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第35話:ドワーフと味噌汁

「渡辺君、出張頼んでもいいかい?」

「いいですよ」

「ナグニの里から君に指名依頼だ」

「ドワーフの村ですね」

 プルミエ王城内・異世界派遣部の事務所。

 渡辺は瀬田とボイスチャットしていた。

「ドワーフたちが君の味噌汁を飲みたいそうだ」

「はい?」

 依頼内容に渡辺は一瞬理解が追い付かない。

「ナグニの里へ味噌汁を作りに来てほしい、との事だよ」

「なんですか、その告られるみたいな依頼は」

 渡辺、苦笑。

「ついでに魔道具の納品と現地での動作確認も頼む」

「っていうか、そっちが本題じゃないんですか?」

「いや彼等にとっては味噌汁が本題だよ」

 どうやら渡辺の味噌汁は魔道具以上の価値があるようだ。

「材料費は会社払いですよね?」

「勿論。領収書は(株)SETAで頼むよ」

「分かりました」

 まあしょうがない行くかと思いつつ渡辺は準備にかかった。


 渡辺はSETAの勤務歴が長く、瀬田との仕事付き合いも当然長い。

 瀬田の魔道具の届け役を務める事はよくあった。

 ナグニの里にも行った事があり、気のいいドワーフたちが美味しいお酒をくれたので、お礼に日本の料理を振舞った事がある。

 以前和食の料理人をしていた渡辺が作った料理は大好評で、ドワーフたちはその中でも味噌汁が特に気に入ったらしい。


 翌日、渡辺は日本のスーパーに来ていた。

 瀬田が広めたので王都にも日本の調味料は揃っているが、気に入ってるメーカーの物を使いたい。

 具材の肉と野菜も日本産を購入。

 こだわりの渡辺である。

「あら渡辺さん、転勤したんじゃなかった?」

 馴染みの店員に声をかけられた。

「はい、異世界に転勤しましたよ」

 いつものクセで営業スマイルになる渡辺。

「味噌汁を作ってほしいと頼まれまして。使いたい物を買いに来たんです」

 と話したところで、店員のおばちゃんは女のカン(?)が働いたみたいな顔になる。

「あらあらそうなの。美味しい味噌汁が食べられる彼女さん幸せね」

 ニコニコするおばちゃん。

 完全に誤解されてしまったようだ。

(…食べるのはヒゲ面マッチョのオジサンたちですけどね…)

 敢えて否定せず心の中でツッコむ渡辺であった。


 食材を揃えて店を出ると、渡辺はスマホの転移アプリを起動する。


 転移先入力:ナグニの里


 以前行った場所なので転送陣まで行く必要は無かった。


 ドワーフの里ナグニは鉱山の近くにある。

 彼等はアーシア人の中でも筋力と器用さに優れているので、鉱山で働く者や、鍛冶職人などが多かった。

「ヨ~イチィ~!」

「待ってたぞぉ!」

「鍋の手入れはバッチリだぜ!」

 到着早々、待ちかねたとばかりにドワーフたちがドタドタと走って来る。

「はいはい。ついでに魔道具の動作確認もしますね」

 苦笑しつつ渡辺はドワーフたちに連れられて厨房へ向かった。


 今回納品の品はざっくり説明すると点火棒チャッカマン系アイテムである。

 百均によくある物と見た目は似ているが、異世界仕様のこちらはもっと高性能。

 魔石が燃料で、炎の温度調整機能つき。

 着火が簡単で高温の炎が出せるので、小物の細工に便利だとドワーフたちに人気の魔道具だ。

「うん、動作問題無いようですね」

 厨房の炉に点火して確認を済ませる渡辺。

 大鍋に湯を沸かしつつ、材料の下ごしらえにかかった。


 野菜の皮を剥き、材料を切る。

 時間短縮のためアク抜きが必要なゴボウだけは水煮を用意した。

 別の大鍋を熱してゴマ油を入れ、野菜を炒める。

 1~2分ほど野菜に油がなじむ程度に炒め合わせ、一旦火を止めて肉を入れて、弱火で炒める。

 肉が鍋にくっつかないように野菜でカバーしながら炒めてゆく。

 2~3分ほど炒め合わせたところで大鍋から柄杓で熱湯をすくって注ぎ入れてゆく。

 表面に浮いてくるアクをすくい取ったら、野菜に味を吸わせる為に少しだけ味噌を入れる。

 具材のダシが出るように数分煮て、具材に火が通ったら仕上げに味噌を入れる。

 この味噌は1種類ではなく、赤だし味噌と白味噌を合わせて使う。


 ドワーフたちが邪魔にならないように壁際に寄り集まり、期待に満ちた目で見ている。

 渡辺は出来上がった具だくさんの味噌汁を器に盛り、別で茹でて刻んだきぬさやを散らし、一味唐辛子をパラパラと振って完成させた。

「テーブルに運んでもらえますか?」

「まかせとけ!」

 ドワーフたちがせっせと運んでゆき、テーブルに並べられたところで味噌汁会(?)開始。


「このスープがうめぇぇぇ!」

「肉も美味いが野菜もスープの味が染みててうめぇぇぇ!」

「このモッチリした食感のイモがいい!」

 渡辺の味噌汁、2度目も大好評となった模様。

 多分3度目もあるんだろうな、と予感する渡辺であった。




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