「……は?はああああああ!?」
屍人になった高川先生を撃退し、所有者不明の家を脱出したあたしたちは四方田さんと千明ちゃんの案内で四方田家にようやく到着……したはずだった。
だけどサイレンが鳴り、この異空間に飛ばされて約数時間であるはずなのに、四方田家は……もう四方田家では無くなっていた。
隣り合っている家や、付近の家と何故か繋がり、巨大な建築物になっていたのだ。
……おかしくないっすか!?サイレンが鳴ってからまだ数時間くらいしか経ってないはずよね?本家のサイレンですらサイレンが鳴ってから二日目あたりから屍人たちが作ったとか言ってたのに、この世界だと僅か数時間で違法建築が完成してるんだけど?
あれですか?本家は屍人が手作りで作ってたから時間が掛かったけど、この世界は魔法があるからこんなに早く建てられたとか?でもあたしら魔法使えんよ?……屍人にしか魔法が使えない空間とかか?でもあたしらを襲ってきた屍人に魔法を使ったやつは居なかったはず……訳わからん。
「……これ家?」
自分の家に帰ってきたはずなのに、自分の家が違法建築の一部と化している状況に困惑している様子の千明ちゃん、そりゃそうだろ、あたしだって寮からコンビニに行って帰ってきたら魔改造されてました!……ドン引きするわ。
「とりあえず……家に入りましょう」
四方田さんがそう言うと、少し警戒しながらドアを開けようとした。
ガラガラガラ!
「……クリア」
「くりあ?」
「中に敵は居ないって意味だよ」
四方田さんがゆっくりと内部をクリアリングしながら侵入していく。いくら実家と言えど、違法建築の一部と化しているのだ、内部に敵がいないとも限らない。
あたしは四方田さんがクリアリングする様子をみつつ千明ちゃんの傍にいた。
そして数分後。
「……今の所、問題はありません」
「了解っす……ちょっと休憩しましょうか。お父さんが戻ってくるかもしれないし」
千明ちゃんの為に夕飯を作っているはずの四方田父も何故かこの場所に居ない。もしかしたらこの違法建築を作っている屍人たちを見つけて戦っている可能性もある。探しに行ってすれ違いになるのはまずい。
「……よいしょ」
千明ちゃんは背負っていたカバンを置くと、床に座った。
……ぐー。
「……あ」
「……」
千明ちゃんのお腹が鳴る音が聞こえた。当たり前だ、本来ならすでにご飯を食べているはずの時間、学校で立てこもり、途中で寄り道等をしていたんだからお腹が減るのが普通だ。
かくいうあたしも普通に腹減った。
「千明ちゃん」
「なに?」
「これ食べる?」
あたしはショルダーバッグからいくつかのいくつかのお菓子を机に広げる。
「わあ!見た事ないお菓子がある!食べていいの?」
「いいよ。でも少しだけだよ?お父さんのご飯が食べられなくなるからね」
「はーい!」
目をキラキラさせた千明ちゃんは色んなお菓子に目移りしながら一個を取ると笑顔で食べ始めた……可愛いな。
「よも……三穂さんもどうです?」
「……いただきます」
四方田さんもいくつかお菓子を手に取ると、少し離れた場所に座って食べ始めた。
「……」
聞くならこのタイミングかな。
あたしはいくつかお菓子を手に取ると四方田さんの下へ向かった。
「四方田さん」
「……!?」
四方田さんは驚いた表情であたしを見る。この状況で本名を呼ばれるとは思ってなかったのだろう。
「大丈夫です、千明ちゃんはお菓子に夢中なので聞こえてません。聞きたいことがあるんですよ」
「……何ですか」
「……ここに来る前、出雲市で四方田さんと駄菓子屋のおばあさん?がなんか話していたのを聞いてしまいまして」
「え!?」
「すみません。でも気になるじゃないですか……一応……将来、私が指示を出す部隊の人がどんな人たちなのかなとか。で、そのおばあさんに聞いたんですけど……約……20年前?この村を洪水が襲って唯一生き残ったのが四方田さんなんですよね?」
「……そうです。正確に言えば、他の村人は生存者どころか遺体すら見つかってない……だから私が唯一の生存者なんです」
「なるほど……で、そこからあのおばあさんの家に引き取られた……でもそこから異変が始まったんですよね」
「それも聞いたんですか?おしゃべりですね、見ず知らずの他人なのに」
今思えばそうだな。あたしはあの時、四方田さんの知り合いとは一言も言ってない、なのにあのおばあさんは何の躊躇もせずに話した……もしかしてあの付近では当然だったから話すことも普通だったのかな。
「身内に異変が起き始めたんですよね?」
「……最初は私の傍にいた兄たちからでした。私の傍にいると何故か転んだり、怪我をしたりするんですよ。でも最初はおっちょこちょいで皆笑ったりしてたんです。でも私が居ないと何も起きない……皆言ってました、私が疫病神なんじゃないかって」
「ほう」
「でも高校生までは大きな事件が起きなかったのでいつも通りでした。でも……高校三年生の頃……事件は起きた」
「確かおばあさんのお孫さんが亡くなったんでしたっけ?」
