バン!バン!バン!バン!
「おらあああ!来るなら来いやあ!」
家を出てから数十分後、今どのへんなのか分からないけど、順調に進んでいるはずだ。
先ほどから少しづつ屍人が増えてきてるから祭壇に近づいてはいるのだろう。
だけど、本家とは違い、あたしには銃と十分すぎるほどの銃弾がある。つまり、隠れてやり過ごす意味は無い。次々と銃弾を脳天に叩き込めば、もれなく屍人たちはうずくまっていくのだ。
「はぁ……はぁ……忠男さん、一応聞きますけど。近づいているんすよね?」
「問題ない、方角的にはあってるし。いくら外が見えない状態とは言え、道に覚えがある。順調に近づいてるはずだ。本来なら……あと数分……ってとこだな」
「オッケす」
まあ歩いて数分ってことは数百メートルぐらいはあるわけで、そこら中に壁やらが乱立してる以上目視は出来ないか。
なんとか、あたしでも分かる……目印でもないっすかねえ。
……その時だった。
「……ん?」
「どうした嬢ちゃん」
「……何か聞こえません?」
あたしの耳が良いのか、それとも偶々か、何処からか音楽が聞こえてくる。でもそれはあの時の儀式で聞いた音楽じゃなかった。……ピアノ?それとも……オルガン系?に似た音で奏でられた音楽だ。
「……確かに聞こえるな。しかも祭壇の方からだ。……嬢ちゃん、どう見る?」
確か、本家だと修道女が音楽を奏でた後に……女の子が生贄になって堕辰子が復活するはず……同じ展開なら……誰かが生贄になって今まさに復活しようとしている?でも本家でも神代みやこ?じゃないと復活しないよね?なら今祭壇に居るのは……誰ぞ?
まあ……行けば分かるか。
「恐らく神の復活の儀式が始まったと見るべきでしょう。急ぎましょう!」
「でも復活してから倒すんだろ?なら急がなくても良いんじゃねえか?」
「……いくら神でも自分が殺されるってわかってたら逃げ出したくなりません?復活して時間が経てばたつほど。こう言っちゃなんですけどこう言う場面で殺せるチャンスって復活直後だと思うんすけど」
「……なるほどな、確かに復活直後の周りの状況が理解できてない状態なら人間でも殺せるチャンスはあるか……頭いいな嬢ちゃん」
「どうも」
言っておくけど、あたしはシステム的にとか流れ的に許されない変身中の攻撃に一切躊躇しない人間でっせ?まあ以前何度か変身中に攻撃できなかった時あるけど、あれは躊躇しなかったんじゃなく観察してただけだから!
「祭壇はもう近い!行くぞ!」
忠男さんを筆頭にあたしたちは祭壇に急いだ。
「とうちゃ……わーお、こりゃ……凄い」
祭壇に近づくにつれどんどん流れる音楽の大きさが大きくなる。そして祭壇に突入したあたしは驚いた。
今まで祭壇に近づくにつれて狭くなっていた道は一気に広くなり祭壇?というより石で作られた泉を中心として大きな空間が形成されていた。
その泉の近くでは修道服を着た女性がオルガンで何か音楽を奏でている。
そして泉には会ったことが無い高校生?くらいの女の子が寝ていた……いや普通は沈むはずだけども。
そしてピアノが鳴りやみ、修道女が泉の傍に行く。
「……さあ、わが主の復活よ」
……ボン!
次の瞬間、泉に横たわっていた少女は燃え出した。……ほぼ同じ展開だ。
「麗!」
「あ?……お前!」
いつの間に居たのか……というより生きていたのか、愛和の会の幹部!
「おい!」
「あ?お前!生きてたのか!」
「そりゃこっちのセリフだ!あんた撃たれたはずだろ!なんで……」
「詳しいことは知らねえよ。ただ撃たれた後に赤い川の水を傷口から吸い込んだらしくてな、そしたら直ってたよ。後はまあ……色々あってあの麗ってこと色々あった結果だ」
「ああ……なるほど、そう言う……」
……本来の主人公こっちだったかあ。こっちの世界の須田恭也さんはあなたでしたか。あーあ、また主人公あたしじゃねえじゃん。主人公かって思った時には大体ひどい目に遭うし、今回も何かしらひどい目に遭うんでしょうよ……いやだねえ。
「因みに……今燃えて生贄になった子は?」
「
「なるほどね……つまりあの子が儀式を失敗させたのか」
「なんで……知ってるんだよ!」
「こちとら識人やぞ!舐めんな!」
「識人って……本当に意味わかんねえな」
別になんでも知ってるわけじゃない。偶々起きた事件と似たような展開の事件やゲームを知っていただけだ。
「おい二人とも!」
「……っ!」
「……」
忠男さんが声を張り上げる。そちらを見ると燃えている麗さんの上に何かが生まれた。
「キィィィィィィ!」
麗さんの上で生まれた半透明の物体は、胎児のように包まりながら生まれると体を伸ばし産声のように奇声を上げた。その見た目は例えようが無いけど、見たまんまを素直に言葉するなら……何か知らの昆虫だ。
堕辰子……だったっけかな。あれも虫みたいだったなあ。
「
あ、違いました!こっちではちゃんとした名前がありました!
