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第45話:隷属紋と兄弟

「魔物を生み出す黒水晶か…」

「全て破壊しましたが、設置した者は分かりません」

 プルミエ王城地下、瀬田はボイスチャットで星琉たちの報告を受けていた。

 大きな六芒星を描いた床が、発光して辺りを照らす。

 六芒星の中心にある台座には、一抱えもある大きな魔石が置かれていた。

 ルフ魔石、星琉が献上した物。

 六芒星のそれぞれの端には、透明な魔石を置いた小さめの台座。

 エルク魔石、それも星琉の献上品だ。


「セイル君はイリアちゃんと一緒にこちらへ来てくれ」

「分かりました」

 返事の後、星琉がイリアを連れて地下に現れる。


「ソーマ君、定期的にテルマの森の見回りを頼めるかい?」

「OKです」

 答えた奏真は翌日から見回りを開始した。


 星琉の範囲雷撃で魔物が一掃された森の中。

 瀬田から渡された腕時計型の魔道具で、新たな魔物が沸いてないか調査する。

 魔道具は任意で空中にレーダー画面を表示させられる他、振動で付近の危険も報せてくれる。

 魔道具で調べた後、奏真は目視で確認する為、森に入ってみた。

 深緑の葉が茂る森の中は、日差しが弱まるので少し涼しい。

 森の奥には川が流れる場所もあり、流れる水音が聞こえてくる。

 川沿いを上流へ進んで行くと、森から山へ連なる辺りが滝になっていた。


 滝の近くまで来た時、魔道具が振動して警戒を促す。

 咄嗟に奏真は太い木の後ろに隠れた。

 滝壺に魔法陣が現れ、そこから1人の少年が現れる。

 魔法使いと思われるローブを着た12~3歳くらいに見える少年が、杖を掲げて詠唱を始める。

 その身体から黒い煙のようなものが流れ出て、渦を巻いて集まると黒水晶が出現した。

 少年は杖先で黒水晶に触れ、魔物作成魔法を起動しようとする。

 が、奏真はそこまで待たなかった。


 瞬時に接近し、当身を入れて沈黙させる。

「!」

 鳩尾に拳を打ち込まれた少年が水しぶきを上げて倒れると同時、連撃が黒水晶を粉砕した。

「悪ィ、一応手加減はしたからな?」

 相手の見た目が子供なので罪悪感があり、謝ってみる奏真。

 滝壺に倒れ込んだ少年はピクリとも動かない。

「っと、ヤバイ溺れちまうな」

 水中に倒れたままにはしておけず、奏真は気絶した少年を抱き上げた。




 炊き出しをしていた渡辺と村人たちは、少年を抱えて戻って来る奏真を見て怪訝な顔をする。

「見た事無い子ねぇ」

 顔を確認してもらったが、村人は誰も知らないと言う。

 敵の可能性が高いので村には置いて帰れず、奏真は少年を抱いたまま騎士団の宿舎へ転移した。


 団長に事情を話すと、尋問のため牢に入れる事になった。

「とりあえずそのローブは脱がせた方がいいね。濡れたままだと身体が冷えてしまう」

 言われて濡れた服を着替えさせようとして、露わになった胸に刻まれた紋を見つける。

 そこに仕掛けられた術が、敵対者に見られた事で作動した。


「!!!」

 心臓へ衝撃波が放たれ、少年の身体は一瞬大きく仰け反る。

 その後、ふうっと力が抜けてピクリとも動かなくなった。

「?!」

 腕の中で息絶えてしまった相手に、呆然とする奏真。

「シロウ様!すぐに地下牢へ来て下さい!」

 団長が慌てて瀬田を呼んだ。


「大丈夫だ。まだ間に合う」

 言いながら、瀬田はすぐ治療にかかる。

 奏真に指示を出し、少年を仰向けに寝かせる。

 後頭部を仰け反らせて喉を伸ばした状態、気道確保の姿勢をとらせた。


 隷属紋の術式解除。

 破壊された心臓を最上級回復魔法エクストラヒールで再生、鼓動が戻る。

 同時に風魔法で肺に空気を送り込み、吐き出させる事で自発呼吸を促す。

 無詠唱で異なる複数の魔法を瞬時に同時起動出来る者ならではの蘇生方法。

 心肺停止から3分以内、蘇生確率が高い時間内に処置は完了した。


「とりあえずこれを着せてやってくれ」

 団長が持って来た貫頭衣を渡し、奏真が着せてやる。

 蘇生に成功して目を開けたが、少年はまだボーッとしていてされるがままになっている。

 服を着せた後も立って歩ける気配は無く、結局奏真が抱き上げて運ぶ事となった。


 瀬田が作った異空間の牢獄。

 未だそこに居るのは、シエムで捕縛された魔法使いの青年バレルと襲撃者たち。

 隷属紋に支配され、組み込まれた魔法を使っていた彼等は、今はここに居る方が安全という事で大人しく収容されている。

「ラムル!」

 新たに連れて来られた少年を見て、バレルは声を上げた。

 奏真に抱かれたまま入って来た少年は、再び気を失って目を閉じている。

「知り合いか?」

 奏真が聞いた。

「はい、弟です」

 バレルが頷く。

「テルマの森で魔物を生み出す黒水晶を作っていたそうだ」

 瀬田が経緯を教える。

「おそらく隷属紋の魔法だろう。口封じの為か、他人が紋を見た途端に心臓を止められていた」

「!」

 一瞬、バレルが息を飲んだ。

「…ラムルは…死んだのですか…?」

「いや、蘇生したから生きている」

 動揺するバレルに瀬田が告げ、奏真は抱いていた少年をバレルに渡した。

「良かった…ありがとうございます…」

 規則正しい呼吸をして眠る弟を見て、兄はホッとした表情になった。

 蘇生後に着せられた貫頭衣は大人用しかなかったので、小柄な身体には大き過ぎる。

「そいつの服、洗濯してもらうから。乾くまで大人用で我慢しててくれ」

 言うと、奏真は瀬田と共に異空間牢から元の空間へ戻って行った。




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