トワの墓地、成仏出来ていなかった前世の仲間たちの霊。
神樹の御使いたちの力を借りて
役目を終えれば元の姿に戻れるとシアンは言ったが、未だ金髪碧眼イケメンのままである。
いつになったら戻れるのか? それよりも気がかりなのは実家に行けていない事だった。
家族と面識のある渡辺に頼んで週に1回食材は届けてもらってはいる。
オカズ争奪戦でいつも負けてしまう妹が、ちゃんと食べてるかが一番心配。
一応、スマホの【SETA Pay】で妹に送金して買い食いしろとは言っているが。
(やっぱり1回様子を見に行こう)
心配で見に行く過保護なお兄ちゃん1名。
シエム国に寄って木の実や果物も土産に買った。
久しぶりに帰った日本は紅葉の季節になっていた。
すれ違う人々、特に女性陣が星琉に注目する。
トワの勇者服は目立つのでストレージに収納してGパンにポロシャツという普通の服装で来たのだが。
黒髪黒い瞳の人間が大半の日本では、金髪や青い瞳は目立ってしまう。
おまけに長身痩躯のモデル体型にやや女顔の美形とくれば、チラ見されるのは仕方ない。
(今日は平日だから、この時間はまだ学校かな)
実家に行ってしまうと他の家族に騒がれてコッソリ渡せないと思い、校門の前で声をかける事にした。
「Excuse me. Do you know Japanese?」
困った事に、じっとしていると女性に声をかけられてしまう。
見た目外人なのでみんな頑張って英語で話しかけてくる。
「大丈夫ですよ。日本語は話せます」
話せるも何も異世界に招待されるまで日本から出た事すらない生粋の日本人だが。
「誰か待ってるんですか?」
学生たちまで集まってくる。
「えーと、
しょうがないので待ってる人の名前を出しておく。
「理真? あ、じゃあ異世界の方ですか?」
いきなりそこで異世界人と思われる。
「そうです。よく分かりましたね」
と答えておく。
まあ既にプルミエ国籍がある身なので異世界人と言っても嘘ではない。
「理真のお兄ちゃん異世界で勇者やってるから、その知り合いかなって思いました」
そのお兄ちゃん本人なのだが、今の姿では信じてもらえそうにない。
「理真さんを呼んできてもらってもいいですか?」
「は~い」
学生たちがパタパタと走って行き、すぐに理真を連れて戻って来た。
「え? え? どちら様ですか?」
目の前の青年が兄とは気付かず、理真は顔を赤らめて動揺する。
「異世界から木の実とフルーツをお届けに来ました。ちゃんとゴハン食べてますか?」
「ふえ?! …あ~! 星琉兄ちゃんに頼まれたんですね!」
正体は気付かないが用件は分ってくれた。
「お家で渡すと他の兄弟にとられるので、ここで渡すようにって言われました」
と言いながら、ストレージから保存容器に入った木の実とフルーツを出して手渡す。
「あ、ありがとうございます! あの、まだお時間ありますか?」
理真が何やら引き留める様子。
「せっかく来たので日本を観光してみようかと。御一緒して頂けますか?」
察した星琉は逆に誘ってみた。
「はい! 是非!」
理真、即答。
そして不本意ながら他人を演じる事になった兄と、全く気付いていない妹がデートする事となった。
「はい、理真さん」
ニコニコしながらクレープを渡す金髪イケメン(中の人:兄)。
「あの、奢ってもらっちゃっていいんですか?」
頬を少し赤くして聞く妹はその正体に全く気付かない。
「勿論ですよ」
ニッコリ笑うと、理真の頬が更に赤くなる。
(これ後で正体バラしたらメチャクチャ怒られるやつじゃないか?)
若干危機感を覚える星琉。
理真のオススメスポットを回っているのだが、カップル向けのスポットを案内されてる感がある。
日本に不慣れな異世界人を演じつつも、料金を払う場面ではさりげなく前に出てササッと支払う。
テーマパークでアトラクションの乗り降りの際はエスコートしていたら、エスコートされてる当人だけでなく周りで見ていた女性客まで魅了されてるのはどういう事だろうか?
「お付き合いありがとう、とても楽しかったですよ」
帰り際、微笑みつつお礼を言うイル(とりあえずそう名乗っておいた)。
「こちらこそ。すっごく楽しかったです!」
理真のテンションが高い。
「帰る前に、理真さんにお願いがあります」
ふと真面目な顔になり、彼は言う。
「は、はい。何でしょう?」
何か誤解してるのか、赤面して応える理真。
「ゴハンはちゃんと食べて下さいね。お肉が嫌いならチーズとか卵とか食べて下さい。健康でいてくれたら嬉しいです」
「な、なんか兄ちゃんみたいな事言われてる気がするけど。わ、分かりました」
兄ちゃん本人なのだが、やっぱり気付かない妹であった。