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同時誘拐事件 6

 国立科学研究所、国の機関で科学的な研究をしている場所……というぐらいしか分からん!興味ないし、調べたいと思ったことが無い!


 ていうか普通に考えれば研究所に入るのだ、許可やら必要かと思ったが何故か守衛と見られる男性はあたしの顔を見るなり神報者付とすぐにわかったようで通してくれた。


 ……顔パスなのはいいけど、それで良いのかセキュリティー。


 その際、卓の研究室の場所について聞いたところ、場所を教えてくれたのでその場所へ歩いて行った。


「やあ!卓さん久しぶり!起きてる?……おっと」


 卓の研究室のドアを開けて元気よく入ったあたしは中の光景に驚愕してしまった。


 卓は研究室の隅にあるソファーで寝ていた。まあそれは問題ない、一番驚くべきことは……本来秘書であるはずの橘さんが来ているワイシャツが少しはだけた状態で何故か卓と一緒に添い寝をしていたことだ。


 ……ああああああ!マジかよ!くっそ羨ましいんですけど!


 橘さんの柔らかそうな腕が卓に抱き着いている!?大きくて柔らかそうな胸が!卓の背中に押し付けられている!?なんだこの光景は!?あたしもあんな風に抱き着きたいんですけど!


 友里さんに頼めば……駄目だ!あの人の番号知らん!それ以前に普段何してるのか知らん!今もステアで事務員してるのか!雪なんてどうでも良いから今すぐにでもステアに向かっていいですか!


「……!」


 橘さんはあたしがはたから見たら謎に頭を抱えて苦悶している様子に気づいたのか、少し驚きの表情を見せると、すぐに立ち上がり乱れている服を整え、立ち上がった。


 ああ、そうですか。何もなかったように振舞うんですか!分かりましたよ!じゃああたしももう何も言いませんよ!ちくしょうめえええ!……あれだ!卓との関係を材料にしてあたしもあんたに抱き着いてやろうか!


「ん?あれ?……あ、アリスさん珍しいですね。こんな所に来るなんて……どうかしました?」

「うん……用事があったんだけど……衝撃の光景で中身忘れた」

「は?ああすみません、寮があるのは知ってるんですけど、実現できそうな研究の事を考えるとここに居た方が良いので……結構散らかってますよね」

「うん……そうだね」


 そういう事じゃねえんだわ。


 ていうかあれか!卓君、普通の顔してるってことは……橘さんの一方通行か!卓君君も隅に置けないねえ!


「それで?何か用事があってきたんじゃないんですか?」

「ああ、そうだった。卓さ……GPSが無くても携帯の位置情報って分かったりする?逆探知とかで」

「まあ可能ですね」

「やっぱ無理か……卓なら何とか出来ると思って……ん?今何と?」

「ノリツッコミですか?可能ですよ、条件さえあえば」

「……まじで?」

「はい」


 あたしは自然と握りこぶしを作りガッツポーズを決めた。


「第一段階クリアあああ!」

「意味が分かりません」

「ああごめんごめん事情を説明しよう」


 あたしは卓にメッセージを見せると友人の雪が誘拐されたかもしれないという事、そして現在位置が不明であるという事、ワンチャン携帯の逆探知が出来れば救出可能じゃね?ということを伝えた。


「なるほど……アリスさんは良くこのメッセージから誘拐されたかもしれないと分かりましたね」

「まああいつの性格は知ってるからね、その性格とこのメッセージを送った状況を何となく想像して軽く推理してみた!」

「名探偵じゃないですか」

「伊達に最近シャーロックホームズ読んでないぜ?」

「シャーロックホームズ読めば推理力身に付くんですね」

「いや知らん」

「でしょうね」

「それで?どうやって逆探知すんの?GPSも無いのに」

「確かにGPSがあれば位置情報を知るのは容易ですけど、携帯も固定電話も電波使ってるのでそれを探知すれば行けますよ」

「なるほど!刑事ドラマでよくある奴だ!でもさあれって相手が電話に出ないと無理じゃない?よくドラマでも『奥さん出来れば会話を長引かせてください』的なこと言うじゃん?」

「ああ、別に相手が電話に出る必要ないですよ?要はある程度の時間、携帯に電波送り続ければいいので」

「え?」

「考えてください、アリスさんが相手に電話を掛けて出ない……どれくらいで切ります?」

「……一分ぐらい?」

「まあ普通はそうでしょうね。因みに旧日本の技術だとGPSなしの場合でも逆探知は電波探知から一分弱です」

「マジで!?」

「はい、だから最近のドラマって誘拐事件の話ないんですよ、技術的に犯人が不利だから。でも今のこの世界の技術だと……数分……長くて五分です。もし電話に出なかったとして犯人がそこまで掛け続けてくれますか?」

