……バシャ―ン!
「よっしゃ!次のせん……じょう……ありょ?」
意気揚々と次のフィールドに着いたと思ったあたしは目の前の光景に少しがっくりした。先ほどの祭壇に戻ってきているのだから。
……まあ、水面から飛び出た時点で気づくべきだろアホ、と言われればアホで馬鹿なので言い返せない。
「なるほど……戻って……ちょっ!ちょっ!高い高い高い!」
祭壇に戻って来た事にがっくり半分、安堵が半分だったけど、自分がいる場所に気づくと即座に恐怖心が脳を支配した。
勢いよく飛び出たはいい。でもあたしの体は地上からおおよそ三メートルほどの所まで飛んでいたのだ。
え?普通に受け身を取れば良いって?あのねえ……いつものあたしは魔素だったり魔法で着地するのが普通になって、それなしの受け身なんて……ほぼやってないんだよ!
「やっべやばいやばいやばい!ぎゃっ!」
……ダッ!ゴロゴロゴロゴロ!……ガツン!
恐怖心が脳内を支配しても体に染みついた受け身の動きは脳がフリーズしてもちゃんと機能したようだ。あたしは何とか、地面に着いた瞬間に転がり頭を突き出した木材に打ち付けて受け身を成功させた。
「……」
……ポタ、ポタ、ポタ。
どうやら額に直撃したのだろう、顔に水らしきものが流れる感触がある。それに地面に赤い液体が落ちているのも確認できる……ここで初めてあたしは額から出血したと認識した。
……はぁ、あたしは毎回こうだ。敵やラスボスとの戦闘ではほぼダメージを負わんのになぜ環境ダメージは負うのか。
ゴロン!カラン!カラン!カラン!
「……?」
四方田さんも同じように受け身を取り着地したが、どうやら弾薬入れが部分的に破損していたのか、受け身を取った瞬間に何発かの銃弾が転がりあたしの目の前まで転がって来た。
同時に銃弾の弾頭部分にあたしの血が付着する。
「おい!嬢ちゃんたち!うまくいったのか?」
「いやあ……何とかダメージは入ったんですけど……あと一歩の所で……あいつどこ行った?」
「あそこで浮かんでるよ」
忠男さんが指さす。
堕慈子は何故か何もせずに祭壇の高い天井付近で制止していた。しかも戻ってきた影響でまた存在する次元が異なったのだろう、堕慈子は半透明状態だ。半透明状態でも切られた部位、神代魔法で焼かれ焦げた部位は何となくだけど確認できる。
でもあたしたちを見ているように見えるけど何もしてこない。
……なんでだ?ビビった?ていうか、なんでここに戻ってきたんだ?……あー、ここに戻ってくれば少なくともあたしらは干渉できない、この神様?の力が宿った刀が通じるのかは知らんけど、あそこまでは行けない……考えたな。
「……」
ガチャ!バン!
「よ……三穂さん!」
四方田さんが少しよろめきながらも堕慈子の近くに移動すると銃弾を撃ち始めた。
だけどもちろんこの空間では堕慈子に銃弾は通じない。
……もしかしたらもう一度ヘイトを取ってインフェルノに連れ出せる可能性はあるけど。
「キィィィィィィ!」
グルン!グルン!グルン!……ドーン!
「はあああ!?」
撃たれた堕慈子は奇声を上げると、その場で数回旋回すると天井を突き破り空へ向かい飛び立った。
「……逃げんじゃねえよ!虫けらあ!」
堕慈子を追うように穴の下に来る。堕慈子は穴から何処かへ飛ぶ……というよりはそのまま上空へ上昇している。
「……」
カチャ!バンバンバン!
戻って来るか定かでは無いけどとりあえず撃ってみる。
「……」
「……」
バン!バン!バン!バン!バン!
その様子を見ていた忠男さんと四方田さんもあたしの近くに移動すると同じように堕慈子に向けて射撃を開始する。
……でも確実に当たってはいないんだよねえ……。
バン!バン!……カチッ!
「……!……あっ」
銃弾が切れてリロードをしようとした四方田さんだったけど、弾薬入れが破けていたのに気づかなかったようだ。弾が無いことに気づいて少し悔しそうな表情を見せる。
「……三穂さん」
あたしはポケットから先ほど零れ落ちた弾頭にあたしの血がトッピングされている銃弾を渡した。
「……すみません」
四方田さんはそれを受け取ると銃に込める。
「キィィィィィィ」
……バン!バン!バン!
