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感染大陸 17

「なあ!アリス!」

「何すか」

「これは……観光なのか?俺は何のために居るんだ?」


 あたしと師匠は伊達市のホテルに一泊し、翌日の昼、明るくなった梁川町の観光に来ていた。……まあ本当の目的は観光ではないんだけども。


「言ったじゃん、ずっと夜しか来た事なかったんだって!一回で良いから明るい梁川町を歩いてみたかったんだよ!」

「だとして俺が必要なのか?」

「……曲がりなりにも亡くなった奥さんの故郷でしょ?つまり何度かこの町に来てる訳じゃん?だったら軽い案内とかできるでしょ?」

「あのなあ……俺がこの町……いや村に来たのが何百年前だと思ってるんだ?町の風景も何もかもが変わってるんだぞ?俺に案内が出来ると思ってるのか?」

「でも観光名所あるんでね?旧日本の福島県なら伊達政宗の出生地で……お城とか城跡とかあるじゃん?師匠はこの世界で四百年も生きてるってことは当時の事を思い出しながら解説とかできんじゃないの?生きた解説員!」

「じゃあ聞くが、この辺の観光名所をある程度把握して俺を連れてきたってことだよな?」

「ん?……おっとどういう意味だ?」

「観光名所を教えてくれってことじゃなく、今ある観光名所を活発だった当時の事を教えてくれってことなら俺を連れてくるのは分かる。何回か来たこともあるからな当時の雰囲気ぐらいなら俺でも言える。だが逆に過去数回しか来た事しかない場所の観光名所を教えろは無理だ、お前はどっちだ?」

「……えっと……」


 そんなの調べてるわけないじゃろがい!今回の観光は単純な時間稼ぎぞ?……時間稼ぎでも多少は下調べするべきだったか?


「ていうかよ」

「へい」

「普通観光に来るって場合は、予めある程度観光名所について調べるのが普通じゃないのか?」


 おっしゃる通りです。


「何か別の目的でもあるのか?」

「それは……秘密?」

「……ったく、まあ今日一日は予定を開けてある。お前が適当に歩いて興味を示した所は俺が解説してやる……まあ出来るところ所だけだがな」

「……うす」


 プルルル!


 その時、あたしの携帯が鳴った。確認するとそれは魂子さんからのメッセージだ。内容は一言だけ。


『準備が整った』


「……おっけ。師匠!場所を変えるよ!」

「……ん?ああ」



 あたしがやってきたのは梁川町の町役場だ。


「……アリス、なんでここなんだ?ここは最近も最近出来た場所だろ?だったらここ付近に住んでる年寄りとかに頼めば俺よりもちゃんとした説明が出来るだろ?」

「いやあ……ここに来たのは違う理由なんよ」

「はあ?」

「やあ二人とも」


 疑問符を浮かべている師匠とそれを眺めているあたしに声を掛けたのは魂子さんだ。


「魂子か……何用だ?もうこの付近の感染症は沈静化してんだろ?」

「それはあくまでアリス君の万能血清による一時的な沈静化だよ。治療薬作成にはこの感染症の原点であるここである程度原因を究明しなければならないからね。だからまだ私の仕事は終わっていない……まあ今回来た理由は違うが」

「違う?じゃあ何故ここに居る」

「龍、アリス君から聞いたんだが、約……三百年ほど前だったかな?君の子息がこの地に来ていたんだろ?そしてこの地にて死んだ……それは合ってるかい?」

「……ああ」


 師匠は一度だけあたしを睨んだ。いやあ……別に秘密することでもないじゃろ?あんたが自分から言う人間じゃなかっただけで。


「そして私がある程度調べたところ、この梁川町にはとある伝説……いや言い伝えと言った方が良いか……それが残ってるんだがね?その内容と君がアリス君に言った子息の話がどうも似ているんだよ」

