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同時誘拐事件 3

 ビッグサイト、本来屋内展示場がある場所から徒歩数分の場所には屋外展示場のようなものがあった。


 普段は中で展示できない物だったり、実際に動かして展示する物をそこで展示しているらしい。


 そしてそこの観客席には今回、帝がご観覧するということで専用の席まで作られて、現在帝はそこに座っている。


 今思えば、何故帝は屋内展示場を見て回らないのかという疑問が浮かぶが、師匠曰くこのイベントが終了次第、中を見て帰るのだという。


 そしていつものように帝の周りには二名の霞家の護衛と皇宮警察の護衛が付いていた。そして帝の隣には今回のイベントで出てくる西京重工が開発した機械の解説だろうか、研究者と共に胸に議員バッチを付けた者がいた。


 だが国会議員に毛ほども関心がないあたしにとってはそれが誰なのかなど知る気すら起きなかった。


因みにあたしと師匠は帝のすぐ後ろに座っている。


『皆さま、大変お待たせ致しました!これより我が西京重工が誇る最新ロボット!『レックス』のお披露目です』


 レックス……一体どういう理由で命名したのだろうか。


 数秒後、内部から展示場へ繋がる扉が開くと機械の駆動音と共に、見た感じ体長三メートル?ほどの二足歩行のロボットが中央に歩き出した。


「マジか……すご」


 あたしが凄いと言った理由は他でもない。二足歩行のロボットが実際に歩いて動いているのだそりゃあ驚く。


 え?ただ歩いているだけじゃんって?君ねえ……ロボットが二足歩行で歩くのにどれだけの技術が必要か分かるのかい?人間だったら脳みそが勝手にバランスをとるように動けるけど、ロボットにはそんなことできないんだよ!


 ガンダムシードだって地球の砂漠に降りた時に、キラが即座にプログラムを書き換えないとまともに動かなかったじゃないか!それぐらい二足歩行のロボットのバランス制御は難しいんだよ。


 しかもこの世界はまだコンピューターが開発されたばっかりだ。センサー類が開発されたとしてもそれを制御するCPUの性能だったりプログラムが追い付かなければまともに動かすことだって難しいだろう。


「凄いですね!」


 その時、帝が少し興奮気味に動くロボットに感嘆の声を上げた。どうやら帝もこのロボットが動くことに驚きを隠せないのだろう……いやあ、同じ感性をお持ちで嬉しい限りです。


「操縦は?誰が行っているのですか?」


 帝の質問に開発者が答える。


「はい、ロボット内部にて操縦者がコントロールしております。細かい姿勢制御はわが社で開発された試作品でありますがコンピューターにて行っております」

「なるほど、動力源は?あれほどの機械を動かすんです。かなりの量が必要だと思われますが」

「はい、あのロボットの内部に魔素石を埋め込んであります。魔素石は使い捨てではありますが、魔素石を魔法陣で電気を取り出しそれを利用して動力としております」

「なるほど!」


 あたしが聞きたいことのほとんどは帝が質問してくれた。おかげであたしは脳みそを使うことなく前に居る開発者の開設を聞きながらロボットが動くさまを見ることに集中できた。


 ていうか。


「師匠、ちょっと意外だったんだけど」

「なにがだ?」

「帝があそこまで熱心に質問するところに」

「そりゃそうだろ、過去の帝もそうだったが、大抵の帝は何かしらの研究者だ。今の帝は植物学だったかな?分野は違うとはいえ、気になった事、分からないことは調べる聞く、それが学者としての性格だよ」

「なるほど」


 確かに聞いたことがある。


 間違ってたらあれだが、昭和天皇も植物学者で雑草という植物は存在しないという名言は有名だ。


 それに旧日本の……なんていうんだっけ?上皇陛下も海洋学者で確か新しく魚を発見したとか言われてたな……詳しくは知らんけども。



 そんなこんだで帝が見守る中、搭乗者が乗ったレックスは展示場に置かれた様々な形の重りを持ち上げたり、運んだりして、このロボットが何が出来るかの披露が終わると屋内に戻って行こうとした。


 そして事件はその時に起きた。


 ウィ……ウィ……ウィ。


「ん?」


 退場まであと少しということろで突然、レックスの動きがおかしくなったのだ。


 搭乗員は必死にコントロールしようとしてはいるが何故か左右にふらついている。


 そして……。


 ガシャーン!


