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第70話:カートル地下迷宮

 その日、プルミエ王国の勇者セイルと、聖王国トワの勇者イルは、揃ってカートル王の謁見の間に来ていた。

 黒髪・黒い瞳がプルミエの勇者、金髪・青い瞳がトワの勇者。

 それぞれ異なるデザインの青い騎士服を着て拝謁する。


 複数の聖女を殺害しようとしたフォンセは元カートルの宮廷魔道士。

 前カートル国王を暗殺して国を支配していた重罪人として手配書も回されている人物だ。

 そのフォンセが大陸最大規模の1つであるカートル地下迷宮を拠点にしているとの情報を得て、討伐隊が組まれた。

 プルミエからは冒険者たちの討伐隊、トワからは聖騎士たちの討伐隊がカートル王国に到着している。

 カートル王国もSランク冒険者がリーダーとなり、冒険者ギルドのメンバーが同行する事になっていた。




 樹海のような広大な森の中心にある洞窟、地下迷宮入口。

 中は分かれ道が多く入り組んだ構造になっているので、慎重にグループ分けをする。

 カートルの冒険者ギルドが送り出す討伐隊、そのリーダーのSランク冒険者は女性だった。

 パワータイプの戦士らしく、胸当てなどの防具を装備している。

 武器はハンマー系で、ドワーフの戦い方に近いのかもしれない。

(エレナさん…?!)

 孤児院で調理師をしていた女性が冒険者、それもSランクだった事にイルは驚いた。

 プルミエからの討伐隊に加わっている奏真も驚いている様子。

 しかし、誘拐犯に強烈な鉄拳制裁を食らわした事を思い出す。

 あの強さでエレナが一般市民というのはありえないかもしれない。


「プルミエの討伐隊リーダー・セイルです。よろしくお願いします」

「カートルの討伐隊リーダー・エレナです。よろしくお願いします」

 キリッとして挨拶をする、星琉シトリとエレナ。

 孤児院で少年イルにデレデレだった彼女とは別人のように見える。


 ………しかし


「トワの討伐隊リーダー・イルです。よろしくお願いします」

 無駄に愛想のいい金髪美青年が微笑んだ途端、エレナはデレた。


「………あぁ、イル君…しばらく見ない間に立派になって…」

(いやいや、別れて1ヶ月くらいだよ?)

(5~6歳児が1ヶ月でこんなにデカくならないし!)

 イルと奏真がそれぞれ心の中でツッコんだ。


 入口から近いエリアの弱い魔物は下位の冒険者たちが戦闘を担当する。

 ランクは低くても狩りのプロ、コウモリでもスライムでも順調に狩ってゆく。

 分かれ道ではマイクロチップ型魔道具を仕込んでいるイル・奏真・星琉シトリがそれぞれアプリを使い、様子を見ながら冒険者や聖騎士たちを向かわせた。


「レア魔物だ。セイルいっとくかい?」

「OK」

 途中、他とは見た目が違う魔物が出るとプルミエの冒険者たちは星琉シトリに譲る。


 ボッ!


 女神レイラの加護で運が本物セイルと変わらないレベルになっている影武者は、小石を投げてレア魔物を粉砕、魔石をドロップした。


「さすがだな!」

 ガハハと笑う冒険者たちは、影武者だとは全く気付いてなかった。



 一方、別ルートでは…

「お前たち、自ら奴隷になりに来たのか?」

 以前、瀬田が魔族を目撃した、広間のように開けた場所。

 そこを通ったイルとトワ聖騎士団は、青白い肌に濃い緑の髪と金色の瞳をもつ青年に遭遇する。

 その背にはコウモリのような被膜の翼、頭にはねじれた2本の角がある。

 瀬田が見たのと同じ魔族だ。


「魔力が高くて役に立ちそうな連中だな」

 魔族の青年は、聖騎士団に向かって隷属魔法をかけてきた。

 しかし、それが人々を支配する事は無かった。


 反撃アプリ:reflection


 物理・魔法・呪いその他全種類、敵の攻撃を100%反射。

 魔族が放った隷属魔法は、そのまま術者に返された。


「!!!」

 自らの胸に多重の隷属紋が描かれ、魔族の青年が驚愕する。

 直後、敵対者たちに見られた隷属紋が死の波動を放つ。

 1撃で死に至るそれを多重で食らい、魔族は白目を剥いてそのまま消滅した。


「…自滅した…?」

 何が起こったか分からず、困惑する聖騎士団の面々。

「魔法の発動を誤ったのかもね。構わず先へ進もう」

 密かにアプリを使ったイルは、魔族のミスという事にして先へ進んだ。



(何だ? 何が起こった…?)

 迷宮の最奥で、大魔道士フォンセは水盤を見ている。

 聖騎士団に魔法の残滓は無い。

 装備に魔法攻撃耐性や状態異常抵抗などの補助魔法はかかっている。

 しかし、魔法を反射する効果は見当たらない。

 後ろにいる勇者が魔法を使った様子も無い。

 だが確かに隷属魔法は反され、魔族は即死した。


 フォンセは背後に控える人々の中から1人を選び、隷属紋を刻む。

 選ばれた者は恐怖に顔を引き攣らせた。

「お前に魔法を授けた」

 大魔道士は冷ややかな表情で言う。

「命令だ。これから転移する先にいる人間たちを攻撃しろ」

 トンッと背中を押すと、その者は転移された。




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