「そういえば」
「ん?なんですか?」
「今言うことではないかもしれませんが、私、実はアリスさんの命の恩人なんですよ」
「……へ?四方田さんが……ってことは……四方田さんがあたしの命を……救った?」
「はい」
「……でもあたし、四方田さんと喋ったり、本格的な任務をするのって今回が初めてなはずでは?」
「ええ。会ったわけでは無いですが、確かに私は一度アリスさんを助けているんです。アリスさんはステア魔法学校に居た頃を覚えてますか?」
「……楽しい記憶もありますけど、消したい大きな記憶もありますね」
「二年生の頃、集団魔法戦闘の演習で闇の獣人と戦ったことがありますよね?」
「え?……ああ、確か……最初の集団魔法戦闘の演習でレクリエーションのつもりでサチとあたしの二人対二年の花組全員でやったときに……闇の魔法使いのシオンと闇の獣人に襲われて……あれ?あれって機密扱いになったはずでは!?しかもシオンと獣人と戦った事を知ってるのって……サチと師匠だけのはず」
「ええ、機密扱いのはずです。ですが、実は私、あの場に居たんですよ」
「え?どゆこと?」
「アリスさん、あの事件で死にかけましたよね?獣人にお腹を貫通されて」
「……そうですよ、まあ痛みでその時のことはあまり記憶なですけど」
「その時、何故か獣人のシールドに何か起きませんでしたか?」
「え?……あ!確か……あたしがなんかの魔法を獣人に撃って……その直後にシールドが割れたような」
「アリスさんが上空に赤い花火を打ち上げたおかげでアリスさんと獣人の位置関係が分かりました。それで私が狙撃したんです」
「…………ああああああ!」
思い出した!そういえばあの時!頬を何かが掠ったような感覚があった気がする!もしかして!
「あの時、あたしの頬を掠ったのって……」
「はい、恐らく。私が撃った銃弾ですね、偶々持っていた聖霊魔法を施した銃弾を持っていたのでそれを撃ちました」
「……はは……あははは!本当だ!師匠から聞いたけど、あの時獣人が倒されなかったら確実にあたしは死んでたって!四方田さん……命の恩人だ!」
「ふふふ、でも別に何もお返ししてもらわなくても構いません」
「え?でも……」
「隊長が言っていました。『将来、アリスちゃんは神報者となる。寿命があり、死ぬ危険がある神報者だ。だから龍炎部隊もアリスちゃんの命を守る存在にもならなければならない。でも対価を求めてはならない、我々は龍炎部隊に入った時点で対価を受け取っているのだから』と、だから私も仕事をしたまでです」
「そう……ですか」
神報者を守るのも龍炎の務め、そしてそれに対価を求めてはならない。龍炎部隊に入った時点で対価を受け取っている……マジで龍炎部隊の人たちは過去に何があったのだろうか。
四方田さんは呪いによって自衛隊を辞めざるを得なかった。じゃあ天宮さんは?冴島さんは?もう何度か龍炎部隊の人たちと会ってはいるけどまだまだあの人たちの事は知らないなあ。知る機会はあるのかな。
ていうかそれを言うと、三穂さんもだ。龍炎部隊の中で唯一の識人、旧日本でのことは知りようが無いけど、何で龍炎部隊に入ることになったんだろうか……いつか……いつか知りたい。
「……アリスさん」
「何ですか?」
「もうそろそろ時間だと思うんですけど」
「え?……ああ、そう言えば」
前回、どのくらいの時間にここに来て、どのくらいの時間で襲撃が起きたのか知らんけど、確かにもうそろそろ襲撃が起きてもいい時間だ。
「……今回は高川先生もいますし、そろそろ居間で待機しましょうか」
「……了解です」
あたしと四方田さんは武器を手に取ると居間に向かった。
「あらアリスさん、どうです?ご飯たべ……」
ガシャーン!
「きゃあああ!」
高川先生が器に盛った料理を見せた時だった。突然、玄関が破壊された。そして同時に二人の屍人が入って来る。縁側からも二人の屍人。そして前回もそうだったけど入り口が無いはずのお風呂場の方からも何故か一人の屍人が侵入してきた。
……おかしくない!?前回は三人程度だったじゃん!二人ほど増えてるんですが!?あれですか?前回ゲームオーバーになった高川先生が生き残ってるから人間探知レベルが上がって本気を出してきましたってか?
まあ、構わんさ!お前たちはのろ……んんん!?
よく見てみると、数人の屍人は何やら見た目が変わっている。本家のように何やら顔面に海産物が……まさか君たち!生き残りの人数に応じて進化するギミックでもあるというのか!?
……まずい、確か本家だと……あれ?大して変わらんような……飛んだり、四足歩行に成ったりはしたけどスピードとか攻撃力とかあんまり変わってなかったような……。
……じゃあ、問題ないじゃん!
「三穂さん!二人の警護を!あたしは全員を掃討します!出来れば警護しつつ援護を!」
「了解」
四方田さんは二人の傍に行きつつ、銃を構えた。
ダッ!
あたしもホルスターから銃を抜くと屍人の群れに突っ込んでいった。
……バキッ!バン!……ビュン!ドン!バン!バン!
まずは一番近い縁側の二人だ。一人を蹴りで吹き飛ばす。そして吹き飛んだ、屍人の頭部に一発撃ち込む。そしてもう一人は鎌を振り下ろしてきたのでそれを避けると、膝蹴りで鎌を吹き飛ばす、そして武器が亡くなった屍人の頭部と腹部に一発ずつぶち込んだ。
「おっしゃあ!次ィ!……やっば!」
玄関組に視線を移した時、玄関の屍人の一人が四方田さんに掴みかかろうとした。
「……っ」
バン!
