ガラララ……タンッ!
歩くこと訳十分後、あたしたちはとある一軒家にやって来た。
「お前ら、災難だったな。ゆっくりしてくれ」
そう言うとおじさんは持っていた猟銃?を玄関に置くと家の奥に進んでいく。
あたしたちも家に上がり奥に行く。
中は……うん、最近の家とはまるで違う。俗に言う昭和……って言って良いのか、ほとんどの部屋が畳張りだ。それに台所を除くと、歴史の教科書に出てきそうな昭和の家の台所だった。
あたしは一旦居間の隅に座ると、一息つき……そして……大きな溜息を吐いた。
「……はぁあああ、まじかあ……サイレンかあ……」
サイレン。旧日本のゲームで知らない人は……まあいないだろう、ある意味人気ゲームである。キャッチコピーは……『どうあがいても絶望』である。
なんでか……簡単だ。サイレン無印では数あるキャラクターの内、ちゃんと生き残った……というより異空間から脱出できたのはシホウデンシュンカイ殿……つまり
しかも他のキャラは主人公も含めて脱出は出来ず、永遠に戦うか、異空間を彷徨うエンドである……誰がどう見ても絶望だ。
……ん?四方田?……あれ?四方田……ああ、ある意味ヒントあったのね。四方田っつー名字だけ分かるか!
てことは……なるほど、今この空間にも幼い四方田さんが居るってことだ。そして成長した四方田さんが居るってことは、少なくとも四方田さんは生き残るのが確定ってことになる。
まあ……それは良いんだけど。
「サイレンかあ……まあ死にゲーのフロムゲーよりはましか?……まあサイレンってシナリオは絶望だけど、ゲーム性も含めて鬼畜だったし……リメイクである程度シナリオも自由なTRPGって考えたら……いけるか?」
しかし、もっと重要な問題が残っているのよね。……あたしの武器である、魔素格闘術と拳銃……しかも防衛策のシールドも使えない……マジで絶望だ。
え?格闘があるじゃないかって?いやあるよ?たださあ……前にも言ったけどあたしいくら筋トレしても筋肉付かんのよ?だから魔素で筋肉強化して魔素放出するからこそ大人相手に対処できるのであって……魔素強化なかったら技だけ使えるか弱い少女よ?
……まあ、殺さないように手加減するのに自分を強化しないといけなかったわけで、逆にこの空間の奴らはもう人間じゃない屍人と呼んで良いのか知らんが……つまり殺しても構わないなら……力よりも技で手ごろにやるやり方で……何とかなるか。
「……」
ていうか……さっきから四方田さんは何故色々作業をしているおじさんを眺めているのだろうか。……知り合いだったりするんか?
「おい、ねえちゃん。銃何かあったんか?」
「え?」
「さっき撃った時、ジャムったとか言ってたろ?見せてみろ……そっちの嬢ちゃんも拳銃使えないんだろ?見せてみな?」
「あ……はい」
あたしと四方田さんは互いに持っている銃をおじさんに渡した。
まず四方田さんの狙撃銃を見る。
「……なんだこりゃ、見た事ねエ銃だな。形は普通の狙撃銃だが、材質も精度も何もかもが新しい。……なるほど、銃身が曲がっちまったのか、これじゃ狙ってもまともに当たるわけない」
さすが、さっきの狙撃をした人間だ。一発見ただけで銃の故障個所を見抜いた。……そうか四方田さんが使っている狙撃銃は少なく見積もっても20年前には無かったらしい。いい銃程昔からある銃も名銃として現役として使うこともあるらしいけど、四方田さんは違うようだ。
「はい……でも慣れれば」
「馬鹿言っちゃいけねえ、この状態で撃ち続けたらいつ暴発するか分かったもんじゃない。狙撃手としてそういうリスクは抑えるもんだ」
「……すみません」
「それと嬢ちゃんのは……こっちも見た事ない銃だな。ありま!撃鉄が……無くなっちゃったか!」
「ええ、一応取れたハンマーは持ってきましたけど」
そういい、取れたハンマーを渡す。
「接着剤か何かで付ければ……」
「馬鹿言っちゃいけないよ。撃鉄は繋がってるからこそ意味があるんだ。付けたとしてもまた遊底が動いた時に取れたら意味ないだろ?」
「……ですよねー」
「……そういや、遅いな」
「何がですか?」
「いや、もうそろそろ娘が帰ってきてもおかしくない時間なんだが」
「ああ、娘さんがいるんですか……今どこに?」
「小学校だよ。普通に下校時刻のはずなんだがね」
……まあ、十中八九……学校内も化け物どもがはびこってるだろうし……確かゲームでも学校内から脱出するシナリオあったはず。……四方田春海ちゃんのシナリオ結構鬼畜なんよなあ……あたしが行くか?
