「転移者だから強いのだと思っていたが、トワの勇者……それも初代の生まれ変わりだったのか」
プルミエ王城地下の研究室。
大小様々な魔道具が置く為に広く造られた部屋に、王族3名と瀬田・星琉・奏真・星琉の影武者続行中のシトリ・神竜のシアンまで来ている。
「その初代勇者の霊が姿を変化させて、元に戻らせてくれないとは……困ったものだな」
一同が眺めるのは、まだ一般には知られていない魔道具。
変身用魔道具・transform capsule
演劇用に開発された大型魔道具。
カプセルの中に入り、設定した
肉体だけでなく、衣装まで設定出来て一緒に変化する。
変化するのは外見のみで、ステータスは元のままである。
星琉がそこに入った際に前世の霊が現れ、魂に残る
しかもそれをロックされ、以降何度か試したがエラーが出て元の姿に戻れなくなっている。
「多分、何か役目があって、それに向かわせる為にその姿を再現したんだと思う」
一同の中で唯一、生前の初代勇者を知るシアンが言う。
「その役目って何?」
「1つは未練に縛られていた仲間たちの霊を救う事。これは既に出来てるね」
星琉の問いに、シアンが答える。
星琉は
後悔と孤独に苦しんでいるトワの聖女の心はまだしばらくかかるが……
「…もう1つは多分、これだと思う」
と言って一瞬消えてすぐ戻って来たシアンは、また凍結している短剣を持ってきた。
「ま、まてシアン!」
「国宝級アイテムを国外に持ち出すな!」
めっちゃ慌てるのはその短剣が何か知ってる2人。
2人の慌てようから他の人々もそれが何か察した。
「……まさか……それは聖剣か?」
答えを予想しつつ聞くのはプルミエ国王ラスタ。
「うん」
神竜シアンは即答した。
「主に合わせて形を変える剣かい?」
書物で見た伝承を思い出して問うのは賢者シロウこと瀬田。
「そう。今のこの形は当代が6歳児の姿で発現させたから。主が持てば形が変わるよ」
と答えてシアンは星琉にそれを差し出してくる。
「勘弁してよ。俺、国宝泥棒になりたくない」
後退る星琉。
「ならないよ。だってこれは君だけの剣だから。それに、これを拒否し続けていたら元の姿に戻れないと思うよ?」
距離を詰めるシアン。
「う……、それは困る……」
やむなく、星琉は短剣を受け取る。
凍結が溶け、放つ燐光の光量が上がると共に短剣はその形を変えた。
それはもう子供の身体に合わせた短剣ではなく、星琉の剣術に合わせた
室内にいる人や魔道具に当たらないように距離を取り、星琉はそれを抜き放った。
抜き放たれた刀身は青白い光を放ち、鞘は燐光と化して彼を包む。
「鞘が
瀬田が興味深そうに眺める。
「当代も防具を着けないスピードタイプの剣士だから、主を護る為に聖剣が独自に作った効果だよ。剣を鞘に納めたい時は、空いてる片手を柄に添えたらいい」
シアンが言う。
星琉が剣を持ってない方の手を柄に添えると、身体を包んでいた燐光がそこへ集まり、鞘に変わった。
星琉はしばし考え、国王に許可を求める。
「陛下、元の姿に戻れるまで、聖王国に所属する許可を頂けませんか?」
「その方が良いだろう。その姿は彼の国の勇者のものだからな」
許可を得て、星琉はトワに向かった。
聖王国、大神殿・神樹の間。
創造神の加護を強く受ける国の神樹は、他国よりも大木に育っていた。
代々のトワの勇者は神樹の根元に立ち、精霊の祝福を受けるという。
聖剣を携えた当代の勇者イルは、後見人となった法王クラルス・聖女セイラと共に神樹の根元に来ていた。
神樹の枝葉の間には御使いと呼ばれる緑の羽根の妖精が棲んでいて、勇者が来ると寄って来るものがいる。
その数が多いほど勇者の魔力が多いらしいが……
「む、多いな」
圧倒された様子で法王が呟く。
「全員集合ね」
セイラがクスッと笑う。
彼女と似た顔立ち、金髪碧眼の青年の周囲には、妖精たちがわらわらと群れ集っていた。
そして現れた精霊は、エルフの里リオモで会ったあの精霊だった。
『また逢いましたね。貴方には既にリオモで創造神の贈り物を渡していますよ』
微笑んで精霊が言う。
神樹の精霊の祝福とは、創造神の贈り物の事らしい。
『贈り物の使い方がまだ分かりません』
イルは言う。
大切なものの為に使うように言われているが、まだどんなものかは分からない。
『それは必要になった時に開放される力です。貴方は長い時をかけてようやく再生した魂、健やかであるよう願います』
そう言うと、神樹の精霊は大樹の中に戻っていった。
いつまで前世の姿のままなのか分からない星琉は、法王クラルスに相談した。
クラルスは星琉の後見人となり、トワの勇者イルとして民に公に伝え、神樹の間にて勇者認定の儀を執り行なった。
トワの勇者の役割は魔王討伐だが、魔王がいない時代の方が多く、その時代の災いに対抗する事が主な役割となっている。
現在は魔王は出現しておらず、聖王国では聖女の抹殺を企てるフォンセを討伐対象に定めた。
プルミエ王国はフォンセとは敵対関係にある事から、その討伐への協力を申し出た。
そして、聖王国トワとプルミエ王国は情報を共有し、フォンセ討伐の準備を進め始める。