……うわぁ、改めてみると……ほんとにきもいな!
半透明だったときは、皮膚?の感じとかは余り見えなかったけど、こうやってしっかり見えるようになるとマジできもい!ぶよぶよな皮膚、アリ?みたいな下腹部のふくらみ、それに比べて胴体はかなり細いけどちゃんと腕まで生えてらっしゃる。
羽も一応生えてらっしゃるけど、空中に浮かんでいるのに羽が動いてないから単なる飾りなのかな?神の力で浮いているとか?分からん。
こいつがもし、一般的な昆虫サイズだったら……いや、あたしは昆虫学者でもなんでもないんだ、興味を示すことは無いだろうね。だとしても半透明から受肉状態になるとここまできもく……嫌悪感が発生する存在になるとは。
「アリスさん!どうします!」
「……」
どうします……って言われても……あ、刀!
少なくともギミックは済ませたんだ。神の力……なのかは知らんけど刀身に白い靄見たいのが出てくるはず!
ガチャ!
刀を抜き、構える。
…………が、何も起きなかった。
本来なら刀身を抜いてある程度経てば白い靄が刀身を纏うはず。一振りごとにチャージ時間は要るけど何度でも復活するはずなんだけどなあ。何も起きないと。
何か……見逃した?やり残したギミックがあるとか?いやいやいや、マジで記憶にないっすよ?とりあえずやるべきギミックはやったはず、これで駄目なら詰みですよ?
「……ちっ!意味ねえのかよ!」
「アリスさん!」
「へ?……うおっ!」
「キィィィィィィ」
ガチン!
堕慈子の右腕?による薙ぎ払い攻撃があたしを襲った。何とか刀で防ぐけど、幸い攻撃事態にそこまでの重さが無い。魔素の筋肉強化を使わなくてもある程度攻撃を逸らすことは可能なようだ。
ていうかこいつ神様なんだろ?物理攻撃じゃなくて神通力……神の力で攻撃してくるんじゃないの?それとも完全復活じゃないからまだ神の力が使えないとか?ならまだ何とかなるか。
「……刀が使えないなら」
カチャ。バンバンバン!
銃を構え、堕慈子の膨らんでいる部分に向けて数発放った。
バチン!バチン!バチン!
「……うっそーん」
弾丸は確かに着弾した。しかし、その音は確実に弾かれたような音であり、着弾点からは何も出血のようなものは確認できない。
「……」
バン!バン!
続いて四方田さんの狙撃銃による銃撃。もちろんだけどあたしの使っている銃と四方田さんの銃は違うし、銃弾も違う。威力、貫通力、ともに狙撃銃の方が高いはずだ。単に皮膚の固さによる問題ならイケるはず!
バチン!バチン!
……という儚い希望は着弾音によって見事に打ち砕かれた。狙撃銃の銃弾ですら堕慈子には何一つ効果がないことがこれで判明してしまった。
「キィィィィィィ!」
ブン!
「くっ!……くそったれ!」
バンバンバン!
バン!バン!バン!
あたしは堕慈子のなぎ払いを避けつつ色んな部位に対して射撃を開始する。それを見た四方田さんも狙撃銃で頭部や腕に射撃を開始した。膨らんでいる胴体よりは狙いにくい、でも見た感じ、胴体よりは細いし、皮膚が薄そうだ多少は効くんじゃないか?……多分。
バチン!バチン!
数発が何とか当たるがそれでも胴体に当たった時のように手応えがほとんどない鈍い音しか聞こえてこない。
……もしかしてだけど、本当にもしかしてだけど。そもそも神様に対して人間の攻撃は全て効かないとかないよね?例え存在している次元が同じになろうが、そもそも神という高次元の存在には人間の技術による武器では一切効果がない……とか?
