぞあたしゃ!


 さて頭に残る疑問を解決しよう。


「卓!聞きたいことがある!」

『今どんな状況ですか?結構色々あったみたいですけど』

「それは後で話す!今はGウイルス取り込んで巨大化したプログラマーと最終対決中じゃ!このボスの体力教えてちょーだい!」

『わーお、なるほど……少々お待ちを』


 本来ならバイオだろうがモンハンだろうが、敵の体力なぞ見えることは無い。見えるようにするチートもあるにはあるが。だが死んだら終わりの時点でチートだろうが何だろうが言ってる場合じゃない。


『……アリスさん』

「あ?分かったの?なら早く教えて!」

『今銃って撃ってます?』

「めっちゃ撃ってるよー!主に二人でめっちゃ撃ちまくってるよー!」

『その敵……体力9999なんですけど……ダメージ受けた途端に急速に回復してるんです……言ってる意味わかります?』

「……は?」


 今なんて言った?回復する?……はああああああ!?マジかよ!じゃあこの攻撃意味ないってことじゃん!あ!犯人のプログラマーか!やられないようにダメージ受けてもすぐに回復するように設定してあったのか!


 ……いくら何でもずる過ぎるだろ!


 これじゃプレイヤー側がどんなに頑張っても意味ないじゃないか!


「……む、むりげー」

『すみません、現状アリスさんたちがそのモンスターを倒すのは……不可能です』

「……はは、ははは」


 完全に詰んだ。さすがに世界をコントロールできるプログラマー相手に勝つなんて無理だったか……ここであたしの人生終わりか……まあ十分楽しんだし……いい……か。


『アリス』

「師匠!?」


 突如、卓とは違う声があたしの頭の中に直接響いてくる。変な感じだ。


『……お前を直接助けられないことに少し違和感を感じているが、俺が言えるのはただ一つだけだ……諦めるな。お前は何時だって俺の想像を超えるようなことをしてみんなを救ってきたじゃないか。今回もそうだ、お前が諦めなければ何かが起きる、最後の一瞬まで考え続けろ』

「師匠」

『それに前ほど、自分は主人公だって言わなくなったが…今日に至るまでのお前は……十分主人公だろ?ならあがいて何か起こして見せろ』

「……ありがと師匠」

『ああ』

『で?どうします?』

「少しだけ時間頂戴!考える」


 さて……考えろ。敵の体力は9999とは言ったが急速に回復するならほぼ無限と同じ……いや?違うぞ、9999なのは変わらない、なら……一回、たった一回でいい……9999ダメージを与えられる武器があれば……勝てるんじゃ?


 だけど、バイオでも一撃で敵を倒せる武器なんて本編クリア後の特典武器とか実績解除の武器とかだし、チートとかMODとか入れないとほぼ不可能……あれ?


「なあ卓さん」

『何ですか?』

「あたしの銃のマガジンポーチが無限に出来たのは……なんで?」

『ああ、色々ソースコード見てた時に死んだら終わりってことに気づいたんでとりあえずアリスさんのパラメータだけは何とかならないかってやってみたんですよ。でもまあ一回書き換えたらアクセス自体が不可能になったのでもう無理ですが』

「なあ卓さんアクセス不可能なのは……メインのプログラム?」

『そうですよ、機械でスキャンされた時にメインのプログラムに皆さんのパラメータが書き込まれたんです。介入出来たのは、ゲーム開始前の一回だけですけど』

「なあ卓、プログラムとかさっぱり何だが、オンラインゲームでさ特典武器とか新たに配布される時、メインに書き込んだりしてんの?」

『はあ?今関係あります?あれはメインのプログラムファイルとは別に読み込むだけの武器のデータが入ったフォルダに入れているだけ……です……あ!』

「あたしのパラメータはいじれんけど……既存の武器は?」

『……いじれる!ああ!くそっ!何で気づかなかったんだ!アリスさん!今周りの武器で一発で確実に当てられる武器ってありますか!』

「うーん……お!」


 あたしのすぐ近くにあった。バイオのボスに対してぶち込むと言えばの武器が。


「RPG7がありますねえ!」

『一応言っておきますが、使えるんですよね?』

「多分!」

『分かりました……ちょっと待ってください、色々作業するので……十分……いや五分時間をください』

「了解!」


 あたしはM249の弾をリロードする。


「サチ、コウ!五分だけ耐えろ!そうすればすべて終わる!」

「五分……了解!サチ聞こえた?後五分だけ頑張って!」

「合点!」

「おおおりゃあああ!」


 ババババババ!


 五分という時間、あっという間に見えて以外にも長い時間だった。二分間耐えればゲーム終了ではない、二分間耐えて初めて勝利条件が目の前に現れるのだから。先ほどまで感じなかった独特の緊張感まで感じることが出来る。


 普通に遊んでいるならかなり早く感じただろう、だけど今は違うのだ。一発でも食らえばアウト……掠ってもダメな攻撃をひたすら五分間避け続けなければならない。


 普通の人なら発狂するか、絶望するような時間だ。だがこの時のあたしには独特の緊張感以外に意味不明な安心感と使命感があった。他の人間は知らんが、士郎さんと雪は言った、アリスなら……あたしなら絶対にこのゲームを終わらせられると。


 そしてあたしは一人じゃない。サチとコウが居る。それだけで生き残ってやるという気持ちが湧いてくる。


 だが先に場面が動いたのは悪い意味でこちらだった。


 バチン!


