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第41話:女神サーラとヒロヤ

 青く輝く惑星を見下ろす場所、星々が輝く空間に深緑の衣を着た女神はふわふわと浮いている。

 空間の一部に魔法陣が現れ、1人の青年が転送された。

 海パンにラッシュガード姿で現れたのは森田。

「来ましたね」

 女神が微笑む。

(…あれ…? ヴェルさんに似てる…?)

 森田は女神の顔を見て思う。

 それは相手に伝わったようで、女神はフフッと意味深な笑みを浮かべる。

「こちらの姿の方が話しやすいかしら?」

 言うと、女神の姿が変化し始める。

 少女の顔立ちが大人の女性へと変わり、深緑の衣と褐色の肌をした素足が緑の尾びれに変わった。

「え?! まさか本当にヴェルさん?!」

「人魚ヴェルは仮の姿、本来はサーラ、夏を司る女神です」

 驚く森田に女神サーラは正体を明かす。

「…人魚じゃ…なかったんですね…。じゃあ、この鱗の力は…?」

 森田は自分の額に片手で触れてみる。

 そこに同化している鱗の力で、森田は海中でも呼吸が出来て人魚たちと同様に動き回れるが…

「彼女たちは私の眷属、その力を真似るのは容易ですよ」

 ヴェルの姿のまま浮かびつつ、サーラは言う。

「でもどうして、神様が人魚のフリなんかしてたんですか?」

 森田は疑問を投げかける。

 女神アイラは転移の途中で出てきただけで、後は葉っぱのお告げを投げ落とすだけだった。

「ここへ来る前に、転移者ヒロヤを視ておく為ですよ。本来は転移前に視るのだけど」

 特に隠しもせずに女神は言った。

「それで、問題なかったからここに転送された。という事ですか?」

「ええ。貴方になら授けていいでしょう」

 森田の問いかけに答え、女神サーラは神の力を発動させる。

 額に埋め込まれた鱗を通して、膨大なデータが流し込まれた。


 一気に流れ込んでくる、魔法に関する情報。

 様々な術式が、脳に刻まれる。

 知力が、更に引き上げられる。

 魔力が、更に増やされる。

 刻まれた魔法の術式が、それらに接続された。


「本来は何十年もかけてじっくり覚えるのだけど、時間が無くてごめんなさいね」

 優しく語りかける女神サーラの声は、その相手には聞こえていない。

 脳へ大容量の魔法データを書き込まれた青年に、意識を保つ余裕は無かった。




 広がる夕焼けが海を染める。

 聴こえるのは、寄せては返す波の音。

 巣へと帰る海鳥たちが、澄んだ高い声で鳴きながら夕空を飛んでゆく。


「森田君の仕事はしばらくかかるから、ソーマ君は先に帰っていいよ」

 瀬田に言われ、奏真は王都へ帰る事にした。

 渡辺がボスを倒したので、洞窟に海老が大量発生する事は当分無いらしい。

「また来て下さいね~」

「ま…また来ます…」

 ルジュに抱きつかれ、ほっぺチューまでされてしまい、奏真は茹でた伊勢海老みたいに真っ赤な顔で帰る事となった。


 渡辺はといえば、巨大海老の兜で出汁をとった味噌汁を皆に振舞った後、その殻を海に返した。

 大きな殻はしばらく魚たちの棲家になった後、自然に分解されて消えてゆくという。


「凄く楽しかったです!ありがとうございました~!」

 星琉たち臨海実習のメンバーは笑顔で手を振り、人魚の里を出る。

 夏の海の思い出を抱えて、夕日が沈む海を観ながら観光馬車で帰って行った。

 森田の分の伊勢海老モドキは、そのまましばらく星琉のストレージに保管された。



 人魚の里、族長ロゼの家に森田が戻って来たのは、みんな帰った日没後。

 転送前に居たロゼの寝室に魔法陣が現れ、水中に漂いながら出てきた青年に意識は無い。

「お疲れ様でした」

 ロゼは森田を抱き寄せて、聞こえてはいないと分かりつつ囁いた。


 …翌朝…


(…ど…どうしてこうなった…?)

 彼は非常に焦っていた。

 森田裕也22歳未婚、彼女いない歴22年。

 日本でも異世界でもいかがわしい店には行かない。

 添い寝経験は幼少期の母親くらいだ。

 なのに何故か今、美女が隣に寝ている。

 目を覚ます前の記憶は、女神サーラと話していた辺りで途切れていた。


 とりあえずそろ~っと起き上がり、ベッドから降りようとしたところでロゼが目を覚ました。

「ヒロヤさん?」

 声をかけられ、森田はギクゥッ!として固まった。

 その様子から察したロゼがクスッと笑う。

「慌てなくても大丈夫、戻って来た時に意識が無かったからそのまま寝かせただけですよ」

「す、すみません御迷惑おかけしました!」

 大丈夫と言われてもつい謝ってしまう森田であった。

「迷惑だなんて思いませんよ。ヒロヤさんは私の命の恩人ですもの」

 ロゼは微笑んで言う。

「それで、女神様から何か授けてもらえましたか?」

「はい。魔法と、敵の魔法への対処法を…」

 言いながら、森田は自分の両手を見つめる。


「!」

 不意に、脳内の感知系魔法が危険を報せる。

 彼を中心に魔法陣が現れ、一気に広がるとドーム状に里全体を覆った。

 直後、大量の溶岩の塊が降ってくる。

 里の地上部にいた人魚たちが悲鳴を上げた。


 ………しかし、溶岩は里に届く前に魔法陣に阻まれ吸われてゆく………。


 攻撃吸収アブソーバー


 受けた攻撃を吸い取り、自分の魔力に変換する範囲魔法。

 脳に書き込まれた魔法データの1つだ。

 森田はその魔法陣を維持しながら、別の魔法を起動する。

「たっぷり魔力を御馳走になったから、お礼しときますね」

 今までの彼とは違う、自信に満ちた笑み。

 森田が使う魔法は全て無詠唱、複数を起動する事も出来た。

 吸収した魔力からその主を辿り、魔法を放つ。


 遠く離れた海上で、魔道士は思わぬ反撃を食らって驚いていた。

(勇者たちは王都に帰った筈…。 何者だ?)

 杖を持つ腕が凍り付いている。

 彼を乗せていた大きな鳥が、突然凍り付き海へ落ちてゆく。

 彼と共に魔法を放っていた魔族たちは、凍り付いた後に粉々に砕けてしまった。

(ちっ…一旦退くか)

 不利と見て、魔道士は転移魔法で戦線離脱した。




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