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感染大陸 19

 師匠はその後、親の顔となり龍弥君と遊んでいたりしたが、町長が今まで管理していた幽霊屋敷の土地と建物に関する贈与関係で役所の人間が来たのでそれの手続きについて話していた。


 あたしはというと、ちょっと見てみたいものがあったので町長さんに相談をして、その場所に案内してもらった。


「こちらが龍之介さんのお墓になります」


 そう、この町……いや当時は村だったこの地を守った龍之介さんのお墓である。戦乱だったら遺体が残っているのか怪しいが、一時的な襲撃での死亡ならワンチャン遺体が残ってお墓なりが残っているのではないかと思ったのだ。


 そしてそのお墓は、なんと村の役場のすぐ近くにあった。恐らく龍之介さんのお墓の近くに後から役場を作ったのだろう。


「私は龍様と話すことがあるので失礼します」


 そう言うと町長さんは来た道を帰って行った。


 お墓は現代の一般的なお墓とは違い、所謂観光スポット的な場所にある偉人のお墓並みに立派なサイズのお墓だった。そこにはちゃんと『龍之介之墓』と掘ってあり、看板には『梁川町を救った英雄の墓』と書いてあった。


 だけど、その龍之介が神報者の息子だったという記述がない所を見ると、当時の村長は本当に龍之介さんを偶々この村に来て居候し、偶々この村を救った人にしたらしい。


 ガサっ!


「……ん?……っ!?」


 ちょっとだけ墓を見て手を合わせるだけのつまりだったあたしの背後に何故か物音を聞いたあたしは背後に気配がない事に疑問を浮かべつつ、振り返ったんだけど……驚いた。そこに居たのはあの家に行ってから何度か助けてくれた……幽霊……いや、龍之介さんだったからだ。


「……龍之介さんですよね?」

「……」


 コク


 さすがに喋れはしないのだろう、肯定の意味で静かに頷いた。


「あの……勝手に持ってきちゃったんですけど……この写真、龍之介さんには見えないんですけど……もしかして?」


 そう言ってあたしが龍之介さんに見せたのはいつぞや、あの屋敷に入ったさい、見つけた写真立ての写真だ。後でちゃんと戻すが、この町で調べれば何かしら分かると思って持ってきたのだ。


 コク。


 龍之介さんが頷いたってことは……この写真に写っているのは息子さんの龍太郎さんだろう。龍之介さんは龍太郎さんが生まれる前に死んでるからこの父親の方が龍太郎さん、移っている子供さんは龍之介さんにとっての孫か。


 それを知ってるってことは、死んで魂だけとなってもあの家で家族を見守ってたってことか……家族思いなこって。


「……え?」


 そんなことを考えていると、龍之介さんはゆっくりと石を掴み、地面に何かを書き始めた。……幽霊って物理干渉できんすか!?人間には干渉できないけど、それ以外には干渉できるとか?……分からん。


『父は私が恨んでいると思っているでしょうが、私は父を恨んではいません。むしろ申し訳なく思っています』

「……申し訳なく?なんで?」

『父上は言っていました。刀は自分を守るためではなく、主君を守るためにある。だが、お前はまだ未熟だ、まずは自分と大切な人、その二つを守れるようになりなさい。でも僕はそれを守らず、村を守ろうとして死にました。まだ未熟だったのです』

「……」


 まあ気持ちは分かるよ。あたしだってこの世界に来た当初は転生した主人公は無双して勇者になれるとか何だか思ってましたからね!まあ今はちゃんと自分と他の人を助けられるようになりましたけど。


『そして今日に至るまで私には心残りがありました』

「……?」

『いつか……自分の息子……いや孫を父上に見せ、父上に自分も守るべき家族が出来たと見せたかった……その前に死んでしまいましたが。でも今日やっと、父上に私がこの村を助ける助力が出来た事、僕の唯一の忘れ形見である龍太郎の子孫である龍弥を父上に合わせることが出来た……アリス様、本当にありがとうございます』

「あたし……何かしたっけ?」

『……』


 龍之介さんは少しだけ笑ったような表情を見せた。この世界で見たどの幽霊よりも表情が豊かだなあ……もしかしたらあの屋敷の幽霊だけが特殊で、本来の幽霊はこうなのかもしれないけど。


 立ち上がると、元来た道に視線を向ける。元々はお墓参りをするだけの予定だ、幽霊と会話する予定はなかったし、もうそろそろ西京に帰る時間だ。


「じゃあ、行きますね。……また来ます」


 そう言って、来た道を歩き出した時だった。


「アリスさん」

「……っ!?」


 背後から……声が聞こえた。びっくりして振り返ると、微笑みながら立っている龍之介さんしかいない。……今の龍之介さんの声?何処か……師匠と似ていた。一言だけこっちの次元に干渉できた?それともあたしの幻聴?……分からん。