「やっば!」


 サチが運転している車の目の前に肉の塊が降ってきた。


 ガツン!ガシャーン!


「うわあああ!」

「きゃあああ!」


 肉の塊に衝突した車は見事に横転、天井に居たコウは外に投げ出され、サチは逆さになった運転席で伸びている。


「サチ!コウ!」


 五メートルほどの巨体の化け物がゆっくりと二人に近づいていく。


 あたしは何も出来なかった。今動くとロケランが使えるようになっても移動に時間が掛かる。もし銃を撃ってヘイトを稼いでも今の状態の二人では再びヘイトを稼ぐことは期待できない。


 このゲームを唯一クリアできる可能性があるのはロケランを撃てるあたしだけ、何が何でも生き残る必要がある。


「……いたた」


 コウが立ち上がるが、少しふらついている。そして上から肉の塊が襲うとしていた。


「コウすぐに逃げろ!」

「え?……あ」


 コウは最早運命と受け取ったのか回避行動すらしようとしなかった。


「逃げろおおおおおお!」

「りゃああああああ!」

「きゃっ!」


 サチだった。運転席で伸びていたはずのサチがいつの間にか車から出てきていたと思いきや、コウに突進したのだ。


 突き飛ばされたコウは肉が落ちる範囲外に飛ばされる。


 そして……。


 バシン!


 ちょうどコウが居た場所、肉の塊が落ちる予定だった場所に地面に突っ伏したサチがそのまま入り……肉に押しつぶされた。


「……サチ?……いや……いやああああああ!」


 姉が身を挺して妹を守った。あの時と同じだ、シオンと戦った時もまるで妹が居れば自分はどうなっても良いというかのように当たり前のように自分が犠牲になる。普段は脳筋脳筋と呼ばれながらも妹の時だけは自然と体が動く……サチ、お前はある意味凄いよ。


 だが問題はここからだ。


「コウ、動ける?」

「サチ……サチ……なんで」


 駄目だこりゃ。


「……すぅー……霞コウ!」

「……っ!」

「サチがお前の為に体張ったんだ!今あんたがやるべきは戦って生き残って勝手に盾になったサチをぶん殴ってやることだろう!戦えるのか!」

「…………た、戦える!」

「オッケー!」

『アリスさん!すみません、お待たせしました!』

「待ってましたあ!」


 振り向くと、先ほどまで弾頭が付いていなかったRPG7に弾頭が付いている。しかもおまけに……バイオっぽく、弾頭は赤色だ。


 一旦化け物に向かって数発放ち、化け物のヘイトをあたしに向ける。


 そして。


「コウ!銃は!」

「ごめん!機関銃を撃つからいらないと思って捨てた!」

「ならこれ使って!」


 あたしは愛銃をコウに投げる。普段だったら絶対に他人に貸したりはしない。だが……コウなら使いこなせる……あたしの分身を使いこなせるはずだ。これはあたしなりのコウに対する信頼の行動だ。


「……」


 コウは少し微笑んだように笑うと、銃を受け取り、連射を開始、ヘイトを集め始めた。


 バンバンバンバン!


「ぎゃおおお!」


 再び、化け物がコウに視線を向ける。


 バシン!バシン!バシン!


 コウに向かって何度も肉の塊が振り下ろされるが、ゾーンに入ったのか、はたまた覚醒したのか、運動音痴だったとは到底思えない身のこなし用で化け物の攻撃を避けていく。


「すっげ……よっしゃ!あたしも!」


 RPG7を何とか担ぎ、照準を合わせる。


 正直、使い方を三穂さんにも久子師匠にも教わっていない。だが、何故か私は使い方を知っていた。


 セーフティーを解除し、安全レバーを押し上げる……後はトリガーを引くだけだ。


「……沖田さん……安らかに」


 カチッ!


 バシュ!


 一発の弾頭は筒を飛び出すと真っすぐ化け物に向かって飛んでいった。


 化け物はそれを見た瞬間、何故かほっとした顔になったように見え……それを受け止めた。


 バーン!


 弾頭が化け物に衝突した瞬間、大きな爆発音と爆風が発生した。


「あ……やっば」


 ロケランを撃った後の事をすっかり忘れていた。あたしは爆風に吹き飛ばされると壁に激突した。


「おわあああ!」

「アリス!」


 吹き飛ばされたあたしを心配したコウがすぐさま駆け寄ってくる。


「だいじょうぶ?」

「……壁に衝突したダメージで死亡判定とか……ないよね?もしそうならかなりダサいゲームオーバーになるんでけど」

「……見た感じ大丈夫そうだよ」

「そりゃよかった……おお」

「え?」


 完全に沈黙した化け物の頭上に何か現れた。


 それはステア出身でズトューパをしている者なら誰でも知っているものだ。


『Congratulations! Game Clear!』


 その文字が化け物の頭上でゆっくり回転していたのだ。


「体験版とはいえ……粋な演出なこって」

「そうだね」


 そして少しずつだが背景に変化が起きた。


 闘技場が外側から少しずつ……白い結晶になっては崩れていくのだ。


「これで終わりか……やっと終わった!」

「立たないの?」

「うーん、あたしの場合、ゲームのエンドロールはは悦に浸りながら座って楽しむのが好きだから……このままでいいかな」

「ならあたしも」


 コウはあたしの隣に座ると……頭を預けてきた。


 ……まあこれぐらいだったら……良いんじゃね?


 あたしとコウは崩れ行く世界を見つめながら、崩壊に巻き込まれ、ゲームをログアウトした。


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