「…………」
……どうして……こうなった。
学校を脱出して約一時間後、あたしと四方田さん、そして千明ちゃんは何故か……一軒の空き家の……押し入れに入っていた。
え?高川先生は何処に行ったのか?なんでどこの誰ともわからん家の押し入れに何故入っているのかと問われれば……本当に何でだろうか。
サイレンと言えば、屍人になった村人は特段生存者を見つけた場合のみ、襲うという設定だったはず。その理由もあったはずだけど詳しいことは覚えてない。つまりサイレンというゲームにおいては極論見つからなければ問題はないのだ……ゲームのシステム的に難易度が跳ね上がるけど。
では生存者がいないとき屍人はどうしているというと……屍人になる前の普段の生活を再現……と言って良いのか、農耕民であるため普通の村人としての生活を送っているのだ。
ではこの世界ではどうかというと……むっちゃ探してくるんです。まるでこの空間に何かしらのセンサーがあるみたいに生存者がいる限り村人は普段の生活など知ったこっちゃねえよ言わんばかりに捜索して……襲ってくるんです。
当初、あたしは見つからなければ問題無いと思い、メタルギアのスネークばりに隠密行動を取ろうと行動していた。しかし、村人はあたしの予想を覆す索敵力であたしたちを探し見つけるや襲ってきたのである。
え?武器があるじゃないかって?今のあたしの武器は四方田さんから借りた拳銃……しかも装弾数が十数発だけですよ?しかも四方田さんもお父さんから銃を貸してもらってるけど、四方田さんが普段使ってる銃とは銃弾が違うから予備の弾薬も多くない状況、むやみに迎撃出来ないんですよ!
そして真っすぐ家まで歩いてきたけど徐々に敵の数が増えるわ、使える弾の数が減るわでどうしようもなくなって来たときですよ。本人としては少しでも時間稼ぎになれば良いと思ったんでしょうね、サイレンの高遠先生みたいに自ら殿になって多くの屍人を道ずれに特攻しちゃいましたよ。
そして学校を脱出し、やく一時間ほどが経過した時、こんな生死を分ける鬼ごっこを経験したことが無いだろう千明ちゃんの疲労を考えて適当に見つけた家に休憩で入ったわけですよ……まあ、その家の中にも屍人が入ってきまして……現在、押し入れに隠れている状況です。
さて、どうしたもんか。
今のあたしには魔素格闘術も魔素による筋肉強化も使えない。つまり合気道とか柔道で投げることは出来るけど集団を吹っ飛ばす筋力が無い。しかも持ってるの銃はM1911、つまり45口径、つまり予備弾薬が無いのでむやみに戦闘行為も出来ないのだ。
それは四方田さんも同じだ。
さっき少しだけ押し入れの外を見たけどサイレンと同じように何故か三人の屍人たちが砂嵐しか映っていないテレビで笑っている。
……あのさあ、本家でもそんな描写あったけどさ、あっちも他人の家をまるで自分の家みたいに使ってましたよね?もしかしてだけどあなた方もこの家の持ち主ではないでしょ!なんでそんな自分の家みたいに過ごせるんですか!勝手に家に入ったあたしらが言うことじゃないけど!
……三人か、ここに来るまでの屍人の動き的にのろまなのか分かった。なら無理やりにでもあたしが対処するか。四方田さんには千明ちゃん保護を優先してもらって。
……トントン。
「ん?」
「アリスさん……これ」
その時だった。四方田さんが凄く申し訳なさそうな表情で何かを渡してきた。
それは……あたしの持ってるハンドガンのマガジンポーチに似ていた。
「あの……これは?」
「ハンドガンのマガジンポーチです。ほとんど使ったことが無いのですっかり忘れてました。アリスさんのマガジンポーチと機能はほぼ同じで、中身は45口径です。あと……」
さらにM1911のロングマガジンを二本渡してくる。
「これも」
「……」
……もっと早く言ってくれよおおおおおお!今まで戦闘を回避してきたのがバカみたいじゃんか!これがあれば高川先生が死ぬ必要もなかったよ!四方田さんは使ってる銃の関係上しょうがないけど、あたしはもっと暴れられたって!
「因みに装弾数は?」
「最後に確認した時は……三百程度だったかと」
「……ほう?」
あたしは銃に装填されているマガジンを抜き入っている弾を抜くと、ロングマガジンに詰め直した。そして両方のロングマガジンを一度ポーチに装着し、弾を装填、満タンになったマガジンを銃に装填し……押し入れの襖を蹴破った。
バン!