「あの……娘さんのお迎え、行きましょうか?」
「はあ?まあ頼めるなら頼みたいけどよ……お前ら学校までの道分かんのか?」
「大丈夫!こちらのお姉さん!……三穂さんと言いますが!元愛我村出身なんですよ!学校までの道のりなら!……いけるはずです!……多分!」
「……ほう?三穂……そんな人村に居たか?」
おじさんが四方田さんをじろじろ見る。四方田さんは何処かいたたまれない表情だ。
「……まあいいか。道知ってるなら頼めるかい?俺はあの子の帰ってくるまで夕飯を作るからよ。お前たちも食べるかい?」
「はい!いただきます!ね!三穂さん!」
「……アリスさんがそう言うなら……でも外にはあいつらが居ますし。銃が……」
「それなら俺の銃を使うといい。予備の銃を持ってきな、使い方は分かるか?」
おじさんが木製の銃のロッカーからもう一個の狙撃……いや猟銃?を取り出すと四方田さんに渡した。
四方田さんは受け取った銃を少し眺めると、色々操作し……構えた。初めて扱ったとは思えない手際だ。
「おお、使い方は問題ないな。まあ使い慣れてない銃だから慣れるのに少し時間が掛かるとは思うけどよ、あの銃の使い込みよう見ればすぐに慣れるだろ」
「問題無いです」
「それと嬢ちゃんは……」
「あたしは出来れば……拳銃の方が」
「アリスさんはこれを使ってください」
四方田さんがホルスターから拳銃を渡してくる。
M1911、しかも米軍の特殊部隊が使ってそうな現代カスタム仕様だ。……確か、三穂さんが言ってたな、龍炎部隊のプライマリは各自マガジンさえ合えば自由だって。拳銃はM1911固定だったか。
そう弾数は……確か七発くらいだったっけ?あたしの銃よりも倍以上違うな……まあこんな現状だし欲は言ってられんか。
「大事にします」
銃を受け取ると、マガジンを確認し、スライドを動かし装填を確認する。
「じゃあ頼んだよ」
「了解です!」
あたしはおじさんに敬礼するとおじいさんに借りた銃を背負った四方田さんと共に、愛我学校に向かった。
「……そういえば」
「なんですか?」
「あの人の所に居る間、なんでよそよそしかったんですか?もしかして知り合いとかでした?」
「……玄関の表札見てなかったんですか?」
「……え?」
「……あそこは……四方田家、私の元実家です。そしてあの人は……四方田忠男、私の父です……まあ私に気づかなかったようですけど」
「…………まじっすか」
四方田さんからしてみればもう無くなって二度と帰れなくなったはずの実家に帰れた……でも父親は自分を忘れていた……まあ大人になったからってのもあるけど……そうか、普通に他人として対応されたからがっかりしたのか。
「……何か……すんません」
「大丈夫です。逆に少し嬉しいんです」
「へ?」
「私の母は私を生んですぐに亡くなりました。ですので母親の記憶はありません、父親の記憶も幼い頃だったのであまりないんですよ。なので娘として接してもらうことに期待はしてませんでした。逆に生きていたころの元気な父を見れただけで十分です」
「……そっすか」
二度と見ることが出来ない人の生きてる頃の様子を見ることが出来るって……やはり残された側から見ればやっぱり嬉しいもん……なのかな。
写真が残っているなら思い出が蘇る、ビデオが残っているなら声を聴くことが出来る……でもどの媒体でも直接話すことは出来ない……意思疎通が出来ないのはやっぱりつらいのかな。
……あたしは……身内、どう思ってるのかな。もう知る術は無いけど。
「アリスさん行かないんですか?」
「え?ああ!行きましょう!さすがに学校までの道のりは……」
「安心してください」
「……はい!」
あたしは少しだけ笑顔になり学校までの道を歩む四方田さんの後を追った。