ドーーーン!
爆発音が鳴り響く。だけどレイの正面に何かしらの異常は見られない。でも、レイの背後から黒い煙が立ち上っているのが見えたから、恐らく内部で爆発を起こして排気口から煙が出ているのかもしれない。
『システムに……異常を……感知……しました。再……再……再起動を』
レイが何かを言いながら少しずつ動きが固まっていく。よく見ると、頭部のカメラも変な動きを見せている、角度的にカメラを破壊できたようだ。
「やりましたね!アリスさん!」
「ええ……まあ」
正直、士郎さんの誉め言葉に返答できるほどの魔素も残っていない。体感、後一発撃てるかどうかだ。
「さて、私も……ん?」
士郎さんがレイから降りようとした時だった。隙間に差した刀が取れないようで必死に向きを変えたりしているが中々抜けないようだ。
「士郎さん?」
「ちょっと待ってくださいね!あれ?」
「刀ならまた買えるんじゃ?」
「いや、修復するのと買うのでは訳が……」
まあそうかもしれないっすけども!
ガガガガガガ。
士郎さんが必死に刀を抜こうと格闘している時だった。レイが少しずつ後ろに傾き始めたのだ……正確に言えば後ろに倒れ始めたのだ。考えてみれば、こういうロボット姿勢制御はセンサーを利用したCPUでの管理のはず、そして停止するときですら倒れないように姿勢を正して止まるのが普通。
でもAIを制御する機械が故障して、通常モードでの起動じゃないことと、明らかに緊急停止したことで姿勢制御がうまくできなかったのかもしれない。
「士郎さん!レイが倒れます!」
「問題ないですよ!仮に倒れても私は怪我しませんから」
まあ、今までの士郎さんを見て危ないとは思わないけどさ、一時的に刀から手を放しても良いのでは?
一応、レイの背後にはシャッターのようなものがある、恐らく外に搬出する用の通路か、エレベーター的なものがあるんだろう。
ガシャーン!
そしてレイが後ろのシャッターを突き抜け、完全に倒れた時だった……そのままレイは胸に士郎さんを乗せたまま……落ちていった、奈落の底に。
「え?……ん?……ええええええ!」
思考が一瞬停止した。
「マジか!?落ちた!?なんで!?」
落ちるなどという選択肢が無かったことと、レイに巻き込まれる形で士郎さんが落ちてしまった事実に少し戸惑いながら、シャッター付近に近づき下を見てみる。
下に電気のようなものはついておらず、士郎さんとレイの姿をん視認することは出来なかった。残念ながら発煙筒は持っていないし、箒を使っても魔素の問題で下に行くことは出来ない。
「……ま、まあ?士郎さんなら……平気でしょ!……多分」
今までだって一瞬、危険な場所に一人で行ってはけろっと戻ってきているし、今回だって問題ないはずだ……そうに違いない!
そう言い聞かせると、自分の仕事を終えたので今度は地下ではなく正面玄関から堂々と出ることにした。もう師匠が来ているはずだし、雪も先行して向かっているのだ。後は合流すればいい。
シャッターからこの部屋の出口に向かって少しふらつきながら歩き出した時だった。
ウィーン……ガシャン!ガシャン!ガシャン!
「……え?」
背後、まさに今しがたレイと士郎さんが落ちていった奈落の底から……何やら駆動音と、何かが壁を登る音が聞こえた。
「……士郎さん……な訳ないよなあ……わざわざあんな大きな音で登るはずないし……箒使えって話だし……じゃあ、もしかして……」
そういえば、レイが落ちる前に何か言っていた気がするなあ……『再起動します』だったかな?……ああ、もしかして倒したわけでなく……単に一旦再起動で偶々落ちただけとか?……あー、あははは!普通さあ!落ちた時に壊れるもんでしょ!壊れててくれよお!
少しずつアームか何かが壁を掴みながら登る音が大きくなってくる。あたしが顔を引きつらせながらゆっくりと振り返ると……ちょうどさっき見たレイのアームが……床のヘリを掴んだ。
「……はい、終わりましたー!」
完全……にとは言えないけど落ちた衝撃でところどころボロボロになったレイが壁をよじ登り終えた。
だが幸か不幸か、先ほど壊れたカメラはそのままのようであたしが目の前に居るのにも関わらず、必死に殲滅対象を探している。
さて、どうしようか。別に逃げても良いんだよね、もう魔素も残ってないし戦う意味が無いんだよね。静かに帰るか。
ガンガンガン!
「……ん?」
今度は頭上から音が聞こえる。何かが落ちた……というよりは、誰かが規則的に何かを叩いているような音だ。魔素切れでついに幻聴でも聞こえるようになったかな?
