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神?との邂逅編 廃村探索 21

「お父さん!お父さん!」

「…………くっ」


 すぐに倒れた忠男さんの下へ向かう。四方田さんも急ぎ駆け寄って来る。


「忠男さ……あ」

「……?」


 忠男さんの下へやって来るが、すぐにわかった。


 ……助けるのは絶望的だと。


「……先生、千明ちゃんを連れてちょっとだけ離れててください」

「……はい」


 高川先生はあたしの表情から助かることは無いと悟ると忠男さんを千明ちゃんが見ないように少し離れた場所に移動した。


「……アリスさん」

「はい……助けるのは不可能です」


 一般的に銃弾による負傷は二パターンある。貫通しているパターンとしてないパターンだ。


 貫通してさえいれば銃弾は抜けているということだ。とりあえず応急処置として止血処置をし、速やかに医療施設に搬送すればギリギリ何とかなる……まあ内臓が損傷しているとやばいけど。


 じゃあ貫通してないパターンとは……銃弾が内部に留まっているということだ。忠男さんの背中らへんから血が流れているということは背部から銃弾が入ったってことだ。だけど銃弾は表に抜けていない。


 つまり、肋骨などに当たって銃弾の軌道がめちゃくちゃになり、体内で暴れたってことになる。銃弾が骨でバラバラになってしまうともう現時点で出来る対処法が無い。


「……忠男さん」

「ゲホッ。分かってる、何処に当たったのかも体の中がどんな風になってるのかも大体わかった。……すまねえ、千明を呼んできてくれるか?」

「……分かりました。……千明ちゃん!」


 あたしが呼ぶと、高川先生に連れられた千明ちゃんがゆっくりと忠男さんの下へやって来る。


「千明……すまないが、父さんはここまでのようだ。いいか?父さんは母さんの下へ行く、でもいつもお前に言っているように父さんはいつもお前を見守っている事を忘れるなよ?人様に迷惑を掛けない、先生の言うことをちゃんと聞く……分かってるな?」

「……うん」

「そしたら、最後に……幸せに暮らしなさい。……高川先生」

「はい」

「ご覧の通り、俺はもう駄目みたいです。なので……千明の事をよろしくお願いします。最低限独りで生きて行けるようになるまでで良いので」

「いえ、例え千明ちゃんが大人になっても私は面倒を見ます。私も一人になってしまったので、千明ちゃんといると安心するんです。ですから……こんなこと言うのもあれですが、お疲れさまでした」

「そりゃ、良かった。じゃあ、嬢ちゃんたちに話があるのでちょっと離れててくれますか?」


 高川先生が静かに頷くと千明ちゃんと一緒にまた離れた場所に戻って行った。


「まさかここまで来てこんな展開になるとはな」

「……」


 運が悪いのか、それとも所謂歴史の修正と言われる物の力なのか。


 そういえばクレヨンしんちゃんの戦国の映画でもしんちゃんが助けた武将が最後に撃たれるシーンがあったなあ。マニアの話だと、火縄銃の音とは違っているらしく、歴史的に死んでないとおかしいから殺されたとか。


 でも、もしそうなら高川先生も殺されてないとおかしいんだけど……許された?理由は……分からん。


「まあ……いいか、最後に娘の晴れ舞台が見れたんだ。良しとしよう」

「ははは……ん?どゆこと?」

「気づいてないと思ったのか?なあ……千明よ」

「……え?」

「千明なんだろ?」


 ……マジかよ。気づいてたのか。


「えっと……いつから?」

「最初からだよ。俺は父親だぞ?いくら成長して大人になってようが娘の顔を見間違えると思うか?」

「だったら……なんで!」

「迷彩服着てるわ銃も持ってるわ、アリスちゃんから偽名で呼ばれてるわでなんかの作戦かと思ってな。そのままにしといたんだよ」

「あー……なるほど」


 まあ、この格好なら何らかの作戦中だと思うでしょうね。……まあ現在作戦中ではあるけど作戦中ではない……みたいな?


「父さん……あたし」

「おいおい、俺は死にかけ……もうすぐ逝っちまうんだ、思い出話は無しだ。……俺が聞きたいのはただ一つ、千明……今幸せか?楽しく生きることが出来てるか?」

「……うん、幸せだよ?今いるのは自衛隊じゃないけど部隊のみんなは優しいし強いし、自分の能力を最大限に発揮できる場所……かな?」

「そうか……なら良かった。……所で、アリス嬢ちゃんはお前の上司なのか?」

「ううん、上司は別にいる。この人は……司令官の……弟子?今は司令官の下で修業中の人。……でも将来的に私の部隊の司令官になる人かな」

「ふふん!」


 何の意味も無いが胸を張ってみる。


「そうか。アリス嬢ちゃん」

「何すか?」

「……この子は性格的にも大人しいし、自己表現があまりうまくはない子だ」

「え?うーん……そうすかね?」


 この一日、子供の千明ちゃん見て来たけど、素の千明ちゃんは結構活発よ?自分しか知らないと分かるやすぐに皆を案内したり、あんな危険場所でも臆することなく先生の傍に居たりとか……以外に出来る人ですやん。


 父親の前だと大人しかったのかな?