そういや、日本神話でもそうだっけ。
ヤマタノオロチを倒したスサノオも酒で酔わせたけど、最終的には天羽々斬っていう神の剣で倒したはず。……そうだよな、日本神話ですら神を殺すのは神の武器だ。人が倒したとしてもそれは単純に神の力を借りたに過ぎない。
てことは、刀に神の力が宿らなかった時点で詰んでたってことじゃないか。
「……ははは、じゃあ……もう詰みじゃん」
「アリスさん!」
バン!バン!バン!
四方田さんは諦めてないのか、ひたすら堕慈子を撃っている。だけどどの銃弾も堕慈子に当たってこそいるけどどれも弾かれているし、堕慈子もダメージを受けているようには見えない。
……四方田さん、もう駄目です。時間までにあたしが考えうる準備をして挑みましたけど、結局神に挑むには神の武器が居るんですよ。石の灯篭に火を灯して準備が出来たかな……とは思ってたけど、それでは不十分でした。
つーか、石の灯篭に火を点けたときになんも起きなかった時点で何かが間違ってたんだ。……あの時に気づくべきだった。
「アリスさん!指示を!何か手段は!」
四方田さんはまだこの状態であたしに指示を受けようとしている。……無理っす、いくら識人のあたしでも持ってるのはサイレンの知識だけです。本物の神様と戦った経験なんてないんで、まじで手段がありません。
「……」
気づくと堕慈子がゆっくりとあたしに近づいて来ていた。明らかに戦意を失ったことに気づいたのだろう。両腕を広げてあたしに近づく。
……あたしも屍人になるんだろうか。……ていうかお兄様がこの空間に来た時点で屍人になったのに麗ちゃんの血液を体内に持っていないあたしと四方田さんが屍人になっていないのは何故だろうか。
……まあ考えるのはまた時間が巻き戻った時にでもしよう。
……ああ、こいつ遠目から見るときもかったけど、マジかで見ると本当にきもいな。こいつに抱きしめられたら仮に時間が戻ってもトラウマものよ?
堕慈子まで数メートル。さあ、もう一週か……と思った時だった。
『律鳴』
「……っ!」
前回、時間が巻き戻った時と同じ女性の声が脳内に響いた。
……ああ、また時間が巻き戻る……と思ったけど……違った。
……カタカタカタカタ。
「へ?」
前回と違う。
何かしらの呪文?のようなものが脳内で響いた瞬間、あたしの杖のホルダーが小刻みに揺れ出した。
「……?」
……カチッ、ビュン!
「わっ!」
恐る恐る杖のホルダーを開いた瞬間、中に収納されていた杖が勢いよく飛び出すと、くるくる回りながらあたしと堕慈子の間に飛び出てくる。
そして回転が止まると杖の先端が堕慈子の方向に向く。
「……?」
……何が起きているのか。今まで杖がひとりでに動いたことなど一回もない。それに脳内に響いた呪文を呟く女性の声、あたしはこの世界に来て何年も経っているけど聞き覚えが無い。
何かが起きる……いや起きようとしている。誰が何のためにかは全く分からないけど前回と同じ女性があたしの杖を使って堕慈子に対して何かしらの魔法を使おうとしていることだけは理解できた。
「……」
あたしは静かに浮いている杖を掴み、杖の照準を堕慈子にきっちり合わせる。
……さあ、何が起きる?
『
「……なんて?」
脳内で女性の声が聞いたことも無い呪文を呟いた……その時だった。
杖が光り出した。聖霊魔法の白い色でも闇の魔法の漆黒でもない。例えるならこの色が無い空間に心を穏やかにして安心させてくれそうな太陽のような淡いオレンジ色だ。
そして同時に堕慈子の足元に同じく淡いオレンジ色の魔法陣が現れた。
「……ふぇ?」
……だが次の瞬間。
ドーン!
「キィィィィィィ!」
魔法陣より、オレンジ色の炎が噴き出す。そして、今まであたしたちの攻撃に何一つ反応を見せなかった堕慈子が初めて焼ける痛みかどうかは知らないけど悲痛の悲鳴を上げた。