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第50話:チャリティバザーと誘拐犯

「このお花はね、みんなで育ててバザーで売って、ゴハンを買うお金になるのよ」

 薔薇に似た花に水やりしながら、孤児院スタッフのエレナが言う。

 カートル国内最大の孤児院は敷地が広く、様々な花が咲いていた。

 20人ほどいるスタッフが、もう少しで開きそうな花を選んでハサミを入れ、水を張った壺に挿してゆく。

 その壺を孤児院の門前に並べると、街の人々が買いに来て次々に売れて行った。

 エレナが焼いたパンやクッキーなども並べられ、人気があるようで行列が出来る。

 お客さんが多いので子供たちも売り子を手伝い、イル(星琉)とレン(奏真)もそれに加わった。

 無駄に愛想のいい美少年イル、本領発揮。

「ありがとうございます」

 品物を手渡してニコッと笑うと、魅了されるお客さん多数。

(次のバザーは今日より混む予感しかない)

 同じく営業スマイルで商品を渡しつつ、レン及びスタッフたちは確信した。




 孤児院は、想像していたより良い環境だった。

 イル(星琉)もレン(奏真)も孤児院とは無縁の環境育ちだったので、アニメなどに出てくるイメージしか沸かない。

「孤児院のゴハンが美味しいって想定外だなぁ」

 昼食後、お昼寝タイムで部屋に戻ったイルが言う。

「3食昼寝付きとか、ブラック企業のリーマンが聞いたら羨ましがる環境だぞ」

 ベッドに寝転がり、レンも言う。

「人身売買で儲かってるからか?」

「うーん、それにしてはここの院長もスタッフも危険人物に該当してない」

 と言うイルには、独自の探知能力がある。

 気配探知の一種だが、一般のそれと違って敵意の有無に関わらず危害を加えようとした時点で脳内レーダーに危険な相手として表示される。

 元は日本に居た頃に対戦ゲームで養われた能力の1つで、異世界転移の際にその性能が大きく上昇、プルミエ剣術大会を経て覚醒した。

 その能力で調べる限り、この孤児院にイルたちを含む子供にとって危険な人間はいなかった。


 お昼寝後、イル&レンはエレナに連れられて街へ買い物に出た。

 買い物の同行は社会勉強で、子供たちがいつか巣立つ為の準備だ。

「2人はこの街に来るのは初めて?」

 エレナの問いに、少年たちは頷く。

 初めて歩くカートルの王都は、プルミエとは違って近代的な物が無い、中世ファンタジーのような雰囲気。

(昔のプルミエもこんなだったのかな?)

 イルがキョロキョロ見回していると、突然建物と建物の間から手が伸びて、中に引きずり込まれた。

「!」

 何か薬品ぽい匂いがする布で鼻と口を塞がれ、数秒もがいた後に身体の力が抜ける。

 動かなくなったイルを押さえつけていた者が、そのまま軽々と肩に担ぎあげた。


「イル君! どこ?!」

 振り返ると消えていた少年を、エレナが慌てて探す。

(…来たな…)

 一緒にイルを探すフリをしつつ、レンは左手の皮下に仕込んでいる魔道具を起動した。

 瀬田の最新作、マイクロチップ型のそれは、複数のアプリケーションを有している。

 カートル国内で誘拐や里親詐欺が起きている情報を得て、その対策として色々組み込んだ魔道具だ。

 アプリの1つに登録した人物の居場所と状態を報せる機能があり、孤児院メンバー全員を登録していた。

 イルは健康に問題は無く、スラム街へと移動している。

 やがて移動が止まり、建物の中に入ったようだ。

(…よし、行くか…)

 おそらくアジトに入ったと推測し、レンは人気の無い路地裏に入り込む。

 そして、転移アプリを起動した瞬間…

「レン君!だめよ!」

「?!」

 …慌てて追ってきたエレナに抱きつかれ、そのまま2人まとめて移動してしまった。


 誘拐犯のアジトに運ばれたイルは、手足を縛られて床に転がされていた。

「ほんと綺麗な奴だなぁ。こいつだったら高く売れるぜ」

「孤児院のガキだし、探す奴なんかいないだろ」

 犯人たちの声がする。

(…こいつらが人を攫って奴隷にしてるのか…?)

 薬で眠っているフリを続けながら、気配探知で敵の現在位置を確認する。

 犯人は2人、すぐ近くでこちらを眺めているようだ。

 建物の間に引きずり込まれる前から、敵の存在は認識済み。

 薬品を染み込ませた布が押し当てられる前から、鑑定で何の薬品かも把握していた。

 マイクロチップに組み込まれたアプリ・状態異常無効化により、彼が薬物で気を失う事は無い。

 誘拐犯に自分を攫わせる為に、眠ったフリをしているだけだった。

 あとはレンが来たら協力して犯人を捕獲するのみ。

 本来の戦闘能力を出すワケにはいかないので、子供の動きで出来る範囲で敵を制圧予定。


 ………が。


「イル君!!!」

「な?! 何だお前ら?!」

(…え? なんでエレナさんまで…?)

 バンッ!とドアが勢いよく開き、レンと一緒に駆け込んで来たのはエレナ。

 犯人たちだけでなく、イルも眠ったフリをしつつ驚く。

「酷い! イル君に何すんのよ!!!」

 ドゴッ!

 凄い音がして、犯人の片方が吹っ飛んだ。

(………え?)

 目を閉じたままでも何が起きたか分かるが、想定外過ぎてイルは困惑する。

「ゲッ!バケモンかお前!?」

「うっさいわ!!!」

 ドゴォォォン!

 更に凄い音がして吹っ飛ばされる犯人その2。

「………俺の出る幕が無ぇ…」

 言いながら、レンがイルの手足のロープをはずした。

「イル君、しっかりして!」

 犯人2人をブッ飛ばしたエレナが慌てて駆け寄って来る。

 そのままヒョイッと抱っこされてしまい、イルはどのタイミングで目を開けるか悩む。

「レン君、急いで帰るよ!」

「う、うん」

(…とりあえずこいつら異空間牢に入れとくか)

 エレナが駈け出す背後で、レンはマイクロチップのアプリ・異空間牢に犯人たちを封じた。




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