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二部 プロローグ 誕生日 2

「……うーん……これも旨いな」


 誕生会ならぬ、お酒品評会が始まって約一時間後、ビールには始まり、日本酒、ウイスキー、ウォッカなどを飲んできたけど、度数は少し低いけど組み合わせによっていろんな味を楽しめるカクテルを今は楽しんでいる。


 度数が低いのに酔えるのかという質問に関しては……ご安心ください、ウイスキーのストレートと日本酒、ウォッカのショットで軽く酔っている状態です。


 でも酔う感覚が楽しいのもあるけどカクテルの多彩な味を楽しむのもお酒を楽しむ意味では正しいでしょ?


 それに会が始まって何杯か飲んだ後、三穂さんが『アリスちゃん結構お酒強いよ』って言ってたのであたしがつぶれるのはもう少し先の事になるだろうね。


「……ふう……おろ?」


 お酒を飲むのも重要だけど、チェイサー……つまり合間合間に水で体内のアルコール濃度を薄める努力もしなければならない……なのでテラスに出てウーロン茶を飲んでいた時、テラスでゆっくりと煙草を嗜む師匠を見つけた。……いつから居たんだ。


「師匠?いつから?」

「ついさっきだ。どうだ?お酒の味は」

「どれも旨いよ。ただまだあまり酔ってないから明日はいつも通り仕事できるかも?」

「気にするな、明日は休みにする。三穂が限界まで飲ませると言っていたからな、目的を聞くに合理的だ」

「そんな気遣いが出来るように!……師匠も成長したね!」

「……やっぱり明日も仕事にするか」

「前言撤回するので休みでオナシャス…・・・それとさ」

「なんだ?」

「この国って煙草も二十歳からだよね?」

「……吸いたいのか?」

「ほぼ毎日目の前で師匠が吸ってるんだから気になるよ」

「……喫煙者として一応やめた方が良いとは言っておこう。だが何事も経験だというのも正しい、ただ俺は基本煙管だ。紙は……ああ、帝の煙草があるか……じゃあ一本吸ってみるか」


 マジか!人生初の煙草が帝と師匠しか吸わないあれですか!しかも多分コンビニでも買えない代物!貴重な体験ですやん!


 師匠から煙草を一本受け取ると、やってみたかった旧日本じゃ絶対できないであろう杖で火を点けるあれをやってみようとした。


「アリス君?ちょっ!確かに二十歳になったとはいえいきなりタバコにも!?龍!何故止めない!」

「喫煙者として一応は止めたさ、だが……こいつはもう二十歳だ。これからは自分で買えるんだぞ?ここで止めても無意味だろ?なら正しい吸い方と始末の仕方、マナーを教えるのが先輩の役目だ」

「……それもそうか、そうだな」


 珍しく衣笠さんが師匠の言うことに同意した。


 あたしは煙草を咥えると火を点けた……が何故かあんまり燃えなかった。……あれ?


「ふふふ、アリス君煙草は火を点けただけじゃ燃えないよ。吸いながら燃やすんだ」

「え?ああ、なるほど。すぅ……お!」


 吸いながら火を点けると今度はちゃんと先端に火が付く、そして口から息を吐くと煙が飛び出した。


「おお!これが煙草!……でも、咽ないな、初めて煙草を吸うと咽ってよく言うけど」

「それは吹かせてるだけだからだよ」

「吹かす?」

「アリス、一旦口に煙を溜めてみろ」

「え?うん」


 師匠の言う通り、まずは一口煙を溜めた。


「そしたら鼻だけで息を吐け」


 言うとおりにする。……そして。


「次に一気に深呼吸!」

「馬鹿!」

「すぅううう!おおおおおお!」


 深呼吸した瞬間だった。めまい……とはまた違った体が強制的に脱力する感覚が体を襲った。足に踏ん張りがきかなくなってテラスの手すりに何とかつかまる。


「大丈夫か?」

「……今凄い体が重くなりました」

「それが一般的にヤニクラと呼ばれてるものだよ。そうなるのは最初の数本だけ、慣れてしまうと無くなるが……そこまで行くやめられない中毒状態だ」

「……なるほど」


 でも……師匠と同じものを……まあ煙管じゃないけど、同じものを嗜んでいるというのはなんか神報者にまた一歩近づいたって、いや大人になったって感じでいいな……偶に吸う程度で良いか(こういう考えの人間ほど後にヘビースモーカーになったりするがこの時のあたしは知らない)。


「アリスちゃん!霞家の人が日本酒に合うおつまみ作ってくれたよ!」

「あ!はい!今行きます」


 そう言うとあたしはお酒を楽しむ会の続きを開始した。



「……うーん、まだ飲めるなあ」


 誕生会(酒盛り会)が始まり数時間後、時刻は午後九時になったがチェイサーをちゃんと挟んでいるおかげなのかあたしはまだそこまで呂律が回らなくなったり、ふらついたりすることは無かった。俗言うほろ酔い状態である。


 ただ時間帯も遅く、霞家の人たちも明日の仕事があるため残った料理などは後日食べられるように保存容器に入れてくれた後、あたしに一礼して帰って行った。


 そしてサチたちも大学の為に早々に帰宅していった。


 残ったあたしはどうしようかと迷ったが、途中から師匠がいなくなっていることに気が付き、衣笠さんが自室に行ったと言っていたのであたしは人生初の師匠の自室に行くことにした。


「失礼しやーす……わーお」


 酔っていたためか普段だったら扉を叩くなど工程をすっ飛ばし、あたしは躊躇なく師匠の部屋に入った……なるほどこれが酔った状態か。


 だがあたしは師匠の部屋を見て驚いた、ここだけ時代が違ったからだ。まるで昭和……大正?時代の文豪が居そうな和室だった。畳に小机、小さい棚と普段から使っていないのか置いてあるものは少ない。


