「……小学校?……これが?」
「……」
歩くこと十数分後、あたしと四方田さんは愛我小学校に着いたは良かった……良かったんだ。だけどあたしの知ってる小学校では無かった。
え?お前は田舎の小学校を知らないから?いやいやいや確かにあたしは田舎の小学校に通ったことはありませんよ?でもよく写真とか動画で田舎の木造の学校ぐらいは知ってるし、それが出てくるなら『おお!田舎の学校っぽい!』的な事を言いますさ。
ここでいうあたしが知らない学校って言うのはだね……木造の学校が要塞化してる光景の事なんよ。
正門は閉まってるんだけどさ、田舎には標準装備なのかは知らんけど、鉄条網が巻き付いてんのよ。しかも遠目からだけど、何故か窓には板が打ち付けられてるし……何?この国の小学校は非常事態時には要塞化する法律でもあんの?
「あたしの知ってる小学校じゃない」
「……私もこんな学校知りません」
「え?でも四方田さん……ていうか千明ちゃんてこの時学校に居たんですよね?なのに記憶ないんですか?」
「……正直に言います、私、この時の記憶があまりないんですよ。だから当時私が居た学校がどうだったかなんて正直覚えてないと言いますか」
「ああ、なるほど」
考えれば当然か。今回の事件をきっかけに愛我村の村民は四方田さんを除いて全滅してるんだ、当時小学生……トラウマになって記憶から抹消していても不思議じゃない。
むしろ、こんな目に遭っても元気にああ!懐かしいとか言ってたら狂ってるとしか言いようがない。
「まあ……とにかく行きましょうか。内部の構造覚えてます?」
「はい何となくですけど」
「……一応聞くんですけど……今この時、何処にいたとかは……」
「確か二階だったかと」
……どこまでサイレン準拠なん?
……ん?待てよ?サイレンだとこの時、先生と一緒で学校から一緒に脱出してるよね?高遠先生だったっけ?まあ途中で春海ちゃん逃がすために殿になって屍人になっちゃったけども。
だとすれば、四方田さんのお父さん以外にまだ話が通じてこの空間を攻略するためのヒントが得られるな。
「じゃあ行きますか」
「はい」
あたしと四方田さんは鉄条網が撒かれている正門のすぐ横の壁からよじ登る形で校内に侵入……いや、救助に入った。
田舎の小学校、床が腐っている……というわけでもなかった。
そりゃそうか、今この空間は約20年前の愛我村が再現されているんだ。もし愛我村の学校が現存しているなら20年もたって朽ちているかもしれないけど、この空間なら現役だ。
普通の田舎の廃校探索なら足元に注意して空気を味わったり、残っている写真を見て楽しんだりするのが普通だろう。
でも今の目的はそうじゃない。あくまで千明ちゃん救出だ。
あたしは学校の内部を見てみたい欲求を抑えて、二階の千明ちゃんが居るであろう教室に向かった。
「きゃあああ!」
「来ないで!来ないでえええ!」
「……ん?」
「……あの声……高川先生!」
悲鳴の種類的に屍人……つーかさっきから屍人って言ってるけど、サイレンのあいつらが屍人って言われてるからそう言ってるけど、この空間だとなんだろうか……まあ屍人でええか!
悲鳴的に屍人に襲われている。でも四方田さんがここに居るってことは千明ちゃんは生還するはずだ。助けなくてもいいのでは?
……カチャ……バッ!
「……っ!」
「え?四方田さん!?」
四方田さんが持っていた銃を今一度確認すると、何も言わずに悲鳴のした方へ走って行った。
先ほどまでの冷静な四方田さんは何処に……あんなに発砲とか指示待ちだったのに!そんなに慌てるほど高川先生は大事な人なんすか!父親以上に!
「……しょうがない、行くか」
悩んでもしょうがない、四方田さんが突っ込んだ時点であたしの取りえる行動も定まって来る。
四方田さんから借りた銃のスライドを引き、弾が装填されていることを確認、ハンマーを起こして構えると四方田さんの後を追った。……シングルアクション苦手だ。
ガラガラガラ!
四方田さんが一つの教室のドアを開ける。
「イヒ!イヒヒヒヒヒヒ!」
「ゲコウジコクデスヨウ」
「……Oh」
二人の屍人がゆっくりと教室の奥でへたり込んでいる女性教師と女子小学生に向かって行く。
……事案だ。こんな状況じゃなきゃ即警察に通報レベルの事案が発生してらっしゃる。
まあ……このお二人の屍人さんたちはR18展開じゃなく、明らかに殺そうと……ん?なんで何も持ってないん?サイレンの屍人って大抵鉈やら農耕道具を武器として持ってるよね?このお二人は何も持ってない……偶々?でもサイレンの学校ステージでも屍人は武器を……持ってたはず。
なんでこの二人は持ってないんすかね?
