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第37話:王立学園の臨海実習

 季節は春から夏へ。

 異世界アーシアの四季を司る女神は、春のアイラから夏のサーラに交代する。

 濃紺の宇宙に浮かぶ、青く美しい惑星。

 地球に似たそれを見下ろしながら、2人の女神は向かい合う。

 足場など無い星空の中、女神たちは浮かびながら話をしていた。


「じゃあサーラ、後はよろしくね」

 桜色の衣を纏う白い肌の美少女はアイラ。

「勇者や双剣士には精神最適化オプティマイズをしなくていいの?」

 深緑の衣を纏う褐色の肌の美少女はサーラ。

「ええ。しなくていいと思うの」

「シロウのVRの効果でそんなにも強くなるなんて驚きね」

「こちらへ来てから積み重ねるものを、転移前に完成させちゃってるからね」

「では、私たちは様子を見ていましょう」

 そして春の女神は夏の女神に世界を管理する神の力、白い光の玉を手渡す。

 その場に夏の女神を残して、春の女神は幻のようにスーッと姿を消した。



 プルミエ王立学園の生徒たちはクラスごとに交代で臨海実習に出ていた。

 星琉とイリアのクラスもいよいよその時がきた。

 観光馬車でビーチまで来た生徒たちは大はしゃぎである。

 晴れた空の下、凪の海は鏡のように空を映す。

 空と海の境界が、水平線で辛うじて分る程度になっていた。

 砂浜は白く、太陽光を反射するので眩しい。


「海だ~!」

 馬車から降りた途端、みんな駈け出す。

 星琉とイリアも他の生徒に混じって走って行った。

「もう、大きな子供ばっかりねぇ」

 後からゆっくりと馬車を降りて担任教師は苦笑する。

 彼女は鞄からメモ帳のような物とペンを取り出すと、何か書いて破り取り、フッと息をかけた。

 メモ帳の切れ端は生徒たちの方へフワ~ッと飛んで、ポンッと破裂したように粉々になる。


『採集を忘れずに!!!』


「おわっ?!」

 大音量が響き、生徒たちは皆ビックリして声を上げた。

 瀬田作の魔道具、拡声器を使ったような大声で言葉を伝えるアイテムだ。

 メモ帳に書いた言葉を響かせたい場所に流す事が出来る。


「は~い!」

 生徒たちは声を揃えて答えた。


 学園の臨海実習は海の生物を採集するのが目的だ。

 砂を掘って貝を採る者、釣り糸を垂らして魚を釣る者、やり方は自由。

 魔法を放ってタコを捕獲する者もいた。


 風魔法の応用で空気のバリアを張る技術を覚えた星琉は、イリアと一緒に海に潜って採集にかかる。

「何にしようか?」

「あれはどお?」

 大きな泡みたいなバリアの中、2人は相談した。


 そして、選んだ物を採集して戻り………


「先生!捕れましたぁ!」


 ………得意気に星琉がブラ下げてきたのはサメ!!!


「ぎゃ~っ!!!」

 先生ビビリまくり。


「お~っすげえ!」

 怖い物知らずなクラスメイトは、日頃のダンジョンで星琉の狩猟能力を知っているメンバーだ。


「私も採れました~」

 一緒に海から戻ったイリアは大きな二枚貝を持っている。

「あ! それって真珠が採れる貝じゃない?!」

 女生徒たちが期待を寄せる。


「ねぇセイル、これ開けてみて?」

 イリアにおねだりされ、星琉が採集用のナイフで二枚貝を開くと………

「あ、真珠でた」

「やっぱり~!!!」

 ………女子全員(含:先生)ハイテンション。


 しかし、出た真珠がどうも普通とは違うようだ。

「真珠ってこの大きさが普通?」

「ううん、貝の大きさにもよるけど大体は小指の先くらいよ」

 星琉の問いにイリアが答える。

 彼女は付け加えて説明した。

「あとね、色は普通は白いの」

「これは白とは違う感じだね」

 大きさも色も、標準とは全く違うらしい。

 出た真珠はピンポン玉くらいのデカさ、表面の光沢はオパールのような虹色だ。

 海水で汚れを落とすと、仄かな光を放ち始めた。

 何か特殊効果がありそうな予感がする。


「…ちょっと待って。それ、もしかして神話級アイテムじゃ…」

 先生がふと気付き、動揺し始める。

 星琉とのダンジョン実習経験があるクラスメイトたちは、顔を見合わせた。

 彼のドロップ率の凄さはクラスメイト間では知れ渡っている。

「え? また?」

「またってセイル君、まさか前にも何か…?」

 キョトンして言う星琉に、動揺UPな先生。

「はい、ちょっと前に上位エルク魔石が出ました」

「あなたの運どうなってるの~っ!!!」

 失神しかかるくらい驚愕した先生は、まだ星琉の極運を知らなかった。


 二枚貝から稀に採れる真珠。

 大きい物ほど高価、白いものよりピンクなどの色つきのものが高価になる。

 また、虹色を帯びたものは神秘の力を宿すとされていた。




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