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感染大陸 2

 西京からどれくらいの時間が経ったのだろうか、ていうか途中寝ていたため正確な時間は分からない。車が停止し、東條がサイドブレーキを引いたところを見ると到着したようだ。


「んんーーー!」


 どれほどの時間が経っていたのかは不明だが、車から降りると軽く伸びをしながら深呼吸をすると西京とは違う空気が肺に流れ込むのが分かり、ここが西京ではないことだけは分かった。


 第二日本の福島県は旧日本と同じように東北地方と呼ばれている。西京よりは東にあり、日本の中央部にそびえたつ富士山より北側に存在するためだ。因みに富士山より南側には京都が存在しておりそっち方面は東南地方と呼ばれている。


 福島の日本地図におけるおおよその位置こそ把握しているけど、福島……のどこに来たのかまでは分からない、車を降りた瞬間に広がる田園風景を見ると福島の中でも結構な田舎に来たことは分かった。夜のせいもあるけどどこを見ても森と畑しかない。


「ここ何処だよ」

「だから福島よ」

「福島のどこと聞いてるんだけど?」

「ああ、福島県伊達市梁川町よ」

「なるほど?」


 まあ聞いたところでさっぱり分からんのだけど。仮に旧日本で同じように言われたとて、ああ!あそこかと、脳内に地図が出てくるわけでもないが、まあスマホがあるから一発で調べられるんだけどね……スマホがあればね!


「で?目的地は何処ぞ?」

「ここから十分ぐらい歩いた場所ね。車で行けるのはここまで、ここからは歩きよ」

「なるほどね」


 そう言いながら一応準備を始めた。目的を最初に言ってくれればちゃんとした準備が出来るんだけどなあ。まあ今更文句を言っても仕方がない、いつ通りの装備で行くか。


 行方不明者捜索、戦闘は……無いと思いたい。東條の言う通り生きた人間が一番怖いとは言うけど、あたし的には幽霊の方が怖い、銃弾が通じないから。本当ならレッグホルスターとか持ってくるはずだけど残念ながらそれは無いのでいつものように銃のスライドを引き、チャンバーに弾が装填されていることを確認して腰のホルスターにしまう。


「じゃ、行きますか!」

「ええ、じゃあ東條君、お留守番よろしく」

「へいへい」


 東條が見守る中あたしと雪、サチとコウはすぐ近くの森の中に入って行った。なるほど東條が居るのは車を無人状態にしないためか、いくら田舎でもワンチャン路駐で切符を切られる可能性を考慮して東條を呼んだのね。



 歩くこと数分後、少し気になることを雪に聞いてみた。


「なあ、本当に今更何ですけど」

「なによ」

「あたしたちが今から向かう場所って心霊スポットなんよね?」

「そうよ……調べた限りね」

「……マジで出るの?」


 旧日本では心霊スポットで肝試しと言ってもよほど霊感が強い人間でもない限り俗に言う幽霊を視認できる人間はいないはず。肝試しの本来の目的は雰囲気を楽しむことのはずなのよ、まあたまに連れてきちゃう人居るけど。


 でもあたしは恥ずかしながらこの世界に来て一度も肝試し的な事をしてないからそっちの事情が分からないんだよね。


「少し調べただけだけど、噂によると……出るらしいって」

「その出るというのは……現象として何か起きる系?それともマジで何か見えちゃう系?あたしこの世界に来て一度もそういう所行った事無いからこの世界の基準が分からんのよ」

「ああ、そうだったの……場所によっては……普通の人でも見えるわよ?私も一度だけ見た事あるし」

「……え?」


 今なんて言った?霊感関係なく、普通の人でも見える?マジで?なんで?


「ああ、あたしも見た事ある!母さんと旧霞家本家跡地に行ったときに見たことある!」

「あたしも」

「ちょい待ち!旧霞家跡地?……とは?」

「あれ?アリス知らない?400年前から続いてる名家は皆元々京都出身だよ?昔まだ天皇陛下が京都に居た時代に仕事を補佐するために名家ってあったから。100年くらい前だっけ?天皇陛下が西京に移動してから名家も西京に移ってきたんだって。だから名家によっては京都に旧名家の屋敷の跡地があるんだよ」


 なるほど、確かにそれは合理的な理由だ。だが問題はそこじゃない。


「この世界だとマジで幽霊見えちゃうの!?なんで!?」

「さあ?まだ解明されてないわ。ただ唯一分かってるのは肉体を持たずに……魔素が人の形をしてるように見えて……死んだときの形で漂ってるのよ」


 状況が旧日本とは全然違うんですけど!単純に心霊スポットに行って人探しするだけと思ってましたけど!?これマジで出るんじゃん!しかも死んだときの状況で出る!?ワンチャンぐちゃぐちゃの状態でお出ましされるパターンでは!?


 てか雪、なんか言い淀んでるってことは……とんでもない死に方をした幽霊を見たってことですよね!?まあ死に方って普通選べる方が無理ですけども!やばいぞ!普通に人探しで何も考えずに来たけど……ワンチャンSAN値削られるパターンだぞこれ!


