目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

同時誘拐事件 9

 確かに皇族が誘拐されたとなれば警視庁全体……いや西京付近の警察全体が動くレベルの大事件と言って良いな。それに確実に帝から師匠に対して事件解決の指示が出ているはずだ。なら動かないはずが無いし、あの時の会話内容からするとろくに情報が入ってきていないと見れる……焦るのは当然か。


 ていうか雪は何故に青ざめてんの?


「そこまで驚くこと?」

「だって!皇族が誘拐されたってことは……霞家が護衛を失敗したって意味よ!?責任は何処に行くと思うの!?」

「え?あー……ああ」


 そうか霞家は皇族守護。皇宮警察とは違い、生活全般から護衛を担当する役職だ。それなのに肝心の皇族が誘拐された……そりゃあ責任問題になるか……やばいな。


「でもどういう状況で誘拐されたか分からん以上、霞家の失敗とは言い切れないしなあ」


 昭和天皇だったか?上皇陛下だったか?今上天皇陛下だったか?過去に寮を抜け出して銀座に友人と行ったっていう銀ブラ事件もあるんだ。まああの事件は友人が予め守衛だか護衛の人にチクったって言ってたから今回とは違うか。今回はマジで行方不明だし。


「ていうか誘拐されたのは誰なん?」

「ええっと……ああ、菖蒲内親王と百合内親王ですね」

「あの二人か」

「面識があるんですか?」

「ちょっと前に皇居で少し話しただけだよ。……それで?師匠に電話した時は全く進展してなかった雰囲気だったけど今はどうなん?」

「変わりなく」

「まずいわね」

「……それおかしくない?」

「何がよ」

「普通さ、誘拐事件の目的って大抵身代金要求とか誰かに復讐したいからってのが多いじゃん?でも要求の電話が無いってことは要求が何もないってことじゃん?それはつまり二人自身に何か価値があるから拉致したってことになる」

「そりゃ二人とも皇族だし」

「皇族だから?でも二人に別に権力は無いよ?仮定の話だけど条件さえ合えば一時的に天皇になる可能性があるかもだけどそれを除いちゃ、基本的に結婚するまで皇族だけど権力とは程遠い存在だよ?言っちゃえば帝にすら現状権力は無いのよ?なのに二人を誘拐した……つまり皇族の二人だからこそ利用できる何かの為に誘拐したとしか思えんじゃん?」

「何かって何よ」

「分かるわけないじゃん、それが分かったら多分犯人も分かるわ」


 ここであたしは雪に嘘をついた。正直に言おう、犯人に目星がついてしまっているのだ。今までの経験上、犯人は確実にあの国会議員の指沼だ、だって名前に沼が付いてるもん。


 だけどここで言わないのはこれがあたしの経験に基づくただの勘であり、何一つ証拠が無いし、動機がないからだ。何で現在ある程度権力を持ってる国会議員がわざわざ皇族を誘拐する必要があるのかさっぱりなのだ、メリットが無さ過ぎる。


それに仮に指沼が犯人である場合、雪を同時に誘拐した理由が分からないのだ。


 ほぼ同時に誘拐されたということは実行犯……いや誘拐を指示したのは指沼ということになる。だが指沼に雪を誘拐する理由が思いつかないのだ。あたしが知ってる限り指沼は自政党の議員、つまり現在与党の国会議員だ。ならむしろ西宮総理のやらかしで無事に与党に返り咲けたのだから皮肉を含んだお礼を言うのが普通だと思う。


 ということは雪の誘拐事件は全く別の犯人で、二人の誘拐が偶然重なったと考えるのが普通だろうけど、今のあたしにはそうは思えない。シャーロックホームズ脳になったあたしにはどうしても指沼と誰かが示し合わせて同時に誘拐事件を起こしたようにしか見えないのだ。


目的は簡単だろう、同時に誘拐事件を起こすことで警察の捜索に必要なリソースを分けるためだ……まあ今回の事件、雪側が警察に捜査されていないのである意味犯人側にとっては誤算かもしれないけど。


「で、どうします?」

「というと?」

「これで雪さんを警察が捜査できない理由もある程度判明しました。後は……普通に帰ります?車があるので送りますよ?それともついでに助けに行きます?」

「次いでって」


 まあ確かにあたしが今回動いたのは雪が誘拐されたからだ。これはある意味ゲームで言うとメインミッションやってたら何故か関連して同じやり方で攻略できるサブミッション追加されたけどやる?的なノリだ。


 だがあたしにはすっかり解決したと思った事件が実はまだ繋がってました!という展開にそわそわした感情があるのも事実だ。ゲームクリアのつもりがまだ話は続いているよ!なんてゲーマーからしてみればここまで来たんならやってやろうじゃないの!という気持ちになってしまう。


