「アリスさん!……アリスさん!」
「……なんですか」
……ギュっ!
「にゃっ!」
あたしの後を追ってきた四方田さんが急にあたしに抱き着いた。そして背中やお腹を丁寧に触りながら調べてくる。
……男や天宮さんにされるのはあれだけど……やはり三穂さんと同様、女性に触られるのは良いものだ。
「……何がしたいんですか?」
「アリスさん」
「はい」
「私の最期の記憶ではアリスさんは最後にお腹を木材が突き破ってたはずでは?なのに今は治ってる……どころか、最初から刺さって無かったかのようです」
「……はあ……ん?ちょっと待って、今最期の記憶って言いました?もしかして……堕慈子のことも?」
「ええ……覚えてます」
……なるほど、記憶を保持しているのはあたしだけは無かったようだ。忠男さんはあたしのことを覚えてなかった……つまり記憶は保持していない、つまり現状記憶を保持しているのはあたしと四方田さんだけか。
……あれ?四方田さんの銃って銃身曲がってたよね?
「あの……あの銃って銃身曲がってましたよね?なんで当てられたんですか?」
「前回……って言えばいいんですかね?あの時にどれくらいズレるかは把握していたので、それを今回修正しただけです」
「……な、なるほど?」
つまり一発撃ってズレたのを見て、ズレた分を把握、しかもその修正した射撃を使うかもわからんのに頭に入れて、いざ使うってなった時に即座に修正込みで撃ったと……マジもんの天才じゃん。……やっぱ龍炎部隊に居るだけあるわ。
「それで、アリスさんはこれからどうするんですか?」
「……」
正直、時間が巻き戻ったという情報を他人に言うべきかと悩んでは居たんだよ。たいていの場合、『何言ってんだ?こいつ』的な目で見られるのがオチで未来を変えようとしても失敗するのが普通。
でも記憶を保持しているのがもう一人居たら?事情を知ってる人間がもう一人いるならやれる作戦の幅が一気に広がる。
それにここ来たなら四方田さんにこれからの計画は話そう。現状、龍炎部隊の隊員で全ての展開を知ってる四方田さんなら信頼できる。
「四方田さん……現状あたしが知ってることと、起こりうるだろう展開、そしてそれを踏まえた作戦を言います」
あたしは十分かけて四方田さんにあたしが知ってることを伝えた。
旧日本である意味伝説になっているサイレンというゲームのあたしが知ってる限りのシナリオ、そしてサイレンとこの現状の違い、ラスボスである堕慈子を倒す方法などをだ。
「なるほど……となると……父さんがあの場面で修道女を撃ったのは最悪の展開ですね」
「そうなんですよ」
「それに……堕慈子を倒すには、堕慈子とは別のこの村に封印……されているかは知りませんけど、その存在を開放する必要がありますけど……それはどうします?」
「……愛我村の学校に何かしら資料があるんでは?それか知ってる人間に聞くかですね、高川先生とか?」
「となると、まずは……」
「はい、まずは学校に行って千明ちゃんを助けます。最優先はこの時代の四方田さんが無事に現実の世界に行くことなので」
「了解です」
「それと」
「はい?」
「……いいタイミングなので、ここでロングマガジンとマガジンポーチ貸してください。ここからはスピード勝負です」
「了解です」
四方田さんはそう言うと、M1911のロングマガジンとマガジンポーチを渡してきた。よし、これで暴れられる。
「まあ、何回見てもこれは変わらんか」
二回目とは言え、やはり小学校とは思えない警備の厳重さだ。校舎の窓には板張り、校門には鉄条網……何度見ても学校とは思えない。
「行きましょうか」
「うっす」
そこからは早かった。あたしも四方田さんももう二人が居る教室の位置は把握している。それに時間帯的に二人が屍人に襲われる時間帯のはずだ。
「……四方田さん」
「はい?」
「ここからはスピード勝負です!銃弾の心配がないならいつも通り!突っ込む!」
「……了解です」
あたしは階段を駆け上がり、二階へ進んだ。そして手前から二つ目の教室のドアに手を掛けた瞬間だった。
「きゃああああああ!」
教室から悲鳴が聞こえる。
……ぎり、遅かったか。……だが関係ない。
バーン!
あたしは教室のドアを思い切り開けると、中に侵入する。中では前にも見た通り、二人の屍人が高川先生と千明ちゃんに向かっていた。
……さあ、戦闘の開始だ。
ダッ!バン!バン!
「ひっ!」
前回とは違い、四方田さんではなくあたしが突っ込むと、二人の屍人に照準を合わせ脳天を打ち抜いた。……二人の屍人は打ち抜かれると、その場にうずくまる。
……うーん、45口径だから?それともバイオみたいに脳天一発ならやれるのかね?まあいいか。
「大丈夫ですか?」
「え?……ええ。あなた方は?」
「……ちょっと山を散歩していたら道に迷ってしまって、そしたら千明ちゃんのお父さんに助けていただいたんですよ。で、家でお世話になってたら千明ちゃんの帰りが遅いってことで良かったら迎えに行きますよって……それで来たんです」
「なるほど……山の散歩で銃を持つのは普通なんですか?」
「……人によっては?あたしは常に拳銃を持ち歩いてますよ?自衛の為に」
「な、なるほど」
何か前回と話す内容違うんだが?撃った人間が四方田さんからあたしに変わったから?あたしと四方田さん、何が違うってのよ。……これであたしに対する高川先生の印象が悪い方向に行ったらまずいんだが?
