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VRゾンビゲーム(仮) 13

「……っかたー!」

「早く出すんだ!」

「昭英!昭英!」

「……お?」


 気が付くと……あたしの視界は機械の中だった。どうやら戻ってこれたようだ。


「……迎えに来てくれる人は……いないっと」


 少し寂しさを覚えながら自分で機械の蓋を開けた。


「まったく!どうなってるんだ!」

「悠太!悠太!」

「母さあああん!」


 外に出ると、イホスのスタッフにクレームを入れるもの、愛する息子を涙目で抱きしめるもの、親に抱き着きに行くものなどがひしめき合っていた。


「……はぁ、疲れた」

「「アリス!」」

「ん?おわっ!」


 サチとコウが抱き着いてくる。


「最後まで見れなかったのはあれだけど……アリスならやれるって信じてたよ!」

「そりゃどうも」


 コウとのあれは……秘密にしときますか。


「アリス」

「雪」


 雪はゆっくりと近づいてくると、手を差し出す。


「ん?」

「貴方の貸を一つ帰したつもりだけど……別に大きな貸ができてしまったわ」

「そうね……いつか返せよ?」

「もちろん」

「アリスさん」


 いつの間に居たのか後ろから士郎さんの声が聞こえる。


「士郎さん!どうですか?楽しめました?」

「ええ!あそこまで血沸き肉躍る感情になったのは久しぶりでした。雪さんやアリスさんにはお礼を」

「いえいえ」


 血沸き肉躍るって表現古くね?


「これからどうします?」

「あたしはちょっと卓と話したいことがあるんで」

「ではサチさんコウさん、雪さんは私と一緒に外で待っていましょうか」

「はい」


 そういうと士郎さんは三人を連れて外に出ていった。


「さて……行こうかね」

「おい!」

「あ?」


 聞き覚えが無い声だ。少なくともあの四人以外にここに居る知り合いは師匠と卓だけ、その二人は制御室に居るはずだ。なら誰だ?


「あー……えっと……」

「浅田だ!てめえ!よくも見捨てたな!」

「ああ、浅田君だっけか……見捨てた?聞き捨てならないな……そもそも助けるなんて言ったかい?いいじゃん!助かったんだし!あたしに感謝しろよ?今回のゲームあたしじゃなかったら全員死んでたよ?」

「ああ!?それでもお前が俺を見捨てた事実は代わりねえだろうが!俺がもし生き残ってたらもっと楽にクリアできたぞ?」


 それはない……ありえない。あたしですら何度も死ぬって思ったぐらいですもん。


「楽に?へえ!見方を囮にするような戦術で楽にか!なら多少険しくても仲間を見捨てずに進んだ方がゲームは楽しいでしょ!これはゲームだよ?君が言ったんじゃん!」

「……て、てめえ」

「あとさ、少なくとも君高校生でしょ?ならあたしの方が年上だから敬語使った方が……」

「敬えない相手に敬語使ってどうすんだよ。俺が敬語使うのは敬える相手だけだ」


 それには同意しよう。だがこいつの言う敬う相手ってのは……現に権力持ってる政治家だったり、お金持ちの事なんだろうな。


「おい何してるんだ」

「あ?てめえには……あ」

「ん?」


 あたしの背後に現れた人物に対して浅田君は最初強気の態度を見せようとしていたが直ぐに正体が分かるとひるんでしまった。


「……あ、師匠、おつかれ」

「お前の方こそお疲れだろ……まあ今回はよくやった」

「いやあ、今回は私だけっていうより卓の協力の方が大きいかな、あたしは必死に戦っただけ」

「つまり卓だけが居ても戦えるお前が居なければ意味が無かったわけだ。そういう意味ではよくやったよ」

「あざす」

「というかそいつは誰だ」

「ひっ!」

「えーと……浅田議員?の息子さん?」

「ほう?国会議員は多すぎて分からん。災難だったな」

「ですが!そこの弟子に見捨てられました!良いんですか!神報者の弟子が人を見捨てて!」


 言うじゃん。


「はぁ、たまにいるんだよな、こういうやつ。良いか浅田君、識人は各個人によるが、神報者に国民を助ける義務はない」

「へ?」

「神報者が負っている義務はこの国にやって来る識人を保護すること、帝……つまり天皇陛下に助言、つまり支えること、そしてこの国で起きた事、政府がやったことを正確に記し神に報告することだ。国民を助ける義務は負っていないよ」