「似ている?というと?」

「君の子息はこの地で盗賊?野盗?まあ良いが、村を襲った集団に立ち向かって死んだ……ここまでは合ってるね?」

「そうだ」

「だがここの言い伝えによるとだね、そのご子息には……妻が居たらしいんだよ」

「……なに?妻?」

「そうだ、しかも子息の死後、その妻は妊娠したらしくてね、無事子供を産んだらしいんだ」

「……それで?」

「そしてその生れた……君にとっての孫は、大人になり妻を娶りまた子供を産んだ……そして現在も子息の血を受け継いだ子孫が生きているとね」

「……ありえない!」


 師匠が声を荒げる。


「何故あり得ないと?」

「龍之介が死んだという早馬が来たのは……一か月半ぐらい経ってからだ。それに龍之介はあの時十五にもなってない子供だぞ?妻が居てお腹には子供が居た?ありえないだろ?」

「確かに現代の法律的にも価値観的にもあり得ないことだろうが、当時的には十分あり得る話だろ?当時の成人年齢も確かその辺じゃなかったか?妻の年齢にもよるが精通できてさえいれば性行為による妊娠は十分あり得ることだよ」

「……」


 本来下品かもしれない話なのに、医療従事者が言うと何故か下品に聞こえない……すごいな。というか、一か月か……エロゲーの主人公なら十分ヒロインの一人ぐらい妊娠させられるんじゃないかしら?……惚れさせるという工程なくせば。


「確か当時君が暮らしていたのは京都だったか?そこから福島まで子息の年齢と歩く速さを考えると……三、四日……掛かっても一週間、早馬の速度までは知らないが二日あれば十分だと考えると……約一か月……妻の体調や周期にもよるが妊娠するには十分すぎる」

「だとしてもだ、本当にその子供の子孫が現代まで続いているとして、今の子供が龍之介の血を継いでいる証明にならないだろ?もしかしたら他の男との子供かもしれない」

「そうだね……普通はそう考えるのが普通だ。だが今回、卓が作った機械によってその証明が出来るようになったんだよ……まったく現代科学には感謝だね」

「新しい機械?」

「そうだ……旧日本では殺人が起きた現場での犯人特定にも一役買ったりすることもある……遺伝子検査というやつだね」

「遺伝子……検査?」

「人間には……いや生物には遺伝子という……その人物を細胞で構成するために必要な設計図があるんだよ。そしてその設計図がピッタリ一致する人物が居ることは99パーセントあり得ない……まあクローン技術とかパラレルワールドの話になれば違うとは思うけどね」

「……話は良く分からんが……何が言いたい」

「いいかい?本来、息子というのは母親と父親から半分ずつ遺伝子を……設計図を受け継ぐと言われている。まあそれがどう表面化するかは生まれてからでないと分からないがね。だが……」

「だが?」

「何十年、何百年経とうが、受け継がれた設計図は必ず一部が受け継がれるんだ。遺伝子の一部でも一致しないってことは一切の血縁が無い。逆に言えば……例えばの話だが、何一つ共通点が無いと思われる二つの家族が居ても、遺伝子の一部が一致しているのなら祖先が同じ可能性があるんだよ」

「なるほど……それで?」

「つまりだ、もし君の遺伝子と現代まで生きている子供の遺伝子の一部が一致した場合、どういう意味だと思う?」

「……龍之介とその妻の……息子?」

「そうなるね……残念ながら君の亡くなった子息は骨しか残っていなくてね、現状の技術では遺伝子が取り出せないから無理だった、なので今回の検査は君の血液とその子孫の血液による検査だ、先日血液採取したろ?」

「ああ、いつも通りの検査だと」

「いつも通りの検査と別にその子との遺伝子検査をやったんだよ……その結果」

「その結果」

「……きたまえ」


 魂子さんがそう言うと、役場の中から一組の夫婦と小学生?ぐらいの男の子が出てきた。端から見れば普通の家族にしか見えないが……魂子さんの話やこの町の言い伝えが頭にあるからか、かなり失礼な表現になってしまうけど……似てないように見えた。


「魂子……まさか」

「そうだ……言い伝えにはその子供は呪われているらしくてね、子供を産むとその後に必ず夫婦は亡くなるらしいんだよ。だから常に子供は一人、そして子孫は必ずこの町の家族に引き取られるらしい……この子は両親を早くに亡くしこの夫婦に引き取られ、君の遺伝子と一部が一致した……君の子孫だ」


 師匠の表情が……変わった。


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