生活拠点をエルティシアに決めた俺は、空間移動の力で時々ナーゴに行き、エカたちの魔族討伐を手伝うことにした。
「こっちの食べ物を買うには、現地通貨が必要だから、時々稼ぎに来るよ」
エカたちにはそう説明して、魔族討伐限定メンバーとしてパーティに加入させてもらった。
俺がパーティに入ったら、エカはなんだか嬉しそうにしている。
「来てもらえるとかなり助かるよ。最近魔族討伐依頼が多いから」
エカが言うように、ナーゴ内の魔族出現率は多くなっている。
一般人の間では、魔王転生の予兆ではないかと不安がる声も出始めていた。
予兆どころか、当代魔王ならとっくに生まれていて、もういい歳したオッサンだぞ。
正しくは「魔王の子供の転生者」らしいけど。
本物の魔王は、転生を拒否してアサギリ島の地縛霊(?)みたいになっている。
あれから、俺は詩川先生に会っていない。
ルルとアズの話では、詩川先生はあの後、ガックリと落ち込んだ様子でアサギリ島を立ち去り、以降は全く来ていないらしい。
アサケ学園の魔工学部に行けば遭遇しそうだけど、最近の俺は図書館以外には行かなくなったので、会うことは無かった。
図書館の本を読みたいので、アサケ学園に在籍はしているけれど、俺はもう授業は受けていない。
そうそう、カリンがアサケ学園に入学したよ。
俺が付き添って学園長に会いに行き、図書館の本を読みたいから入学させてほしいと言ったら即合格。
カリンはどの学部に入るのかと思ったら、料理学部を迷わず選んだ。
調理も楽しいみたいだけど、栄養学に特に興味があるらしい。
この学園は、「やりたいこと」がある人なら年齢性別問わず、たとえナーゴに住んでいない異世界人でも受け入れてくれるし、学費は全額免除される。
そもそも、誰も学費とか払ってないな。
アサケ王国の国費で運営しているし、学食の食材は野外授業で生徒たちが調達している。
俺もカリンもエルティシアの神学校に通い続けている。
現在の俺はカリンと同じクラスで、聖なる力に関することや、魔物に関することを学ぶ日々。
放課後には図書室に寄って、本を借りて帰るのが日課だ。
「今日は魔族討伐を手伝いに行くよ」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
魔族討伐がある日は、俺はカリンをアサケ学園まで送った後にエカたちとの合流地点に向かう。
カリンはいつも、授業が終わると図書館に行き、読書を楽しみながら俺が帰るまで待っていてくれた。
禁書閲覧室は今やカリンの読書スペースと化していて、タマが楽しそうにお茶やお菓子をふるまっている。
◇◆◇◆◇
エカたちと合流した場所は、アカツキ王国にある小さな村。
魔族に襲われて、村人に死傷者が出ているという。
襲っている魔族の討伐と、村人の蘇生や治療が今回の仕事だ。
俺がエルティシアで得た【聖なる力】は、聖属性追加ダメージ付与の攻撃支援魔法代わりに使える。
これが予想以上に使えるようで、今まではエカの爆裂魔法のみに頼っていた将軍クラスの魔族に、エカ以外のメンバーもダメージを与えられるようになったよ。
「
俺の起動言語で、現れた水の東洋龍がパーティメンバーを巻くように周ると、人数分の水の球に分裂して、メンバーの体内に吸い込まれた。
古代魔法【水神の必中】は、たとえ素人の攻撃でも、1度だけ必ず命中させる効果をもっている。
この魔法を発動させつつ、俺はパーティメンバーの弓矢に聖なる力を流し込んだ。
全員の手にした弓矢が白い微かな光に包まれ、聖なる力は込められた。
「付与完了、GO!」
俺の合図で、猫人メンバーが一斉に矢を射る。
普段は弓を使わない者でも、絶対成功の古代支援魔法を付与されているので、射れば確実に当たる。
狙いは、後方で魔族たちに指示を出している隊長クラスの魔族。
放たれた全ての矢は、雑魚を飛び越えて隊長に突き刺さった。
「
畳み掛けるように、エカの爆裂魔法がトドメの一撃。
エカには【
その支援効果は、攻撃に特殊効果がつくもの。
聖ダメージで重傷となった隊長は、エカがさほど力を使わなくても、あっさりと息絶えた。
爆散して消えた隊長を見て、動揺する魔族たちは烏合の衆と化す。
「付与完了、GO!」
続く合図は、雑魚の殲滅。
体力や抵抗力が低い下位の魔族は、射かけられた矢が刺さると消滅した。
エカも雑魚相手には爆裂魔法は使わず、有り余る魔力盛り盛りの光の矢を雨のように(むしろ土砂降りのように)浴びせて殲滅する。
「逃がさないよ」
慌てて逃げ出す魔族もいたけど、群れの中心に空間移動した俺が、聖なる光を放出して全滅させる。
それはナーゴの聖属性魔法【
強烈な光に下位魔族たちは焼き尽くされて、消し炭のように崩れて消えた。
「なんか、イオが攻撃魔法みたいなのを放ってると、違和感しかないな」
「アズとは違うからね」
「うん。そうだな」
片付けて空間移動で戻って来た俺に、エカが鼻の穴広げて真顔になりながら言う。
俺がドヤ顔で言ってやったら、エカは苦笑して同意してくれた。