『……』


 龍之介さんはあたしに向けて、何かを喋ろうとした。だけど、その声は聞こえなかった。でも、読唇術が出来るわけでは無いけど、何となく……喋っている内容は分かった。


『……父をこれからもよろしくお願いします』

「……ふふ、龍之介さん。言っておくけどさ、師匠って不老不死ですよ?あたしが何かしなくても師匠が死ぬようなことは無いっす。……でも、弟子と師匠って昔から師匠の世話は弟子がするものっていうか……まああたしなりの世話は今後もしますから、安心してください」


 そう言うと龍之介さんは静かにほほ笑みながら頷いた。


 あたしはそれを見ると意気揚々と帰り道を歩き出すが、すぐに止まる。


「あ!龍之介さん!最後に一つ聞きたいことが!全然関係ないんですけど!奥さんってなんていう……名前……あー」


 師匠は生きてるからいつでも聞けるけど、龍之介さんは幽霊である以上、成仏するという可能性があるのでいつ聞けるかは分からない。だから奥さんの名前とかちょっと聞きたかったんだけど……遅かった。


「……くそっ!なんでいつもこうなるの!」



「おや!アリス君、何処に行っていたんだい?……何かあったのか?」

「龍之介さんのお墓に行っていました。……ちょっと聞き逃したことがあったので不完全燃焼状態です気にせんでください」

「そうか」

「それで?師匠は?」

「ああ、役所の人間との話はある程度進んで、後は西京で進めるようでね、今は龍弥君と遊んでいるよ」

「へー……わー、あんな師匠見た事ねエ」


 師匠は今まで見た事ない父親の……いや親戚のおじさんみたいな表情で龍弥君と遊んでいた。やばい、この世界に来て数年経つけどあんな師匠見た事ないから気持ち悪い。


「そうだね、私も何度も龍と仕事したり話したりしたがあんな龍は初めてだ。偶然というべきか……運命というべきか、君たちは恐ろしいよ」

「……魂子さん、その君たちの中にあたし入ってます?」

「もちろんだ、そもそも今回の一件、君がインフルエンザになったからこそ龍から家族の話を聞きだしたのだろう?それが回りまわって福島のこの町の話と一致したから私も調べる気になった……結果、龍とあの子が出会うことに繋がった……これを運命と呼ばずに何と呼べばいい?」

「さあ?」

「それに龍も龍だ。もし龍之介君をあの時、自分の所に置いておいたら子供が生まれていなかったかもしれない。結果的に亡くなってしまったが、龍之介君は最後に自分の子孫を残すという生物にとっての最終目的を果たし自分の血を残したんだ。龍の当時の選択を正しかった間違いだったなどこの場では言えんが、唯一言えることは龍の子孫が生き残って長い時が経ちこうやって出会った……私はこれを運命と呼びたいね」

「はぁ……」

「それに私は個人的に君にも興味を持ってるよ」

「何でですか?」

「コロナの件では君が居ないとこの福島がどうなっていたか……恐らく被害は甚大なことになっていたよ。それを君の細胞一つでここまでの被害に抑えたんだ、君のユニークによるものなのか、それとも旧日本から受け継いだものなのか……調べようもないが研究者だったら誰だって興味をそそられる研究対象さ」


 やめてね?人体実験とかいやよ?


「それに……もう一つ、君たちには秘密があるようだしね」

「何か言いました?」

「いや、ひとりごとだ」

「アリス、帰るぞ」

「へ?あ、うっす」


 時計を確認すると、確かにもうそろそろ帰る時間だ。別に遅くなっても師匠は構わないかもしれないけどあたしは疲れる。箒を取り出すと、跨った。


 師匠とあたしは見送ってくれた人々に一礼すると、舞い上がり西京に向けて飛び始めた。


 帰宅の最中、あたしは師匠から今後のあの家と土地、そして龍弥君についてある程度決まった事を聞いた。


 まず土地と家は書類が整い次第、すぐにでも師匠に贈与されるらしい。そもそも歴代町長があの遺言に従い、ある程度管理はしていたけど幽霊騒ぎやらが起きまくってまとも人が住める状態じゃないことからどの町長も手放したかったらしい。


 てことは、普通に考えれば師匠が手にしたとしてもその状態は変わらんのでは?と思うのが普通だけど、何故か師匠はこの屋敷に起こる異常に心当たりがあるそうで対策は可能だという。


