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EPILOGUE

 カリンを連れて戻ったら、俺は過保護なエカに怒られた。


「学園内なら転移の腕輪を使え。生命力を削る空間移動を使うな」

「あ、忘れてた」

「お前な……。大事なこと忘れんなよ」


 空間移動が使えるようになってから、学園への移動に魔導具を使わなくなった俺。

 すっかり忘れ去ってたよ。

 エカにまた呆れられてしまった。


「そういうそそっかしいところがあるうちは、弟にしか見えないわ」


 カリンに笑われてるし。

 当分は、弟ポジションから抜けられないようだ。


 その後家族会議をして、俺はセレスト家の三男枠、カリンは長女枠、セレネは次女枠に入った。

 何故セレネが孫ではなく次女になったかというと、カリンが「伯母さんよりお姉さんがいい」と言い出したからだ。

 手作りクッキーでセレネを懐柔するとは、カリンなかなかやるな。


 俺とカリンとセレネは、ナーゴとエルティシア両方の生活を楽しむことにした。

 エルティシアの神殿を生活の拠点にしつつ、セレスト家にもちょいちょい顔を出す。

 俺たちがセレスト家で夕飯を食べる日は、エカたち一家も来るので賑やかな食卓だ。



「カリンが家族を得て幸せになるなら、僕としても嬉しいよ」


 カリンのセレスト家入りを報告したら、翔は喜んでくれた。

 エルティシアの民がナーゴで家族を得るとは、想定外だと驚いてはいたけどね。

 俺は翔にセレネのエルティシア入りをお願いしてみたら、快諾してくれた。

 セレネを連れて行ったら、翔は神の権限でセレネにも聖なる力を与えてくれたよ。

 これでもう、魔族はセレネに近寄れないだろう。

 七徳の光ナークスによって浄化された魂は、もう二度と闇には染まらない。

 巻き込まれて消滅したトゥッティは、いずれ転生するだろうとナーゴの創造神様は言う。

 けれど、その時にはセレネの聖なる力で撃退されるかもしれないね。



「『命大事に』って台詞は、サフィに譲渡してやるよ」

「えっ、いらないし。俺は1回も死んでない」


 聖なる力が生命力消費と知ってから、エカの俺に対する過保護レベルがアップしたようだ。

 エカは前世で、絶対死なないと思っていたアズが、蘇生できない遺体となった姿を見たことが、かなりトラウマになっているらしい。

 神様から地球への転生と蛇将軍討伐の依頼があったとき、アズは即答で引き受けたけど、エカはかなり躊躇していたという。

 エカが自宅で思い悩んで泣いている間に、アズは1人で先に逝ってしまった。

 アズの死を感知した不死鳥ルビイが飛んでいく後を追いかけて、駆け付けた時にはもう事切れていたらしい。

 前に俺がナーゴ縛りの呪いで死にかけた時のルビイの行動と、世界樹の根元に横たわっていた俺の状況は、アズが死んだ時と似ていて、エカにはかなりメンタルにきたのだと言われた。

 そんなエカはすっかり心配性になってしまった。

 魔族討伐の際に俺が聖なる力を使うと、フラムに俺の残り生命力をチェックさせている。

 ベルトポーチには、回復系アイテム一式揃えているけど、使用目的は主に俺の生命力回復用らしい。

 でも俺、死んだことは無いからね?

 2回ほど瀕死になったけどさ。



「お前の技術はお前だけのもの、前世の技とは違うが、良いものだと思うぞ」


 アズールと同じ期間の剣術修行を終えた日、アチャラ様はそう言ってくれた。

 そう、俺はアズじゃない。

 俺には俺の技術がある。

 前世と全く同じにする必要は無い。



「これが、俺の剣技です。アズールとは少し違いますが」


 ギルマスとその祖父を連れて、俺は単独で魔族の群れを殲滅して見せた。

 聖なる力で作った防壁で2人を護りつつ、剣に聖なる力を纏わせる。

 2人には加速魔法【風神の息吹ルドラ】をかけ、自分には身体強化は一切かけない。

 その状態でも、2人は俺の動きをほとんど目で追えなかったという。

 2人に視えたのは、俺が駆け出す瞬間くらいだったようだ。

 その場にいた魔族は、危機を感じて逃走する暇も無く、斬撃を浴びて消滅した。

 これまでは爆裂魔法でないと斃せないと言われてきた将軍クラスの魔族も、七徳の光ナークスを剣に纏わせたら瞬殺だ。

 アズは物理ダメージとスピードに特化していたそうだけど、俺は武器に聖なる力を付与するようになった。

 そうすることで、魔族や魔物に対しての火力面では、俺はアズを上回る。

 爆裂魔法使い以外で魔将軍を瞬殺する七徳の光ナークスは、これまでナーゴには存在しなかった力だ。

 ギルマスも、過去にアズの剣技を見たという老猫人も、あんぐりと口を開けて放心状態になった。


 ……しかし、これを後から知ったエカに、やり過ぎだろって怒られたのは内緒。



「新しい担任を紹介するニャ」


 詩川琉生の知識と技術を受け継いでいたセレネは、魔工学部の新任教師に就任した。

 ナジャ学園長が教壇に立たせた人物を見て、魔工学部の生徒たちがザワつく。

 身長が足りなくて黒板に手が届かないので、自作の浮遊椅子に乗ってチョークを手にするのは、後にチビッコ先生として人気者になるセレネだ。

 ゴスロリっぽい衣装が似合う美少女が担任になってから、魔工学部への入学が急増したそうだよ。



「常連が増えて嬉しいなぁ」


 タマは御機嫌だ。

 カリンに続いて、セレネもタマの姿が視えて、禁書閲覧室の常連になった。

 時間帯はバラバラだけど、3人が毎日来るようになったから、タマは退屈しないと言って喜んでいるよ。

 タマはカリンが作った料理を食べられるようになって、それも御機嫌な理由の1つだ。



「サフィールか。いい名前を貰ったな」

「これからはサフィと呼ぶわ」


 アズとルルにも報告に行ったら、喜んでくれた。

 俺はもうアズールの代わりじゃなく、1人の人間として生きられる。


 セレスト家の人々はアサギリ島に来たことが無かった。

 エカは魔王討伐戦の時と、ルルの死後でアズがまだ生きていた頃に1度来たっきりらしい。

 現在この島の所有権をもつ俺は、みんなをアサギリ島に招待したよ。

 空間移動でみんなを運ぼうとしたらエカに全力で阻止され、彼の転移魔法での移動となった。


 俺とカリンとセレネは霊が視えるけど、他の人には霊が視えない。

 だから霊気同調チューニングを使って、みんなの波長を合わせたよ。

 これで霊感をもたない父さんや母さんたちも、アズとルルを見ることができる。

 エカは以前アズが使った霊気同調チューニングで、ルルを視たことがあるらしい。


「アズ……」


 亡き息子との再会に、母さんはそう言ったきり、言葉が出なくなった。

 父さんも、声を失くしたように沈黙している。


『父さん、母さん、俺はここにいる。逢いたかったらいつでも来ればいいよ』


 アズは穏やかな笑みを浮かべて、そう言った。

 彼はこの島に宿る霊として、樹木に宿る妻を護り続ける。


 神様の力で、日本に転生した5人の世界樹の民。

 魔王の力で、前世の世界へ戻された者たち。

 それぞれが、違う道を自由に進んでゆく。

 俺も、サフィールという新たな現世を生きるよ。



     ───異世界ナーゴ・イオ編 END───



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