「そ、そんな」

「俺だって状況によるが立場上、手を貸さないことだってある。それにだ」

「それに?」

「国民を助ける義務というのは……君のお父さんのように国会議員の方が本来負わなければならないんじゃないかい?」

「……!」


 浅田君は何も言い返せなかった。


「……お前ら、行くぞ」

「はい」


 何も言い返せないと判断した浅田君は取り巻きを引き連れて帰ろうとした……二人を除いて。


「おい!江田島!斎藤!来いよ!」

「……」

「江田……」

「行かない!」

「は?意味わかんねえこと言ってんじゃねえぞ!」

「僕は……僕たちはもうお前の操り人形じゃない!お前の命令には従わない!」

「あああ!?」


 おお!ここで言ったか!良いぞ!言ってやれ!証人になってやる!こうやって自分の足で進もうとする奴は嫌いじゃない、もしそいつが手を出すなら加勢してやる。


「おおお!そういえば!さっき聞いたんだけどよ!俺の事を後ろから撃ったんだってな!良い度胸してんじゃねえか!覚悟はできてんだろうな!」


 浅田君は江田島に殴りかかろうとする。


 あたしも江田島君が一発殴られた時点で加勢しようと準備した。


 だが結果は意外な物だった。


 グルン!ドスン!


「え?おわっ!」

「おっと?」


 殴り掛かかった浅田君は江田島君によって柔道技で見事に投げられたのだ。


 江田島君……君、そんな技持ってたの?あの時の言葉前言撤回するわ、十分強いよ君。自信持って良いよ!


「僕は今まで父さんの事があったから何も出来なかった!でももう違う!お前にはひるまない!」

「て、てめえ!お前の親父がどうなっても良いんだな!?絶対に父さんに言いつけてやる」

「父さんなら許してくれるはずだ!」

「面白いな」


 何故か割って入ったのは……師匠だった。


「あ!?」

「この子の父親が君の父親とどういう関係か知らないのに言えばどうなるか分かるのか?」

「ああ知ってるさ!こいつの両親は俺の父さんが援助している会社の社員だ。たまたま近所だから可愛がってやってるのによ!あーあ、父さん、可哀そうだな!」

「江田島……江田島……ああ、確か江田島建設だったか?」

「ん?師匠知ってるんだ……え?江田島建設?苗字が社名になってらっしゃいますが?」

「社長は父のお兄さんが継いでいます。僕の父は秘書だと聞いていま」


 社員じゃないじゃん……思いっきり役員待遇じゃん。


「浅田君、君は知らんだろうが、もしこの子の父親を辞めさせたら大変な事になるぞ?今の日本の与党政治家の多くが大手建設会社や有名企業からの寄付で成り立ってると言っても良い状況だ。もしこの子の父親を辞めさせたら恐らくだが江田島建設は怒って寄付を辞めると言い出すだろう。江田島は結構古くからある大手の建設会社だ、影響は出るだろうな。そうなったら君の父親は困るだろう」

「え?……え!?」


 知らなかったようだ。まあ高校生だからそこら辺の事情を一切知らなかったのかな……まああたしも浅田君の年の頃には一切知らなかったし、しょうがない!


「いいか?法律を作れる国会議員が一番上に居ると君たちは思ってるだろうがそれは違うぞ?国会議員が活動するにはお金が必要だ、そして大抵の議員の活動資金は寄付によるものが多い。力関係を見誤らないことだ」

「あ……そんな……」


 立場的に完全に上だと思っていた浅田君は本来の立場が明確になった途端、借りてきた猫のようになってしまった。


「アリスさん」

「ん?」


 江田島君が声を掛けてくる。


「あの時、アリスさんに撃たれて考える時間が出来たおかげで、冷静になれました。僕はまだ自分の実力も使い方も知らないんだって。だからまずは自分を見つめ直すために勉強しようと思ってます」

「あ、うん……頑張って」


 いや、君は十分強いと思うよ?


「じゃあ行きますね。ありがとうございました」


 江田島君は同じくいじめられていたと思われる斎藤君と一緒に会場を後にした。


 そして抜け殻状態のようになった浅田君は取り巻きが抱きかかえるように連れて行った。


「ていうか……師匠、よく江田島建設なんて知ってたね」

「ん?そりゃ古くからある会社だしな、それに菊生寮を建設したのも江田島建設だよ」

「あーなるほど」


 そりゃ知ってるわ。


「ていうか卓はまだいる?ちょっと話したい」

「管理室でくたびれてるよ」

「了解」



「へい!卓さん!へいき……じゃないっすね」


 会場の上に作られた管理室に入ったあたしの視界に入ったのは影の功労者である卓が仕事をやり切って机に突っ伏している様子だった。そして秘書の橘さんが団扇で優しい風を送っている。


 羨ましい。


「ああ、アリスさん、ご苦労様でした。どうしました?」

「いや一言お礼を言いたくてさ……卓が居なかったら多分詰んでたから」

「あとでなんか奢ってください」

「ラーメンで良ければ」

「それはアリスさんの好物でしょ」

「好物を他人に奢って何か悪い?」

「いえ……なんでもないです」

「そういえばさ、よく出来たよね」

「何がですか?」

「いや、あたしの知ってる限りのプログラミング情報だとさ普通プログラムが動いてる最中にコードを書き換えるなんて無理だって思ってるから。いくら別ファイルとはいえ、よくできたなって」

「ああ、やり方は色々ありますけど……パッチとか動いてる最中に書き換えが出来るシステムがあるんですよ」

「へえ……じゃあこのゲームもそんなシステムあったんだ」

「いえ、無かったので作りました」

「……今何と?」

「だからシステム自体が無かったので新しく構築しました。運が良かったのはそれをプログラム停止せずに適用できたことですね」

「……は?はああああああ!?」


 今こいつはあの五分間で新しいシステム構築をしたって言ったか?あの五分間で!?


