「……スゥ……フゥ……」
四方田家を出て十数分程度、祭壇を目指し道中の敵を掃討しながら進んできた。
前回と同じ場所……かは分からない、けど忠男さん曰く祭壇まであと数分の場所まで来たので一時休憩をすることにした。
すぐに祭壇に行くべき……という考えもある。でも普通のゲームなら儀式を阻止するのが目的だろうけど、今回は違う。あくまで堕慈子が復活した状態で倒す必要があるのだ、儀式が開始する前に突入して何かしらの要因で儀式が失敗するのはまずい。
ならば前回と同じように儀式が開始されるまで待つのが無難……というわけだ。
なのであたしは適当な場所に座り、煙草を吸っていた。
「アリスさん、タバコ吸うんですね」
「……え?ああ……二十歳の誕生日に試しに吸ってみたんですよ。その後はまあ……部屋で嗜む程度にしようかと思ったんですけど……こうなりました」
「ふふ……龍炎の人たちも吸ってます。まあ……やめられなくなりますよね」
「三穂さんは?」
「私も吸ってますよ。狙撃する際、風向きを知るにはタバコの煙が使えますし、狙撃する前に気分を落ち着かせるのにも役立ちますから」
「へー」
狙撃については何一つ知識無いからこう言う情報は面白いな。
「気を付けろよ?それに慣れると、タバコが無いと狙撃できなくなる。それに煙草の匂いですぐにばれるし、明かりが無い森の中だと煙草の先端の火かかなり目立つ」
あたしと四方田さんの会話を聞いていたのか、忠男さんが近くに来た。
「……分かってます」
「それと……アリスちゃんだったか?お前さんの戦い方……どこで学んだ?」
「え?言っている意味が」
「俺だって元自衛官……普通科の狙撃班にいたし、普通科での戦い方も経験している。三穂嬢ちゃんの狙撃技術、戦い方、あれは自衛隊で培ったものだとすぐにわかる。だが……嬢ちゃんの戦い方は俺が知らない戦い方だ」
「あー……あたしに戦い方を教えてくれた人……師匠は元自衛官ですけど、教わったのは受け身とか戦うときの心構えとか自衛隊では教わらない特殊な戦い方とかなんすよ。基本的に戦い方は独学……というか実戦の中で染みついて来たの……かな?」
「ほう?その師匠とやらは……空挺出身とか、レンジャー持ちとかかい?なんにせよ、お嬢ちゃんの戦い方はかなり異質だ、それをちゃんと実践で使えるように鍛え上げたんだ、そのお師匠さんもかなりな実力者なのかねえ」
そういえば、師匠の事もそうだけど、久子師匠の事もあんまり知らんのよねえ。父親が元自衛官で魔素格闘術を発明した。それを師匠と一緒に物にできるようにして久子師匠が受け継いだ。……それぐらいしか知らないな。
……ま、どうでも良いけど。
「さあ……どうでしょうね。師匠がどんな経歴を持ってようが、あたしにとっては武器を使えるように鍛えてくれた人っすから、気にしないだけですけど。今信用できる人なら信用するだけです」
「なるほどな……所でいつまで休憩するつもりだ?」
「ああ……もうそろそろ始まってもおかしくないんだけどなあ……」
……バー♪……ダー♪……バー♪
その時、前回と同じオルガンの音楽が聞こえて来た。
「お?なんだ、この音」
「アリスさん」
「……全員、行動開始。儀式が始まりました」
「「了解」」
ついに始まった。ここからはノンストップ、止まることは無いし途中で作戦変更が出来るタイミングもない。もしこれがゲームなら、ここが最終セーブポイントかな。
あたしは銃を確認すると立ち上がる。
「それにしても……あいつは立派になったもんだ」
「え?……何か言いました?」
「いや?」
……すでに儀式は始まっているからそっちを解決しよう。後でゆっくり聞けばいいか。
あたしたちはそのまま祭壇へ向かった。
「……ここも前回通り……と」
問題なく祭壇までたどり着いたあたしは前回と同じような作りとなっている祭壇を見て軽く安心した。高川先生を助けたり灯篭に火を灯したりとか前回と違う行動をしたのだ、ここにも何かしらの影響があるかな……とは思ってたけど無かったようだ。
そして祭壇の石で出来た池には愛千麗と思われる少女が浮かんでいた。また池の近くでは修道女がオルガンを演奏している。……前回はよく見えなかった(即撃たれたので顔を見る余裕が無かった)けどあれが比丘か。
年齢は……分からんな。本家だと不老不死、それに忠男さんの話だと多分不老不死に近い存在だ、年齢なんて推測する意味は無いだろう。
でもそれだと疑問が残る。もし不老不死ならば前回撃たれても生き返ることが出来たはずだ。時間の巻き戻しが堕慈子によるものなら生き返るのを待てばよかったのでは?なんで時間を巻き戻したのだろうか。
それか違う存在による巻き戻しとか?でも聞こえた呪文……明らかに日本語だった。知ってる呪文のどれとも違う……分からん。
……バー♪…………。
音楽が鳴りやんだ。
「……さあ、わが主の復活です!」
……ボッ!