 それでもちゃんと整理してあるのが分かる。


 そして何より驚くのは、自分で作ったのか縁側の向こう側には日本庭園があったことだ。


 あたしも自分の部屋の庭には色々気分転換用に簡単な池とか作ってみた(難易度高すぎて途中で諦めて簡単な庭にした)けど師匠の庭は凄かった。どっかの寺?神社?にありそうな砂で絵を描いたあれがあったりまん丸の月があったり(魔法で作るので常時夜だったり昼間にすることが可能)してここだけ時代が違った。


「どうした?」

「いや、師匠の部屋ってあんまり来た事ないなって思ってきたけど……この庭自分で作ったの?」

「ああ、ここが出来た時にな。暇なときに作った、この月夜で飲む日本酒が一番うまい」

「そういえばさっき聞くの忘れたけど、師匠って酔うの?不老不死だけど」

「……酔えないよ。不老不死になった時からどれだけ飲んでも酔えない。だから酔う感覚も分からんから基本的に酒の味を楽しむだけだ」

「ああ、そう」


 それはお酒の半分も楽しめてないのではないか?酔えるからこそお酒を飲むのに。……ていうかあれ?酔うってつまり血中アルコールが検出される状態よな?酔ってないってことは師匠は飲酒運転適用されない?


「師匠ってもしかしてだけど……飲酒運転……」

「ああ、想像の通りどんだけ飲んでも適用外だ。あれの適用条件は血中アルコール濃度だからな、検出されなければ検挙できない。まあ過去に警察が意地でも適用させようとしてかなりの量の日本酒を飲ませてきたことがあるが、それでも検出できなかった」


 それはずるい……でもその代わりに酔えないんじゃ……どっこいどっこいかな。まあいいか……それより。


「……それ飲んで良い?」

「構わん。ほれ」


 師匠がもう一個のお猪口を渡すと一升瓶の日本酒を注いできた。それをゆっくりと口の持ってくると飲む……うん、日本酒ってこういう雰囲気でゆっくり味わうのが一番だ。


 ……ピー……


「……!?」


 師匠が突然、笛を吹き始めた。その笛は現代で使われているようなものではなく、平安時代の貴族が使ってそうな竹?木?で作られた横に吹く笛だ。クラシックで使われるフルートの日本版と言った方が分かりやすいかな。


「……それって笛?」

「他に何があるんだ?龍笛って言ってな。旧日本だと平安時代に貴族たちが自分たちで相手に思いを伝えるときに吹いたりする物だったんだが、この世界だとちょうど俺が若いころに入ってきて流行してな。俺も練習して吹けるようになった、今でも一人で落ち着きたいときに良く吹くんだ」

「へー」


 ……ピー……ピー……ピー……。


 なるほど、何となく分かる気がする。この静かな空間、月が浮かんで地面には神社の境内、夜の暗い空間でこの音色は落ち着く……穏やかな気持ちになる。なんで和楽器って心が穏やかになるのだろうか。


「師匠……あたしも吹いてみたい」

「構わんが……これかなり難しいぞ?」


 師匠が予備の笛を渡してくれた。


「……よし」


 ……フシュ―!……フシュ―!


「……」

「そりゃ初心者はそうなるよ。いいか?」


 師匠はあたしに横笛の吹き方を教えてくれた。あくまで吹き口には直接息を吹き込まない、下唇を吹き口に乗せて口笛を前方に浮くイメージで。


 ……ピー……。


「お!」

「出来るじゃないか、素質がある」

「ふふん……」


 ピー……ピー……ピー……。



「……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ」


 意気揚々と噴き出したのは良かったけど、酒飲んでたのを忘れていた。笛を吹くというのはある意味駆け足と同じだ。つまり吹くごとに呼吸が必要で心拍が早くなり、血流のスピードが速くなって脳に回るアルコールの量も増えるということになる。


 あたしは吹きすぎて酔いが回るのが早くなってしまった。これは酔えない師匠だからこそできる芸当だ。


「大丈夫か?」

「大丈夫……ねえ師匠」

「ん?」

「もし将来、呪いが解けてさ、ちゃんと酔えるようになったら……ちゃんとあたしと飲んでよ?お酒は酔わないと楽しめないし」

「……そうだな。なら呪いが解けて最初に酒を飲みかわすのは……帝とお前だな」

「なんでそこに帝が出てくるのさ」

「約束してるからだよ……帝と」


 それってどの帝とだよ。何世代経ってると思いで?


「そう……じゃあもう寝るわ。お酒も残ってるし、後は自分の部屋でゆっくり飲むよ。あ、笛はもらってくよ」

「構わん。今度は曲にして聞かせに来い」

「うっす」

「……ん?おい!お前!日本酒飲み切りやがったな!半分も残ってたのに!」

「いひひひ!」


 気づかなかった師匠が悪い!笛を片手にあたしは自室に戻り三穂さんと二人で酒盛りを開始した。そして気づいた、集団で飲んでると自然とセーブしていたのか、それとも三穂さんがやんわりと酒を飲ませてくる影響か、あたしはさっきよりも酔うスピードが加速したのを。


 結果、一時間ほどでべろべろとなり、翌朝は無事二日酔いとなった。……まあ三穂さんの腕の中で目覚めたから割りと良い目覚めとなったのは良かった。


「アリスちゃん、多少は強いけど環境に依存するね!でも外では平気かな、ちゃんと自分でも制御することを忘れないでね!」


 というわけであたしはある程度の酒の限界量を知るというタスクを完了できた。


 ……あたしより飲んでた気がするんだけど、一切酔った感じを見せなくて二日酔いすらしなった三穂さんは化け物か何かですか?


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