「だが今日の狙撃の腕前を見て分かった。こいつは俺の狙撃の腕をちゃんと引き継いでいるってことをな。だから嬢ちゃんが将来指令の立場になっても心配せずに千明に任務を任せてくれ」

「……ふふ、ははは!」

「何が……おかしいんだよ」

「あははは!ごめんなさい、でも安心してください。四方田さんはね、昔あたしの命を狙撃で救ったことがあるんですよ。だから四方田さんの狙撃の実力はちゃんと把握してます。ですからうちの部隊から四方田さんを外すなんて……ありえません」

「……そうか……なら……安心だ」

「忠男さん?忠男さん!?」


 少しずつ忠男さんの呼吸が小さくなってきていた。さっきまで元気よく喋っていたけど……さすがに限界か。……まあ一般人なら即死、ここまで持ったのが奇跡だよ。


「……千明……忘れるな」

「父さん?」

「どんなに……時が……経っても……母さんと父さんは……お前を……見守って……」


 言い終わる前に忠男さんの目から光が消えた。


「…………サヨナラ父さん」

「……」


 バリバリバリバリ!


「おっと……」


 結界の崩壊がここまで起きている。結構速く走ったつもりだったけど、忠男さんが撃たれたり短いお別れをしたりして時間を使ったからしょうがないか。


 気づくと、先ほど開いていた結界付近を中心として違法建築やら周りの建物が崩壊して何処か空中に重力があるかのように一点に集まって行く。


 どうやらこの空間で作られた物だけじゃなく、結界内のすべてが崩壊するようだ。


 ……どうやら急いだほうがいいらしい。一瞬忠男さんを埋葬するか悩んだが、そんな暇はないらしい。


「急ぎましょう、直にここも崩壊します」

「……」


 四方田さんとしては最低限、父親を埋めてあげたいのだろう。あたしの勘が訴えている、『ここで巻き込まれるのはまずい』と。


「……み……四方田さん!」

「っ!はい!」


 元々タイムパラドックスうんぬんで四方田さんの事を三穂さんと呼んでいただけだ。もう関係ない。


「埋めてあげたいのは分かりますが、今は我々が生き残ることを最優先にしてください!まだ千明ちゃんも高川先生もいるんです!……本来の作戦とは違いますが……まだあたしと四方田さんの臨時作戦は続いてます!」

「……分かりました」

「よし、千明ちゃん!先生!行きます!」


 声を掛け、あたしたちは三人を連れて村の入り口まで走って行った。



「では高川先生、ここでお別れです」

「え?別に良いですけど……お二人は?」

「ちょっと最後にやることがあるのでそれを済ませます」

「でしたら私たちも……」

「いえ、高川先生の役目は千明ちゃんを守ることです。我々の目的にまで着いてくる必要は無いので」

「……分かりました」

「では……これでお別れになります。いつか……いつかまた会いましょう」

「……はい」


 そう言うと高川先生はそのまま千明ちゃんを連れて村の外へ通じる道路を歩いて行った。


「ふー……これで最低限達成しなきゃいけない任務は終了!」

「アリスさん、我々はこれからどうするんですか?」

「……四方田さん、あたしたちが落ちて来た場所……覚えてます?」

「え?……まあある程度は」

「分かりました……じゃあ、そこに向かいながら説明します」


 あたしは最初にこの空間に入るきっかけになった落ちた場所に向かって走りながらあたしの考えを話し始めた。


 戦国時代に飛んでしまったしんちゃん一行は、ひろしやみさえ後からがしんちゃんのいる戦国時代に行くとき、しんちゃんが消えた場所に行く必要があった。


しかも戻る方法も現れた場所に行く必要があったはずなんだ。


 そのルールが今回適用されるかは知らないけど。色々想定外の展開が続いているから最低限あたしたちがこの空間に入った場所に居る必要がある……とあたしは考えたのだ。


「なるほど……確かに理論的ですね。……まあこの空間自体が非論理的ですけど」

「そりゃそうすよ」


 ……まあ、お堅い識人からすると魔法が使えるって時点で非論理的ですけども。


「……急ぎましょう、崩壊が近いです」

「ういっす」


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