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第36話:ドワーフが見た日本の包丁

 味噌汁を作るついでに魔道具の納品に来た(という事になっている)渡辺は、ドワーフたちに酒盛りに誘われた。

 彼等が常飲する酒は火酒と言われるくらい度数が高い。

 それでいて味は素晴らしく、長期熟成された酒は舌触りがよく芳醇な香りがする。

 ヒューマンたちからは「呑めば天国、翌朝地獄」と言われているらしい。

 そんな強い酒を呑む事になる渡辺だが、全く動じる様子は無かった。


「お前の為に100年物を開けるぞ~」

「呑め呑め~ヨウイチ~!」

 大ジョッキでゴクゴク呑んでるヒゲオヤジたち。

 ちなみに、ガラスの製法を伝えたのは賢者シロウこと瀬田である。

「はいはい呑んでますよ~」

 渡辺も同サイズのジョッキを手に営業スマイル。

 テーブルに並ぶ料理は酒に合うものを選んで渡辺が作った物ばかり。

「この魚料理、酸味と少しピリッと辛いのが良いな」

「鰯の南蛮漬けですよ。皆さんの口に合うように唐辛子多めに入れました」

「このサクサクした衣がついたのはテンプラか。このタレは普通の醤油より美味いな」

「天つゆというんですよ。出汁と大根おろしを入れてます」

 酒の肴も大好評の様子。

 瀬田が和食を普及させたので、プルミエ国民なら種族問わずメジャーなものは知っていた。

 渡辺が作るのはそれを更にグレードUPした品だ。

「お~ぅ呑んでるかぁ~?」

 もう樽ごといけば?ってくらい呑むドワーフたち。

 次第に顔が赤くなってくるが…

「はーい、呑んでますよ~」

 渡辺1人が顔色に変化無し。


 ………やがて………


 何樽いったか分からないくらい呑んで、潰れてしまうオヤジ集団。

「おや、みんなもう寝ちゃうんですか?」

 いびきの大合唱の中、1人平然と呑んでる渡辺がいた。

 全く酔っている様子も無く、顔も赤くなっていない。

 アルコールどこいった?というくらいのシラフっぷりだ。

「ここのお酒は本当に美味しいですねぇ」

 他が全員酔いつぶれた中、美味しく呑み続ける渡辺であった。


 渡辺の異名【ドワーフ潰しの酒豪】がついたのは、前回訪問時の事である。



 そして翌朝、潰れるほど呑んで寝てケロリと起きるドワーフたち。

 ドワーフ以上に呑んだ渡辺も全く平気な様子で朝から厨房にいた。

「ヨウイチ」

 厨房に親方が入ってくる。

「折り入って頼みがあるのだが…」

「朝ゴハンならもう出来てますよ?」

 ニッコリスマイルの渡辺(嫁か?)

「おぉ~ありがとう! …じゃなくてだな」

 ノリボケツッコミする親方。

「ホウチョウといったか?そのナイフをよく見てみたいのだ」

 真剣な表情になり、親方は言った。

「これですか?どうぞ」

 と言って渡辺が見せたのは、日本の刀鍛冶が作った包丁。


 関孫六と銘が入ったそれは岐阜県関市の刀工が作ったもの。

 渡辺が料理人になった際に師匠から贈られた。

「名剣と同様のオーラを感じる。調理に使う道具でこんなにも見事なものは今まで見た事が無い」

 うーむと唸って眺める親方。

「これを作ったのはジパングの剣と同じ系統の武器、日本刀カタナを作る鍛冶師なんですよ」

 渡辺は簡単に説明した。


 その昔、日本が戦国時代だった頃。

 武田信玄・豊臣秀吉・黒田長政・前田利政・前野長康・青木一重など、多くの武将が佩刀した刀工・孫六兼元の刀。

 時代は変わり、現代では武士はいなくなり、刀は美術品として残るのみ。

 刀工は使われなくなった刀の代わりに包丁を作るようになり、その分野で世界に知られる事になった。


「…というわけで、これには昔の名剣を作った鍛冶師の技術が使われてるんですよ」

「なるほどな」

 異世界の未知の鍛冶技術に興味をそそられた様子の親方。

「ちなみに、プルミエ王が勇者の称号を与えた異世界人セイルは日本刀カタナ使いですよ」

「おぉ、そういえば決勝戦でジパングの剣を使っていたな」

 親方は国営魔道通信の映像を思い出した。

 ドワーフたちには肉眼で視えない速度、獣人ですら見えないほどの素早い剣技。

 スロー再生動画が無ければ何をしたか分からないような速度。

 剣を納めた状態から放たれた技など他に見た事が無かった。

「あの奥義には驚いた。あれが日本刀カタナ使いの技か?」

「抜刀術といいます。鞘から抜き放つ際に爆発的な攻撃力と速度が出る、日本古来の剣技です」

 渡辺は知っている限りで簡単に説明した。

 興味深く聞く親方。

 鍛冶師の武器への探求心が、炉に火を入れたように燃えていた。



 ドワーフたちに朝食を振舞った後、手土産に美酒を貰った渡辺は王都へ帰る。

「また来てくれよな!」

「また味噌汁リクエストするからな!」

 名残惜しそうなドワーフたち。

「こっちに住んで毎日味噌汁作ってくれてもいいんだぜ!」

「あはは、それは奥さんになる人に言って下さい」

 苦笑しつつ渡辺は言った。

 そしてスマホの転移アプリを起動、王都へと帰った。




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