「……何じゃありゃ」
「……」
あたしと四方田さんが見つけたのは、十数人の村人がマント?ようなものを纏って二列になり、歌を歌っている様子だった。
またマントを被った女性……いや少女が二列になった人々の間を歩き祭壇に向かっていた。
……ヤバい。この光景、どっかで見たことがある。とてもつもなく理不尽なゲームだったような……。
「あれなんすかね」
「……私も見たことがありません。村でこんな儀式が……」
恐らく当時の年齢のせいだろうか、四方田さんはこの儀式に参加したことが無いのだろうか、目の前で行われている儀式に驚いているようだ。
だがそんなことは関係ない。あと少しで思い出せそうなんだ!この状況によく似たゲームが!名前が出てこない……確かあのゲームも最終的には神様を殺すゲームだったはず。
「……!アリスさん」
「……なんすか」
「あれ」
四方田さんが指さす方角、儀式が行われている所ではなくあたしたちと同じ森の中だったが、この暗さでも何とか誰かが居ると認識できる。
服装的に……現代服だ。この世界の二十年前の服装は知らんけど、あたしの脳があいつはあたしたちと同じように何か偶然的にこの空間に迷い込んだ……人間だと訴えている。そして警察官の服装では無いということは……保護された愛和の会の幹部の一人取り残されたほうか。
「……」
あたしはゆっくりと男性に近づいた。
「……やあ」
「……っ!なんだあんたら」
「あんた……愛和の会の幹部だろ?」
「なんでっ!」
「あんたが助けた幹部の二人が警察に保護されてね。色々あって情報が神報者に来たんだよ。それであたしが……神報者付があんたを捕らえに……いや状況を確認しようと思って来たのは良いんだけど」
「外から来たのか!あの二人は!」
「警察に保護されたって言ったろ?あんたたちが去年やらかした事は時効になってないからもれなく逮捕だよ」
「そうか……でもまあいい、この状況から助かったのであれば」
「……色々聞きたいことはあるけど、なんでこの村に居るんだよ。この村の宗教について調べでもしていたんすか?」
「……いやこの村に来たのは偶々だ。だが……俺以外の幹部は村に着くや村人に教えを広めようとしたんだが。途端に襲われた。俺は二人を逃がすために森まで逃げたんだ。だが時間が経って村を出ようとしたら……」
「道が全部崖になってたと」
「知ってるのか」
「そりゃあ、そうなってなかったらあたしたちだって普通に帰ってるわ……それより」
あたしは絶賛儀式中の集団に視線を送った。
「……あんたに聞いても意味ないとは知ってるけど、あの人たちは何の儀式をしてらしゃるの?」
「分からん。色々調べたけど、この宗教が愛我教と呼ばれていることぐらいしか」
「……あんたらの宗教も愛と我であいわとか言ってなかったっけ?元ネタこれ?」
「違う!我々の教義にこのような儀式はない!こんな不気味な奴らと一緒にするな!」
「ちょっ!声が大きいって!」
「……誰だ!」
「あ」
いくら暗く姿が見えぬとは言えど、声は響く。儀式に参加していた一人がこちらに視線を向けると声を上げた。その瞬間、儀式の参加者全員がこちらに視線を向ける。
……状況が状況だけにちょっと不気味だなあ。
さて、どうするか。こう言う宗教の場合、トリックっていうドラマなら拘束されて儀式が終わるまで掴まっていることが多い。……そして山田がなんやかんやして事件を解決して上田がそれを自分の手柄にして終わる……あたしにそんなマジックの知識あらへんで?
でもゲームなら……もれなく生贄か……即死かな?……どっちもあれだな。
さーて……彼らの反応は?
「見られた」
「部外者だ」
「……すぐに捉えて殺せ!」
……なるほど、Runaway!
「走れえええ!」
あたしは声を張り上げると反対方向に全力疾走を開始した。
「くっ……くそっ!」
「……」
いや、男性君。くそって……君が声を上げなかったら見つからなかったんよ?そこんとこ詰めが甘いなあ。
さて、追いかけてくるかね?あたしは二人を先に行かせると走りながら後ろを確認した。だけど時間帯的にもう遅いし見えずらい、それにライトを付ければ逆にこっちが見つかる……どうするかな。
……バン!パチュン!
背後より銃声、そしてあたしの近くに着弾した。
なるほど……誰かは知らんけど追ってきているか。何の銃を使ってるかは知らんけど、杖があれば……。
……スッ……バン!ピュン!バシュ!
杖を前に向けた瞬間、二発目の銃声が響いた。……だがむなしくもシールドは仕事をすることは無く、銃弾はあたしの頬のすぐ横を掠めるように飛んでいくと、背後の木に着弾した。
「……あー……まあそうかー」
箒が使えないということは……まあ杖も使えないと……当然か。癖で出しちゃったけど。
ま、まあええわ!あたしには銃と魔素格闘がある!この状況、まだ思い出せないけど何とかなるはずだ!
