「イヒ!ヒヒヒヒヒヒ」
警官は相も変わらず不気味な笑顔でこちらに銃を向けている。
「アリスさん、どうしますか?」
四方田さんはさすがだ、一応銃は構えているけどあたしの指示を待っている。四方田さんにとっては神報者付と言えどあたしが上司という立場だという認識だということだ。
さて……どうするか。
サイレンと同じ展開……であれば今こいつは人ではなく……屍人、つまりあたしらから見れば化け物同然、殺しても殺人には……ならんよな?つーか原作だと殺しても死なんし、なんか神様の力で滅してたか……なら問題は……。
バン!
警官が撃つ。四方田さんよりも近くに居たあたしの傍を銃弾が通り過ぎる。……なんだ?さっきお兄さんに当てた銃弾はまぐれか?
「アリスさん!指示を!」
あーそうですね!もう悩んでいる暇はないですよね!ここは異空間!なら殺人罪はない!
「四方田さん!あたしが制圧するので牽制射をお願いします!当ててしまっても構いません!」
「了解!」
バン!パチュン!
指示を受けた四方田さんは即座に警官に向けて発射した……のは良かった。だがライフルだったから貫通したのかそれとも外したのか、銃弾は警官の背後の崖に命中した。
「……え?……あれ?」
だが四方田さんが一発目の発射と共に戸惑いの表情と声を上げ、持っていた狙撃銃をいじり始め……そして徐々に顔が青ざめていく。
「四方田さん?どうしました?」
「……すみません……ジャムりました。銃身が曲がったみたいです」
「……え?……マジでええええええ!」
銃身が曲がった!?なんで?今に至るまでにそんな銃身が曲がるようなことありましたっけ?……あ、もしかして……崖から落ちた時に何か金属音というか、なんか当たるような音がしたけど……あれか!?あれ銃身に当たった音だったん?ていうか二回音が鳴ったような……気のせいか?
因みにだがここで豆知識だ!一般的に銃がジャムるというのは弾詰まりの事を言うと思うけど、実際は銃の故障全般がジャムというぞ!無駄な知識だけど覚えておこう!
やばい!スナイパー……つまり狙撃手の狙撃銃がお釈迦になった!シモヘイヘから狙撃銃を取り上げたらどうなるんよ!……ああ、あの人サブマシンガンでも無双してましたっけ。
しょうがない起きた事に悩んでも意味はない。やれることをやってこの危機を脱しなければ!
「四方田さん!体術は使えます?あたしが牽制射と格闘で突っ込みます!一緒に制圧してください!」
「了解!」
四方田さんが拳銃を構える。……なんだサブ持ってたのか。なら作戦変更する意味なかったかな?まあいい、屍人?をあたし一人で制圧できる保証もない以上、四方田さんにも手伝ってもらうのは合理的だ。
「行くぜ!」
バン!……パチン!
「あだっ!」
あたしが一発銃を撃った瞬間だった。前方の警官に撃ったはずだったのに何故かあたしは額に軽い衝撃と痛みが走った。
「がっ!」
ただ、一応ゴム弾は屍人?には当たっていたようで少しよろけている。まだ足りない。
カチっ!
「……ん?」
二発目を発射しようとトリガーを引いたが……弾は発射されなかった。
装弾不良か?一応スライドを引いて装填し直し、トリガーを引く。
カチ!カチ!
「……おろ?……ん?」
弾が出ないことに戸惑いつつ、銃をよく調べると……本来銃についているはずのものが……無くなっていた。……ハンマーである。何故か根元からもぎ取れたかのように……無くなっていたのだ。
「……アリスさん?どうしたんですか!」
「……あの……銃の……ハンマーが取れましたああああああ!」
「……え?」
銃のハンマー、銃内部のファイアリングピンを叩くための部品だ。ファイアリングピンを叩き、それが弾のお尻についているプライマーを叩くことで銃弾は発射される。
エアガンならマガジンについているバルブを叩くことでBB弾を発射する仕組みなので最悪無くても問題無いけど……実銃であればハンマーが無くなるということは、撃てなくなるということになる。
うっそだろ!?ハンマーなんて普通無くなったりします!?つーかなんで一発目撃てたんだ!?……あ、もしかして。崖から落ちた時の腰に受けた衝撃!あれでハンマーにひびか何かが入った!?それで一発目のスライドが引かれた時衝撃で吹き飛んだ!?
下を見ると吹き飛んだ際、あたしの額に当たったハンマーが落ちている。
「……わーお。あたしの武器の一つが無くなったあ……いや!まだ格闘がある!おりゃあああ!」
杖のシールドも銃も使えない……だがあたしの本来のメインウェポンである魔素格闘がある!それさえ使えればまだなんとか!
え?魔法が使えない時点でなんで魔素が使えると思ってるのって?……いいじゃん!試してないてことは……使えるか不明ってことだ!不明ってことは……可能性だけは残されてるってことだ!
警官があたしに銃を向けるが、四方田さんが拳銃で警官に向けて威嚇射撃を行う。
バン!
「ひひひ。無駄な抵抗はやめなさい」
どっかで聞いたセリフだよ!クソが!お願いだからあたしたちが逃げる間だけでも眠っていただくことは可能でしょうか!
警官が四方田さんを脅威と捉えたのか銃口を向ける。その隙にあたしは警官の懐に潜り込むと顔面に向けて拳を放った。
ドス!
……だが、魔素は放出されなかった。
あーあ、分かってましたよ!魔法が使えないのになんで魔素が使えると思うんだって!試したいじゃないですか!シュレディンガーですよ!試すまでは確率半々って奴ですよ!
……あれ?てことは……あたしの武器である銃、魔素格闘、魔法が全部使えない?……詰んでね?これ。
どうする?持ちうる手段は全て使えな……あ!幹部が使った警官の銃!まだあるんでは!?
お兄さんが落ちていった崖付近の地面をよく見ると、拳銃が落ちていた。お兄さん!よく手放した!褒めてやろう!
「……おりゃあ!」
すぐさま銃に飛び掛かると拾い、警官に向けて構える。……あれ?この日本の警官ってオートマチックじゃないの!?なんでリボルバーなんだ!?いいけどさ。
久子師匠の下で簡単にだけど使い方は教わっているけど、それでも形も使っている弾薬も違う時点で慣れるには時間が必要だ。でもそんなこと言ってる暇はない。
照準を警官に向ける。……そしてゆっくりと引き金を引こうとした。
……バン!バシュン!
「……ファ!?」
あたしが撃った銃ではない。どこからか撃たれた銃により綺麗にヘッドショットされた警官は倒れるとその場にうずくまった。……やっぱり死んでないな。
というか今の銃声はどこから?
「お前たち!こっちにこい!」
右側、今気づいたけど道路に繋がっている方角から男性の声がする。警官を撃ってあたしたちを守ったということは少なくとも化け物にはなっていない。いや、まだなってはいないだけかもしれないけど。
「……」
四方田さんが何故か困惑気味であたしを見る。
「……考えてる暇はないですよ。現状話が通じて助けてくれたんなら頼る一択ですから行きましょうか」
「……了解です」
あたしは四方田さんと共に突然現れあたしたちを助けてくれた男性の後を追った。