 ついにレックスは体制を保てずに倒れてしまった。


「……」

「……」

「……」


 予想外の光景に時が止まったかのように静まり返る会場。誰もが起こるはずもない事態に一瞬だけ思考が停止し、倒れたレックスを見つめるだけだった。


「は、早く中に入れるんだ!」


 いち早く声を張り上げ、指示を出したのは開発者の隣に居た議員だった。


「は、はい!」


 一度指示を受けた日本人の行動は早い。颯爽とクレーン車が到着するとレックスを持ち上げ、内部に運んでいく。


「申し訳ありません陛下!お見苦しい所を見せてしまいました!」


 すぐさま帝に頭を下げる議員。


 確かに他から見れば誰もが成功するだろうと思っていた新型ロボットの展示会、それが理由も分からず倒れたのだ。誰が見ても失敗と呼ぶだろう。


 だからこそこの時の帝の反応は意外だっただろう。


「いえ!面白いものを見せてもらいました!」

「え?」

「……へえ」


 まるで珍しいものを見せてもらったかのような反応である。議員からすればかなり予想外の反応だろう。


 あたしはこの帝の一言で少し親近感を覚えた気がした。あたしから見ても残念とか失敗品を見せられた怒りよりも何が起きたのか、何が原因なのかと勝手に考察を開始してしまうからだ。


「橋本さん、直前に動きが鈍くなったように見えますが何が原因だと思われますでしょうか?」

「そう……ですね。今回の試運転に当たって最低限の魔素石を投入しましたが、どうやら予想以上にエネルギーを使ってしまったようです。エネルギー切れで搭乗者が無理に動かそうとしたことにより各パーツの実際の動きとコンピューターが想定する動きで乖離が生じ……バランスが取れなくなった。今言えるのはこれくらいですかね。後は近くで見てみないことには」

「なるほど」


 つまりはエネルギー切れにも関わらず操縦者が無理やり動かしたことにより、本来エネルギー切れで動かないパーツがコンピュータが動いていると判断、もしくはコンピュータが無理やり動かそうとしてバランスが崩れたと。


 となるとコンピューターのプログラム問題とヒューマンエラーだな。


「そんな言い訳はどうでも良いんだ!陛下、大変申し訳ありませんでした。こんな失敗作をお見せするつもりでは無かったのです!」


 そこまで言うか。


「指沼さん」

「はい」


 この人、指沼って言うんか……ん?沼?沼!?おいおいおい!苗字に沼が付いてらっしゃるぜ!何が事件起きんの?この人犯人になるんか!?


「確かにロボットは倒れてしまいましたね。ですが私はこれを失敗だともあのロボットを失敗作だとは思っていませんよ?」

「え?」

「研究でも実験でもそうですが失敗と思えるような結果が無ければ成功は生み出されません。確かに天才が一回で何かを生み出すこともあります。ですが大抵の研究者は一回の成功の為に何十回何百回の違う結果を出した結果成功を生み出すのです」

「は、はあ」

「今回だって十分原因となる要素はある程度判明してるではありませんか。であれば次こそ……最後に成功すればいいんですよ。それに……」

「それに?」

「私は完成品を見るのもわくわくしますが。それを作るためにどんな経緯をたどったのか、どのような失敗があったのか、それも知りたいんですよ。でないとものを作った方の努力の証が見えないではありませんか」

「……そうですか」


 やはり帝は素晴らしい。


「では行きましょうか。次は屋内展示場でしたね」

「はい、お連れ致します」

「あ、龍さん。今日はここまでで良いですよ?後はいつも通りの執務をお願いします」

「え?……終わりですか?」

「ええ、そもそも今日龍さんを呼んだのは一緒に連れてくるであろうアリスさんに皇居以外での私を見てもらうためでしたから。どうですアリスさん、神報者としてこういう仕事も行うんです、勉強になりました?」

