「急げ、急げ!」
「荒らされる前に収穫だ!」
慌ただしく農民たちが作業していた。
星琉と、彼に呼び出された奏真は、それぞれ離れた位置に身を隠して畑の外側を見張る。
奏真曰く、畑を荒らしたボアたちは不自然な行動をしていたとの事なので、まだ何か起きるかもしれない。
2人は警戒を強めていた。
そして予想通り、魔物の大群が襲ってきた。
国境の森から湧き出て来るのは、様々な種類の魔物。
通常は行動を共にしない筈の、異種混合の群れが出来ていた。
「おー、肉になりに来たか」
不敵な笑みを浮かべて、双剣を構えるのは奏真。
その姿が目視出来なくなった途端、魔物が次々に斃れてゆく。
「ごめん、ちょっと森を荒らすよ」
肩に乗っている妖精と話すのは星琉。
『いいよ。後で再生手伝ってね』
了承するのは、緑の羽根の妖精。
畑の作物を再生させた後、神樹の御使いはみんな帰ったが、この子は星琉を慕って戻って来ていた。
「魔力ならいくらでも分けてあげるよ」
言いながら、星琉は片手を森へ向けた。
森の上空に魔法陣が現れ、一気に広がって森を包む。
直後、雷の玉が雨のように降り注ぐ。
それは確実に魔物を直撃し、まだ森の中にいた群れを全滅させた。
「ははは、星琉のやつ、手加減ってもんを知らねぇな」
森から出た群れを片付けた奏真が、森の方を見て苦笑する。
そして、森の中を確認に行く星琉に続いて歩いて行った。
気配探知で位置を確認しながら落とした雷は、魔物以外の生き物には当たらなかったが、近くにあった木々や地面の一部を焦がしていた。
『このくらいなら再生しなくていいよ』
妖精が言うので、そのまま自然回復に任せる事にした。
森の中に魔物の死骸は無く、魔石やドロップ品が点在している。
「なぁセイル、魔法ってクリティカル出るのか?」
回収を手伝いつつ奏真が聞く。
「一応出るらしいよ」
ドロップ品をストレージに片付けつつ、星琉が答える。
『普通は範囲魔法で全部クリティカルとか無いけどね』
星琉の肩の上で、妖精がツッコミを入れた。
辺境の森はプルミエの領土の端にあり、その向こうにはカートルの領土が広がる。
14年前まで敵対していたその国は、プルミエに大敗して以降は不穏な動きは無いという。
深い森の中央付近まで進むと、星琉たちは大きな黒水晶を見つけた。
「なーんかいかにも怪し気だな」
奏真が双剣を抜いた。
直後、水晶の中から黒蛇が這い出て、一気に巨大化する。
「蛇は任せた。俺はあっち」
「おう」
短い会話で意思疎通し、2人は同時に動いた。
黒い大蛇に、奏真が10連撃を叩き込む。
黒い水晶に、星琉が抜刀一閃。
水晶が粉々に砕け、秒差で大蛇が斃れた。
『元々この森にはあんな大群は居なかったから、黒水晶で生み出してたんだと思うよ』
神樹の御使い、緑の羽根の妖精が言う。
森の中を調べて回ると、複数個所で同じような黒水晶が見つかった。
全て破壊すると、2人は村へ戻った。
同じ頃、人魚の里シイは魔族の襲撃を受けていた。
しかし、事前に森田が設置した半永久的範囲防御魔法・
近付けないので遠距離攻撃を仕掛ければ、
カートル領土内の地下迷宮、大魔道士フォンセは水盤を睨んでいる。
水盤はシイの里上空は映すが、村の様子は全く映らない。
(…一体何者だ…?)
チラリと隣の水盤を見れば、国境の森で黒水晶を破壊し終えた勇者たちが映っていた。
(勇者も双剣使いもテルマの森…という事はそれ以外か…)
海の底、青い魔石を置いた祠の前に立ち、森田は魔族の軍勢を1人で片付けている。
敵に自分の存在を知られても別に構わないが、覗き見されるのは好まないので
既に魔族の位置は把握済み、逃がすつもりは無いので全員ロックオンした。
神から膨大な数の魔法を授かった青年は、魔族に対して容赦なく力を使う。
ロックオンした敵全員の額に、小さな魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣から魔族たちの体内へ、肉体を崩壊させる魔法が流し込まれる。
直後、魔族たちは黒い粒子に分解されて消え去った。
上空の敵を全滅させると、森田は祠に背を向ける。
ふと見れば、心配そうに見守る人魚たちがそこにいた。
「大丈夫ですよ」
表情を和らげ、森田は笑みを見せる。
「ひとまず上空にいたのは片付けました」
「あんなに大きな魔法を連発して、身体は何ともないのですか?」
ロゼが近付いて来て、そっと頬に手を当ててくる。
「は、はい」
少々照れつつ森田は答えた。
「眩暈はしたりしませんか?」
ロゼが心配そうに見つめて言う。
「な、何ともないですよ」
美女に見つめられる事に慣れてない森田、やや焦り気味。
他の人魚たちが何か察してサーッといなくなった。
「私はヒロヤさんが無理してないか心配です…」
「む、無理はしてないですよ」
頬に触れたままじっと見つめるロゼに、どう対応していいのか戸惑う森田。
何を言ったらいいか考えて、思ってる事を告げてみた。
「この綺麗な海と里、ロゼさんたちを護りたいから神様に力を貰ったんです」
話す彼の瞳を、美しい人魚がじっと見つめる。
「セイル君やソーマ君みたいな飛び抜けた強さは無いけど、この目に映るものを護るくらいは出来ると思います」
見つめるロゼとしっかり目を合わせて、森田は言う。
「だから心配しないで、護らせて下さい」
「………はい」
小さな声で答えたロゼが、そっと身体を寄せて来る。
森田は少し戸惑ったが、抱き締める事でそれに応えた。