まあ、弾があった所で何一つ意味は無いんだけどね……。
……パリン!
「……へ?」
その時、何もないはずの上空、堕慈子が向かっていた方向の空間の一部から何かが割れるような音が聞こえた。まるで堕慈子がインフェルノの結界を破った時のような音だ。
「……結界?この世界って結界あったん!?」
「キィィィィィィ……キ?」
……ガシッ!
「……!キィィィィィィ!?キィィィィィィ!」
「……あ?」
自分の意思で上空に逃げたはずの堕慈子は割れた結界付近で唐突に止まると、何故か悲鳴を上げながら逃げるように暴れ出した。だがやはり何かに掴まれているのか、その場に固定されている。
「……何が起きてるんでしょうか?」
「あたしに聞かれても」
「キ……キィィィィィィィィィィィィ……」
最終的に長い悲鳴の後、堕慈子は結界の穴?のような場所から何者かに掴まれ何処かへ行ってしまった。
「……解決……したんですかね?」
「……んなこと言われても」
普通ならラスボスを倒す、そして世界に異変が起きて元の世界に戻る……これが一般的なゲームシナリオだ。
……でも、肝心のラスボスは止めを刺す前に誰かに何処かへ連れていかれてしまった。普通に考えれば結界だって魔法陣を使用しての結界でない限り、使用者が解除するか、死ななければ解けないはずだよね?
……じゃあ今結界はどういう状況なん?
……バリバリ……ガラガラガラガラ!
「あー……なるほど?」
突然、結界の穴が開いた部分を中心にして結界が崩れ始めた。
……結界の使用者が結界外に出たためなのか、それとも他の要因なのか定かでは無いけどどうやら結界の効力は無くなったようだ。
……ガガガガガガ!
同時に祭壇回りの違法建築も何故か音を立てている。……多分空間が崩れ始めたせいでこの空間で作られた物も形を維持できなくなったのか。
「……総員退避!」
あたしたちは急いで外へ避難を始めた。
「ハァ……ハァ……ハァ」
空間が崩れ始めて約十分後、とにかく違法建築の内部からは脱出しなければと全力疾走してたけど、ようやく表に出たので歩くことになった。
「嬢ちゃん……やっこさんは倒せたのかい?」
「……すみません、死亡を確認できてないので分かりません。でもあいつが作った結界が崩れ始めたってことは、あいつの力が無くなった……もしくは何らかの理由で堕慈子の影響が無くなった……と見ていいんじゃないですかね?」
「そうか……でもこんな状態じゃ、村には住めないか」
「……」
違法建築が徐々に崩れる今、他の村人はほぼ全員屍人になってしまった。仮に住み続けるとしてもこの量の瓦礫を忠男さんや高川先生だけじゃ片付けるのは不可能だろう。
「でも……忠男さんと千明ちゃんなら別の場所でも生きて行けるのでは?高川先生もいますし」
「……ふふ、そうだな。高川先生がどう思うかは知らねえけど、千明があそこまで高川先生に懐いてるんだったら、一緒に暮らすのもあり……か。ま、後で考えよう。今はこの村を離れ……」
……バン!
「……っ!」
突然の銃声だった。
即座に銃を銃声の下方向に構え、銃声の方角から隠れられる場所に身を隠す。でも、周りは木々や崩れた家ばかりでどこから発砲されたかが分からない。
「……三穂さん!」
「無理です!着弾と発砲音から軽く計算しても最低三百メートル!」
……三百、いくらスコープを付けてないと言ってもそんな狙撃できるか?……いや出来る。確か、陸自でも射撃訓練では三百メートルぐらいだったはず……しかもアイアンサイトでだ。
つまりある程度狙撃銃が扱えるなら三百メートルなんてヘッドショットは無理でも体のどこかに当てる射撃ぐらいは可能のはずだ。
「さて……どうする……」
「お父さん!」
「……え?」
千明ちゃんの忠男さんを呼ぶ、悲痛な悲鳴が周辺に響き渡る。
ゆっくりと千明ちゃんの方を見たあたしは驚愕した。……銃弾は忠男さんに命中していたのだ。