星琉たちがカートル地下迷宮を攻略している頃…
魔族たちは、プルミエの王都を攻めていた。
「勇者が領地を離れた今が、聖女を殺す好機!」
「プルミエの聖女たちを消し去れ!」
「街ごと滅ぼせ!」
これまでは星琉を警戒して攻め込めなかった魔族たち。
カートルに遠征して不在の今ならと一斉に向かってゆく。
プルミエの王妃アリアと王女アリアは聖女、魔族たちにとって抹殺すべき対象だった。
翼を持つ魔族たちはプルミエ上空に広がり、一斉に攻撃魔法を放つ。
複合攻撃魔法・土×火:ラヴァフォール
溶解するほど加熱された岩が、大量に降り注ぐ。
しかし、溶岩は建物にも人にも触れられなかった。
「…存在を忘れられるなんて、私はそんなに影が薄いかい?」
やれやれと言いた気に、瀬田は苦笑する。
「魔道具の方が気付かれずにやれるけど、ここは自己主張しておこうか」
表面に魔法陣が浮かぶバリアが展開されていた。
賢者シロウ作、カウンタータイプの防御魔法。
全方位・全種類の攻撃を100%相手に反す。
「こんな物いらないから、クーリング・オフさせてもらうよ」
訪問販売を追い払うような調子で瀬田が言う。
魔族たちは反される溶岩を食らってダメージを受けた。
そこへ畳みかけるように魔道具を起動。
対魔族用王都防衛システム:extra crushing evil
王城地下に設置されたルフ魔石。
そこに蓄えられた聖女の力が増幅され、魔族・魔物を消し去る波動に変わる。
王城を中心に、闇を打ち払う神聖力がプルミエ全域に広がった。
魔道具の効果は魔族たちには感知出来ず、溶岩のダメージを回復しているところを不可視の力が襲う。
膨大なダメージに耐え切れず、そこにいた全ての魔族・魔物が消滅した。
「賢者シロウめ、また邪魔をするか」
水盤を見つめるフォンセが苦々しい顔で言う。
王城の中は不可視でシロウの姿は見えないが、
かつてフォンセがカートルを支配していた頃、それに抗うプルミエ王太子に力を与えた賢者の魔力だ。
一方、カートル地下迷宮内。
フォンセから攻撃を命じられ、転移させられたのは1人の女性。
不幸にもフォンセに買い取られた彼女は、その他大勢の奴隷と共に使い捨ての道具とされていた。
命令に逆らえば隷属紋から心臓にダメージを受ける。
女性は恐怖に震えていた。
転移した先にいたのは、双剣使いソーマがいるパーティだ。
(隷属紋か…)
隠れていても、奏真は気付いている。
範囲型・偵察アプリ:area monitoring
任意の範囲内をレーダーのように監視する。
気配探知と似た効果だが、敵味方の居場所だけでなく体調などの状態も調べられる。
背後に突然現れたのは人間で、【魔法使い】【隷属】【恐怖】の状態。
おそらくバレルたちと同じで隷属紋によって魔法が使えるようになった奴隷だ。
それなら対応は決まっている。
範囲型・特殊効果アプリ:release slave
まずは、隷属紋を解除。
本人すら気付かぬ間に【魔法使い】と【隷属】の状態表示は消えた。
続いて異空間牢に放り込む前に、対象が岩陰から飛び出して来た。
「?!」
一緒にいる冒険者たちが身構える。
女性はフォンセから渡されていた短杖を彼等に向け、魔法を発動させようとする。
が、隷属紋ごと魔法は消えているので発動する事は無かった。
「………え…?」
困惑しているところに、地面を蹴って飛びかかる冒険者の拳が入る。
おそらく一般市民で戦闘技能など無いのだろう、無防備で腹部に拳を受けた女性が気絶した。
その体勢が崩れるタイミングで奏真がアプリを起動。
収納型アプリ:other dimension prison
フォンセに利用されないように、女性を異空間の牢獄に隠した。
隷属紋の者は基本的に本人に戦う意志は無い。
従わなければ殺されるからやむなく攻撃してくるだけだ。
後ほど瀬田が状況を説明して今後どうするかを決める予定。
プルミエの冒険者たちは遠征前に説明を受けており、女性を気絶させるに留めた。
奏真は女性がどこから転移されて来たのか探る。
しかし、フォンセらしき存在はレーダーの範囲内には見つからなかった。
「消えた?!」
水盤を見たフォンセは驚く。
洞窟内に張り巡らせた【目】で探すが、女性はどこにもいなかった。
転移魔法が使われた形跡は無い。
(シロウの魔道具でも使ったか?)
しかしその場にいる双剣使いが何かした様子は見えない。
むしろ魔道具らしき物を誰も持っていなかった。
(他のパーティも調べてみるか…)
牢に詰め込まれた奴隷たちの中からまた1人を選んで手元に転移。
震えあがる奴隷に構わず隷属紋を刻む。
そこへ魔法を組み込み、敵を見たら自動的に発動するように設定した。
「行け」
トンッと背中を押すと、哀れな奴隷がまた1人、敵陣へ転移された。