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第49話:異世界人の隠し方

『トゥッティがあの日あの場所を選んで腕輪を放り込んだ理由は、彼がそこへ行った経験があるからだと思うよ』

「知ってる場所なら他にもあるだろうに、何故あの時間軸のあの場所にしたんだろう?」

『あそこなら、異世界人の死体が転がってても、レイヤーの事故死と思われて処理されるでしょう?』

「なるほど」


 詩川琉生を通して日本を見てきたセレネが、そんなことを教えてくれた。

 確かに、俺がいきなり現れても、ちょっと驚いた程度だったな。

 異世界で作られた服を着ていても、髪が青くても、みんな違和感ない様子で見ていたよ。


 腕輪があった場所は、イベント開催中のお台場。

 建物は東京国際展示場(東京ビッグサイト)だ。

 気温から想定して、イベントは冬コミだと思う。


「相互転移の腕輪は、ナーゴ内しか移動できない筈なんだがねぇ」

「御祖父様がエカに渡した時と、少し魔導力の流れが変わっているニャン」

「奪った後に、魔改造されたようだね」


 俺が持ち帰った腕輪を見て、ジャミ占い師とナジャ学園長が話す。

 腕輪は、短時間で改造されていたようだ。


 トゥッティは地球に転移して死亡させた俺を、異世界派遣部に渡されないように仕組んでいたらしい。

 異世界転移が珍しくない現代、異世界風の容姿をした者が見つかったら、すぐに異世界派遣部に回される。

 俺は異世界派遣部所属だから、すぐ身元が分かる筈だ。

 そうなれば、ナーゴに戻して蘇生されてしまう可能性があるから、地球人のコスプレイヤーだと誤認させようとしたんだろう。


「それにしてもイオ、よく無事だったニャ」

「完全回避が、有効化されたままでした」

「そのユニークスキルは、ナーゴ限定ではないのかニャ?」

「神様からは、ナーゴ限定と聞いています」

「それは神様に報告した方がいいニャ。それと、エカが攫われたことを家族に報せてほしいニャン」

「分かりました」


 学園長の指示で、俺は世界樹の根元へ空間移動した。



 ◇◆◇◆◇



 空間移動の出口、世界樹の根元には、まだ報せていないのにセレスト家の人々が集まっている。

 みんな真剣な様子で、背後に俺が現れた事に気付いていない。


「お願いします! 救助活動を許可して下さい!」

「父さんを、助けに行かせて下さい!」


 懇願しているのは、ジャスさんとリヤン。

 2人とも、冒険者のように帯剣して防具を着けている。

 近くにいるフィラさんやソナも、女性用の皮の防具を着けていた。


『お前たちが危険な場所に来ることを、モチは望んでおらぬ。既にイオが動いている。彼に任せておきなさい』


 神様が宥める【声】も聞こえる。

「モチ」と聞くと俺はすぐ親友の方を思い浮かべるんだけど、神様が言っているのは勿論エカのことだ。


 この状況はもしかして、エカが攫われたことを知ってる?

 でも、誰が報せたんだろう?


「フラムもそう言ってくれました。でも、何もせずに待っているなんて嫌です!」


 叫ぶように言ったのはソナ。

 報せたのはフラムか。

 ソナは、夕飯の時間になってもエカが帰宅しないから、どうしたのか聞こうとして念話を送ったんだろう。

 そしたらエカの返事は無くて、代わりにフラムが状況を伝えたんだな。

 ソナの気持ちは分かるし、彼女の召喚獣の数と魔法力が里一番なのも知ってる。


 でも……


「ダメだよソナ。君を向かわせたら、俺がエカに怒られる」


 ……俺はソナを止める。


 声に気付いて、セレスト家の人々が一斉に振り返った。


「エカは、家族が危険な場所へ来ることを望まない。だから救出は俺に任せて、みなさんは家で待っていて下さい」


 安心してもらえるように、俺は笑みを浮かべて言う。

 エカの大切な人たちを、危険にさらすわけにはいかない。


「まだどこに連れ去られたか調査中ですが、必ずエカを見つけて、連れ帰りますから」

「居場所なら、俺が分かるぞ」

「俺も分かるよ」

「えっ?!」


 ジャスさん、リヤン、エカの居場所が分かるの?!

 なんで?!


「フラムは、俺が不死鳥の里から貰ってきた雛だからな。絆があるから互いに居場所が分かる」

「リアマは、父さんが俺にくれた雛だから、父さんとの絆があるよ」


 ジャスさんはエカの召喚獣フラムとの絆が、リヤンの召喚獣リアマはエカと絆があるらしい。

 その絆は、互いの居場所を知ることができるのか。

 そういや、俺の魂と絆があるルビイが、瀕死の俺を見つけたことがあったっけ。


「だから、俺たちは連れて行け」

「え、いや場所だけ教えてくれれば……」

「向かっている間に移動されたら、見つけられないよ?」


 ……これは、同行させるしかないか。


「案内役は1人でいいよ。ジャスさんかリヤンどちらかで」

「「なら、俺が行く」」


 赤毛男性2人がハモる。

 まあ想定内だけど。


「リヤン、ここは爺ちゃんに任せておけ」

「お年寄りは無理しないで、若いのに任せてよ」


 とか言い合ってる君たち。

 世界樹の民は成人後は見た目が老けなくなるから、同じ歳の若者に見えるよ?


「え~っと、それなら、コインの表裏で決めたらどう?」


 と、提案してみた。

 日本人ならここはジャンケンだけど。

 この人たちは、ジャンケンを知らないからな。


「表ならジャスさん、裏ならリヤン、OK?」

「いいぞ」

「いいよ」


 了承を得て、俺はベルトポーチから銅貨を1枚出して、親指でピンッと弾いて投げた。

 コインはクルクルと空中で回転した後、芝生のように短い草の上にポトンと落ちた。


 判定は、表。

 ジャスさんの同行確定だ。


「表、ジャスさんですね。案内よろしくお願いします」

「よし行こう。蛇でも魔族でも、父さんがブッ飛ばしてやるよ」


 ジャスさんに案内を頼んだら、なんかやけに張り切っている。

 っていうか、この人の戦力とか、俺は全然知らないぞ。

 セレスト家で育ったアズなら知ってるかもしれないけど。

 出発前に、ちょっとアチャラ様のところへ寄って確かめよう。

 そういや、案内云々の話になっちゃって、創造神様かみさまに完全回避のことを聞けてない。


「神様、俺さっき間違って地球へ転移しちゃったんですが……」


 って言ったらセレスト家一同でギョッとされたよ。

 俺は構わず続けた。


「でも、【完全回避】は無効化されませんでした。異世界でも有効なスキルなんでしょうか?」

『それは、翔が創ったスキルに置き換わったからであろう』

「置き換わった……?」

『そなたの【本体】と【コピー体】で共有するスキルや魔法は、より性能の高いものが優先されるのだ』


 神様の話からすると、コピー体に付与されたエルティシア仕様の【完全回避】は、本体にも付与されているらしい。

 時の封印ルタンアレテを使うとコピー体が得たもの全てを本体が共有できる、って翔が言っていたのは、こういうことか。

 身体の中から排出される毒が、結晶化してポロポロ落ち続けるのは面倒だけど、俺は日本にも行けるようになったらしい。




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