どこから現れたのか、居間に行ってみると数人の屍人が千明ちゃんの前に立っており今にも襲い掛かろうとしていた。あ、鍵かけた記憶ないから普通に玄関か。
はい、どう見ても通報案件です。でもまあ……普通の業務する警官が居ないのよねえ。
「千明ちゃん!伏せて!」
そう言うと銃を抜き、屍人に照準を合わせる。
「……!」
千明ちゃんはあたしの指示通りに速やかにその場に伏せる。
バン!バン!バン!
さっきから思ってたけど、いつも使ってる銃よりも口径が大きいから反動はいかほどか?と思われたけど、久子師匠の下で色々な銃を撃っていたおかげか体が慣れていたようだ。
すべての銃弾が屍人の脳天にヒットすると、屍人が全員その場にうずくまった。
「……ふぅ」
「……アリスさん!横!」
「へ?……おわっ!」
普通に考えれば屍人が入ってきそうな場所は玄関……ぐらいなものだと想定するからそっちに意識を向ければよかった。でも四方田さんの声で振り向いた先にはどっから入って来た?とツッコミを入れざるを得ない方向からあたしに向かって屍人が走って来た。
……ヤバい、左から来る屍人との距離は1メートル……捕まれる前に銃を向けて撃つ……間に合うか?四方田さんは……まだ銃を取っていない、背後には千明ちゃんが居て回避するのは不可能……投げ飛ば……。
バン!
「ほぁ!?」
玄関方向から銃声が轟く。その銃弾は屍人の脳天を打ち抜いた。
「……大丈夫か?」
そこに居たのは……四方田さんのお父さんである、忠男さんだった。
「ええっと……まあ大丈夫です。ただ一言だけ……どこ行ってたんすか!」
「すまねえな、待ってる間物音がすると思ってよ、見てみりゃ化け物どもが良く分からない物を作ってやがる、まあ戦うことは無かったけどよ。で、帰ろうとしたら道が複雑になっちまって迷っちまった」
「なる……ほど」
そりゃ本家でももはや道とは呼べん道を歩いて行ったもんだし、村の人ですら迷うのも無理ないか。
「それで家に着いてみればここも繋がっちまってるしよ、さっきの化け物もどこから現れたか分かりゃしねえ……ここも危ないだろ?どうするよ」
「……そうっすねー」
ここまで展開が早いということは、今取るべき手段はラスボス討伐だ。なら行くべき場所は一つだけ……でもどう行けば良いのか分からん。
本家だと最終決戦で戦う堕辰子は祭壇で復活したはずだ。その祭壇に行けばとりあえずラスボスとそれを復活させる修道女もいるはずだ。
「あの……いくつかお聞きしたいんすけど」
「なんだ?」
「この村、愛我村には独特な宗教があると聞きました。愛我教でしたっけ?」
「あ?違うよ。この村が信仰してるのはマナ教だ」
「……え?マナ教?」
おいおいおい、何処が愛我教だよ、全然違うじゃん。
「まあこの村独自で周辺には一切布教してないし、俺も信仰してないから詳しくは知らんが。この村ではマナ教……漢字で書くと愛教と書く」
マナ教……漢字は違うけどマジでサイレンなんだが?……まあいいけど。
「その宗教がどうしたんだ?」
「……信じないと思いますけど、今回の事件、そのマナ教の信仰対象である神様を蘇らせる儀式が失敗したことで起きたものだと思われます。で、事件を解決するには……」
「その儀式を止める?」
「いえ、その神様を復活させたうえで殺すんです」
「神様なんだろ?殺せるのか?」
「大丈夫です……多分」
何か忘れてる……殺すには何かギミックが必要なんだけど……忘れた。まあサイレンでも一人のキャラがやってるわけじゃなくて、色んなキャラが意味不明な行動でそれを成し遂げてるし……何とかなるんじゃね?
「そうか……まあいい考えてる暇はないだろ?ここも危険なんだ、行動に起こそうじゃないか。何処に行けばいい?」
さすが元自衛官、危険だと分かってるはずだけどそれしか選択肢がないのならその目的を達成するために早速準備を開始する……四方田さんもこれを見てきたから指示を受けてからの速さが早いのか。
「……場所をあんまり覚えてないですけど、異変が起きる直前にこの村の村人が行っていた儀式を行う……場所、祭壇って言えばいいですか?そこまでの道のりは分かりますか?」
「普段だったら分かるんだけどな、ここまで村が増築されちまうと道がなあ……」
「……方向は分かりますか?方角が分かれば壁等を破壊して無理やりにでも……いや、違うな」
「何がですか?」
「もし……もし仮にこの増築が祭壇を中心として作られているのなら方角さえあってればどう歩いても祭壇に行けるのでは……と」
「なるほどな。それにもし嬢ちゃんの話が本当なら……敵は……あいつだな」
「誰ですか?」
「……修道女?」
「知ってるのか?」
「いえ、宗教絡んでるのでただそうかなあ……って、名前知りませんけど」
「比丘真子だ。さっきも言ったが、俺はこの村の出身だがどうもあの宗教は好かんでな、俺は信仰してこなかった。それにあの修道女の比丘もだ、俺が子供の頃から居るような気がするが……見た目が変わらないからどうも胡散臭くて不気味でな、あいつが今回の事件の黒幕なら俺からすれば納得だ」
「なるほど」
比丘……本家の名前は……うん!覚えてない!ていうか忠男さんの口ぶりからするとその修道女ももしかして……不老不死か?本家でもそうだったけど。
「じゃあ行くか……家がこうなってるんならもう戻っては来れないな。好きな武器と銃弾を持ってってくれ」
「ういっす!」
「はい」
そう言うと約十分間の戦闘準備時間に突入した。
……でもあたしにやることないんだけどねえ!持ってる銃も四方田さんのだし、銃弾も補充する必要は無い……というより補充する術がない!……まあ、ナイフやら農耕具やら武器になりそうなものはあるけど……駄目だ。いくらなんでも使い慣れていないものを実践に投入するわけにはいかないから今回は四方田さんの準備完了を待とう。
……十分後。
「じゃあ行くか」
四方田さんは貸してもらっている銃をもう一度軽く整備し、忠男さんから弾を貰い、準備を完了。忠男さんもメインで使っている銃を背負った。
「お父さん……どこ行くの?」
「千明……今から非難するんだ。大雨で洪水が起きるかもしれないからね、お姉さんたちと一緒に上の祭壇のある場所まで行くんだ。必要なものを持ってきなさい」
「分かった!」
そういうと千明ちゃんは自分の寝室?からぬいぐるみを持ってくると準備を完了させた。なるほど、まあ、確かにさっきから小雨は降ってるけどそういう理由で連れ出すわけか。まあここに居ても危ないしね。
「それ抱いて眠るの?」
「そう!」
……可愛い。
「じゃあ行くか。つっても向かうはこの建造物の最深部……ってことは、玄関から出ても意味は無い……最後の化け物が現れたのはそこからだったな、なら逆にそこから行けば近道になるだろ」
そう言うと忠男さんは玄関ではなく、最後の屍人が入って来ただろう、家の台所側にぽっかりと開いた穴を覗き、銃を構えつつ侵入した。
「じゃああたしたちも行きますか」
「はい」
「千明ちゃんあたしたちに付いて来てね」
「うん!」
あたしたちは忠男さんを追うように、穴から違法建築の内部へ潜入を開始した。