「……は?」
どうやら幻聴では無かったらしい。上を見上げると、そこには天井についた天窓から何故か三穂さんがガラスを叩いていたのだ。
ハンドサインで『少しどいてね』と送って来る。同時に何か天窓に貼り付けていた。あれは……爆弾……C4みたいなものだった。
あたしは静かにその場を離れて杖を上に向ける。そして訳十秒後。
バーン!
C4が炸裂すると割れたガラス片が周囲に降り注ぐ……念のために杖を向けといてよかった。
そしてすぐさま、ロープが天窓から吊るされると三穂さんを筆頭に龍炎部隊が次々に降下し始めた。
「アリスちゃーん!元気?……あれ?内親王は?」
「もうすでに救出済みです。雪……あ、西宮雪がすでに正面玄関に護送してます」
「おっけ!じゃあ……犯人は?」
「……そこの……ロボットの養分になりました」
「……どゆこと?」
まあ疑問に思うのも無理ないか。
「あのロボット、胸に魔素のコア?らしいものがありまして、空気中にある魔素とか、魔素を含んだ生物をエネルギーに出来るらしいです。主犯だった指沼議員は養分に、開発者の橋本は……ロボットに殺されました」
「なるほど?」
「アリスちゃーん!無事かーい!」
冴島さんに続くように天宮さんがロープを伝って降りてくる。
ウィーン!ガチャ!ポン!
だが、天宮さんの声に音声センサーが反応したのか、レイが右アームを向けると……小型ロケットを発射した。
「ファッ!?天宮さん!避けて!」
「へ?おわっ!」
自分に小型ミサイルが向かってくると認識するやすぐに降下する。
「ん?やっば!」
天宮さんの次に降下していた確か、神子田さんだっけ?が天宮さんの降下に合わせて降下するが、近づくロケットに直前に気づいたようで退避することが出来なかった。だがさすが龍炎部隊の隊員だ、すぐに杖を構えるとロケット直撃を回避する。
バーン!
「ぐあっ!」
だがロープでの降下途中だったこと、シールドで防いだとはいえ空中で踏ん張れなかったせいで神子田さんは後方に吹き飛んだ。だが、軽傷のようだ……やっぱり龍炎部隊おかしい。
「みこちゃん!平気?」
「……」
神子田さんは声で反応こそしなかったが、無事であることを手を振って示す。
だが皆は神子田さんが無事なことを確認すると、それ以上心配せずにレイに向かって銃を向けている。プロだ。
「さあて、ていうことは、後はこのロボットの対処ってことか……アリスちゃん、何か攻略に必要な……ていうか情報ある?」
「ええと……まず外部装甲には少量の魔素鉱石が含まれているので通常攻撃は知りませんが、魔法攻撃はある程度減衰します。そして恐らく弱点は今壊れかけている胸の装甲の内側にある魔素コアですね。さっき一回魔素ぶっ放しましたけど」
「けど……まだ辛うじて動いてるね」
「角度がギリギリだったので直接ぶつけられなかったせいかと」
「了解、全員に通達!敵の弱点は胸部装甲の内側!あたしが胸部装甲を狙う!動きを封じろ!」
「「「了解」」」
三穂さんの命令によって、全員が一斉に動き出す。冴島さんと天宮さんは両サイドからヘイトを稼ぐようにライフルを打ち込みだし、レイがその動きでどちらを優先的に攻撃するか迷っている間に三穂さんが胸部装甲前に移動する。そして流れるようにグレネードのピンを抜くと内部に投げ込んだ。
ドーン!
グレネードが爆発する。だがレイは少し体制を崩しただけですぐに攻撃体制に戻った。
「だあ!グレネードで無理なん!?魔法も物理も効かんとかチートでしょ!?」
おっしゃる通りです。
だけど、今のグレネードの爆発で先ほどよりも胸部装甲が開いた気がする。なら、もっと大きな爆発力がある何かであの隙間を狙えば……装甲を吹き飛ばせるんじゃない?
「……ん?」
周りを見渡したあたしの目に入ったのはフッ飛ばされて背中を少し痛めている神子田さんが持っていた……ロケットランチャーだ。形から推測するに……これはカールグスタフでは!?
これをあいつに撃てば!