「はい、大変勉強になりました。帝の博識なことも研究に対しての熱意も分かった気がします」

「なら良かった!」

「はぁ……普段俺を連れないのに同行を希望した理由がやっとわかりましたよ」

「ふふふ、ではこれにて失礼します」


 帝がそう言うと霞家の護衛と共に屋内展示場へ歩いて行った。


「……ある意味帝に一本取られた感じ?」

「そうなるな。あの人だけだよ、俺にこんなことで出来るのは」

「だろうね」


 そりゃあ役職上、師匠にこんなことできるの帝しかいないでしょうよ。


「それで?師匠はこれからどうするの?あたしはどうすればいい?」

「そうだな……俺は転保協会に戻るが……うん、せっかくだアリス今日はこのまま解散で良い、見たいものがあるなら自由に回れ、俺は興味が無いからな」

「了解!」


 師匠は少し疲れた表情でその場を後にした。


「雪に連絡するか……その前にトイレ」


 あたしも屋内展示場に戻ることにした。



「……まずったな。迷った」


 一番近いトイレに駆け込んだつもりだったが、それが災いしたようだ。


 あたしは見事に道に迷ってしまった。今思えば、どうも来客用のトイレでは無かったように感じる。恐らく従業員用のトイレだったかもしれない。


 現在あたしは誰一人いない、展示場のどこかに居た。


「ま、適当に歩いてれば何処かに出るっしょ!」

「なんてことをしてくれたんだ!」

「あ?」


 トイレの右側、恐らく倉庫か何かがあるのか扉の中から誰かの叫び声が聞こえた。


 一応関係者以外立ち入り禁止の空間に居ることを頭に入れつつ、そっと声のする方へ歩み寄っていく。


 そしてそっと中を覗き見る。中に居たのは先程帝に解説していた開発者と見られる男性と国会議員が何かしらの会話をしていた。


 そしてそばには倒れたロボットともう一つ布が掛けられた何かがあった。大きさ的にはレックスとほぼ同じだ。これも展示品として出す予定だったがレックスの転倒で無くなったのか、それとも調整等で持ってきただけなのかは定かではない。


「それで?原因は何なんだ?解決できるのか?」

「原因についてはもうあらかた洗い出してあります。ですが言ったではないですか!元々試作品も試作品であると!本来なら電源供給ケーブルを取り付けないとまともに動かなかったんですよ!?」

「だが今回はちゃんと動いたでは無いか!」

「あれはある程度魔素石の使用量を計算していたからです。ですが予想以上に消費量が多くなってあんな結果に……まだまだ燃費は悪いですよ、改善点がありすぎる」

「製品化にはどれぐらいかかるんだ?」

「何言ってるんですか!まだ試作段階だと言ってるんですよ!これからまた内部の構造の見直し、テスト、それの繰り返しです。……一時間、何も異常なしに動けるようになるまでに良くて半年、一年は見ないと。それからバランス調整、駆動時間の延長も入れると……数年って所ですかね」

「そんなにかかるのか!国から補助金を出しているのに!もっと急げないのか!」

「一時間しか駆動出来ないロボットに何の価値があるんですか!最低でも三時間、これぐらいは動かせないとレックスに価値はありません!」

「まったく……それで?こっちのロボットは使えるのか?」


 議員が布のかかった方を指さす。


「そっち何てまだまだ先ですよ。稼働実験すらしてません。理論的には動くかもしれないから作っただけです。まあもしこいつがちゃんと完成したらレックスの存在価値がもっと無くなりますけどね」

「そうか、だが燃料を必要としない自立歩行型AIロボット……こいつが完成すればそれを政府に推薦した私の党での立場も盤石になる。……頼むよ?」

「分かってます……ですが……」


 AIロボット!?AIってことは中に入って操縦することなく自分で動かせるってことだよな!?そんなプログラムもう開発出来てんの!?もしかして卓が開発協力でもした?


 そんなの出来れば一気にこの国の技術レベルが跳ね上がるんじゃ……でも何かしら問題があるから今は止まってるんだよな?……超絶気になる。


 だけど駄目だ。あいつの苗字に沼が入ってる時点であいつが何かしらの事件を起こすのは明白だし、それに巻き込まれるのも嫌だ。深入りはせんとこ。


「……どうでも良いから帰るか……あ、道が分からないんだった。……まあ歩いてきた方角に歩けば……何とかなるでしょ!」


 あたしは二人が何か超重要な話をしていた気もするが関わりたくないのでそのまま足早に元来た道を戻っていった。


 その後、普通に展示場に出ることが出来た。あたしは雪に連絡、サチとコウと一緒に夕食を共にすることになった。


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