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第66話:変身解除

「おかえり、セイル、ソーマ!」

 プルミエ王城地下、瀬田の研究室に移動した途端、2人まとめてイリアに抱き締められた。

「た…ただいま」

「お…おぅ」

 圧倒されつつ応える彼らは、まだ5~6歳児イル&レンの姿だ。

「見て母様、私の弟みたい」

 2人のうち金髪の子供をヒョイッと抱き上げて、嬉しそうなイリアが振り返る。

 その先には王妃アリアまで来ていた。

「ふふっ、髪と目の色が私と同じね」

 イリアから子供を受け取り、アリアがニッコリ笑う。

「…お…王妃様、俺、セイルですよ…?」

「勿論知ってますよ」

 困惑気味の彼を、我が子を可愛がるように抱き締めるアリア。

「子供の姿になった君たちを見たいと言って待ってたんだよ」

 苦笑しながら瀬田が事情を説明した。

 金髪の相方に金髪母娘が夢中になっている間に、ソロ~リと逃げようとする赤毛の子供。

「あ、ソーマが逃げる!」

「お~っと、逃がさないよ」

 しかし相方の報告でアッサリ捕まる。

 捕まえたのは星琉の影武者をしているシトリだ。

「セイルてめぇ…」

「1人で逃げようとするからだよ」

 結局その後、子供の姿のまま王妃と王女に愛でられる2人。

 ようやく解放してもらい、変身用の魔道カプセルに入った時には疲れ果てていた。


 変身用魔道具・transform capsule


 演劇用に開発された魔道具で、中に入った者の外見を変化させる。

 肉体だけでなく、衣装まで設定出来て一緒に変化する。

 ステータスは変わらないので、イル&レンは見た目は子供だが能力値は元の姿のままである。


「じゃ、お先」

 まだ量産していない魔道具なので1台しかなく、とりあえず最初に入ったのはレン。

 ようやく元の姿に戻れる、と安堵しつつカプセルに身体を横たえた。

 身体が変化する間は一時的に眠らされ、意識が途切れる。

 10秒もかからず、レンは奏真の姿に戻った。

 衣装の設定は騎士団の制服なのだが、着崩して特攻服みたいになるのは奏真の仕様だ。


「その姿、久しぶりに見たなぁ」

 奏真と入れ替わってカプセルに入ったのはイル。

 同じように横たわり、一時的に意識を失う。

 変化が終われば意識が戻るのだが………


 ………異変が、起きた。


 カプセルの傍に、金髪の青年の幻影が現れる。

「誰だ?!」

 カプセルの操作を担当していた瀬田が、驚いて声を上げた。

 イリア、アリア、シトリも驚いて固まっている。

「な?! お、お前は…」

 青年の姿に見覚えのある奏真も驚き、戸惑う。

 幻影の青年は一同に謝るように頭を下げた後、スウッとカプセルの中に入り込んだ。

 青白い燐光がカプセルを包み、中に入っている子供が変化してゆく。

 そして、カバーが開いたカプセルの中で起き上がるのは、幻影の青年と同じ姿になった星琉。

「………?」

 周囲が呆然としている様子に、キョトンとする。

「…セイル…よね…?」

 イリアが確認してみた。

「うん」

 自分の異変に気付いていないのか、普通に頷く星琉。

「お前、今どんな姿になってるか気付いてるか?」

「え?」

 奏真に聞かれても何のことやら?という感じの星琉に、瀬田が壁際にあった姿見を持って来て見せた。

「………?!」

 星琉、鏡を二度見。

 そこに映っているのはイルと同じ金色の髪に、睫毛長めの青い瞳、白い肌の美青年。

 着ている衣装、プルミエのものとは違う青い騎士服もあの幻影と同じだ。

「えぇぇっ?! なにこれ???」

 本人も驚愕の変化だった。




 3番目にカプセルに入るのは星琉の影武者シトリの予定だったが、その本物が想定外の事態で元の姿に戻れていないので、引き続き影武者をする事となった。

 星琉と奏真は聖王国での出来事を話し、星琉のこの姿はどうやら前世であるらしいトワの初代勇者のものだと告げた。

 魔道具の作者である瀬田の推測では、前世の姿が生体情報マトリクスに組み込まれていて、それが活性化したのだろう、との事だった。


「セイル、転生者+転移者だったのね」

 イリアが興味深そうに星琉の頬を指でつつく。

 帰ったら2人で庭園を散歩する予定だったが、今の姿では出来ないのでイリアが気休めに花を持って来てくれた。

「この花、彷徨う霊を癒やす力があるから。…早く元に戻れますように」

 壁際の壺に切り花を生けて、イリアは祈った。

「…頼む成仏(?)してくれ…。これじゃプルミエで普通に生活出来ない…」

 星琉も必死で祈る。

「お願い、星琉を元に戻して。僕が獣人の姿を忘れる前に…」

 他人事ではないシトリも必死で祈る。

「頼む成仏してくれ。そんなキラキラな容姿を晒してたら女性のハートによろしくないぞ」

 ちょっとズレたお祈りをする奏真もいた。

 その背後では瀬田が魔道具のマナの状態を調べるのを、王妃アリアが眺めていた。


「役目を終えれば元の姿に戻れると思うよ?」

 聞き覚えのある声がして、もしやと懐を見ると、青い子竜がヒョッコリ顔を出した。

「シアン!なんでこっちに?!」

「言ったでしょ?聖剣と繋がってるから辿って来れるって」

 驚いて聞く星琉に、シアンは飄々とした様子で答える。

「そういやそうだっけ…ってか、役目って何?」

「まずはセイラに会ってよ。お兄ちゃんでしょ?」

 シアンに言われ、星琉の脳裏に聖王国を出る前に見たセイラが浮かぶ。

 微笑んで見送るその表情は、6歳児とは思えない大人びた憂いを含んでいた。

 聖剣を抜いた時に現れた幻影に駆け寄って、触れられないと分かった時の悲しそうな顔も。

「………」

 考えていると、イリアが壺に差した花を1つ抜き取り手渡してくる。

「はいこれ。トワの聖女にあげて」

「ありがとう。ちょっと行ってくる」

 そして金色の髪の青年は、青い子竜と共に聖王国へ帰還した。




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