「比丘!」
忠男さんが修道女に銃を向けた。
「前々から怪しいとは思ってたんだ!これで化けの皮がはがれたな!」
「……おかしい、これでは復活とは言えない!」
「……なに?」
忠男さんの呼びかけにも一切見向きもせずに修道女は堕慈子を見ている。
……ああ、そりゃそうか。本家でもこの状態は完全復活じゃない。確か、神代美那子の血液を須田君に与えたから不完全状態での復活になったはず。
今回の復活でも不完全状態なら、あの麗ちゃんの血液がこの……この……こいつの名前なんだ?
「あんた……そういえば名前聞くの忘れたわ」
「……篠原、篠原須々
「ふーん」
「なんだよ」
「なんでも」
「比丘ああああああ!」
ガチャ!……バン!
「え?……忠男さん!?」
「きゃっ!」
忠男さんが堕慈子を見ていた修道女を打ち抜いた。
……まーじか。やっちまった。
高川先生の時も思ったけど、四方田家はあれですか?頭に血が上ると状況関係なく指示のあるなし関係なくトリガーハッピーになるんですか?
「……なんだ、撃っちゃまずかったか?」
「いや……うん……多分?」
「なんだ?多分って」
いやあね?本家の堕辰子ですとインフェルノに行って名前忘れたけど修道女が生贄にならないと完全復活しないんっすよ。
今の状態だと不完全でしょ?ならそこで倒れている修道女撃つのは……多分まずいんだよなあ……まあ言っても分からないと思いますけど!
「キィィィィィィ!」
その時だった。
生贄を殺されたことで怒り狂ったのかは定かでは無いけど、いきなり堕慈子が暴れ始めたのだ。
いやいやいや、肉体はまだそこにありますよ?確かに生贄って生きてる贄とは書くけども別にご存命でなくても……あ、体に損傷があると駄目なパターン?なら無理か!
ガン!バキっ!ドーン!
「おいおいおい!」
堕慈子は暴れ出すと次々と祭壇回りの壁を破壊しだした。
「モウスグシュウカクダ」
「マッテナサイ」
「……ぬおっ!」
しかも堕慈氏が破壊した壁からは次々と屍人が現れる始末だ。これでは堕慈子を倒すなんて無理だ。
「嬢ちゃん!どうす……うおっ!」
「忠男さん!?」
「キィィィィィィ!」
忠男さんがあたしに指示を受けようとした時だった。堕慈氏が忠男さんの下へ突っ込んでいく。
「……神だか何だか知らねえが!」
ガチャ!バンバンバン!
「俺にとっては化け物だ!」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
忠男さんが堕慈子に向かって銃弾を放つ。だが、不完全だからか、そもそも存在の次元が違うあれなのか、銃弾は堕慈子をすり抜けていった。
「キィィィィィィ!」
「なっ!」
ガチャン!
堕慈子も忠男さんに触れられないと見るや急上昇した。そして忠男さんのちょうど真上の天井を破壊する。
ガラガラガラ!
「忠男さん!」
忠男さんは堕慈子に襲われた際に回避をしてしまった影響で天井から落ちる板や石を回避できなかった。そのまま忠男さんは瓦礫の下に埋まってしまう。
「まずい!まずいまずいまずい!」
「お父さん!」
「へ?……千明ちゃん!?」
そういやいたのすっかり忘れてた!
「……」
あたしは千明ちゃんの下へ走り始める。
現状、このまま堕慈子を討伐するのは不可能だ。一回状況を立て直さないと。ならまずは千明ちゃんと四方田さんと一緒にここから脱出するのが吉。
「四方田さん!計画変更です!一旦退避!」
「でも……お……忠男さんが!」
「そんなこと言ってる場合ですか!魔法使えるんですか!?今のあたしらで忠男さんが助けられるとでも!?」
「……そう……ですね」
四方田さんは銃を担ぐと、あたしの下へ駆け寄ろうとした。
「キィィィィィィ!」
堕慈子は相変わらずその辺を暴れまわっている。よし、そのまま適当に遊んでなさい!倒すのは後にしてやる!
