……バン!
「ぬおっ!……え?」
銃声が……轟いた。銃を撃ったのは……何とあの追いかけて来た警察官だった。
「がっ……くっそ……ああああああ!」
銃弾が命中した篠原はそのまあ崖の下に落ちていく。
……え?ちょっと待て、ここは?
気が付くと、あたしは祭壇ではなく……何故か最初に化け物と化した警官と対峙した空き地に居た。
「イヒヒヒ……無駄な抵抗はやめなさい」
……何が……起きているんだ?つい数秒前まであたしは祭壇で堕慈子と対峙していたはずだ。なのに今は空き地……しかも状況的にサイレンが鳴って異界に取り込まれた直後に見える。
思えば堕慈子と接触する直前、何処からか女性の声で何かしらの呪文を唱える声が聞こえたような気がするけど、まさか時間を巻き戻す呪文か何か?でもステア時代でもそんな呪文知らんし、習った覚えないぞ?
ていうか、時間が撒き戻っているのに何であたしは記憶を保持しているんだ?分からん。
「……え?……あれ?」
四方田さんは何故か戸惑っているように見えるけど、恐らく前回とは違い撃つ前に壊れた銃に気づいているのかもしれない。
……そもそも本当に時間が撒き戻っているのか?……確かめる方法は一つだな。
……スッ、カチャ。
あたしは銃をホルスターから抜き取ると、ハンマーを確かめた。前回、撃った時にハンマーは千切れ飛んだはずだ。警官に向けて撃った時に吹っ飛んだ、ならまだタイミング的にまだ撃ってない……ならハンマーはついているはず。
「……わお、マジかよ」
なんとハンマーはついたままだった。つまり本当に時間が撒き戻っている証拠だ。
なら……どうする?……いや、答えは一つだろ?
「四方田さん!」
「え……はい!」
現状、あたしの銃は使い物にならない。ならこの時点で四方田さんから銃を借り、この警官の屍人を即座に鎮圧すればいい。
「あたしに銃を貸せ!そして一発奴に牽制射を!その隙にあたしが奴を仕留めます!」
「……分かりました!」
四方田さんが拳銃をホルスターから抜き取るとあたしに投げ渡す。そして同時に狙撃銃を警官屍人に構えた。銃身が曲がっているはずだから当たることは無いだろう、ただあたしが接近戦を仕掛ける前に数秒だけでもヘイトを四方田さんに向けるには十分だ。
バン!
「がっ!」
「……へ?」
四方田さんの放った銃弾は何と警官屍人に命中した。
……あれ?なんで当たった?確か銃身が曲がっているから照準通りに撃ってもズレるはず……あ、まさかズレる分だけ修正した!?……そんなことできる普通!?どれだけズレるか分からないのに!?天才か!
四方田さんがここまでやってくれたんだ。あたしだってやらないとね!
ガッ!カチャ!……ダッ!
あたしは投げられたM1911を受け取るとスライドを動かし装填する。そして銃弾が命中し、よろけた警官屍人に向かって走り始めた。
「イヒヒヒ」
この警官屍人には目が付いているのか……確か本家だとちゃんと見えているはずだけど、警官としての本能が銃を撃った四方田さんがあたしより脅威が高いと判断したのか……まあ、それで接近戦に持ち込めるなら良いんだけど。
「こっちじゃボケぇ!」
「イヒ……ヒヒヒ」
あたしの叫び声を聴いて屍人がこちらを向く。屍人まで一メートル、ここまで近づければこちらの間合いだ。
「おせーよ」
がっ!……ドン!……バン!バン!