何か……二人を捕まえそうな手つき……あれ?もしかしてこの世界の屍人さんたちは……攻撃じゃなくて……そっち?おっと?……R18展開になるのでは!?まずいのでは!?
この物語は!このあたしの物語は……あたしが絡まないR18展開は……許さん!寝取り展開もじゃあ!
スッ!
バン!カチャ!バン!
「……ぬおっ!」
あたしが銃を構えた刹那だった。それより早く、四方田さんが二人の屍人に向けて銃弾を発射した。
距離にして数メートル……いくら狙撃銃でもスコープ付きの銃で近距離射撃……よくできるなあ……ん?ていうか四方田さんの持ってる銃、スコープついてない?
ああ、予備だからスコープが付いてなかったのか……いや?待てよ?お父さんの持ってた銃も付いてなかった気が……もしかして元々か!?まじでシモヘイヘさんでは!?
「あ……あ……」
「…………」
あーあ、へたり込んでいたお二人がドン引きしてらっしゃる。そりゃそうだ、襲われていたと思ったら目の前の化け物の脳天が吹っ飛んで、その背後から完全武装しているあたしたちが現れたんだからビビるでしょうよ。
「大丈夫ですか?」
とりあえずあたしは高川先生の元へ行く。
「え……ええ。あなた達は……」
「えーと……その……」
「いやあ!偶々出雲市に観光で来たんですけど、道に迷ってこの村に来てしまいまして!困ってたところに千明ちゃんのお父さんと偶然お会いしてお家に厄介になってたんですよ!そしたら千明ちゃんが学校から帰って来るのが遅いと言っていたのでお迎えに」
「そうなんですね……でもすみません。学校がこのような状況でむやみに外に出ようとすると奴らに……それで学校で待機していたんです」
「なるほど」
まあ学校に不審者が現れても同じことをするだろうし、この対処は正しいかな。……学校の窓という窓に板張り、校門に鉄条網する必要性があるのかは別として。
「で?どうします?あたしらはこのまま千明ちゃんを家まで送ろうと思ってますけど」
「……私も行きます」
「……なんで?」
「もはや学校も安全とは言い切れません。あなた方も見たでしょ?窓の板張りとか校門の鉄条網、あれらはサイレンが鳴り響いた直後から彼らが作り出しました。私たちも襲われた……ならもうここに居る理由はないんです。なら最後に残った千明ちゃんだけでも私は一緒に居て見守りたい」
「……」
サイレンでも高遠先生は自分の子供を亡くしてるんだったけ?それがトラウマで春海ちゃんを命がけで守った……この人がそうだとは言い切れないけど、この人も何かしらの思いがあって行動してるのかな。……まあこの人を守る気無いけど。
「一応言っておきます。私たちは自分たちの実力をある程度把握してます。高川先生まで守れる保証がありません、それでも良ければ」
「大丈夫です。あなた方が千明ちゃんを守るのならば私は自分の身だけを守れる」
「分かりました……立てます?」
そう言うとあたしは高川先生に手を差し出した。それを見た高川先生は穏やかな表情でそれを握り立ち上がる。
「……高川」
「え?」
「高川聖子です」
「……アリスです」
「……苗字が無いということは……」
「ええ、識人です」
「貴方は?」
「ち……三穂と言います」
「三穂……苗字が無いってことは……」
「ああ!すみません、西宮美穂って言うんです。ね!」
「……はい、西宮美穂」
「そう……」
高川先生は何処か訝しげに四方田さんを見ていた。多分名前を間違えたとか言い淀んだところから不審者と見た……とういう感じじゃな無い。何処か見たことがある……けど思い出せない……そんな表情だ。
それは仕方がない。今目の前に居る女性は約20年後の千明ちゃんなのだから。
「じゃあ行きますか。武器を持ってるのは私たちだけです。出来るだけ近くに居てください」
「分かりました」
「じゃあ、千明ちゃん。お父さんの所に行こうか」
「……うん」
千明ちゃんは何処か不安そうな表情で頷いた。……いきなり現れた女性二人がお父さんの所に連れてく……あははは!まんま誘拐の手口だこれ!……しょうがないでしょうが!千明ちゃんは死んじゃダメな存在だからこうでもしないと駄目なんすよ!
とりあえずあたしは銃を構えると、先頭に立ち教室から出ようとした。
「アリスさん」
「ん?なんですか?」
「道分かります?」
「……さすがに一度来た道なら大丈夫っす」
「なら良いですけど……それと」
「ん?」
「なんで西宮なんですか?」
「え?……あー……えーと……あたしの知り合いで苗字がある人で浮かんだのが西宮だった……だけっす」
「……だったらうちの他の隊員の苗字でも良かったのでは?天宮とか冴島とか」
「……さーせん」
「ま、いいですけど」
しょうがないでしょうが!あたし基本的に龍炎部隊と絡みないんですよ!普段遊んでるのサチとかよ?そんな直ぐに出てこないわ!
そんなこんだであたしたちは千明ちゃんと高川先生を連れて学校を脱出した。