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第42話:辺境の炊き出し

(…出るぞ、出るぞ…)

 後ろで待機しながら、ムキムキマッチョ冒険者たちは期待に満ちた視線を送る。

 その視線の先にいるのは、ルフと呼ばれる巨大なワシのような鳥。

 人間など恐れる必要無しと見ているらしく、地面に降りて悠々と獲物のミノタウロスを食べている。

 その存在自体がレアな上、Sクラス冒険者が数人がかりで狩るレベルの強さから、ドロップ品は国宝級。

 現時点では羽根が1枚だけプルミエの宝物庫にあるという程度だ。

 単独で、納刀したまま巨鳥ルフの前に立つのは黒髪の少年。

 装備は腰の鞘に納めたままの日本刀カタナだけ、防具など着けていない。

 GパンにTシャツという普段着姿で、星琉は巨鳥と対峙していた。


 ボッ!


 音を立てて、巨鳥が消滅。

 いつ抜刀したか、冒険者たちには目視出来ない。

 星琉が刀を鞘に納めると、ポンッと音を立ててドロップ品が出現した。

「…あ、魔石でた」

「もうどうにでもしてぇぇぇ!!!」

 またもあっさり出る未知の魔石。

 冒険者たちのテンションが壊れていた。



「………。もう何も驚かんぞ…」

 献上されたルフ魔石を前に、国王ラスタは眉間に手を当てて呟いた。

「そうして下さい」

 苦笑するのは、極運の勇者という二つ名が広まりつつある星琉。

「その魔石、新しい防衛システムに良さそうだ」

 ボイスチャットで場に参加していた瀬田が、転移アプリでこちら側へ現れた。

「使わせてもらうよ」

「任せる」

 ラスタが許可し、星琉も頷くと、瀬田は大玉西瓜並に大きなルフ魔石をストレージに入れて王城の奥へ向かった。

 瀬田が去った後、ラスタは星琉に依頼する。

「ルフの肉をいくつか辺境に分けてもらえるか?王家が買い取ろう」

「いいですよ。でもお金はいりません。頂いているお給料だけで充分です」

 星琉は快諾し、転送陣からテルマ村へ向かった。



 一方、奏真と渡辺も辺境の村テルマに来ていた。

 魔物が増えて農作物が荒らされ、怪我人も複数いるとの報告が入り、治療と狩りに来たのが奏真。

 奏真の回復魔法では治癒しきれない重傷者の治療と、気落ちする農民たちを励ます為に料理を振舞いに来たのが渡辺。

「ソーマ様!来て下さったのですね!」

 奏真の姿を見つけると、村人たちが歓喜して駆け寄って来る。

「ヒロヤ様はお忙しいのですか?」

 そして、一緒にいるのが森田ではないので聞かれる。

「別の仕事を任されて、王都にはいないなぁ」

 答える奏真も、森田が何の仕事を任されたかは知らなかった。


 神父と渡辺に治療を担当してもらい、奏真は農地へ向かう。

 40~50頭ほどのボアと呼ばれる猪系魔物たちが、作物を荒らし回っている真っ最中だ。

(…なんだこいつら? 腹減って来たんじゃねえのか?)

 彼等の行動に異常を感じる。

 通常なら畑を荒らす動物は作物を食べる。

 が、そこにいる群れはただ農地を走り回り、作物を踏み荒らしているだけだった。

 踏み潰した作物には見向きもせず、次から次へと踏み潰してゆく。

 その行動は食べる為というより、農民たちを困窮させる為のようだった。

(…ま、とりあえず狩っとくか)

 ボアたちの事情は知らないが、奏真としては畑を荒らすなら狩るのみである。


 双剣を抜き、地面を蹴った奏真の姿がフッと消える。

 そして群れの向こう側に現れ、剣の血を振り払う。

 直後、魔物たちが一斉に倒れた。


 解体した肉をストレージに入れた奏真が村に戻ると、村人の中に青い騎士服を着た少年の姿を見付けた。

「よお、セイルも手伝いか?」

 渡辺に何か手渡している星琉に、奏真は声をかける。

「陛下の依頼で届け物に来たんだよ」

 歩いて来る白い特攻服(?)の青年を振り返り、星琉は答えた。

「これは良い肉だね。いい出汁がとれそうだ」

 巨鳥の肉を受け取った渡辺は早速調理にかかった。




 出汁は星琉が提供したルフ骨でとれた。

 鍋にごま油を入れて中火にかけ、ルフ肉、だいこん、にんじん、こんにゃくを炒める。

 炒めた物を大鍋に移し、里芋とだし汁を加えて強火~煮立ったら火を弱め、アクを取りながら具が柔らかくなるまで煮る。

 具が柔らかくなったらトロ火くらいにして、こうじ味噌を溶き入れたら火を止めて完成。

 巨鳥ルフの骨が思った以上にいい仕事して、旨味たっぷりの味噌スープになった。

「ヨウイチ様!私たちに味噌汁の作り方を教えて下さい!」

 何かに目覚めた女性陣が、料理教室のリクエストをする。

「じゃあ、しばらく炊き出しに通うので、一緒に作りましょう」

 渡辺の提案に、歓喜する女性陣。

 テルマ村の女性は味噌汁を作るのが上手いと評判になるのは、これよりもっと後のお話。


 奏真もストレージに入れていた伊勢海老モドキを提供し、焚火で焼いて振舞う。

 渡辺に借りたバーベQ用の串に刺して炙り焼きした海老は、香ばしい香りが食欲をそそる。

 テルマ村は海から遠いので魚介類は珍しく、大人も子供も焼き海老を夢中で食べていた。



「畑を荒らしていた魔物、作物を食べずに踏み潰すだけでした」

 王都に帰ると、奏真はすぐ瀬田に報告する。

「理由は分からないですけど、なんか不自然な感がします」

「何かに操られているのかもしれないね」

 瀬田が言う。

「しばらく通って様子を見てもらえるかい?」

「了解しました」

 魔物の不自然な行動を調べる為、奏真もテルマ村通いとなった。




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