屍人が右手に持った拳銃をあたしに向けようとするが、それを右手で防ぐと飛び上がり、膝蹴りで屍人の顔面を蹴り上げた。同時に腹部と頭部に一発づつ銃弾を撃ち込んだ。
「……キィィィィィィ!」
銃弾を撃ち込まれた屍人はその場にうずくまった。堕慈子と同じような悲鳴出すんじゃねえよ……あれうざんだよ。
……完了だ。
「……ふぅ」
何とか前回倒せなかった屍人を倒すことに成功するが、問題はここからだ。これからどうするべきか……ただやるべきこと、倒すべき敵、行くべき場所はもう把握している。なら速攻で動くべきだ。
でもまずは最低限、この時間帯だとまだ学校に居るであろう千明ちゃんを回収してからじゃないと意味が無い。あの子は生き残るのが確定してるんだ。結末をある程度把握したあたしが助けないと。
「四方田さん……まずは……がっ」
「お前たち!大丈夫か!」
何はともわれ、まずは学校に向かおうとした時今となれば聞き馴染んだ部類の声が聞こえてくる。
……忠男さんだ。
「あー……えっと……大丈夫です」
「……」
「そうか……ここは危険だ。一旦内に来い」
「え?でも……」
あたしは四方田さんを見た。もし……もし今回、銃の破損が無かったら四方田家に立ち寄る理由がない。そのまま学校に行って千明ちゃんを助ければいいだけだ。
「アリスさん、一旦行きましょう」
「……あ、はい」
何か考えがあるのかな?まあいいや。
あたしと四方田さんは忠男さんについて行くことにした。
……十数分後、あたしはまだ違法建築の一部になっていない四方田家に到着すると、中に入った。
「くつろいでくれ」
そう言うと忠男さんは前回と同じように武器を仕舞う。
「それと……嬢ちゃん」
「……はい」
「銃、見せてみろ」
「え?」
「……分かりました」
四方田さんが素直に持っている銃を忠男さんに見せる。
「……何だこりゃ、見た事がねえな。それに……銃身が少し曲がってるじゃねえか!よくこんな状態で命中できたもんだ」
「え?……えええ!?」
嘘でしょ!まさか四方田さん、銃身が曲がってるのを知ってあの狙撃をしたんですか!?でも……四方田さんはあたしと違って時間の巻き戻りの記憶を保持していないでしょ?一発も撃ってないからどれくらいズレるか知らないで当てたってこと!?……マジで天才か?
「まあ……運が良かったんです」
「そうか……だが二度と使うなよ?いくら当てられるとはいえ、正常じゃない銃なんだ、いつ暴発するか分かったもんじゃない」
「分かってます」
「そういえば……何処かで会いました?」
「いや?初対面だろ?俺は昔ならこの村の外にも行ったことがあるが、子供が出来てからこの村から出たことは無いしな、嬢ちゃんみたいな服装の人間がこの村に来たんなら目立つし、俺も知ってるはずだ。俺は嬢ちゃんを見たことが無いよ」
「そう……ですか」
「……?それとも一方的に嬢ちゃんが俺のこと知ってるとかかい?」
「いえ……多分気のせいです」
「そうか」
多分、忠男さんは記憶を持っていない。持ってるのは現状あたしだけか、ならさっさと始めようか。四方田さんにとっとと忠男さんの銃を持ってもらって、千明ちゃんを助けに行こう。
これは……普通の攻略じゃない。イッツ……RTAの始動じゃ!
「そういえば……千明、遅いな」
「む、娘さんですか?」
「ああ、小学生なんだがもう帰ってきてもおかしくないんだが……おかしいな」
「外にあんな化け物が居るんです。学校で何かあったのでは?私たちが迎えに行きましょうか?」
「……そりゃ助かるが……学校までの道分かるのか?」
「ここに居る三穂さんは一度この村に来たことがあるんですよ!だから道は分かるはずです!……ね!三穂さん!」
「はい、大丈夫です。それと……私の銃は使えないので予備の銃か何かを渡してもらえると助かるのですが」
「ああ、別に構わねえ。ちょっと待ってな」
そう言うと忠男さんは武器ロッカーから予備の銃を出し、四方田さんに渡す。
あたしも本気を出す準備をしようか。帽子を一旦取り、髪を結ぶ、そして帽子を被り直すと、いつものルーティンのように顔の前で手を合わせ、深く深呼吸を数回。
……スゥ……ハァ……スゥ……ハァ……カチッ。
脳内で何かが切り替わる。……よし、いつも通りだ。
「じゃあ行ってきます」
「ああ、頼んだよ」
あたしは四方田さんを連れて、四方田家を出ると学校に向けて歩き出した。
さあ、RTA……リアルタイムアタックの開始だ。