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神?との邂逅編 廃村探索 2

「……うっぷ」


 朝九時にホテルを出発したあたしは冴島さんが運転し、四方田さんがナビゲートする車に揺られて愛我村に向かっていた。


 出発して二時間ほどが経過したけど、最初の一時間はまだちゃんと舗装された道だったため酔うことは無かった。でも、景色が建物から木々が生い茂る森に変わると、当然道は舗装された道路から普通の土の道路に変わる……つまり揺れるのだ。


 特段寝不足になっていないあたしが道路事情が悪く軍が使うような少し座り心地が悪い車に乗り、寝ることも出来ないとどうなるか……当然酔う。


「アリスちゃん大丈夫?」

「酔いました」

「え?アリスちゃんて車酔いするんだ」

「普段は大丈夫ですけど……過度に揺れると……うっぷ」

「すみません、最低限安全な運転は心がけていますが、さすがにここまでの道となると」

「いえ、気にしなくて大丈夫で……うっぷ」

「一旦休憩しようか、地図的にもうそろそろ村が見えてくるはずだし、一度降りて確認しよう。アリスちゃんの休憩ついでに」

「了解」


 車が停止すると、皆は降車し体を伸ばしたり、ボンネットに地図を広げて道を確認したりしていた。


「おろろろろろ」


 あたしの場合、我慢していた分車から降りた瞬間、草むらに移動し……ホテルで食べた朝食をぶちまけた……もったいない。


「大丈夫?」

「いつもの事っす」

「そっか」

「隊長」


 冴島さんが三穂さんを呼ぶ。


「行って大丈夫です」

「うん」


 そう言うと三穂さんは地図を広げている冴島さんの下へ行くと、これからの道順の確認をしていた。


「……ん?」


 胃の中をすっきりしたあたしは反対側にある場所を眺めている四方田さんを発見した。近寄るとどうやらそこから崖の下に広がっている何かを見ているようだ。


 ……四方田さんの隣に立って一緒に見てみる。霧が濃くてあまり見えないけど……手前から奥に掛けて何か見える。双眼鏡を取り出してよく見ると、どうやら木造の家だったものの残骸だった。


「もしかして……あそこが愛我村ですか?」

「……はい。この崖を降りれば五分で着きますが、車だと道が無いので少し遠回りになります。……まあそれでも後十分程度ですけど」

「なるほど」


 ……なんでこの人敬語なんだ?三穂さんに対して敬語なら分かる、だって多分階級的にもポジション的にも上司だからだ。でもあたしは神報者付だとはいえ上司では無いよ?しかも年下なんだからため口でも良いのに……天宮さんみたいに。


「……」


 聞くか?あの村で何があって四方田さん一人だけ生き残る結果になったのか。人口何人だったのかは知らないけど普通に考えても洪水で全滅なんてするんか?時代的にしょうがなかった?でももう少し生き残りが居るとは思うんだけどなあ。


 そして生き残った四方田さんは四方田さんで周りに不幸ばら撒いてるんだし、何がどうなりゃそうなるのか聞いてみたい……でも今は聞けないか……何とか村を探索中に聞けないかな。


「アリスちゃんよもっちゃん、出発するよ!あと十分程度だから頑張って!」

「はい!……行きましょうか」

「……そうですね」


 あたしと四方田さんが車に向けて歩き出そうとした……その時だった。


 ……ズルッ!


「……っ!」

「え?」


 背後、ちょうど四方田さんが居た場所から……何か音がした。何かがずれるような……崩れるような?


 振り向くと……四方田さんが体制を崩して崖から落ちようとしていた。どうやら足元が崩れて体制を崩したようだ。銃を持っていたからバランスを崩してしまったかもしれない。


「四方田さん!」

「……!」


 あたしは自然と……というか体が勝手にがけ下に落ちていく四方田さんの右腕を掴んだ。するとあたしも体制が崩されていく。なので近くの木か枝に掴まろうとしたのだが……無かった。


「あ……どああああああ!」


 そしてあたしは……四方田さんと共に崖の下に落ちていった。



「どああああああ!」

「アリスちゃん!?」


 冴島、天宮、三穂は驚愕した。アリスが体制を崩した四方田を助けようとしたら一緒に落ちて行ったからだ。


 三穂と天宮はすぐにアリス達が居た場所に走っていくと、下を見た。だが何故か霧が濃く、落ちていったアリス達の姿は見られない。


「天宮、冴島急ぎ箒に乗ってアリスちゃんたちを助けに行け!私は車から応急道具の準備をする!」

「「了解」」


 冴島と天宮は速やかに銃を置き、装備を脱ぐと箒に跨った。そして二人ほぼ同時に舞い上がると、がけ下に飛んでいった。


 ……約数分後。


 応急道具を準備して二人の帰りを待っていた三穂の所に、何故か何も持たずに顔が青ざめた二人が戻って来る。


「……ん?二人とも?なんで手ぶらなのさ!二人は?見つからなかったとか?」

「あ……いや……その」

「何ていえば良いのか……隊長、今日のアリスちゃんの服装覚えてます?」

「はあ?覚えてるどころか、こう言う事件が起きた時にアリスちゃんが来てる服なんてジーパンと革ジャンだけでしょ?普段は知らないけど……それがどうかした?」

「…………」

「はぁ……冴島!報告!」

「……たった今崖下に行ったところ、先ほど見たアリスさんと四方田と思わしき服を着た……白骨死体を確認しました」

「……ん?……は?……白骨死体!?どゆこと!?」


 三穂が驚くのもこの場に居る全員が困惑するのも無理はない。何故ならアリス達ががけ下に転落したのはつい数十秒前のことだ。三穂にとってはアリス達が死んでいるという状況もそうだが、普通に考えても数十秒程度で白骨化するなど到底あり得ないことだ。


「偶々似たような服装の遺体が居てそいつと見間違えた……とか?」

「付近も軽く見ましたが、他に人らしい者は確認できませんでした。我々よりも前に入った警官の服装とも違うので確かかと」

「……うーん、さすがに信用できない……とは言えないけど、さっき落ちたばっかりの二人がそんな状況になるなんて思ないしなあ……」

「なら隊長見てきます?確かに俺でもこの状況なら隊長に言われても信じれませんもん」

「俺も同意見です」

「そうだね、ちょっと見てくる……その後考えよう」


 三穂が車から箒を取り出し、跨った時だった。


「……?」

「……ん?」

「……?」


 三人はとある違和感を感じた。空間が歪むような……空気が一瞬だけ変わるような、そんな感覚だ。だが一瞬過ぎて三人とも気づきこそしたが、特に気にすることはしなかった。


 ドン!


 勢いよく三穂が飛び上がり、がけ下に飛んでいった。


 ……数分後。


『二人とも、こっち来て』

「え?なんだろ」

「分からん、だが行くぞ」


 三穂からの無線が入ると、冴島と天宮は顔を見合わせながらも箒に跨り、三穂の元へ向かった。


「隊長―!どうした……へ?」

「…………」


 三穂の下へ降り立った二人は先ほど見た光景とはまるで違う物に目を丸くして驚愕し、呆然とした。


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