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同時誘拐事件 8

 何故ここに九条君が居るのかを聞く前にまずは解放だということで、雪と九条君の縄を解いた。


「ありがと」

「……ありがとうございます」

「……まあ聞きたいことが色々あるんだけも!まずは何で九条君までいらっしゃる?」

「九条君の勉強について色々話していたところで誘拐されたのよ……とんだ誤算だわ」

「はぁ……じゃあもう一つ、何で九条君のズボン少し脱げかかってんの?」

「え?あ、ほんとだ」


 ベルトは愚か、ズボンのボタンまで途中まで外れている。九条君の両手は縛られていたため使えないはずだ。じゃあ脱がそうとしたのは……誰だ?あの場には男しかいなかったはず。


 まさか!一歩遅ければ薄い本になる展開でした!?腐女子様たちが歓喜するような展開になるかもでした!?あたしにそっちの気は……ないとも言えん!実際拝んだことが無いもので。


「聞かない方が良いわ。それと……よくここが分かったわね」


 ちょっと待て、マジでなにがあったん?まあいいけど。


「それよ!助けなんて単語でここまで来れた事を褒めて欲しいぐらいだわ!」

「助け?助けてって送ったつもりなんだけど。まあ携帯見えない状態で打ち込んだから間違えるのも無理ないわ。凄いのは何の情報もないのにここまでたどり着いたあなたよ」

「そりゃああたし単独じゃ無理ですよ、あんたの携帯逆探知してここまで来たんだから」

「逆探知?」

「あんたの携帯に電話かけ続けて、あんたの携帯がその電波を受ける、その時の電波情報を卓にしてもらったんよ。じゃなかったら情報ないのにここまで来れるかっちゅうの」

「あああ!一時間ぐらい前の着信!あれね!ずっと腰で震えて気が狂いそうになったわよ!」


 やっぱりか……それはそれは……さーせんでした。


「しょうがないじゃろ、そうしなけりゃ来れなかったんだから」

「因みに卓って誰よ」

「あれ?あ、そっか雪は会ったことないか、ゾンビゲームの時に話したじゃん、脳内で」

「ああ!あの時の!その人が協力してくれたのね」

「あいつ一応携帯の発明者だし」

「あの……」

「え?」

「ん?」


 あたしが雪と話していた時だった、割って入って申し訳ないというような表情で九条君が話しかけてくる。


「どうしたの?九条君」

「お話するのも良いんですけど……ここ出ませんか?長居するのも」

「あ」

「そうねとりあえずここ出ましょうか」


 雪と九条君は掴まっている間に没収されていたものをテーブルから回収する。あたしはこの部屋と通路で伸びている男たちを一か所に集め念のために睡眠魔法をかけ結束バンドで固定すると、ながしっぱにしていたレコーダーを止めて回収し、外に向かった。



「あ!アリスさん!作戦完了みたいですね!ご苦労様です」

「……なんで卓が居るんよ」


 驚いたというより呆れたというのが正しいかな、何故か研究所ににて別れた卓が秘書と共に車で出迎えていた。


「アリス、卓ってことはあの子が!?中学生にしか見えないんだけど!?」

「初めましてになるか……こちらは卓君、あんたが昔試したコンピュータの開発者でもあり、携帯の開発者、そして今回の救出作戦に関しては雪の位置情報探知に協力してくれたお方です。確かに見た目は中学生っぽいすけどある意味天才科学者っすよ……まあ初めて会った時小学生ぐらいだったんすけどね」

「識人の卓と申します。誘拐事件と聞きまして、皆さんお疲れでしょう。車に毛布や水分食料がありますので少し休んでください」

「準備良いわね」

「もちろんです」

「というかさ!あたしここまで来るのに箒で一時間かかってんだけど!?なんで車で追いつけんの!?」

「あれ?アリスさんこれ知りません?自衛隊とか警察で使われているんですけど。研究の為にと何個かもらったものですが」


 そういうと一個の一メートルほどの金属製の棒を見せてきた。


「なにそれ?あたし知らない」

「簡単に言えば持ち運べる倉庫?って言えばいいですかね。こうやって伸ばしていくと拡張魔法で中が倉庫になってるんですよ。自衛隊もこれで車やら戦車やら物資やら運んでるんですって」


 そういうと卓は棒を伸ばし、その場に設置した。少しずつ拡張していくと一枚の大きな扉が出現する。そして扉を開けると先ほどまで車があったのだろう倉庫内が見えてくる。


「マジか」

「あら?アリス知らないの?自衛隊はこれが基本装備よ?確か空挺団もこれを使って人と一緒に車とかを降下させてるって聞いたわ」

「知らねえよ!あたしゃまだ自衛隊と訓練したことないもん!ていうかよ!本題聞いてないんだよ!卓さんは何でここに居るんだよ!」

「ああ、アリスさんが救出に向かった後、色々調べたんですけど意外なことが分かったので、お伝えしようかと……とりあえず少し休憩してからにしません?」

「良いでしょ?別に」

「そうね」

「良いんですか?少し高めのお菓子とか持ってきたんですけど」

「「食べる!!!」」

「やっぱり」


 いいお菓子と聞いては食べずにはいられない。満場一致で少し車の近くで少し休むことにした。



 誘拐されたことによって少し服が汚れていたのを何故か卓と橘さんはこんなこともあろうかというように着替えを持っていたので雪と九条君は車の中で着替えを行った……あたし誘拐されたのは雪だけだって言ったのに、何で九条君の服まで……なんで男性用の服まで用意してあるんですかね。


