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感染大陸 14

「……だから……だから!何で夜なんだよおおお!」


 一週間後の福島県、梁川町にてあたしは叫んだ。……時刻は夜十一時である。


「うるせえよ、しょうがないだろ?俺の仕事の関係と今回の任務の関係だ」


 今回、あたしの横に居るのは雪ではなく師匠だ。だが訪れた場所は、前回行方不明者捜索に来た例の心霊スポットである。


 だけど今回この場所に来た理由は行方不明者捜索ではない。……というかその程度で師匠が動くはずがない、とある報告により闇の魔法使いがこの心霊スポットに居る可能性が浮上したため師匠とあたしはこの場所に来たのだ。


 その報告とは……相も変わらずこの心霊スポットに若い肝試し集団が訪れ、偶々警らしていた警察に保護されたのだが、その時に証言した内容だった。


『中で黒い幽霊を見た』


 さて、この世界の幽霊に関してもう一度、この世界の見える幽霊は基本魔素が集まることにより視認できるようになっている、逆に魔素が無ければ幽霊を視認できる状態にならないということだ。


 ということは、黒い幽霊の時点で普通の魔素で見える幽霊では無いということになる。あたしがステアで学んだのは、闇の魔素はこの世界で至る所で魔石として生成されるものだがこの魔石は人間や生物ににしか干渉できないという性質を持っている。


 となると、この闇の魔素の発生源は自然発生というわけでは無く、完全に闇の魔素を生成できる闇の獣人、魔獣、もしくは闇の魔法使いの出現によるものだということが断定できるのである。


 恐らく、闇の幽霊という目撃証言を聞いた現地の警察官が署に報告、闇の生物が出現した可能性を考慮して、県警に報告、そのまま警察庁に報告、そこから色々情報が回りに回って師匠と防衛省に届いたのだろう。


 師匠曰く、最近の闇の獣人出現には少なからず闇の魔法使いが出現するという情報が出回り始めているらしく、二年前の順先輩の一件から闇の獣人関係で第一空挺団が出撃する場合、闇の魔法使いが居ないことが確認できない場合、師匠が一緒に討伐に同行するようになったらしい。


 だが今回の場合、まだ許可が取れていない私有地であること、中にある家の大きさ的にそこまで大きな闇の獣人はいないだろう……なら師匠一人で良いんじゃね?ということで師匠が来たのである。


 そしてあたしは前回ここに来たので道案内も含めて一緒に来たのである。


「やあ!……また会いましたね……神報者付だったんですね」


 そう言ってあたしに軽い敬礼をしたのは雪と来た際、職質をしてきて雪の行方不明者捜索に一役買ってくれた駐在所の警察官だ。


「まああの時はただの友人の一人として同行していただけですし、自己紹介もしてませんから」

「あの時言ってくれればもっと協力できましたのに」


 師匠がいるからか、それともあたしを神報者付と知ったからかこの人は何故か敬語を使っている。


 あたしはこういう相手の身分で口調を変える人が嫌いだ。自衛隊と同じ階級社会の警察官ゆえに仕方がないのかもしれないけど、相手の身分で口調を変える人をあたしはあまり信用しない。旧日本では能力関係なく年齢やコネクションで上の立場になれる人が多くいる、この日本でも少なくないだろう。


 相手の立場で口調を変えるということは相手の能力や才能を把握してないと言えるからだ。


「それで?あなたは何故ここに?」

「はい、闇の獣人及び魔法使いとのことですので、警察では装備的にも法的にも対処不可能です。今回お二人が対処なさるそうなので、我々警察はお二人が任務を遂行するまでここら一帯を封鎖し、民間人を入れないことが主な任務です。署からも応援の警官が何名か来ています」

「なるほど」

「そういうわけだ、アリス行くぞ」

「ういっす」


 今回あたしはちゃんと戦闘用にレッグホルスターに銃を入れてきている。ね?雪さんや事前に行ってくれればちゃんと戦闘用の装備に出来るんだよ?銃を抜く速度が違うんだよ?持っていく銃弾の数が違うんだよ?良い事づくめじゃない!


 あたしは銃を抜くと、銃弾を装填、ハンドガンのレールに付けたライトを点灯。警察官が敬礼し見送る中、あたしと師匠は森の中に入って行った。



 森に入って銃分程度経過後、あたしは師匠に尋ねた。


「あのさあ……マジで二人でやるの?つーか何でこの時間なのよ」

「あの場だからあんなことを言ったが、二人なわけないだろ?お前の情報が正しければ屋敷は結構広いんだ、もちろん三穂たちも呼んでいるよ。あいつらは非公式で非合法な存在だ、防衛省が承知してる作戦に防衛省が知らない部隊が突入するんだ、真昼間からやらせるわけないだろ……まあ、林と衣笠以外は本当に俺とお前二人でやると思ってるだろうが」