 だがまあ……攻略しようにも問題があるのは事実なんだけども。


「でもなあ……場所分からんじゃん?警察でも把握できてないんだし、完全に個人軍のあたしらでどうやって居場所特定すんのって話でもあるしなあ」

「そうね今回みたいにお二人のどちらかが携帯を持っていてくれたら逆探知だったかしら?出来るかもだけど……あ、そもそも番号知らないわね」

「そうなんだよ……ん?……携帯?番号?」

「どうしたのよ」


 あたしは携帯を取り出すと……電話帳のある人物の項目までボタンを押す。幸いというべきか……むしろ……ある意味奇跡だな。あの時、何となく交換してよかった。


「あ、あー……知ってたわ、あたし」

「何を」

「菖蒲さんの番号」

「おっと……ある意味奇跡ですね」

「それな」

「ちょっと何で知ってるのよ!」

「さっき言ったでしょ、皇居で会ったって……その時にノリで交換した」

「あんたの電話帳凄いことになってるわね」

「ほんとね」

「どうします?一応機械は持ってきてるのでここからでも逆探知は可能ですよ?」

「まじで!?」


 卓は車の魔法で拡張された格納庫より研究所で見た探知機を披露した。


 ……最初からやる気満々だったじゃん。ていうか一つ聞きたい……警察さん、絶対に菖蒲さんが携帯持ってるの把握してるはずだよね?なんで逆探知しないの?技術的に不可能なの?


「あのさ……多分だけど警察は菖蒲内親王が携帯持ってるってぐらいは把握してるよね?なんで逆探知しようとしないんだろ」

「そうね、菖蒲内親王が携帯を持ってるのは宮内庁も把握してるはず、なら警察がしないのはおかしいわね」

「簡単ですよ、そもそも逆探知自体は警察は行いませんから出来ないんです」

「ん?どゆ意味?」

「これは旧日本でもあったんですが、そもそも逆探知自体は警察ではなく電話会社が行うんです。そしてそこから得た情報を警察に提供するのが逆探知の仕組みなんですけど、昔は守秘義務やらがあったのでいくら捜査上必要でも電話会社が拒否していたんですよ、まあ色々変わって出来るようになりましたけど……携帯でも同じです。因みに現状、携帯電話の逆探知用のシステム自体僕の手元にある物しかないのでもし電話会社から臨時で許可が下りても警察からしたら詰んでるって状況ですけどね」


 なるほど、警察からしたら電話会社はどう転んでも協力しないから逆探知の選択肢は最初から無いと……そしてもし仮に電話会社が協力できるようになっても逆探知できる手段は唯一ここに居る卓しか使えないから警察は結局アナログでしか捜査できないと……前回のゲームもそうだったけどさあ、卓いなかったら詰んでるじゃん!前回も今回も!この世界はあたしに活躍させる気ねえな!?


 ……ん?ちょっと待てよ?そもそも論、電話の逆探知自体……国家権力である警察ですらどんなに頭を下げても手に入らない情報をあたしは普通に手にしてる……あれ?


「……あのさあ、そうなると……卓が雪の位置情報解析した時点で……電話会社に訴えられるパターンだったのでは!?当たり前のように頼んでやってもらったけどもしかしてやばかったのでは!?」


 普通に考えて個人が他人の携帯の位置情報勝手に見れるとか個人情報保護のへったくりも無いですよね!?あたしやらかした!?卓に共犯付きます?こりゃあ……まずいっすよ。


「まあ固定電話ならそうだったかもしれませんね。でも今回は携帯電話ですし、逆探知のシステム自体まだ僕が作った試作品だけなのでまだ所有権もどう使うかも僕次第ということで……まあこれの有効性が認められたら電話会社も考えるんじゃないですか?旧日本みたいに」

「だと……いいんすけど」

「でもやるとなると今回はきついですね」

「今更!?何がきついのさ」

「雪さんの場合、予め携帯を隠し持っていたんでしょう?犯人も携帯を探すような事をしなかった……だからこそ逆探知の為に電話を掛けても見つからなかった……でも今度は皇族の誘拐です、ここまで警察と犯人の間でやり取りが無いところ見ると、普通の誘拐事件でもない……そうなると犯人はかなり用心深いはずです、自分の位置を知らせるような馬鹿な真似はしないはずでしょ?予め携帯を没収して壊している可能性もあり得ます」

「……そん時はそん時でしょ?まずは掛けてみる!電話に出たら第二段階!出なければ出そん時に考える!で良くない?」

「適当ね」

「そりゃあ現状他に手段はありませんので」


 もし電話が繋がって居場所特定出来たら警察はおろか、師匠や龍炎部隊を出し抜いた事になるしドヤ顔出来るし師匠に一つ貸が作れる……一石何鳥よこれ!まあもし無理でも、やりようはあるじゃろ?例えば……現在倉庫内で眠ってらっしゃる人たちに質問するとか。一度やってみたかったんだよね!尋問!ぜひとも肉体言語は使いたくないんだけどなあ!向こうさん次第かなあ!


「じゃあやってみますか……こちらは準備しますのでアリスさんはもし繋がった時の事に備えて会話内容でも考えてください」

「了解!」


 卓は逆探知の為に機械の準備、あたしはもし電話がつながった時の為に……またお菓子を物色し英気を養い始めた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?