「麗!麗―――!」
そういえば思い出した。あいつ居たなあ。
「キィィィィィィ!」
愛千麗の上より半透明の昆虫のような化け物が生み出された。化け物は自身を確認すると上空に飛び立ち始めるが、やはり自分が完全復活してないことに気づいたのか、暴れ始めた。
「……おかしい!これでは完全復活とは言えない!」
……でしょうね。
「キィィィィィィ!」
「えっ!……ちょっ!」
堕慈子が比丘の近くに居た……男性に突っ込んでいった。誰だ?ここに至るまでに名前を知るシーンなど無かったからマジで名前が分からん。確か本家だと神代美那子の義兄だったはず……ならあいつは多分愛千家の人間だろうか。
「キィィィィィィ!」
「くっそ!……あっ……うわああああああ!」
堕慈子の突進にぎりぎりの回避をしたのは良かった。しかし避けた方向が悪かった。なんと赤い水が張っている池の方向に避けてしまったのだ。足はまだ地面だったが、上半身は完全に赤い水の上だ。
……ジャッパーン!
「……Oh」
これは予想街……いや、そうでもないか?まあ良いか。
「アリスさん!指示を!」
「……三穂さん!いつでもインフェルノに行けるように準備を!」
「了解!」
「インフェルノ……ってなんだ?」
そんなの説明してる暇はない!
ダッ!
あたしは走ると、比丘の元へ向かった。お兄さんのインフェルノ行きは正直戸惑ったけど、まずは比丘がインフェルノに行かないと何も始まらない。
「ちょっと!何を!」
「あー煩い煩い、黙って……行ってこい!」
「きゃっ!きゃあああ!」
バッシャーン!
あたしは比丘を掴むと強引に池に放り投げた。
そして、篠原の元へ向かう。
「へい!篠原さんや!」
「あ?お前何でおれの名前知って……」
「そんなの……識人だからじゃ!時間がないんだ!はいかいいえで答えろ!燃えた愛千麗と……やった?」
「え?は!?……いややってねえよ!」
篠原の顔がどんどん紅潮していく。あーあ、これはやったな。でも本家だと気絶した須田君に美那子が強引な輸血をしたはずだけど……性行為でも同じなのかな?まあどちらにしてもこいつは必要だ。
「来い」
「は!?ちょっ!」
「三穂さん!先にインフェルノに行ってください!あたしはこいつをインフェルノに送って、堕慈子と一緒に向かいます!」
「了解です……忠男さんと千明ちゃんは」
「任せな!嬢ちゃんたち!お前たちが戻ってくるまではここを守り通す!嬢ちゃんたちは気にせず戦ってこい!」
「……はい」
バッシャーン!
それを聞いた四方田さんは何の躊躇なく池に飛びこんだ。あたしの話を聞いて池の中の先はインフェルノだと確信しているのだろう。だが、あくまでそれはサイレンの場合だ。この世界の池の先がインフェルノに通じている保証はない。
……まあ、ほかに手段無いし、四方田さんから見ればこの世界で死ぬ気だからあそこまでの行動が出来るんだろうね。あたしには無理だ。
……だけどやるしかない。
「おら!お前も行けぇ!」
「ちょっ!ぎゃあああ!」
……バシャ―ン!
篠田も池にぶち込んだ。これで堕慈子完全復活と堕慈子攻略に必要なピースが揃った。
……さあ、最後はお前だ。
バン!バン!バン!
あたしは銃を堕慈子に向けると数発放った。……え?今の堕慈子に撃って意味ないんじゃないかって?そうだよ?ただ前回もそうだったけどあいつは生きてる人間に対して触れないのに一回一回突進したろ?ヘイトをあたしに向けるための必要な作業ですよ。
「キィィィィィィ!」
堕慈子は撃ったあたしをターゲットにしたのか、奇声を上げながら突進してきた。
それを確認したあたしは池のヘリに立ち、堕慈子が近づくのを待つ。
「キィィィィィィ!」
堕慈子とあたしの距離が数メートルまで近づいた瞬間、あたしは重心を後ろに移動させた。……そして池に向かってジャンプする。
「さあ!最終決戦始めようぜ!作品違うけど!一狩り行こうぜ!」
……バシャ―ン!
体が水の感触を伴うと同時に赤い水があたしの体を濡らしていく。そしてやはり多少の恐怖があったのか、体全体が赤い水の中に入り顔も水中の中に入ると目を瞑ってしまった。
だがその刹那、あたしの意識は一瞬だけ消失をした。