「ぎっ!」
「ぎゃっ!」
「……っ!」
「……隠れてる理由……無くなったわ」
三人の家族は予想してなかった押し入れからの出現にかなり驚いている様子だ。おうおう、よその人の家なのにまあ……そんな表情出来ますなあ。
「……」
バン!バン!バン!
だが関係ない。弾が豊富にある以上……節約する理由もなくなった。あたしは三人の脳天に一発ずつ銃を発射する。
三人はヘッドショットを食らうと、その場にしゃがみ込み動かなくなった。
「さあ!タイムロスを取り戻そうか!二人とも!準備はよろしいか!」
「……はい!」
「……うん!」
「よし!」
あたしは銃を構えると玄関に歩いて行った。
この春海ちゃんのステージは確か、玄関の鍵がかかっていたのか、春海ちゃんは二階のベランダまで行き、そこから外の地面に飛び降りるシナリオだったはずだ。
だがそれは戦闘が一切できない春海ちゃん一人だったからだ。ここにはあたしも四方田さんもいる……つまり正々堂々と玄関から出ていいのだ!
……ガタッ!
「ん?」
鍵は開いているはずなのに、引き戸が開かない。なるほど?原因は不明だけど外側に何かあるのか、そりゃ春海ちゃんがベランダから脱出するわけだ。
「……ふん!」
ガチャン!
「えぇ……」
あたしは思いっきり扉に体当たりすると玄関の引き戸を強引に吹き飛ばした。普段のあたしだったら魔素放出でグーパン一発だったけど今は無理だ。だから体当たりだ。
「さて……行くか」
あたしが先陣を切って銃を構えつつ家の門まで行った時だった。
「……あ?」
「……え?」
「……あ!高川せん……せい?」
どうしてここを知ったのか……やっぱりこの空間の屍人は生存者を探知する能力があるのか……それとも高川先生には千明ちゃんだけを探知できる特殊な能力があるのかね。
「……ち、チアキちゃん……もう一人で動いちゃ……」
バン!バン!バン!
「え……ええええええ!」
「……ん?」
あたしは高川先生がセリフを言い終わる前に心臓に二発脳天に一発銃弾をぶち込んだ。
……しょうがないじゃん、サイレンでもこの後高遠先生と楽しい楽しい鬼ごっこですよ?しかも捕まったらゲームオーバー、対処方法があるんならここで撃った方が早いでしょ?
高川先生は銃弾を食らい、その場にうずくまった。
……先生、もしサイレン通りならあなたの役目はここじゃない。最後の最期、この空間に校長が居るのかは知らんけど、あの人から千明ちゃんを守るのが役目です。それまでは……あたしらに任してください。
「……」
「……先生」
……あ、そりゃそうか、千明ちゃんにとっては高川先生はお父さん以外で数少ない信頼できる人だった。形がどうなろうがあたしはその人を躊躇なく撃ったんだ、そりゃ驚くか。……ある意味トラウマ並みの光景だ。
「……ち」
「千明ちゃん」
あたしがどんな声を掛けようか迷っていた時、四方田さんが先に千明ちゃんを抱きしめた。
「……おねえちゃん?」
「泣いていいんだよ?忘れてもいい、高川先生は優しかったよね?知ってるよ。でもね、どんな好きな人でもいつかは別れが来るんだよ、悲しみで壊れちゃうくらいなら一度忘れて大人になったら思いだしても良いんだよ」
「……」
果たして今の千明ちゃんに掛けていい言葉なのか。それはあたしには判断が出来ない。でも大人になった……恐らく大人になってもっといろんなものを失った未来の四方田さんだからこそ言えるのかもしれない。
「……だい……じょうぶ!」
千明ちゃんは少し涙目、涙声になりながらも笑顔を見せた。
「お父さんが言ってた、人は死んでも目に見えないだけで近くに居るって!だからその人に恥ずかしくないように、将来同じよう死んで会った時に恥ずかしくないように人は立派に生きていく必要があるんだって!だからあたしは泣かない!」
「そっか……」
「偉いぞ!千明ちゃん!」
あのお父さんに育ててもらったんだ、ちゃんと人が出来てるじゃないか!そしてその教えを受け継いだ四方田さんはまあ……立派……非合法だけどこの国の為に戦っているよ。安心して、あたし基準だけどお母さんにもお父さんにも十分自慢できるくらいかっこよくなってるから!
……でも多少泣いても良かろうとは思うよ?
「じゃ、とりあえず……家まで行きますか!」
「はい」
「うん!」
正直に言おう、千明ちゃんを守りながらラスボス戦は嫌なので早くお父さんに引き取ってもらいたいのです。めんどくさいもん。
マガジンを変えるとあたしは四方田さん、そして千明ちゃんと一緒に四方田家へ向かって銃弾をばら撒きながら歩き始めた。