目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第40話:ヒロヤの海底転勤

「…そうか、フォンセの仕業か…」

 ボイスチャットで瀬田が呟く。

「社長の知っている人物なんですか?」

 森田は聞いた。

 海底にある人魚の村シイ、その族長の家で森田は瀬田に連絡していた。

 SETAのスマホは水耐性MAX付与されており、水中使用可能で例え深海でも普通に使える。

 音声も使用者が伝えたい音だけをクリアに響かせる事が出来る。

「因縁の相手でね。…ところで…」

 ふと、瀬田が悪戯っぽい笑みを含んだ声で言う。

「森田君、美女に寄り添われながらベッドに座ってるとは、何かいい事でもあったかい?」

「えっ?!」

 途端に慌てる森田。

 治療を済ませてすぐ連絡したので、彼はロゼと一緒にベッドに座っていた。

 ロゼがスマホを覗き込むので、仲良くくっついているような体勢になっていた。

「あ、いや、その…治療が済んだばかりで…」

 誤解を解こうとするが、当のロゼがニッコリ笑うと森田に抱きついてしまう。

「えぇ、とても良い事があったわ」

「えぇぇっ?!」

 意味深なロゼの発言に驚く森田。

「そうかそうか」

 瀬田がニコニコして言う。

「じゃあ森田君、このままシイ村に転勤でいいね」

「って、海底転勤ですか?!」

 あっさり言う瀬田に、更に驚く森田。

 すると瀬田は真面目な表情に戻り、理由を告げた。

「この村には最上級回復魔法エクストラヒールを使える者がいない。今後の為に君にはここにいてもらいたい」

 困惑する森田だが、何かあるのだと感じた。

「君は私と同じ知力特化タイプの転移者だ。おそらく回復魔法以外も使える素質があると思う」

 瀬田の話を、森田も隣にいるロゼも黙って聞いている。

「だが、君はVRでの下積みが無いから、不利な事もあるだろう。それで、今からちょっと行ってもらうところがある。転移アプリを起動して、私からの転送リクエストを承諾してくれ」

「………了解しました」

 そこで森田はボイスチャットを閉じ、スマホの転移アプリを起動した。


 転送リクエスト:神々の間( YES ・ NO )


「………?!」

 森田、画面を二度見。

「何このRPGっぽい転送先?!」

「四季の神々がいらっしゃる場所ですね」

 ロゼが教えてくれた。

「昔は神々の力で異世界から喚ばれていた転移者が、最初に行く処でした」

 言うと、ロゼは転送に巻き込まれないように森田から離れる。

「私の心臓を奪った魔道士フォンセは何か企んでいる筈。その対策となるものを授けてもらえるのだと思います」

「なるほど…。じゃあ、ちょっと行ってきます」

 森田はリクエスト YES を選択した。



「森田さ~ん… あれ? いない??」

 奏真が族長の家に戻って来た時には、森田は転送されて不在だった。

「ヒロヤさんは、シロウ様に喚ばれて出かけましたよ」

「そ、そうですか」

 家に残っていたロゼから教えられ、美女を見ると惚ける体質の奏真はどうにか応える。

「お…お二人は海老の刺身、食えますか?」

 ロゼも、ロゼの髪を梳いていたルジュも、人魚は海老を食べないそうで首を横に振る。

 しかし里を襲おうとした巨大海老を倒した人にお礼が言いたいとの事で同行する事に。

 奏真は人魚2人と一緒にまた陸へ戻って行った。



 ビーチでは、巨大海老のお造りを囲むように人々が集まっている。

 渡辺はストレージから出したお皿とトングを使い、人々に海老を取り分けてあげていた。

「誰かと思ったらヨウイチさんだったのね」

「倒したその場で刺身にするなんてヨウイチさんくらいよね」

 ロゼもルジュも面識があるらしい。

 人魚たちは魔法で尾びれを足に変え、陸へ上がってきた。

 白い素足に、尾びれと同じ色のサマードレスを着た姿。

 人間の姿になった2人に、黒髪の少年が近付いて来る。

「はじめまして。セイルといいます。貴女が族長のロゼさんですよね?」

 星琉は淡紅色のサマードレスを着た女性に話しかけた。

「はじまして。ロゼです。勇者様の事は存じておりますよ」

 ロゼが微笑んで答える。

「実は、シイ村に寄贈したい物がありまして…」

 言いながらストレージから出された物を見て、ロゼは目を丸くした。

「…それは…海の守護石?!」

 マリンブルーの大きな魔石は、エルク魔石と並ぶレア魔石だ。

「潮干狩りしてたらブルーシャークって魔物が出て、倒したらドロップしたんです」

「そんなあっさり出るものじゃなかったような…?」

 経緯を話す星琉に、横から覗き込んだルジュが言った。

「社長に話したら、シイ村に必要になるからロゼさんに預けるように言われました」

 言って、星琉はロゼに魔石を手渡した。


 森田が戻らないまま、巨大海老を味わう食事会は進む。

「急に呼び出しなんて何かあったのかしら?」

「こっちに最上級回復使える人が4人も来てるから、人手不足とか?」

 巨大伊勢海老モドキを御馳走になりながら、イリアと星琉は疑問を投げ合う。

 人魚の里のビーチには教師を含む臨海実習メンバー全員集まり、渡辺や奏真と一緒にプリプリした透明な海老の刺身を美味しく頂いていた。

 山葵は鮫皮を張った板ですりおろす本格的なもの、醤油は海老に合わせて甘口醤油。

「森田さん遅いな」

 奏真はなかなか戻って来ない森田を気にしていた。

「みんな凄い勢いで食べてるから、来る前に無くなりそう」

 イリアも心配し始める。

「森田さんの分はストレージで保管しておこう」

 星琉は刺身を取り分けて、自分のストレージに収納した。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?