「あの五分間、何してたの!?武器データ書き換えしてたんじゃ!?」

「え?それは数秒あればできますよ、データ見つけて書き直しですから。その分、パッチ適用のためのシステム構築に費やしたんです。これが出来ないとせっかく書き直しても意味ないですから。昔言いませんでしたっけ?プログラムに掛かる時間の九割はデバッグ作業ですよ?僕はユニークでそれを省略できるんですから急げば簡単なシステムぐらいは作れます」

「御見それしました」


 まじで今回の事件、卓が居なかった詰んでたことが判明しました。


「ていうかさ……ここなんで人居ないの?」


 この管理室、卓と橘さん以外誰もいなかった。


「みんなゲーム終了後に大急ぎで出ていきましたよ。恐らく事後処理でしょうね、これからイホスは大変なことになりそうですから」

「ああ、居なくなったプログラマーについて何か分かってる?」

「そういう社内の情報は極力聞かないようにしてました。僕の最優先事項はアリスさんたちのゲームクリアを導くことだったので」

「なら伝えた方が良いよ。プログラマーの沖田さんはすでに死んでるってことと遺体は……多分試作品用に作った機械の中かな」

「なんで知ってるんですか」

「ゲーム内で本人に聞いた」

「……本当にSAOですね。コナンでも似たような展開だったかな」

「それとこれは警察に伝えてほしんだけど、多分沖田さんは殺されてる。同僚のプログラマーに、名前までは聞いてないけど」


 殺されたという単語で勢いよく卓が起き上がった。


「何で殺されたプログラマーがそんなこと覚えてるんですか?」

「死ぬ間際の記憶が機械内で誰かに拳銃を構えられている光景だってさ。しかも今回の事件、その同僚が単独で起こしたというより……誰かと協力して起こした事件っぽいよ?」

「結構大事じゃないですか、今度はそっちを解決でもするんですか?」

「やるわけないじゃん。あたしゃコナンでもなければキリトでも無いよ?まあ情報提供……ぐらいに留めるかな」

「そうですか」

「おい三人」


 そこに師匠が現れた。


「何すか?」

「ここに留まってるのはお前らだけだ、早く外に出るぞ。話をするなら外でやれ。それとアリス、四人組が外で待ってるから早く行け」

「あ、ういっす」

「行きますか」

「そうだね」


 私たちは師匠に促されるように管理室を後にした。



 その後、あたしはサチたちと合流するが、すぐに全員警察による事情聴取が行われた。


 その際、あたしが沖田さんが死んでいること、遺体の場所、撃たれていることを馬鹿正直に話したおかげであたしが犯人なのではないかというあらぬ疑いを掛けられてしまった。


 まあいまだ見つかっていない遺体についてまるで見たかのように詳しく話しているのだ犯人だと疑っても仕方がないっちゃ仕方がない。


 しかも話の根拠がゲーム内であった遺体本人による証言なのだ。ゲーム内で沖田さん本人に聞きましたと言っても何ってんだこいつ状態だ。


 だが沖田さんの死亡推定時間がちょうどパーティーが行われれている時間だったため、あたしにはアリバイが自動的に発生したこと、直後に犯人と思われる同僚の首吊り死体が見つかったことによりあたしへの疑いは晴れた。


 そして沖田さんが危惧していたようにイホスは警察による捜査と、事件の責任を取って社長の辞任したことにより、株価は大暴落する。


 そして誰もが確実に倒産するだろうと思われた時、救いの手が現れた。


 なんとゲーム会社としてライバルだと思われた共天堂がイホスの株を買い占め子会社化したのである。


社長曰く、『イホスのしたことは許されることではない。だがイホスのゲームに関する情熱、プレイヤーを楽しませる気持ちは我々も同じだ。この技術を失うわけにはいかない』とイホスの技術を使って共天堂によるゲーム開発を続けると発表したのだ。


 これによって旧日本でも成し遂げられなかったSAOなどのフルダイブできるVRゲームの技術はこの世界で生き続けることが出来たのである。


 まああたしからしたら共天堂がイホスの技術を欲しがって事件を起こさせたとか他にも引っかかるところが多々あるが、別に積極的に関わることでもないし、巻き込まれるのが嫌なのでいつも通りラーメンを食べて日常を過ごすのだった。


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