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第44話:魔物と魔族の襲撃

「急げ、急げ!」

「荒らされる前に収穫だ!」

 慌ただしく農民たちが作業していた。

 星琉と、彼に呼び出された奏真は、それぞれ離れた位置に身を隠して畑の外側を見張る。

 奏真曰く、畑を荒らしたボアたちは不自然な行動をしていたとの事なので、まだ何か起きるかもしれない。

 2人は警戒を強めていた。

 そして予想通り、魔物の大群が襲ってきた。

 国境の森から湧き出て来るのは、様々な種類の魔物。

 通常は行動を共にしない筈の、異種混合の群れが出来ていた。


「おー、肉になりに来たか」

 不敵な笑みを浮かべて、双剣を構えるのは奏真。

 その姿が目視出来なくなった途端、魔物が次々に斃れてゆく。


「ごめん、ちょっと森を荒らすよ」

 肩に乗っている妖精と話すのは星琉。

『いいよ。後で再生手伝ってね』

 了承するのは、緑の羽根の妖精。

 畑の作物を再生させた後、神樹の御使いはみんな帰ったが、この子は星琉を慕って戻って来ていた。

「魔力ならいくらでも分けてあげるよ」

 言いながら、星琉は片手を森へ向けた。

 森の上空に魔法陣が現れ、一気に広がって森を包む。

 直後、雷の玉が雨のように降り注ぐ。

 それは確実に魔物を直撃し、まだ森の中にいた群れを全滅させた。


「ははは、星琉のやつ、手加減ってもんを知らねぇな」

 森から出た群れを片付けた奏真が、森の方を見て苦笑する。

 そして、森の中を確認に行く星琉に続いて歩いて行った。


 気配探知で位置を確認しながら落とした雷は、魔物以外の生き物には当たらなかったが、近くにあった木々や地面の一部を焦がしていた。

『このくらいなら再生しなくていいよ』

 妖精が言うので、そのまま自然回復に任せる事にした。

 森の中に魔物の死骸は無く、魔石やドロップ品が点在している。

「なぁセイル、魔法ってクリティカル出るのか?」

 回収を手伝いつつ奏真が聞く。

「一応出るらしいよ」

 ドロップ品をストレージに片付けつつ、星琉が答える。

『普通は範囲魔法で全部クリティカルとか無いけどね』

 星琉の肩の上で、妖精がツッコミを入れた。


 辺境の森はプルミエの領土の端にあり、その向こうにはカートルの領土が広がる。

 14年前まで敵対していたその国は、プルミエに大敗して以降は不穏な動きは無いという。

 深い森の中央付近まで進むと、星琉たちは大きな黒水晶を見つけた。

「なーんかいかにも怪し気だな」

 奏真が双剣を抜いた。

 直後、水晶の中から黒蛇が這い出て、一気に巨大化する。

「蛇は任せた。俺はあっち」

「おう」

 短い会話で意思疎通し、2人は同時に動いた。


 黒い大蛇に、奏真が10連撃を叩き込む。

 黒い水晶に、星琉が抜刀一閃。

 水晶が粉々に砕け、秒差で大蛇が斃れた。


『元々この森にはあんな大群は居なかったから、黒水晶で生み出してたんだと思うよ』

 神樹の御使い、緑の羽根の妖精が言う。

 森の中を調べて回ると、複数個所で同じような黒水晶が見つかった。

 全て破壊すると、2人は村へ戻った。




 同じ頃、人魚の里シイは魔族の襲撃を受けていた。

 しかし、事前に森田が設置した半永久的範囲防御魔法・聖域サンクチュアリに阻まれ、魔族たちは人魚たちや建物に危害を加える事は出来ない。

 近付けないので遠距離攻撃を仕掛ければ、攻撃吸収アブソーバーで吸収されて倍返しを食らう。


 カートル領土内の地下迷宮、大魔道士フォンセは水盤を睨んでいる。

 水盤はシイの里上空は映すが、村の様子は全く映らない。

(…一体何者だ…?)

 チラリと隣の水盤を見れば、国境の森で黒水晶を破壊し終えた勇者たちが映っていた。

(勇者も双剣使いもテルマの森…という事はそれ以外か…)


 海の底、青い魔石を置いた祠の前に立ち、森田は魔族の軍勢を1人で片付けている。

 敵に自分の存在を知られても別に構わないが、覗き見されるのは好まないので監視魔法妨害ジャミングをかけていた。

 既に魔族の位置は把握済み、逃がすつもりは無いので全員ロックオンした。

 神から膨大な数の魔法を授かった青年は、魔族に対して容赦なく力を使う。


 ロックオンした敵全員の額に、小さな魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣から魔族たちの体内へ、肉体を崩壊させる魔法が流し込まれる。

 直後、魔族たちは黒い粒子に分解されて消え去った。


 上空の敵を全滅させると、森田は祠に背を向ける。

 ふと見れば、心配そうに見守る人魚たちがそこにいた。

「大丈夫ですよ」

 表情を和らげ、森田は笑みを見せる。

「ひとまず上空にいたのは片付けました」

「あんなに大きな魔法を連発して、身体は何ともないのですか?」

 ロゼが近付いて来て、そっと頬に手を当ててくる。

「は、はい」

 少々照れつつ森田は答えた。

「眩暈はしたりしませんか?」

 ロゼが心配そうに見つめて言う。

「な、何ともないですよ」

 美女に見つめられる事に慣れてない森田、やや焦り気味。

 他の人魚たちが何か察してサーッといなくなった。

「私はヒロヤさんが無理してないか心配です…」

「む、無理はしてないですよ」

 頬に触れたままじっと見つめるロゼに、どう対応していいのか戸惑う森田。

 何を言ったらいいか考えて、思ってる事を告げてみた。

「この綺麗な海と里、ロゼさんたちを護りたいから神様に力を貰ったんです」

 話す彼の瞳を、美しい人魚がじっと見つめる。

「セイル君やソーマ君みたいな飛び抜けた強さは無いけど、この目に映るものを護るくらいは出来ると思います」

 見つめるロゼとしっかり目を合わせて、森田は言う。

「だから心配しないで、護らせて下さい」

「………はい」

 小さな声で答えたロゼが、そっと身体を寄せて来る。

 森田は少し戸惑ったが、抱き締める事でそれに応えた。




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