「キィィィィィィ!」
バキン!ドーン!
だが……今度はあたしの運が悪かった。
千明ちゃんまで数メートルの所で堕慈子が千明ちゃんの頭上の天井を破壊したのだ。
「マジか!」
落下物が千明ちゃんに向けて落ちていく。
「くそがあああ!間に合ええええええ!」
……ダッ!ザシュ!
「……え?……アリスお姉ちゃん!?」
「……ゴホッ!だい……じょう……ぶ?」
千明ちゃんに落ちるはずだった板材の破片は……無事にあたしの背中に刺さり、胸を貫通した。え?なんで千明ちゃんを抱えて回避しなかったのって?出来るわけないでしょ、だって破片の数が分からない以上、回避先で当たっても意味ないのよ。なら壁になった方がまだ千明ちゃんに当たる確率が少なく済むでしょ。
ていうか……あーあ、何でこんなことになるのだろうか。毎回毎回そうだ。主人公ばりの活躍が出来ると思ったら大抵死にかけるし、ワクチン作るためにわざわざウイルスに感染するし、ついてないな……あたし。
つーかあたしもあたしでなんで助けたんだよ。痛いのが嫌なら死にかけるのが嫌なら動かなければいい。……でも無理なんだよなあ。だってあたし主人公だもん。この事件の主人公はあの篠原かもしれないけど。
でも全体の主人公はあたしなんだよ!それにここで千明ちゃんが死ぬと、元の世界に戻れなくなる。そうなると龍炎部隊に入る未来も無くなるわけだ。それは困る。三穂さんも他の部隊の人も四方田さんは絶対に必要な隊員だって目をしてる。
なら千明ちゃんだけは絶対に助けないといけないんだ。
「アリスお姉ちゃん……お姉ちゃん」
なぜだろう。以前にも腹が貫通したことあったけどその時よりは痛みがない。あの時はふいにぶっ刺されたから?今回は自分の意思だから?それともあたしが強くなったから?……分からん。
というか、千明ちゃんにあたしの血が付いてるな……ごめん。
「アリスさん!」
四方田さんが駆け寄る。
「み……三穂さん」
「はい!」
「作戦……変更です。千明ちゃんを連れて……逃げてください」
「でもそれじゃアリスさんは!」
「あ……あたしは良いんです。今は千明ちゃんだけを守り抜けば……多分ですけど何とかなる……はずです」
「でも!」
「……三穂!神報者付きとして命ずる!四方田千明を保護して村の外まで連れていけ!」
「……!……了解しました!」
そう言うと四方田さんは千明ちゃんを抱えると外に向けて走って行った。
……これでいい。
「キィィィィィィ!」
きいきいきいきい……うるっせえんだよ!
今四方田さんの下へ行かれては困る。普段なら拳銃で護身が出来るだろうけど、護身のための拳銃はあたしが持ってるからだ。
……ならやることは、一つ。
ガチャっ!
幸いあたしに刺さったのはでかい塊ではなかったので体制を変えることは出来た。だから堕慈子に向けて銃を向ける。
「おら、こいよ見た目昆虫野郎。あたしがまだ生きてるぞこらあああ!」
バンバンバン!
「キィィィィィィ」
堕慈子が銃を撃ったあたしに向けて突進してくる。
こいつ……脳みそ鶏か?さっき忠男さんはそれ攻撃できなかったじゃないか。まあいい時間が稼げれば……あたしの仕事は完了だ。
え?死ぬのが怖くないのかって?
大丈夫!あたしは主人公でっせ?ここで死ぬわけないという主人公補正を信じようではないか!……物語によっては途中退場とかありますけども。
「キィィィィィィ」
堕慈子が突っ込んで来る。
「さあ!こい!昆虫野郎!」
堕慈子を誘い込む以上に銃を撃つ理由がないので銃で狙うのを辞める。
……そして堕慈子があたしに触れる数秒前、触れないということは知っているけど何となくファイティングポーズを取ってみた……意味は無いけど。
だけど、堕慈子があたしに触れる瞬間。
脳内になのかこの状況では判別不可能だったけど、何処からか……女性の呪文を唱える声が響いた……気がした。
『
その瞬間……何かが起きた。