「ああ、そう言うことか」

「それに俺は刀だが、お前は格闘とは言え銃も使うんだ、隠密の為にも夜にやったほうがいいだろ?」

「なるほどね」


 だがあたしが前回行ったときは、一番広い広間?みたいな所で幽霊しばいただけで、後は全速力で逃げ帰っただけよ?時間にして十分程度しかいなかったはずなのよ?案内できるほどの経験があるとでも?……まあ来てしまった手前、言っても意味ないけど。


 と、ここであたしはちょうど梁川町に来たのだ。師匠に聞いてみたかった事を聞くことにした。


「ねえ師匠、あたしがインフルでダウンしてた時さ、言ってたじゃん?一番下の息子が福島に避難したって……あれどこの町?」

「ん?……ああ、妻の故郷の事か?……確か、梁川町だな。……偶然にもこの町と同じ名前だな」


 ほほう?この福島県に梁川町が二つあると?んなことあるわけないじゃろがい!


「ねえ、考えた事ないの?亡くなった息子に実は子供がいたかもしれない……とか」

「言ったろ?あの時は、そんな余裕はなかったんだよ。帝のお陰で立ち直れたが、その後も仕事で思い出さないようにしてたからな、それに龍之介が死んだという早馬が届いたのは息子を見送って約一か月後だ、ありえないだろ」

「そうかねえ……」


 調べようともしなかったと……まあ帝が思いださせないように仕事をさせてたのなら人を送って調べるっていう頭も無かったのか。


 一か月……エロゲーなら一か月もあれば一人ぐらい仕込めるんじゃね?まあ……後は魂子さんの検査結果次第だ、証拠がない限りこれはただのあたしの仮説でしかないのだから。


 歩くこと数分後、あたしは不意に七時の方角より人の気配を感じた。


「あーりーすちゃー……うおっ!」


 あたしは何も言わずに即座に銃を構える。銃のライトに照らされたのは……天宮さんだった。……何してんねん。


「まった!さすがにこの距離でアリスちゃんの正確な射撃は無理!ストップ!」

「……撃つわけないでしょ、弾の無駄です」

「まったく、いきなり合流場所から移動したと思ったら……」

「へへ、すんません。龍さんにしようとかなと思ったんですけど、近かったのはアリスちゃんだったから」

「もし俺だったら刀で斬ってたよ」

「……もしかして俺、運が良かった?」

「こんな所で運を使うな」

「アリスちゃん、任務内容は聞いてるよね?」

「もちろんですけど……あたし前回だって十分程度しか滞在してなかったし、屋敷内をよく知ってるわけでは無いですよ?」

「大丈夫だよ、龍さんから聞いたけど、アリスちゃんは格闘で闇の人形を倒した経験があるんでしょ?今回必要なのはその経験だから、あたしたちの存在を知っていて戦闘が出来る存在として今回アリスちゃんが呼ばれたんだから」

「ああ、なるほど」


 となると、あたしの屋敷内の地図は意味ないと……まあ戦いの方が気兼ねしなくていいから楽ではあるか。……そもそも覚えてない。


「じゃ、全員そろったから行きますか!」


 全員が揃い、改めて全員が持っている武器の確認を済ませたのを確認すると三穂さんを先頭にあたしたちは屋敷に向かった。



 歩くこと、数分後、数週間ぶりに見慣れたものが目の前に現れた。朽ち果てた門構えだ。そしてその奥に屋敷の玄関が確認できる。


「おおお……確かにこれは心霊スポットになるだけあるね、雰囲気だけは凄いわ。カップルで行ったら仲が深まるねえ」

「中はもっとすごいですよ……色んな意味で」

「ねえ、アリスちゃん。確かに門構えは朽ちてたけど、屋敷自体は結構綺麗じゃない?定期的に誰かが掃除やら補修やらしてる感じがあるんだけど」


 さすが三穂さんだ。あたしが中に入った時に気づいた疑問点を屋敷を見ただけで気づいた。本当にそうなんだよねえ。


「一応この屋敷……ていうかこの土地?は持ち主がいるらしいですよ?その人が定期的にやってるんじゃないですか?」

「いくら土地を持ってる人でも使ってない建物をメンテナンスするなんて時間的にもお金的にも無駄じゃない?でもこの建物は明らかに使われている形跡がないのにちゃんと掃除がされてる……ある意味不気味だよ」


 そこなんですよねえ……使ってる形跡がない建物を何故綺麗にするのか……マジで分からん。


「ま、考えてもしょうがない!今回の任務にそこを考える必要は無いからちゃっちゃと済ませよう!」

「じゃあとりあえずあたしが先に行きますね」


 そう言うとあたしは銃を構え、玄関の隣に陣取った。三穂さんがあたしが侵入できるように引き戸に手を掛ける。さすが特殊部隊の隊長だ。


 三穂さんが目で合図を送って来たので、頷く。


 ガラっ。


 三穂さんが引き戸を開けると同時に、進行方向にライトを照らしながら侵入しようとした……その時だった。


 あたしの体にこれまでとは違う……違和感のようなものが体を襲った。


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