「ないな、すぐ切るわ」

「でしょ?だから会話で逆探知時間稼ぐんですよ」

「なるほど!」


 何か技術が進むごとに刑事ドラマの制作難易度が上がっている現状に何処か悲しさを覚えてしまった。


「それで?条件って何?」

「一つ目は携帯の電源が入っていることと機内モードになってないことです。電話が掛けられない時点で逆探知は不可能ですから。今、その雪さんという方が携帯の電源を入れていると良いのですが」

「多分平気じゃね?」

「相手に見つかったら問答無用で壊されますよ?」

「……そこは賭けるしかない」

「もう一つは電波が届く場所に居ること。コンクリの地下だったらいくら電源が入っていても逆探知の精度が出ません」

「それも賭けるしかない」

「最後に」

「なんだ!」

「もし犯人が出たらです。出来れば数分程度会話してもらわないと逆探知の精度が出ません」

「おお!刑事ドラマでよくある奴だ!任せろ自信は無いけどやる気はある!」

「そうですか……じゃあ始めましょう。携帯出してください」


 卓は早速、あたしの携帯をコンピューターに繋ぐと、何やらキーボードを打ちこみ始めた。うん!何してるかさっぱりわからん!


「オッケー、じゃあその雪さんに電話を掛けてください」

「おっけ……後はあっち次第だな」


 あたしは電話帳から雪を選択すると電話を掛けた。一応スピーカーにして。


 プルルル……プルルル……プルルル……プルルル。


 コール音が始まった瞬間、先ほどの喧騒(主にあたしと卓)は無くなり聞こえるのは携帯のコール音のみとなった。


 だが一向にコール音のみで誰かが出る気配は無かった。もしかしたら雪はあたしにメッセージを送った後、マナーモードにして体のどこかに隠したのかもしれない。そして今なお震え続ける携帯に身をよじっているのかもしれない……そう考えると少し興奮した。


 数分後。


「出ないね」

「そうですね……あ」

「なに?」

「もう切って大丈夫ですよ。終わりました」

「お!よっしゃ!」


 あたしは携帯を切るとポケット入れる。


「場所は……うん、恐らく地下ですね。電波が少し弱かったので周囲百メートルまで特定できましたけど、場所は西京の南にある倉庫群ですね。後は人海戦術って所ですか」

「まあ箒あるし何とかなるっしょ」

「一つ聞いていいですか?」

「なにさ」

「雪さん……もしかしなくても名家の西宮家の令嬢では?」

「そうだけど?」

「普通に考えてすでに警察が動いていると考えるべきでは?アリスさんが動く理由がわかりません」

「それなんだけどさ、さっき師匠に雪の事を伝えようとしたんよ。あたしが言うより師匠から警察に伝えてくれればすんなり捜査してくれると思ったから」

「ほう」


 すみません今考えました。適当に報告したっていう既成事実を作りたかっただけです。


「でも師匠が出た時周りの声が凄すぎてよく聞こえなかったんだよね。凄い怒声とか聞こえてさ」

「それで?」

「聞こえた単語が、犯人からの要求はとか予想移動可能範囲?とかだったのよ、これってさ……」

「なるほど……龍さんも何かしらの事件に協力していると考えるのが普通ですね。でもそれが雪さんだとしたら?」

「それもあるけど、もし違ったら雪を捜査する人居ないじゃん?少なくともあたしは友人として助けたいなって」

「そうですか」


 それ以上に、もし電話の向こうの警察が捜査しているのが雪の件だとすると師匠が協力する理由もあそこまで慌てている理由も分からないのだ。師匠は多分、総理大臣が誘拐されても知らず関わらずのはずだ。


 その師匠があそこまで慌てている……それはつまり師匠にとってもその事件はかなり重要な意味を持っていることとなる。まあ今のあたしには関係ないことだが。


「アリスさん、これ」

「ん?」


 卓は一枚の地図を持ってきた。それには先ほどの逆探知で得た情報が書いてあった。


「お!センキュー!じゃあ行ってくるわ」

「多分ですが……相手は武装してますよ?」

「あたしのゲームでの戦闘を……そっか見てないか……まあ問題無いよ!いつも通りさくっとと終わらせてきますわ!じゃ!」

「……はい、お気をつけて」


 卓は何か引っかかるようで考えている様子だったが、あたしにとっては関係ないので二人に見送られながら研究所を後にした。


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