敵?……追ってきているだろう銃を撃つ何かに対応することを諦めてあたしは二人について行った。
「……っ!おわあああ!」
「なっ!きゃあああ!」
「ん?……ああなるほど」
短い悲鳴の後、前を走っている二人の姿が消えたけど、すぐに何が起きたのか分かった。どうやら小さな崖になっていたらしく、落ちたらしい。まあ先ほどと比べて、追われてるし、暗いから見えなくてもしょうがないでしょ……四方田さん、あなた特殊部隊の隊員やろ?あんたは落ちちゃあかんでしょ。
ズザアアア!
あたしは崖があるのが分かったので、足を滑らせるようにゆっくりと降りた。
「おろ?」
降りた先に人が一人倒れていた。服装を見るに……警官だ。確か師匠が言っていた。幹部が保護されたのち、残った一人を捜索するために警官が派遣されたと。もしかしてこの警官かな?……生きてらっしゃる?
「……その警官……生きてる?」
「さあ……とりあえず脈を……」
ドッ!バタン!
その時、背後から誰かが崖を降りて来た……いや、音的に落ちて来たの方が正しいかもしれない。
振り向くと……驚いた。こっちも警官だ。……ただ違うのは、右手に拳銃と……服装が違う点だ。
そこで倒れている警官とは服装が明らかに違う。明らかに古そうな……何年前の制服だ?……いくら地方の警官でも制服ぐらいは合わせるでしょ?……となると、やはり今ここに居る大多数の人間は過去の人たち……ってことになるんだよなあ。
……ああ、駄目だ。思い出せない。似たような状況、旧日本のゲームで……やってないのかな?でもあたしの年代ならYouTubeとかで見てそうだけど。
制服が古い警官は立ち上がると通じてるのか分からない、無線機に手を伸ばすとこう言った。
「了解……射殺します」
「……ん?今なんて?」
人と化け物が混ざり合ったような声で無線機に話しかける。
……いやいや、その前に……今何と言いました?射殺します?……査察とか、逮捕ではなく?撃ち殺す的な意味での……射殺ですかい?
警官はゆっくりと拳銃をこちらに向けた。
……Oh、射殺だあ……GunをShootする意味での射殺じゃあ。
バン!
警官が撃った。だけど慣れていないのか、それとも才能がないのか、今日は調子が悪かったのか、銃弾は明後日の方角に飛んでいく。
「……くっそ!こんな所でやられてたまるかよ!」
そう言うと幹部は倒れている警官の銃を取り出すと、古い警官に銃を向けた。
おいおいおい、いくら緊急事態だからって殺人はあかんでしょ!あんたここは話し合いとか……。
バン!ドチュン!
幹部は躊躇なく引き金を引いた。あーあ……さっきまでの会話で良い人かな?と思い始めたけど!そりゃあんたテロ起こしてるんですし……人を撃つことに関して躊躇するはずはないか!あたしが間違ってました!
「はは、俺はやられない!俺は絶対に脱出してやる!あいつらだって逃げられたんだ!俺だって!」
お兄さん……フラグって言葉ご存じ?
……まあ、このお兄さんがどうなろうが、知ったこっちゃない。こっちの任務はお兄さんの確保でも保護でもない。あくまでこの村の調査なんだ。こいつに構う必要は無い。
さて、あたしも四方田さんと一緒に脱出の準備を……何処に行けば良いのか知らんけど。まあ四方田さんに聞けば何とかなるやろ……さっきは道に迷ったけど。行ったことがない場所に案内を頼んだから迷ったのだ。知ってる場所なら問題ないはず!
「四方田さん……とりあえず……」
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
地面が……揺れ始めた。
「……地震?」
そして……。
ウウウウウウウウウウ!
「なっ!なんだ!この音!」
「……っ!」
「……サイレン?」
まるで……高校野球のプレイボールを知らせるサイレンのようだ。とてつもない轟音が響き渡る。
……あれ?消えたはずの村、消えたはずの村人、不気味な宗教、そしてサイレン。
……あ、あああ!思い出したああああああ!これ……サイレンだああああああ!寄りにもよって!サイレンかよおおおおおお!
……ムクっ。
サイレンがこだまするや先ほど幹部先輩が撃ち殺したはずの警官が再度立ち上がった。だがその警官の瞳には生気がないような……ていうか人ではなくなってしまったように見えた。そりゃそうだ、銃弾を受けたのは胸だったはず。なのに、何故か目や口から少量の血?の色に似た何かしらの液体を流しているのだから。
「なっ!さっき撃ったはずだろ!なんでっ!」
バン!バスン!
「がっ……あ、ああ……」
立ち上がった警官は再び幹部のお兄さんに銃口を向けると一発発射する。そして今度は幹部のお兄さんの胸に命中した。お兄さんは信じられないというような表情で着弾した胸辺りを左手で抑える。
そしてそのままお兄さんは……何処かに落ちていった。