「後もう一つ」

「今度は何」

「まあ……こういう肝試しってさよくある話だけど」

「何?もし仏を見た時の対処?安心して考えてあるから」

「いや、そういう問題じゃなく……肝試しで行く心霊スポットってさ、大抵私有地じゃん?今回は大丈夫?っていう……」

「……」


 雪が視線を逸らした。


「おい」

「しょうがないじゃない!頼まれたんだもの!」

「普通不法侵入になるから警察に頼むんでは!?名家としてのコネで事前に許可とかは!?」

「警察が動かないからこうやってわざわざ来たんでしょうが!動いてくれないから自分たちで行く!それがご不満!?それにあたしと現当主の母様との仲知ってるでしょ!?許可を取り付けてくれると思う!?」

「後で何かあって不法侵入でお縄になっても知らんぞ!?何か?名家ならもみ消してくれるんか?雪さんでもそういうことしちゃうんですか!いやですよ?神報者付が私有地侵入で逮捕とか師匠に笑われるわ!」

「なら神報者が許可でも取り付けてくれるっていうの!?」

「……」


 それは……うん、無いな。国家を揺るがす一大事とか、前回みたく皇族が誘拐で私有地に監禁ならワンチャンだけど、一般大学の学生数人の為に警察に許可を出させるとは思えん。『めんどくさい』の一言で終わるわ。


 霞家が福島県警に……いやあくまで霞家は父親が皇宮警察の護衛部部長だってだけで、そこから都道府県警察の署長に行くのは……いくら娘の頼みでも無理か。帝に頼む……もっと無理だ。


「とにかく、今の私たちは名家と言うより一大学生として捜索しに来ただけ、現状名家の助けは得られないと思っておいて」

「……マジかよ」

「あのお二人さん」

「「なに」」

「……着いたみたいだよ?」


 サチが指を指す。雪とほぼ同時にその方角を見ると、確かに……何か凄い……和風建築の一軒家がそこに現れた。……心の準備が整う前についちゃった。


 そこに現れたのは、ぎりぎり……というかほぼ意味を成していない多分かつては立派であっただろう門構えとその奥にはあたしの知識では時代特定が不可能な立派な……木造の一軒家だった。


 いや、これは一軒家というよりは大きな屋敷だ。正面からだから詳細な広さは分からないけど普通に現霞家の本邸ぐらいの広さはあるんじゃないか?ここに住んでいた人はさぞ有力な権力者だったに違いないと思わされるレベルの立派な屋敷だった。……なんでこんな森の奥深くにあるのかは知らないけど。


「……いきなり現れたわね」

「ここで合ってるん?」

「調べた限りここ以外に建物は無いはずよ。ここで間違いないわ」


 ていうことは、今からここに入ると……こんな広そうな屋敷の中に?見つかります?むしろ迷って我らが遭難するっていう展開になりません?そもそも、マジで出るんですか?しかも屋敷の大きさ的にゲームの零みたいな展開になりません?あたし、射影機なんぞ持っておりませんよ?


「じゃ行くわよ」

「おっけ!」

「……うん」

「マジで!?」

「何ビビってるのよ。今更」

「いやあのね?あんたらは幽霊を見慣れているかもしれんせんけども!旧日本出身は霊感が無いかぎり幽霊を見るなんて経験そうそうないんですよ!ていうか雪はともかくサチとコウは普通なんですか!」

「だって、幽霊って言っても別に襲ってきたりしないし」

「へ?……なんで?」

「母さんが昔言ってたけど、幽霊とあたしたちってお互い見えてはいるけど生きてる世界が違うから干渉できないんだって。そもそも幽霊が現れるのは特定の場所の普通とは違う魔素が集まりやすい場所に出現するけど、その幽霊が干渉できるのは同じく特殊な魔素が感知できる……アリスの言う霊感がある人だけだから。基本的に怖がる必要は無いって」

「……ほんとに?」

「ほんとに」


 もしそうならあたしの知ってる限りこの世界に存在する魔素は普通の魔素、聖霊魔素、闇の魔素と神代魔素だけだ、そのどれかを体内に有してる人間に引き寄せられるってことになりますね。


 あたしが持ってるのは普通の魔素と聖霊魔素だけ……なら大丈夫か?聖霊魔素が引っかかったら詰みだけども。


「なら……大丈夫……か?」

「大丈夫だよ!いこっ!」


 サチがまるで早く行きたいというように手を引いてくる。あなたこんな性格でしたっけ?ただ単純なイベントと何かだと思ってらっしゃる?それともすでに何かに憑かれてる?


 ……まあここまで来て外で待ってるだけというのは忍びない。あたしも最低限の役割を果たそうじゃないか。


 とりあえず、物理が通じる、生きた人間対策として銃と杖を取り出すと構える。


「じゃあ行くわよ」


 雪が全員の準備が整うのを確認すると、玄関の引き戸を開けた。


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