「どうします?アリスさん」
「え?ああ、動きましょうか。とりあえずは……高川先生、お聞きしたいことがります」
「なんでしょう?」
「この村には石碑……みたいのってあります?」
「石碑……ですか?」
石碑、サイレンではそれを倒して中の……何かをどうかすることによって封印されている力を開放出来るのだ……まあギミックの一つでしかないけど。それが最初の一手目だ。
「うーん……どうでしょう。私自身、この村の出身ですけどそんな物見た事……」
「あたし!知ってる!」
「え?」
なんとここで千明ちゃんの出番だ!
「付いて来て!」
「え?え、ちょっ!」
そう言うと千明ちゃんはいきなり走り出すと、教室の外へ出ていった。
……やっぱり四方田家の人間だ。必要されてかはともかく、自分にできることがあると分かると周りの意見も聞かずに突っ走る……責任感かねえ。
数分後、千明ちゃんの後を追いかけると校舎裏に来ていた。
「ここ!」
千明ちゃんが指さす。そこを見ると、確かに地面に高さ三十センチぐらいの石碑が置いてあった。
「これが……何か?」
「……」
説明するより見せた方が早い。
あたしは石碑を掴んで……倒そうとした。
「ちょっ!なんて罰当たりな!」
罰当たりか……神を祀るものならそうかもだけど、恐らくこれは神……またはそれに準ずるものを封印しているもののはず……なら罰当たりどころか感謝してほしいレベルなんだが?
……ガコッ!
「おろ……大きさにしては意外と軽い……あら?」
石碑を倒すとそこにあったのは……十センチ?程度の石でできた灯篭だった。
……なるほど、こうなったか。本家だと石碑の中のギミックを解除後に別の灯篭を屍人の拝む順番に灯していくはずだ。
けどこれは石碑を倒すと灯篭がセットになっている。こりゃ有難い。
「さて、火を点け……あ」
あたしは火を点けようとしていつも通りに杖を取り出した。けど魔法が使えないことを思い出し、ゆっくりと仕舞った。
「アリスさん、これを」
四方田さんがジッポライターを渡してきた。
「何で持ってるんですか」
「み……隊長が良く言ってるんですよ。魔法は便利だけど、魔法は杖が無いと意味が無い。魔法が使えないから作戦が遂行不可能になる状況は龍炎にあってはならない。だから常に魔法の代替手段を用意しておくべきだって。だからライターです」
「なるほど」
「それに第一空挺団だっていつもは空挺降下は箒での降下ですが、箒が無い場合でも降下できるように落下傘での訓練も実施します」
さすが日本人と言うべきか、自衛隊は用意周到だわ。
「隊長……第一空挺団」
高川先生が四方田さんの事を訝し気に見ている。
「……あははは、この人、西宮美穂さんは元自衛官なんですよ!家庭の事情で退官しましたけど」
「……なるほど」
あたしはライターを付けると、灯篭に火をともした。弱弱しくだが、灯篭に明かりがともる。
「これに何の意味が?」
「……さあ?」
「灯したのあなたでは!?」
だって本家と展開が微妙に違うんだもの。でもサイレン経験者だったらとりあえずやってみようとは思うでしょ?
てか、何の意味が?全部の灯篭に火を灯すと封印されている神様が解放されるんですよ!……なんて言ったら頭のおかしい人にしか見えんだろ?堕慈子を目撃した四方田さんだからこそ言ったんよ。
「……ねえ千明ちゃん、他にもこれと同じ石碑がどこにあるか知ってる?出来れば全部」
「アリスさんさすがに……」
「知ってるよ!」
「ほう……むしろ何で?」
「麗お姉ちゃんがね、言ってたんだ!『いつかこの石碑を使う時が来るから位置を覚えておいて』って!だから麗ちゃんと遊ぶときは二人で石碑の位置を覚えたりする遊びをやってたんだ!」
「ほう……なるほど」
麗……愛千麗、この愛我村の村長の娘だったか。なるほど、自ら儀式を失敗させてこの事件を起こしたんだ、自分で石碑の存在や伝説等を調べたのかもしれない。でも事件が起きて自分では石碑を使うことは不可能だと分かっていた。だからあえて千明ちゃんにやるべきことを伝えていたのか。
なんで千明ちゃんなん?この村の宗教を一切信仰してない忠男さんでも良かったろ?まあ本人しか真意は分からんか。
「じゃあ……案内してくれる……かな?」
「うん!分かった!」
千明ちゃんは意気揚々に今度は学校の外へ歩いて行った。
「あの……これが何の役に立つんですか?」
「……あの化け物どもの親玉を倒す前準備……ですかね?」
「は……はぁ」
「とにかく今は付いて来てください」
そういうとあたしは銃を構えると、四方田さんと共に千明ちゃんについて行った。