だが四方田さんは冷静だった。ほぼ零距離と言ってもいい距離だったが、冷静に屍人の頭部に照準を合わせると、一発撃ち込む。撃たれた屍人はうずくまる。
……絶対45口径よりも破壊力あるはずなのに、それを零距離……頭吹き飛ぶでしょ。
「キィィィィィィ」
おっと、まだ玄関組は一人残ってる。
「お前の相手はあたしだあああ!」
ダッ!ゴリッ!バン!
あたしは屍人に飛び蹴りをかます。ただ辺り場所が悪かったのか、頭部……首から何やら音が鳴ったように聞こえた。……多分首折れたかな?まあ死なないんだし……良いでしょ?本人の意識があるのかは知らんけども。……一応頭部に一発撃っておく。
「よし、らす……あ」
今度はお風呂場……だったけど、いくら動きが遅い屍人とはいえこんな狭い家の中で掴みかかるのに時間はいらないのは普通だ。屍人はもうすでに四方田さんまで手が届くところまで来ていた。
「……くっ!」
四方田さんが必死に銃を向けようとするが、四方田さんの銃はライフルだ。つまりこの狭い室内では取り回しが絶望的に悪い、屍人に銃口を向けるのにも時間が掛かる。
「間に合う……か?いや間に合わせ……」
バン!
「キィィィィィィ」
「へ?」
あたしの後方、先ほど玄関から銃声が轟いた。
だが同時に行方不明の銃声によって飛んで行った銃弾は屍人の頭部に命中する。そして屍人はうずくまった。
「…大丈夫か?」
「……遅いっす忠男さん」
そこに居たのは、前回の展開通り、外に出ていた忠男さんだった。
「すまねえ、さっきからよ外から音が聞こえてたから様子を見てきたんだ。そしたら化け物が家の周りを増築してるじゃねえか。まあ戦いはしなかったが、増築しまくって道が分からなくなっちまって、戻るのが遅れたんだ」
「無事で何よりです」
「お父さん!」
「おお、千明。無事に帰ってこれたんだな。……なんで高川先生まで居るんだ?」
「すみません、学校も化け物であふれておりまして、何とかお二人に助けてもらったんですが、生きてる方がどこにもいないので千明ちゃんだけでも一緒に居てあげようと」
「そうですか、ありがとうござます。それで……お二人さんはこれからどうするんだい?そんな戦闘準備をしちゃって」
「え?」
あたしらは忠男さんが高川先生と喋っている間、次の行動目標が分かっているのでそれに備えた戦闘準備を開始していた。
「ああ、今からこの騒動の原因……というか親玉……つーかラスボスをぶっ殺しに行く準備をしてるだけですが?」
「親玉?敵の親玉が分かってるのか!?なら目的も分かってるのかい?」
「はい、この村のマナ教の修道女である比丘って女です。そいつの目的はマナ教の信仰対象である堕慈子を復活させること。まあ、あの化け物たちはその復活の儀式が失敗したから生まれたんですけどね」
「失敗した?じゃあ殺しに行く必要ないじゃないか」
「失敗って言ってもやり直しが出来るんですよ。愛我村の村長の娘、愛千麗の体があれば。その子の体を生贄にして堕慈子を復活させる……それが現在進行形で比丘がやろうとしてることです」
「つまり比丘がもう一度儀式をするからそれを阻止するために今から出陣しようってことだな?」
「違います。儀式を無事に終わらせて堕慈子を復活させるんです」
「ああ?なんでわざわざその堕慈子とやらを生き返らせないといけねえんだ?」
「この空間はまだ実体のない堕慈子の能力によって作られた空間です。あの化け物たちもこの空間も壊すにはいったん堕慈子を復活させて直接殺すしか方法が無いんですよ」
「……そう言うことか。まだ良く分からねえが、要はお前たちの目的はその堕慈子を殺すことなんだな?」
「そう言うことです」
「分かった。俺もこの村の宗教がずっと前から胡散臭いと思ってたんだ。この状況を打開できるんならいくらでも力を貸してやるさ!じゃあ準備しようや……ってお前らはもう準備が終わってるんだな、ちょっと待ってろ、すぐに準備する!」
そう言うと忠男さんは前回同様、もう戻ってくることは無いと持てる限りの武器と弾薬を持ち出し始めた。そして準備が終わると、千明ちゃんの元へ行く。
「千明、良いか?これから洪水が起きるらしい、だから非難するんだ。必要なものを持ってくるんだ!」
「分かった!」
前回同様の説明だ。
さて、あたしも高川先生にある程度説明するか。
「高川先生」
「はい」
「今の説明……内容は理解できました?」
「……正直、あんまり」
「ですよね……なので、あたしから先生にお願いすることはただ一つ。何があっても千明ちゃんの傍を離れないで、一緒に最後まで生き残ることです。良いですか?何があっても身を犠牲にしないでください」
「分かってます、もう決めました。何があっても千明ちゃんと一緒に生き残るって!」
「なら良かったです」
「おい嬢ちゃん!準備が終わったぜ!」
忠男さん、四方田さん、高川先生、千明ちゃん、そしてあたしの準備が整った。
さあ……最終決戦と参ろうじゃないか!
その前にここまで本気モードを持続したことないので、もう一度ルーティンをやっておこう。
……スゥ……ハァ……スゥ……ハァ。
一度目とは違い脳内の切り替わり音はしなかったけど精神統一は出来た。あたしの準備も完了だ。
「行きましょう!」
今までだったら四方田さんか千明ちゃん、忠男さんが先頭だったけど、今度は何故か流れであたしが先頭になってしまった……まあ方角さえあってれば問題無いだろう。
あたしらは前回とは違い、決意を固めて違法建築の内部へ突入していった。