 そういうあたしは卓が用意したお菓子とジュースを嗜んでいた。確かに高そうなお菓子類が鎮座しているが……普段研究所に入り浸ってる卓がどこから手に入れているかは……うん、聞かないことにしよう。


「アリス」

「ん?」


 お菓子を食い終わったあたしが次のお菓子を物色していた時、雪が声を掛けながらお菓子に手を伸ばす。


「改めて言うわ、ありがとう」

「気にすんなって!いつも通りだ!雪さんは何かしらトラブルに巻き込まれるでしょ?そしてあたしやサチやコウが助ける!いつも通りじゃないか!」

「……そうね、なぜこうもまあトラブルに巻き込まれるのかしら」

「さあ?」


 強いて言えば主人公のあたしよりトラブルに巻き込まれる頻度高くないっすか?主人公ってよく事件やらトラブルに巻き込まれる体質とはよく言うもんだけども、なら今や雪の方が主人公に成ってらっしゃいません?主人公あたしですよ?


 まあ?この魔法の世界、何もないよりは楽しくていいんですけどね!それに他の人なら知ったこっちゃねえんだけども、雪にはぜひとも!あたしが思う、理想の国会議員になってもらいたいので!助けますよ!そりゃ!


「あの」

「おっと卓さん、聞かせてもらいましょうか!何でここまで来たのか!」

「あたしも気になるわ」

「少し調べたんですよ、現在警視庁で誘拐事件を捜査しているのかと」

「それ調べて素直に言ってくれんの?」

「まあ橘さんが元政府の職員でそのつてを頼りました」

「マジで!?橘さんて元官僚!?」


 あたしが橘さんに視線を向けると静かに頷く。


「元文科省……文部科学省出身です。ですが役職的にまだ官僚と言われる立場ではありませんよ。結果的に卓様の秘書に異動となりましたし」

「ああ、なるほど」


 ねえ、日本の警察がどこの所管か知らんけどさ、少なくとも文科省の所管ではないよね?なんでコネあんの?なんで文科省の役人さんが警察の上層部とコネ作れんの!?てかこの美貌で元公務員かよ……絶対当時噂になってますよね!?美女が文科省に入省!?とか……絶対上司とかにセクハラされたんだろうな……何で卓にぞっこんなんだ?


「それで調べた結果、雪さんが誘拐された件について捜査は愚か、認知すらしてない状況でした。ご家族に電話等しなったのでしょうか」

「一応したでしょうけど、電話に出たのが母なら内に雪なんて娘はいませんて切るはずよ」

「ねえ……母親に嫌われてんの?」

「まあ喧嘩はしてるわね」

「ええ……」


 喧嘩してるって言っても娘が誘拐されたら普通心配にならない?雪の母親って鬼畜なの?まあ国会議員になるには国民からの信頼よりもコネクションを優先する……いやそれしかないって思ってそうだしそれを途中から方向転換して真っ向から拒否している雪を最早娘とも思ってなさそうだけども。


「でもですがもし雪さんの件が警察に知れてもすぐに捜査は行われないでしょう」

「はあ!?あたし一応元首相の娘よ?一応父が起こした問題があるとは言え普通警察は動くでしょ!?」

「本来ならそうでしょうね。ですが今回はタイミングが悪かった……いや図ったようにもう一つ誘拐事件が起きてるんですよ」

「何さ、その誘拐事件に警視庁全体が動いて雪に回せる人員が無くなったとでも?」

「ええ」

「ちょっと!もう一度言うけど、あたしは元首相の娘!そんな人物よりも重要な……警視庁全体が動くような重要人物が居るの!?現職の首相の子供ならまだ分かるけど、桂総理には息子も娘もいないはずよ?」

「それは知りませんけど、唯一いるんですよ」

「……」


 ちょっと考えてみよう。雪は確かに元総理の娘だ。そんな人物とほぼ同時刻に誘拐されて雪よりも優先順位が高い人物なんて居るか?それに師匠が動いているというのが気になる。


 現職の総理の身内、現職の国会議員……の身内?駄目だ、どれも師匠が動く理由にはならない。それどころか鼻で笑って頑張れぐらいしか言わない気がする。


 そんな師匠がかなり焦った様子で警察に協力、もしくはまともに動いて解決に動き出すような人物……。しかも今回、師匠自ら動いたのでは無いと思うんだよね、今のあたしが誘拐されても多分三穂さんたちに任せるよ?絶対に誰かに頼まれて仕方なく動いている……師匠にそんなことを依頼できて実際に動かせる人物……あ、いるわ。


「あー……いるなあ……一人って言うか一族単位で」

「一族単位?一体誰よ」

「もしかして……誘拐されたの……皇族の誰か?」

「え?」

「正解です」


 皇族という言葉が出た瞬間、雪が青ざめて引きつった表情になった。


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