「はい……私の不注意……でもあったんです。公園で一緒に遊んでた時、サッカーボールが道路に行ってしまって、雅也が取りに行った……そして車に」
「ああ……なるほど」
普通だったら四方田さんの監督不行き届き、車のスピードにもよるけど、車の過失だな。……でも、これまでの蓄積で家族から見れば四方田さんのせいとも感じられる……悲しいことだ。
「それで……自衛隊に?」
「……家から出れれば良かったんですよ。警察でも消防でも、寮があれば。でも父親も元自衛官だったのでちょうどよかった」
「なるほど……じゃあ何がどうなって龍炎部隊に?」
「どうやら私の呪いは人関係なく不幸をばら撒くようで、自衛隊に入ってからも同じ部隊の人が怪我をしたりしていました、訓練中の事故ならまだしも全く関係のない場面でもです。結果、狙撃部隊の中からも疎まれるような存在になってしまいました。でも部隊を抜けるきっかけになったのは……私が観測手を務めていた時に何故か空砲だったはずの銃弾に一つだけ実弾が入っていたんです。そして……」
「……それ以上は言わんでいいです」
なるほど、何故か紛れ込んだ実弾による死亡者……怪我ならまだ大丈夫だろうが存在しないはずの実弾による死亡者か……しかも観測手、狙撃手の弾管理も観測手の役割だったかな?だとすれば同じく責任を取る必要がある……か。
「それで……責任の所在はどうなったんですか?」
「そもそも私たちが装填する際に気づかなかったことも問題ですが、実弾を使用しない訓練だったので、弾を配給する部隊の責任問題にもなりました。でも上官からは気にするなと言われていたんですが……狙撃した本人は精神に来てしまって……」
「ああ、なるほど」
そりゃ事故で怪我したならまだ将来の笑い話に出来るかもしれんけど、自分が撃った弾で人が死んだ……なら無理だわな。
「それで私も部隊に居れなくなりまして……自衛隊を辞めようとしていた時に、第一空挺団の団長である衣笠さんから龍炎部隊に誘われたんです。最初はお断りしようと思いました。そこに行っても迷惑を掛けると思ったので、でも私はずっと観測手として部隊に居たので、最後に狙撃手としてどこまで貢献できるかと思ったので入りました」
「へー……でも龍炎部隊で事故とかは起きなかったんですか?」
「起きました、でも何故か軽い事故だけで死亡者が出ることは無かったんです。それに龍炎部隊の人たちは皆、事故が起きても肉体が強くて知識もあるので大きなけがをしなかったんです。この村を出て約20年、やっと自分の長所で貢献できる環境になって楽しかったです」
「あの……なんでもう戻れない……的な言い方なんです?」
「だって……現状、脱出する方法がないじゃないですか。帰る方法がないのならここに骨をうずめるしか……まあ生まれ育った村で死ねるなら本望です」
嫌だが?四方田さんはこの村出身だからいいかもしれんけどさ、あたしゃ全くの他人でっせ?四方田さんに言いたくないけどこんな所で骨をうずめるのはごめん被るわ!
「だいじょうぶっす、あたしは識人っすよ?」
「識人……旧世界の日本人はこの状況が当たり前なんですか?」
「な訳ないでしょ、でもこう言う展開のゲームは良くあります。その知識はあるんです。あたしの知ってるゲームで似たような展開のゲームを知ってます。そのゲームだとラスボスを倒すと戻れる……はずです」
「でもゲームってシナリオが決まってますよね?その通りに行きますか?」
……そうなんすよ。本家のゲームなら訳三日間の出来事のはずなんすよ。なのにこの展開の速さ……まるで三日分の中身が一日に凝縮されているかのような……すでに違法建築は完成されている……だとすれば次に起きるのは……堕辰子だっけ?あれの復活だ。
シナリオ通りならあれを倒せば、ゲームクリア……まあそれでも本家では無事に現実に帰れたの春海ちゃんだけなのよねえ……この世界ではあたしらも無事に帰れるといいけど。
……というか、なんか忘れてる気がするんだよねえ……え?三穂さんたち?いやそんな事じゃない、本家だと……単純に堕辰子を殺すだけじゃ意味ないのよ。なんかギミックをやらないと……ただやり方を忘れた。
「……ていうか遅いな」
「え?」
「忠男さん、ていうか何しに外に行ったんですかね?確かにあたしらは帰るの遅くなりはしたけど普通は待ちません?」
「確かに……ていうか千明ちゃんは?」
「まだ居間に……この世界の小学生が帰ってきて何するか知らないっすけど……宿題とか……」
「きゃああああああ!」
次の瞬間、明らかに千明ちゃんと思われる悲鳴がこちらに響いてきた。
なるほど。
「行きましょうか……多分屍人です」
「はい……あの屍人って何ですか?」
「ああ、さっきも言いましたけど似たようなゲームの中に出てくる敵の名称が屍人なんすよ。はっきりとした名称知らないのであたしは屍人って呼んでるだけです」
「なるほど、ではとりあえず屍人と呼称します」
「了解」
そう言うとあたしと四方田さんは千明ちゃんの悲鳴が聞こえた今の方へ走って行った。