あたしは神子田さんの下に近寄ると、神子田さんからカールグスタフを抜き取る。そして構えようとする。
「ぬおっ!おっも!これおっも!マジか!」
ゲームでRPGを使ったことがあるけど、やっぱり軽量化されていたらしい。かなり重くて構えるのがやっとだ。
「アリスちゃん!?何しようとしてんの!?」
「三穂さん!多分ですけど魔素コアは物理攻撃と魔法があまり効かないみたいです!でもあたしの魔素放出なら行けます!なので、これで魔素コアの蓋をフッ飛ばせば!」
「……なるほど、グレネード連発するよりはやりやすいか……でもアリスちゃん、それ撃った事あるの?」
「……無いっすね!」
「だろうね」
「だい……じょうぶです」
「神子田さん!?」
あたしの背後から神子田さんがゆっくりとカールグスタフに手を掛ける。
「すみません、今の状態じゃこれも撃てないですけど、補助は出来ます。アリスさんはトリガーを引くだけです。それぐらいできますよね?」
「……もちろん!」
「……おっけ!冴島ちゃん!桂君!アリスちゃんを全力で援護するよ!あいつをアリスちゃんに近づけさせるな!そしてなるべく胸部装甲を露出させろ!出来るな?」
「「「了解」」」
三穂さんの号令で速やかに冴島さんと天宮さんが射撃を開始する。レイは二人同時に攻撃することを学んだのか、両腕を広げて攻撃をしようとした。
好都合だ。じっくりと胸部装甲の隙間を狙う。
「……撃てます。いつでも」
「いえーす!あの今聞くことじゃないですけど」
「なんです?」
「カールグスタフって無反動ですよね?バックブラスト大丈夫かなって?」
「……後ろは壁です。まあ壁が吹き飛ぶだけですから問題無いかと」
大問題では?いいけども。
「三穂さん!準備オッケー!」
「……」
あたしの合図とともにレイとあたしの間に居た三穂さんが横に避ける。そしてちょうどレイは両腕を伸ばし、胸部装甲をさらけ出していた。
「撃っちゃえ!アリスちゃん!」
「……ファイア!」
バシュ!…………ドーン!
撃ったロケットは見事、胸部装甲の隙間に着弾した。とてつもない爆発音とともに、魔素コアを守っていた蓋が吹き飛ぶ。そして、魔素コアが露出した。
「アリスちゃん!今だ!」
さあ、本当の意味での最終フェーズだ。カールグスタフを放り投げると少し魔素が切れそうでだるくなっている体を起こすと、ランチャー直撃で一時的に膝まづいているレイに向かって一直線に走り出す。
「うおおおりゃあああ!」
レイの手前まで来たときだった。最後の力を振り絞るようにレイが立ち上がる。同時に故障していたカメラが一時的に直ったのか、カメラ部分に光が灯った。立ち上がったおかげで魔素コアの位置が少し高いが問題ない。
魔素を利用したジャンプをし、魔素コアに狙いを付ける。
カメラがあたしを捉えた。
「残念、あんたが最後に見るのは……この主人公の顔だ。良く拝んどきな」
最後まで残っていた魔素を使い切るように右手で魔素を放った。
ドーーーン!バー――ン!
ちゃんと魔素コアを打ち抜いたためか、先ほどよりも大きな爆発音と排気口からの爆発による炎が噴き出した。
そしてさっきならAIが何かしら言っていたけど、今度はそれすらなく駆動音が静かに止むと停止し、そして先ほどと同じようにバランスを崩すとレイはまた奈落の外に落ちていった。
「アリスちゃん大丈夫?」
「ええ、まあ。単純に魔素切れです」
「そっか……あと冴島ちゃんが言ってたけど下には誰いないってさ」
「そ、そうですか」
レイを完全に倒しきったあと、完全な魔素切れでへたり込んでいた。落ちていったは良いがちゃんと二度と起動しないことを冴島さんと天宮さんが確認しに行ったのだ。その際、落ちたまま戻ってこない士郎さんを見に行ってもらおうとお願いしたんだけど……いなかったか。
「どこかに避難したのかな」
「いや……冴島ちゃん曰く下には人が通れる穴みたいのは無かったって言ってたけど」
「……え?」
どういうこと?つまり士郎さんは落ちてない?でも確かに落ちたのを見た……となると落ちてから今に至るまでにあたしが気が付かない間に脱出した?……やっぱあの人忍者じゃん!
「アリスちゃん、あたしたちはもう撤収するけどどうする?」
「……ここに居ます。多分、師匠がこっちに来ると思うので」
「了解。じゃあ全員撤収!」
三穂さんの指示で全員がてきぱきと動き、約十分後にはこの空間に居るのはあたしだけとなった。やっぱ凄いな龍炎部隊。
「こっちです!」
遠くから雪の声が聞こえる。どうやら雪が師匠と警察を連れてきたようだ。多数の足音がこっちに向かってるのが分かる。
駄目だ、魔素切れでもう眠気がやばい。今日はもう頑張った……寝ても良いでしょ?
あたしは見知った人間だ近づいてくる事に少し安心感と達成感に包まれながら眠りについた。