 そして龍弥君について、結果的に言うと師匠は龍弥君を引き取らなかった。師匠の給料的に十分養うことは可能らしいけど、師匠は帝並みに年中無休だ。つまり龍弥君を引き取ったところでちゃんと育てられる保証がないらしい……まあステアに入学したあたしの事すらほぼ放置していたのだ、無理だろう。


 なので、普通に今育ててくれている家族の下で暮らし、大学を卒業したら師匠のコネクションを利用し、宮内庁に就職するルートになった。そんなコネクション良いのか?という疑問が生まれるが、そもそも宮内庁に勤める……特に侍従長などの歴史がある役職は従来から世襲制であることから問題ないらしい。


 そして後日、あたしは魂子さんから先に聞いていたが、国立感染症研究所より今回の感染症について公式発表が行われた。今回の感染症の原因が……あたしが初めて福島県に訪れた際に探していた五人の西大生だったのだ。


 どういうことか。この五人の大学生、二人が怪我をして療養中に養鶏所にてバイトをしていた……までは、最初に行ったときに聞いたが、それには続きがあったのだ。なんと健全だった三人が福島に不法入国した外国人の世話をしていたらしいのだ。


 その外国人、プロティコという国の人らしいけど、そのプロティコでコロナに感染、その状態で何と国境にかかる川を泳ぎ切り、日本に不法入国したらしい……なんちゅうことしたんや。そしてそのプロティコ人を介抱した西大生三人が無事感染、ここまでの感染爆発になったのだとか。……まったく迷惑な話だ。


 すでに第一感染者のプロティコ人の遺体は回収、その人が感染したと思われる場所に第零研究室のチームが向かっており、無事生のウイルスを回収したとのこと、つまりもう少し時間が経てば治療薬が作れるようになるということだった。


 ということはつまり、あたしの万能血清がお役御免となったわけである……いやあ素晴らしい!


ていうわけであたしは福島に行ってから食べられていなかった家系ラーメンを記者会見を聞きながらすするのだった。



 時を少し戻し、アリスと龍、龍炎部隊が屋敷で必死に戦闘を行っている頃、感染症研究所では魂子がコンピューターがとある検査をする中ある書類を眺めていた。


「あれ?先生、まだ居たんですか?」


 そこにちょうどこれから帰ろうとしている助手の笠松が声を掛けた。


「ああ、アリス君の依頼検査は終わってるんだが私は私でちょっと気になる検査があってね、もう少しで終わるはずだ。それが終わったら私も準備をして寝るよ」

「なら良いですけど……じゃあ僕はさきに失礼しますね」

「ああ」


 本来だったらちゃんと睡眠をとってくださいとでも言うべきだろうが、笠松は魂子の性格を知っているし、そんな言葉は無駄だと知っているのでとやかくは言わない。最近では他の研究員すら魂子には何も言わなくなっているのが実情だ。


「……まったく。アリス君の一言から始まったが……こんな結果になるとはね……世の中は面白いものだ……」


 ポロン!


 魂子が龍と龍弥の検査結果の書類を見ている時だった。コンピューターがちょうど検査終了を電子音で知らせた。


「おっと……さてさて……は?」


 魂子はその検査結果を見て絶句し、同時に画面にくぎ付けになった。魂子が検査をしたのはとある転生者と転生者の遺伝子検査だったが、魂子が想定してなかったありえない結果だったのだ。


「……ありえない。だって……」


(確かにあの時はああ言ったさ。6万人前後、仮に旧日本で探そうと思えば戸籍情報を使えば簡単に探せるだろうさ。だがこの世界では何一つ情報がないんだぞ?一億人前後で6万人前後……一年に12人……確率は……一人0.06か……12人全員だとしても0.7……しかも転生者は全員死因関係なく死亡していることが前提……ありえないだろ!)


 ありえない検査結果に頭が混乱し何度も検査結果を確認するが結果は変わらない。


「ははは!まったくあの子はただ者じゃないとは思っていたが……こんな秘密を抱えているとはね……まあ本人は自覚してないだろうけども……二人に言うか?いや駄目だな、まだ龍と龍弥君の検査結果すら見せていないし龍の反応を見ていない……これ以上龍に新たな情報を与えるのはやめるべきか。もう少し時を置こう……さて寝るかね」


 もう少し検査をするつもりだったが、この検査結果を見て驚き疲れてしまった魂子は素直に寝ることに決めた。立ち上がりそのまま研究所の仮眠室に移動した魂子はそのまま眠るのだった。


 ……魂子が電源を落とさずに画面が付いたままのディスプレイには……アリスの遺伝子の一部が、龍の遺伝子と『一致』したという情報が映し出されていた。つまり……龍とアリスは血が繋がっている……もっと言えばアリスが龍の家系の子孫であるということが覆せない事実となったのである。


 だが、二人がこの事実を知るのは……当分先の事である。


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